勇者の探究と救助、魔女の陰ながらの協力により、何度も輪廻転生しながら、いつも破滅の結末を迎えていた笛吹きがとうとう生き残った
物語は終わりに近づき、おとぎ話のような大団円を迎えた
勇者と笛吹きが力を合わせ、ドラゴンを打ち破る
たとえ略奪や争いがあっても、人々は希望に溢れた道を進んでいくのだった
笛吹きと勇者は連れ立って旅に出た
日々と季節が移ろうなか、彼らはともに長い時を過ごし、朝の河、夜の暗い道を歩いた
静かな村、賑やかな都市を通り抜け……
茨が這う荒れた野を歩き、雨の中、アヤメが咲き誇る花畑を散歩した。彼らの旅は会話や笑い声、歌声に満ちていた
虹は天と地を繋ぎ、人の喜怒哀楽を神々に伝え、そして神の福音を世の人にあまねく伝えている
アイリス、虹の女神、神々の使者
アイリス、姿を消した姫、罵られる笛吹き
少女は自分と同じ名の紫色の花束を抱え、妖精レプラコーンが宝物を埋めた虹の下で振り向いた。風が彼女の髪や、スカートの裾を舞い上がらせた
じっと自分を見つめるアヤメのような紫色の瞳は、神秘的で美しい
浮かんだのは調和という言葉だった
「神は答えを待っている。花は私たちのために送られたもの。太陽と地球のためにではなく」
何かに導かれ、感化されたかのように、少女に向かって手を伸ばした
なぜか懐かしさを覚える名前を口にしていた――
その声を聞いて、少女は春のように輝かしい笑顔を浮かべた
全てが作り話のように完璧だ。これは勇者の夢?笛吹きの妄想?あるいはリンクしている両者が共有している幻覚なのだろうか?
あなたに贈ります……
……私たちが再び会った時に
……
……遠距離リンク技術は指揮官と構造体を共感覚にできる。監視している「ハムレット」のデータと遠隔リンクの時のデータを照合して、それが一致したら……
私はすぐに[player name]のプランに従って、「幻奏」で採集した映像データを「ハムレット」に転送するわ……
セレーナの新しい機体の名前よ。意識適合の調整は完了したんだけど、投入されないまま、開発されてからしばらく放置されていたの
アイラは思わず声をひそめた
アイラは軽く頷いた
幻奏はセレーナと意識適合した際に残した初期データを保存しているわ。機体の開発計画を再開した時、セレーナに関する手がかりや情報をデータベースに入れておいたの
彼女がこの機体を再起動すれば、機体のデータベースで全ての情報を見られるわ。彼女は諦めたりしない。私も。過去、現在、未来、彼女は決してひとりじゃないから
あなたが推測するに、セレーナの……意識海は致命的なダメージを受けたのね?それが、彼女がずっと帰ってこれない原因なの?
……わかったわ
遠隔リンクが禁止された一因を知らない訳じゃないの。この技術は指揮官の意識に負荷がとてもかかるし、更に同時に余分なデータを増やすとなると……
アイラの言葉には不安が満ちていた。彼女が話し終わる前に言葉をかけた
そう言われて、アイラはしばらく沈黙した
劇に入ると「没入状態」になって、あなたは役そのものになる。そして劇の終盤、空間が崩壊して舞台の真の姿が現れた時、制御権があなたに戻り、現実を思い出せるようになるわ
……そうね、真実と幻が混じり合う時に「遠隔リンク」の可能性を検証したら、すぐに「クジラの歌」と意識リンクに頼って追跡し、位置を特定するわ
……技術的なことに関しては、すでに頼む相手も考えているの
アイラは頭を振った
真実と幻が混じり合った瞬間、データで構築された幻想の世界が急速に後退していき、深紅の舞台が現れた
五感がゆっくりと体に戻ると、握り締めすぎた指の痛さに気づき、すぐに手を開いた
目覚めてはいけない
鋭い痛みとともに、潮が満ちるように無数のぼんやりした記憶の欠片が頭に浮かんだ
……
データの花が突然ほころび、奇跡のようにふたつの世界が動き始めた
手の平に冷たさを感じた瞬間、手と手が重なり、そして指が優しく絡められた
気持ちを落ち着かせ、目を凝らしていると――
紫色の網の中へと落ちた
ようやく体が動き始めた
どうやら、少女の装いはこの時のためにわざわざ用意したようだった
白いスカートの裾が風に舞い、自分の洋服にまとわりついた
ステップは軽やかで、優しく力強い。体が離れたり近づいたりしても、視線だけはこちらをしっかり見ていた
Video: エンド4:セレーナと踊る
夜の帷が下りると、綺麗で長い髪をした少女は花に寄りかかり、その姿はまるで置き忘れられた精巧な人形が深い眠りについているようだ
少女の夢が星の間に散らばっている
6枚の花弁のアヤメがデータ空間で光り輝いている。約束のダンスの調べが休止符を打った
細くて白い手が少女の長い髪を優しく持ち上げた
突然、花が一瞬で砕け散って細かい光となり、星の虹となった。その虹はまるで天と地を結びつけているようだ
少女の胸が微かな光を発している
アイラの目の前にいる人間はしかめた眉をゆっくりと元に戻し、ようやくこちらを見た
どうなったの?
傍らの女性構造体は監視モニターを見つめている
……地面の信号を探知できたわ
私たちが空を見上げる時、何が見えるのだろう?
遠い星、過去からの光
水素がヘリウム核に変わる過程で放出するエネルギーは光速だ。だがその光は数億万年前にすでに消滅した恒星が放った光かもしれない。宇宙の時空を超えて網膜に反射する光だ
空間と時間を超えて、遅れて受け取った消息
過去のある日、星の間の片隅にいた
ロイヤルブルーのインクをつけて、柔らかい紙を広げて
少女は机に向かって、一筆ずつ、気持ちを書き、文字を書いた
無邪気で、幼稚で、ロマンチックな言葉を軽い気持ちで書いた
彼女は物語の最後に詩を書いた
たくさんのロマンチックなフィクションを書いた
今は自分自身のこともフィクションだと思っている
作者と読者の会話は、お互いを照らす星の光だ
頭を上げ、過去を見上げた
ペンを取った、最後のページの空白
あなたは不朽の詩にその身を任せている
命と目がある限り、必ず誰かがこの詩を読む
詩は長く残り、あなたの命も延々と紡がれる
署名のない手紙。時空がその瞬間、交差した
遠い星、特異点から熱的死、星をまたぎ、太陽と銀河を超え、宇宙の時間と空間を超えて、彼らの光は互いに照らし合い、ついには対面する
リンク機器を取り外した瞬間――
アイラから熱烈な抱擁を受けた
時を同じくして、空中庭園の片隅では、特定暗号化レベルの任務のスタッフが準備を整えて出発を待っていた。全ての通信装置の最後のメッセージにはこうある
……「マインドビーコン汚染により記憶のループ再生状況を引き起こしたという理由で、グレイレイヴン指揮官[player name]を監視収容する」