プハッ――もう一杯!
赤毛の機械体はボトルを高く掲げ、こちらの腕をぐいと引っ張ってグラスを交わした
今夜は我らがグレイレイヴン指揮官の誕生日のための集まりだ!乾杯っ!
ふたりは今、商店街に新しくできたレストランのテーブルに座り、ぐつぐつと煮えたぎる辣油鍋に舌鼓を打っている
ノクティスはかなり早くからここを予約してくれていたらしい。昼間の用事が終わったあと、ノクティスに引きずられるようにしてここへやってきた
メニューはどこだ?他のモンも追加しようぜ。これをふたつと、こっち……
今日は誕生日だろ、相棒。レストランでゆっくりメシを食うなんて滅多にねえだろうし、心ゆくまで食べてけよ
ノクティスが「誕生日」という言葉を口にした時、横に置いてあったサービスロボットが突然こちらを向き、「ギシ」と音を立てた
よく煮えてきたな、入れてやる
ノクティスは豪快にどんとボトルを置くと、料理を取り分け始め、こちらの前にあったお椀に小さな山を作った
やっぱ、メシはちゃんと食べないとな……
アルコールで口数が多くなったノクティスはとめどなくしゃべり続けている。その時、ふと周囲に目をやった――何かが忍び寄るような気配があったのだ
先ほどのサービスロボのスタッフがいなくなっている。近くにいたロボットたちの頭は皆一様に「通信中」の緑色ランプを点滅させ、その頭をこちらに向けていた
……それに、肉、卵、牛乳をもっと食べて筋トレしろ。そうすれば、戦場でもっと戦えるようになる
ん?敵かよ?俺はなーんにも感じねえぞ?
ノクティスはお椀を静かに自分の方へと押してきた
心配すんな、俺様がいるんだ。誰もお前に近付けさせねえよ。熱いうちに食べろよ、冷めちまうぞ
「考えすぎかもしれない」と思いつつ差し出されたお椀を取ろうと俯いた瞬間、キッチンの奥から機械体の集団がこちらに向かってくるのが見えた
彼らはレストランの制服に身を包み、スピーカーを担いで笛を鳴らして手拍子を打ちながら、ゆっくりとこちらへ行進してくる
ん?ああ!こっちだ!ここ、ここ!
ノクティスは奇妙な機械体の集団を見ても少しも驚かず、ふたりのテーブルに向かってくる一行に合図を送っている
相棒のための祝いだ、だって今日は誕生日だろ!さあ、グレイレイヴン指揮官のために、おっ始めようぜ!
ノクティスが指を鳴らすとそれがキューであるかのように、周囲の機械体が一斉にリズムを刻み始めた。巨大なスピーカーからリズミカルな「バースデーソング」が流れ出す
トゥデイイズユアバースデー、イェア~!ハッピーバースデートゥー、ユゥゥ~、フゥ~!
ノクティスも一緒に歌っている。たったひとりの男のバリトンが、機械体の集団のコーラスを凌駕した。歌詞はともかく、心のこもった歌声は胸に響いた
どうよ?この曲、世界政府芸術協会と一緒にアレンジしたんだ。黄金時代のロック風にな。相棒のために準備したんだぜ
周りの客は皆、その陽気な雰囲気に魅了されていた。見知らぬ人の幸せと未来を祝福し、歌に合わせて手拍子する者もいる
歌がいよいよ最後の一節にさしかかると、機械体たちは突然2枚の横断幕を取り出し、目の前にばさっと広げた
店内の興奮はますますエスカレートし、ノクティスは息をいったん沈め、指を差すようにして諳んじ始めた
上の句――指先で白雲と霧を払え、勇気を奮い天を仰げ!
下の句――赤い激流に棹を差せ、威声で海を震わせよ!
よっしゃノッてきた、十八番を見せてやらぁ
まさかの芸術的かつ学術的な祝福に衝撃を受けていると、ノクティスが腕に注目しろと合図してきた
次の瞬間、ノクティスの機械の腕が取り外され、空洞になった肩関節から墨痕鮮やかな赤い旗が飛び出してきた。そこには4つ、大きな文字が書かれていた
横書きで――天下一番!
名人の筆だぜおい、すげえだろうが!ド肝抜かれたかよ!
ノクティスの興奮した表情にたまらず、吹き出して大笑いしてしまった
これっぽっちの電解液疑似酒で、酔うモンかって
これ、だいぶ前から準備したんだぜ。最ッ高ーにド派手な誕生日をプレゼントしてやろうってな。今日は絶対に酔っ払ったりしない
つまり……お前の幸せが、今日は一番重要なんだ
どうだおい?喜んだかよ、じゃあもう一杯行こうぜ!乾杯、誕生日――おめでとう!