ロゼッタが離れていた間に、降下ポッドの周囲には大量の機械装置が置かれていた
その装置の横をドローンが飛び周り、数本の機械アームが伸びている
これから補機の改造を行う。交換するパーツは準備済みだ
お前の意識海への負担を減らすために、なるべく昔の機体の性能に近づけたが、完全に同じとはいかない
そもそも俺は……お前たちの、その自虐的な考えには賛同していないからな
わかったら補機をここに連れてきてくれ
行こう
ロゼッタは補機をつれ、目の前の機械装置に近づく
すると機械アームが補機に向かって伸び、接続の瞬間を待っていた
ところが補機は、機械アームに触れた瞬間、足を止めた
これがさっきの「予想と少し異なった」ことか?
わからない。戻ってくる途中はこんな状況にならなかった
彼は……
ロゼッタが補機のうなじに手をかけると、立ち止まった補機は前足を高く上げた
拒んでる
機械アームはその前足に蹴られ、補機は後ろ足のみで立ったまま方向を変えると、前足を下ろし駆けていった
止めようとしたロゼッタを素早く交わした補機は、雪の森へと姿を消した
……やはりこうなるか
ティニーの二の舞にならないように、準備をしていて正解だったな
多少副作用はあるが、まあ許容範囲内だろう
アシモフは目の前の端末を目にも止まらぬ速さで操作し始めた
補機が姿を消した雪の森を見ると、ロゼッタはアシモフを止めた
この任務に協力したのは私。私が責任を持つ
それに雪の森で何かを探すのなら、守林人の右に出るものはいない
……なら俺はデータを見て最適化のプランを考えておく。任せたぞ、守林人のリーダー
ええ、任せて
足跡がまだ新しい……この厚みと降雪量を考えると……
ここを通ったのは5分前
駄目だ……どんどん距離を離されている
ロゼッタは補機の痕跡を追いながら雪の森を進む。しかし進めば進むほど雪山に近づくため、吹雪が強くなり、視界が悪くなっていく
いつも冷静なロゼッタでも、その表情に焦りが見え始めた
——なぜアシモフに協力してもらわなかった?
——なぜ自分ひとりで解決しようとした?
——もし、彼の協力を得られていたら……
……いや、これは守る立場である私のミスだ。私がひとりで解決しなければならない
ロゼッタは頭の雪を振り払いながら、雪の森の奥深くまで追い続けた
補機の痕跡は、かなり距離を隔てて崖の前で途絶えていた
次の痕跡は、崖の向こう側か……
それなら……
ロゼッタは崖から数歩下がる
背中から光の翼を広げ、ロゼッタはスピードを上げて前へ駆けていった
走り、跳躍し、光の翼がエネルギーを噴射する。その大きな力で、ロゼッタは崖から高く飛び上がった
空中でしばらく留まると、翼が噴射するエネルギーも弱まり、ロゼッタは落下し始める
……!
背中からスピアを取り出し、全力で前方へ突き刺した。岩壁には届いたものの、落下する身体を支えられるほどには深く刺さらなかったようだ
あと……少し……
距離が足りないと理解したロゼッタは、槍先を反対方向に構え、瞬時に集中させていた電気エネルギーを放った。その反動で少し岩壁に近づくことができた
——リーダーとして、仲間を守る騎士として、ここでつまずくわけにはいかない
もう少し、踏ん張って……!
その一瞬の反動の中で、ロゼッタはスピアを岩壁へ突き刺した
岩壁にスピアが刺さり、落下する勢いも弱まった。岩壁に近づいたロゼッタの機体からは、摩擦で火花が散っていた。岩壁にはスピアの長い痕が残っている
やがて落下する身体は止まり、自身の下に広がる底なしの白い深淵を見下ろしながら、ロゼッタは安堵のため息をつく
雪風が吹き荒ぶ中、崖の下から一本の槍が現れ、近くの地面に突き刺さる
すると少し疲れたようなロゼッタが現れた
昔の機体なら、こんな距離……
機動性と持久性を犠牲に、瞬発力と火力を手に入れた
わかりきっていたことなのに、なぜ私はこんなことを……
——その答えは、前からわかっていた
——悔しかったからだ
ロゼッタは首を横に振ると、スピアを持って雪山へ入っていった
駄目
ここで立ち止まるな、私は守林人の騎士だ
迷える仲間を守る者だ
騎士ならば、どんなことがあっても、仲間たちが安心できる環境を作らなければならない
騎士ならば、騎士ならば……
——仲間を危険に晒してしまったことも
——自分の半身でもあったケンタウロスを手懐けられなかったことも
騎士である私の責任だ
ようやく崖の向こう側にたどり着いたロゼッタは、前髪にかかる雪を払う。しかし、そこには補機の痕跡はなかった
今の私は、騎士として皆を導くことも、皆を守ることさえもできていない……
――それが、悔しい
雪が吹き荒び、周りには誰もいない。その中でロゼッタはようやく胸につかえていた言葉を口にした