Story Reader / 祝日シナリオ / 運命のサプライズデー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ナナミと過ごす時間

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空中庭園の通路で、ふいに立ち止まってしまった。しばらくの間は一歩も前に進めず、ただ茫然と同じ場所に立っていた

その原因は、真正面から異様な雰囲気が放たれていることだ

巨大な武装マシンが通路の中央に立っていた。圧倒的な存在感、だが……

全体がケーキのようにデコレーションされている……?

肩の辺りは、燃え盛るキャンドルで飾られ……

運転席には、宇宙飛行士の丸いヘルメットが見えている。更にそのヘルメットの上には、巨大なバースデーハットが載っている……

それは非常に不気味で……そして楽しそうだ……

ナナミ

ふっふっふ、時間を計算すると今が、ナナミ登場の絶好のタイミング!

その声で振り返ると、ナナミは腕を組み、自信たっぷりに顎を上げていた

指揮官、準備はいーい?ナナミが全力で挑むよっ!

これは喧嘩じゃない……アクションゲームだって、勝ち方はひとつじゃないんだから

エッヘン、今回の「挑戦」は毎年恒例、指揮官の誕生日サプライズ作戦のことだよっ。このイベントに勝つ方法はただひとつ……

それは指揮官に、超、超、超すごいバースデーサプライズをすること!

だから指揮官、受け取る準備はいい?

ナナミは叫びながら左足を上げ、右手を振り上げた。右手の指先は上を向いてぴんと張られ、全身をアンテナのようにまっすぐに伸ばしている

ナナミ

ビ~ビ~、ナナミは今みんなの電波を受信中……

ビ~ビ~

ビ~ビ~

ビ~……どうして空中庭園の電波ってこんなに悪いの……

ナナミは上半身をまっすぐに伸ばして指先を上に向け、片手片足の姿勢を維持した。信号のいい場所を探すかのように、左に数回、右に数回ジャンプする

ナナミがしていることの詳細は不明ながら、これからとんでもないことが起こるのではないかとハラハラする

ビ~ビ~ビ!ビ!キタキタキタ!指揮官、電波を受信したよ!

電波に集中するために閉じていたナナミの目が突然大きく見開かれ、左足を地面に踏みつけて大きくジャンプした。空中で回転しながら、頭上を飛び移っていく

背後にいたパワーは準備を整えており、彼女のジャンプが合図だった。エンジンが唸りを上げスラスターを噴射し、彼女が運転席に着座する瞬間、前方に加速した

華麗な連携プレーに興奮する余裕すらなかった。パワーがスピードを上げて突進してくるのに反応できないでいると、運転席のナナミに体を引き上げられた

指――揮――官――つ――か――ま――れ――

パワーの加速でナナミの声は途切れ途切れになる。周囲の急激な逆行についていけない。今、パワーは自分を乗せて、空中庭園の彼方の宇宙に行こうとしている……!

ナナミの耳元に近付き、自分は宇宙服を着ていないんだという事実を必死に伝えた

ナナミは「安心して」と目で答えた

パワーは自分とナナミを連れて、宇宙のど真ん中に突っ込んでいく――後から聞いた話では、ナナミが事前に関係者に周知していたのか、旅はスムーズだったらしい

宇宙服の問題はちゃんと解決された。空中庭園を出る瞬間、パワーが頭部のドームを開け、こちらを押し込んだのだ

酸素は十分にあり温度も適切だ。ただ、ひとつ問題が……

ひとり分しかないはずのスペースへ、自分とナナミのふたりが押し込まれている。イワシの缶詰のようにぎゅうぎゅう詰めだ

……しっぱーい、内側の拡大を忘れちゃった

でも、ナナミはとっても柔らかいから、指揮官はもうちょっと――強く押しても大丈夫。安心して、ナナミ折れたりしないから

だって少し下がった方がよく見えるんだもん

指揮官、見て

腕の中に座るナナミが、ドームの面を指差した。指の方向を見ると……

群星だ

それは幻想的な光景で、現実とは思えないほど煌めいていた

どの誕生日もたった一度きり、それを逃すと二度と戻れない。だから、指揮官の全ての誕生日、ナナミは特別に思ってる。そして、最高の誕生日にしたいの

ナナミは手の平を広げ、ドームの内壁に押し当てた。壁の向こうには星々の白く純粋な光がある。過去の光が時空を超え、何千万光年もの時を越えて、今ここにある

受け取ったよ、みんなの電波

流れる輝きの中で過去を思い出した。この1年間に経験した大小さまざまなこと、親しい人も親しくない人も、関わり合った全ての人のことを

白く輝く光はやがてナナミの手の平へと収束し、ナナミはそれを壁を隔ててそっと握った。再び手を広げると、手の中には小さなチップがあった

彼女はチップをこちらに差し出した

ナナミの目配せでチップを端末に入れると、音声が流れてきた。色々な音が重なりすぎて少し雑音っぽかったが、かろうじて内容を聞き取ることができた

それはお祝いのメッセージだった。聞き覚えのある声、印象的な声、機械の挨拶のような声、どこかで聞いた覚えのある声、初めて聞く声、実に色々な……

指揮官指揮官、ナナミ、誕生日は過去との決別って言葉を聞いたことがあるの。それって、本当に悲しい言葉だよね

だけどナナミ、その文章の続きがすぐにわかった。それは、誕生日は未来への挨拶でもあるってことだよね!

ナナミは思うの、誕生日を一緒に祝ってくれる友達は、この先進む道にも喜んで付き添ってくれる人

今日、指揮官を祝うためにみんなで集まれないのは本当に残念だけど

だから、ナナミが特別に用意したのがこのサプライズ!

端末で再生中の音が途切れた。少しの間があって、全ての声がシンクロする

指揮官……

お誕生日おめでとう!

……

後日ナナミに、電波とはいったい何のことだったのかと訊ねてみた。ナナミの答えは……

あー、あれは演出。みんなに頼んで、指揮官への「誕生日おめでとう」の声を録音してもらったんだ。そのまま渡したんじゃ、つまらないからさ!

あの光はどうしたのかって?ええと……あれはパワーちゃんのスクリーンを使った特殊効果だよ。ナナミがちょっとお芝居しただけ……

指揮官、これ以上は秘密ね。あれは手品みたいなものだから。タネを知ったら興ざめしちゃうでしょ!

……けど、これからもチャンスがあったら、今回よりもっともーっとすごい「手品」を指揮官に披露してあげるね!