Story Reader / 祝日シナリオ / 鳴神嘆妙 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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客塵

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αの後ろに続いて、荒れた僧房に入った。部屋の中は整然としていたが、埃が積もっている。誰も住まなくなってから、長い年月が経っているようだ

風雪から逃れられたお陰で、体温が少し戻り、思考もクリアになってきた

協力の手始めとして、αに今回の目的がこの僧院にあることを簡単に説明した。昇格者がこんな寂れた場所を縄張りにしたがるとは思えないが……

αは埃を払い、無造作に壁に寄りかかった。どうやら自身の新しい姿には満足しているようだ

ここの僧院にちょっとした縁があったの。本堂に厄介な侵蝕体がいるわ。どうやら意識海に干渉できるみたい

ここに住んでいた人々はここを離れる前に、主だった通路を全て封鎖した

人の気配もなく、門が閉ざされ、瓦礫が散乱しているのはそのためだろう

僧院は広い。本堂への道を探すのは、少し手間がかかりそうだ

ふん、前はせっかくの服が台無しになったのよ

αは不機嫌そうに眉間をぐっと押さえた

……

αは否定も肯定もせず、まるで天気の話をするかのように軽い口調で続けた

あなたと会ってなかったら、強行突破して、ある物を持ち出そうと思ってた

別に、あなたの能力は疑ってないわ

αはわざと距離を詰め、威圧するように瞳を覗き込んできた。すぐに離れてくれないので、少し居心地の悪さを感じた

αは左手の指で右の横髪を梳いて、刀に手を戻した。反対しないのは、了承したということだろうか。少しずつ確実に積み上がる信頼関係が、率直に嬉しい

道中で邪魔な鉄屑を片付けただけ。ボスなんて、彼らが勝手に言ってるだけよ、私には関係ない

αは即座に冷たくピシャリと否定し、それ以上言葉を続けなかった。彼女の寡黙な口ぶりから、おおよその事情は推測できた

ああ、あれ。多分、この僧院の元住職と関係でもあるんじゃない。詳しくは知らないけど、あいつらもあの刀を欲しがっているわ

ふん、身のほど知らずね

変わり者の年寄りよ。気にする必要はないわ

あいつらは善人じゃない。それだけ頭に入れておけばいいの

αがここに来た目的はやはり、その刀を持ち帰ることなのだろうか?

詳しく聞きたかったが、αは突然、刀の柄で自分を小突いた

さぁ、あなたは人間の問題を片付けて。私は人間でない客人を片付けるから

そう言うと、αは姿を消し、自分だけが僧房の入り口に取り残された。そこへ、数人の難民がやってきた

あれ、ボスは?さっきボスがここに入るのを見たけど……

あんた……ボスの仲間か!?

わぁ、あんた、ボスとバイクに乗ってた人か!

羨ましいなあ、あのバイク、シブすぎるよな!俺たちは近付くだけで、いつもボスに睨まれて殺されかけんだぜ。それなのに、あんたは乗ったんだよな!

いやぁ、さすがボスの仲間だな!

ふたりの難民は、久しぶりに敵意を持たない生きた人間を見たのか、興奮しながら自己紹介を始めた

俺は図雷!こいつは「石頭」。あんたがボスの仲間なら、俺たちも兄弟だな!

ボスに感謝しないとな!

思わず「違う」と言いかけた。しかし状況を考えて、まずは情報収集のために話を合わせることにした

もちろん違う。あんたが言ってる僧院は侵蝕体に襲われて、僧侶は皆追い出された。だからもう誰もいないよ

ああ、山組の連中のこと?

舞明市から来たんだ、あいつらはロクなもんじゃない。どうせ舞明市にいられなくなって、こんな辺鄙なところに来ざるを得なかったんだろう

あいつら、頭にくるぜ!宝刀は俺たちの兄貴のもんだとか言いやがって。僧侶の格好をして、礼儀正しい振りだけしやがって。騙されるもんかよ!

知らないのか?あいつら脇堂を占拠して、武器を振り回して、俺たちを襲ってきたんだ!「石頭」が機転を利かせなかったら……!

それを話し始めたら長いぞ!

聞いた話じゃ、この僧院の住職は武術の達人で、立ち去る時に本堂の大仏の後ろに天下の宝刀を隠したらしい。そのすごい刀なら、侵蝕体をぶった斬るのなんて朝飯前だってよ

信じられないなら、見に行ってみなよ。裏山には侵蝕体の残骸がごろごろ転がってるぜ!

でもさ、その宝刀がそんなにすごいなら、爺さん自ら本堂の敵を倒せばよかったんじゃないか?

うーん、年寄りだからなのかな

俺たちはその天下の宝刀を手に入れて、高く売り飛ばそうと思ったんだけど……

ハハ、やっぱやめとくよ。命が惜しいからな

そうだよな、俺たちみたいな血と肉でできた人間が、痛みを感じない機械に勝てっこないもんな

確かにそうだな。でも、あいつらとやり合っても埒が明かないし、俺らには勝ち目もない

あんたは、俺たちを助けるためにボスが寄越した人だろ!ボスは本当に俺たちに優しいんだ!あんたに任せるよ、ボスの仲間なら無条件で信じるぜ!

やれやれ……

成り行きとはいえ、厄介な仕事を引き受けてしまった……