午後の日差しは思ったよりも穏やかで、雲に覆われているせいか、空を直視しても眩しくなかった
リラックスして、ゆったりと草むらに横たわる。無数の花びらが風で舞い上がり、ひらひらと漂いながら目の前を横切っていく
ヒュッ……
花びらが突然その場でくるくると舞い始めた。まるで誰かが通りすぎて、新たな気流を運んできたかのように
赤い姿が視界を占領した。少女は宙に浮かび、腕を組みながらこちらを見下ろしていた
基地でコーヒーを飲んでいた時、予言のように脳裏をよぎった光景があった。やはり、ルナが近くにいたのだ
……私が突然現れても少しも驚かないのね。私がここにいるのを知ってたの?
どうでもいいわ。あなたを探す手間が省けたから
いちいち訊かないで
彼女が手の平を広げると、銀色のチェーンのペンダントがゆっくりとぶら下がる
プレゼントよ
立ち上がり、手を伸ばして受け取る。それは月の形をしたネックレスだった。回転する軸を中心にさまざまな月相が映し出される
留め金は後ろよ
ルナの言葉通りにネックレスをひっくり返し、チェーンに沿って小さな留め金を見つけた。留め金は全体に見事に調和していて、まったく違和感がなかった
デザインの評価を聞きたいわけじゃないわ。あなたに……
……もういい、ちょっと貸して
ルナは体を屈め、ネックレスを奪い取ると留め金を外した
そして、近寄ってきた
じっとしてて
無意識に後ろに反りそうになるこちらを静かに制し、ルナはネックレスを持つ手を近付け、もう一方の手を首の後ろへ回すと、チェーンの反対側をつまんだ
そしてチェーンを丁寧に首に回して、留め金を止めた
胸元に垂れるネックレスを数秒見つめたあと、彼女は手を伸ばして月を回転させて「三日月」から「満月」にした。更に少し見つめると、満足げな微笑みを浮かべた
なかなか似合ってるわ。あなたは……
感想を訊こうとしたのか、ルナは顔を上げた。それぞれの瞳にお互いが映り込んだ時、彼女はようやく距離が近すぎることに気がついた
……
彼女は無表情のまま後ろに1歩下がり、その間に見つめ合う瞳を一瞬逸らそうとしたが、じっとこちらを見つめたままだった
……どう?
それ以外に何があるの?
彼女は一瞬止まり、何かに気付いたような様子で手を上げて制した
……いいわ。答えなくていい、忘れて
それならよかった
視線が逸れ、どちらも言葉を発さず、一時的な沈黙に包まれた。この雰囲気に耐えられないといった様子で、ルナは軽く咳払いをし、再びこちらを見た
さっき、空の何を見てたの?視線を追ってみたけど、何もなかった
あまり面白くなさそうね
そう言いながらも、ルナはこちらの隣の草むらに降りてきた
彼女がしゃがみ込み、手の平で草むらと土を優しく押さえた時、表情にためらいの色が浮かんだ
ルナの表情の原因に気付いて周りを見回したが、準備などしているはずもなく、毛布等の下に敷ける物は見当たらなかった
コート……
声に従ってルナの方を見ると、彼女はこちらのコートを見つめていた
構わないわ
泥がつかないように、ルナはコートの上に体を横に向けて寝転んだ
空なんて、もう見飽きたわ。今は……
彼女はこちらを見つめながら、少し間を置いて付け加えた
夜になると、ここから月が綺麗に見えるの
ただ、夜までは少し時間があるけど……
……偶然ね、私もよ
彼女は体にぴったりと寄り添ったコートの内側をなでた。そこには、まだ自分の体温が残っている
このまま、もう少し待つのも悪くないわね