指揮官は時間通りに、曲と約束した場所に到着した
山頂の夜風に緩やかに髪を揺らし、指揮官の目の前で背を向けて立っているのは馴染みのある姿――彼女は振り向くと、軽く会釈した
時間通りですね
ええ。ここからは九龍城を一望できますし、それに……とりあえず、私の傍へ来てください
珍しく何かを秘めた神秘的な雰囲気を醸し出している彼女は、この招待の目的を一向に明かそうとしない
……手に持っているのは何ですか?
九龍の礼節を弁えているのですね。何でしょう?
指揮官が手の平を開くと、そこには小さな機械仕掛けの孔雀が静かに横たわっていた
曲は探るような視線を向け、機械の孔雀を見るとふと動きを止めた
……
……感謝します
彼女はその贈り物を受け取り、まじまじと眺めた
まさかこれほどの……「かけがえのない」贈り物とは
これは以前、ふたりが九龍の宝物庫の中で見つけたものだ。大した価値はなくとも「普通の人が希望と幸福を願うもの」というだけで、彼女にとっては十分に貴重なものだった
今日まで、多くの人々の希望と幸せを見てきた彼女なら、この小さな機械人形に抱く「彼女自身の感情」を理解できるだろう
お互いの考えがこんなにも似ているとは……やはり、あなたは心が通じ合う唯一の「伴侶」ですね
私もあなたに贈り物を用意しました
贈り物といっても、あなたにはすでに私の宝物庫から好きなものを選ぶ権利があります。金銀財宝でも珍しい骨董品でも、あなたにとって「価値があるもの」を
伴侶たるもの当然です
贈り物といっても、あなたにはすでに私の宝物庫から好きなものを選ぶ権利があります。金銀財宝でも珍しい骨董品でも、あなたにとって「価値があるもの」を
彼女が用意したのは、一般的な価値では測れないもののようだった
すると、彼女は空いている手で指揮官を引き寄せ、並んで立った
ですが、私があなたに贈りたいのは……それらよりも素晴らしいものです
徽羽
曲の指示を受けた徽羽は、すぐにふたりの周りを低く1周して、空に向かって澄んだ鳴き声を響かせた
真夜中の12時になったその時――指揮官の目には、突如遠くに見えていた九龍城がぼやけたように見えた
目をこすってもう一度見ると、ぼやけているのではなく、九龍の通りから無数の明かりがゆっくりと昇っていた
点々と散らばる光が、瞬く間に星の河のように明るく連なっていく
彼らは長い時間をかけて準備をして、私の合図を待っていたのです
九龍城内の老若男女は祈りを込めた天灯を掲げ、それらが空に昇り、指揮官が見えるところまで飛んでいくのを見届けていた
かつて私の体を再構築させた人々の意志が、今はあなたのために祈っています。あなたの平穏と幸福と勝利を願い、そしてどこにいても道に迷わないように
九龍の再建以来、これほどの規模で自発的な催しを行ったのは初めてです。これらは全て、あなたとの縁があったからこそ実現したもの
私が今日、山頂にいるのもあなたのため
この世界には、あなたの存在によって繋がり、広がってゆく場所があるのです
これこそ、大きな「奇跡」ではないでしょうか?
お誕生日、おめでとうございます
九龍の人々はこの世界の小さな奇跡を祝福し、曲の姿は目の前を昇っていく光の河に照らされ、唯一の伴侶の目に映っていた
ふたりは固く手を握り合い、天灯が遥か彼方へ消えていくまで見つめ続けた
天灯だけではなく……まだ伝えたいことがたくさんあります
曲は微笑んだだけで、否定はしなかった
曲は微笑んだ
どうか体を大事にしてくださいね
彼女は手の中の小さな機械人形を見つめ、ふたりがまだあまり親しくなかった頃を思い起こしていた。そして、ふとその頃に耳にした評判を思い出した
機械体や構造体なら、どこが壊れても修理すればいいだけですが……あなたは違う
私はあなたの中に「人間」という存在を遥かに超えたものを見ています
脆い人間の体でありながら、問題が現れれば真っ先に立ち向かう。その心はまるで灯台のように揺るぎません
時には私でさえ、あなたの背中を見なければなりません
こんなにも脆いのに、誰よりも強い意志を持っています
もっと率直に表現してもいいくらいです。あなたは賞賛されてしかるべきです
礼など不要です。あなたは賞賛されてしかるべきなのですから
彼女は贈り物をしまうと、隣にいる人の手にそっと触れた
……今宵は月が綺麗ですね。このまま、九龍城へ散歩に行きましょう?