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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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白昼夢の予言

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この任務は始めから罠だったのだ

それは離反者たちがビアンカに仕掛けた罠であり、ビアンカが離反者たちに仕掛けた罠でもある

これまでビアンカは、自分が握っている情報をわざと疑わしい人物に漏らすことで、彼らが口封じに動くよう仕向けた

ただ予想外だったのは……あの「明るくて素直でおしゃべりなルイナン」が離反者だったことだ

……まだ生きてるなんて、さすが魔女ね

爆発の瞬間、ビアンカはルイナンの手を振りほどき、輸送車から飛び降りていた

爆発の余波でふたりの機体は損傷し、輸送車の補給物資も灰となったが、それでもふたりは生きていた

あなたも裏切るのですね

ええ。あなたの言うように、最も強固な繋がりは鎖じゃなく、安らげる家だもの

約束してくれた人がいたから、私は未来を恐れず立ち向かえた。だから彼らの仲間になることを選んだのよ

ウィンター計画での昇格者の約束など、更なる犠牲と代償を増やすだけです

それのどこが悪い!?

ルイナンの後ろから怒声が響いた。長らくここに潜伏していたらしきふたりの構造体が廃墟から現れた

(相手は3人、「夢」の内容と同じ……次は「人体実験と弱者の犠牲は進化の必然」と言い出すのでしょうか?)

あんたも議会の古狸らも、人体実験と聞くとすぐに騒ぎ立てる。あの信者たちがどれだけ使えないゴミか、考えたことあるか?

コポリマー適性もなく、愚かで迷信的。おまけに保全エリアの再建作業すらろくにできない。実験材料になる方がまだ役に立つってもんだ

実験で科学技術が進歩すれば、意識海が不安定な俺たちでも強力な特化機体を使える。つまり戦闘中の生存率が上がるってことだろ

特化機体の適性がないあなたたちのために、コポリマー適性のない者を犠牲にする?その主張は昇格者と何が違うんですか?

もちろん違う。俺たちは本当の平和を目指しているからな!

…………

あの残留データの「夢」は、不確かな手がかりにすぎない。夢の終わりがいつか現実になるとしても、それは今日ではない……そうビアンカは考えていた

彼女が計画を急遽変更し、早々に調査を始めたことで、黄金時代の作品でいう「世界線の収束範囲」のような状態が起こっているのだろうか?

もしそうなら……この後の結末は明白だ

未来のために努力する昇格者だっているのよ。侵蝕体をコントロールする力を私たちのために使ってくれてるもの

最後の警告よ。私たちと手を組むか、ここで死ぬか

言うだけ無駄だ。このハンパな魔女は、救いようのないクズどもに同情する「良心」ってやつがある。手を組むわけがない

もちろんお断りします。ですが、彼らに同情したからではなく、事態の悪化を阻止するためです

粛清部隊は長らくウィンター計画を監視していました。この計画がもたらした結果と悪影響は把握しているつもりです

「極秘捜査員」によると、ウィンター計画の根底にはダイダロスと彼らの「クティーラ計画」があるようです

なんだと……?

「クティーラ計画」と聞けば、内情を知る者は数十年前に行われた大規模人体実験をすぐに思い出すだろう

名付けの由来である神話のように、「クティーラ計画」に関わる研究者は、クローンと記憶バックアップを通して、母体の子宮で輪廻させた死者を蘇らせようとしていた

確かにあの計画は研究段階で多くの死傷者が出た。でもそれは使える人材を残すためだった。それの何が間違ってるというの?

ただ間違いだったのは、あの研究を最後までやり遂げなかったことだけ

彼らは最終的に研究の方向性を変え、その技術を構造体の意識海の複製と改造に利用しました

「クティーラ計画」に参加していた者は研究員も含め、凄惨な最期を遂げました。生存者もほとんど残らないほどに

この計画がなぜそうなったのかを知れば、あなたたちの行く末もおのずとわかるでしょう

今、命を落としているのはコポリマー適性のない人類。そしてこれから死ぬのは、特化機体に適性のないあなたたちです

実験と犠牲の果てに何があるというのです?万にひとつの、新種の選ばれし人造昇格者ですか?

もう一度言います。科学の進歩のためであっても、無数の死を踏み台にしてはならない!それは必要な犠牲などではなく、ただの虐殺です!

手の届かない未来と目の前の希望、人がどちらを選ぶかはわかりきっている!

死がこうまで身近なものなのに。生き延びるために近道を選ぶのは当然よ!

……これ以上話をしても無駄なようですね

「夢」の予言でこの戦いの結末はすでに知っていた。それでも彼女は一瞬たりとも怯むことなく武器を掲げた

神よ……もし我が祈りをお聞きくださるなら、どうか犠牲者たちにそのお恵みをお与えください……弱さや無力は彼らの罪ではありません……

悲劇を繰り返さぬため、私は再びかつての同胞に剣を振るいます……これが私の罪、そして罪の贖いです

粛清を始めます!

遠隔リンクが切断されたその時、グレイレイヴン指揮官は準備室にいた

指揮官、その顔……何かありましたか?

ルシアはすぐにビアンカへ通信要請をした

繋がりませんね

もう一度通信を試みたが、やはり結果は同じだった

深痕機体はまだ不安定なリスクを抱えています。彼女が理由もなくリンクを切断するはずがありません

何かあったのかも……任務上で異常が発生していると報告しますか?

確かにそうかもしれませんが、万が一……

彼女の位置を特定できるか試してみます。それ以外に何か方法はありますか?

他の誰か?

お任せください

日も暮れ、低く垂れ込めた雲と肌を刺す風が雪の訪れを予感させる

ビアンカは雪に覆われた廃墟の中にたまらず倒れ込んだ。離反者と侵蝕体の包囲から逃れたものの、その機体はもはや限界を迎えていた

動く度に真っ赤な循環液が流れ落ち、白い雪の上に鮮やかな模様を描く

指揮官との遠隔リンクを繋ぐ意識リンク端末も自分の端末も、戦闘中に壊れてしまっていた

遠隔リンクが切れ、通信も繋がらないと気付いたら、指揮官殿はどうするだろうか?

ビアンカ

絶対に……指揮官殿を来させる訳には……ルイナンはまだ生きている……他の離反者もまだ……

しかし、孤立無援で機体もボロボロの彼女が一体どこへ行けるというのだろう?

腹部や背中の侵蝕による傷はまだ耐えられる。しかし移動はできそうにもない

左手首の接続部分が破損し、左膝関節と右の脛はその程度は異なれど、断裂してしまっている

剣杖にすがり、のろのろと移動するのが精一杯だ。もし敵が循環液の跡をたどれば、その後のことは想像に難くない

ビアンカ

…………

全てがあの孤独な死に続く「未来」に向かっている

――このような苦境や裏切りは、初めてではなかった

構造体になる前のビアンカも、あの離反者たちのように自分の未来を約束してくれる人に出会ったことがある

……ウェンさん

――その人物はダイダロスの「代表取締役」、ウェンと名乗った

彼はビアンカの迷いを見抜いていた

人々の安全を守り、闇に潜む侵蝕体を掃討するために彼女は招かれたのだ

「ダイダロスが取り扱う商品は、ただひとつ――安全です」。彼はそう言った

ありがとう、あなたが来てくれなきゃ、死んでるとこだった

多くの人の安全のためには、少数<//侵蝕体>の犠牲が必要だ

酷い怪我ですね、すみません、遅くなってしまって……

彼女はウェンが言う「少数」とは、侵蝕体のことだと信じていた

構造体兵士

ケッ、今回は「商品」が悪かったんだよ……でなきゃ、俺らだけでも余裕でどうにかできた……

ビアンカ

……商品?

漏れ聞こえる悲鳴を聞いて、初めて彼女は処理した侵蝕体がダイダロスによって生み出されたものであり、自分もその実験の一部にすぎないと知った

全てが明らかになった夜、ビアンカは粛清部隊と図らずも手を組み、ダイダロスを粛清したのだ

これを機に空中庭園に接収されたビアンカは、粛清部隊に招聘されることになる

……ダイダロスにまつわる事件は、全て終わったはずだった

ビアンカ

……あれが全てではなかった……

「計画」「実験」「商品」「代表取締役」といった枝葉は切り落とせても、地下にはびこる根は深かった。真の首謀者はいまだ身を潜めている

計画は名を変え、実験室も移転した。代表のウェンは死後、「黒野離反者」として全ての罪を背負わされた

彼の残した資産は、黒野グループが合法的に「差し押さえる」こととなった

危険は根絶されることなく、密やかに隠されたまま――

粛清部隊が「ダイダロス」の追跡を諦めることはなかったが、ダイダロスの野心は見目よく取り繕われ、議会で取り上げられるほどになっていた

極秘捜査員1

上層部は利益を懐に入れるだけで、計画のことなどもう気にもしていません……隊長、彼らを監視し続ける意味なんてあるんですか?

もちろんです。利益があるからといって安全とは限りません

ヴェンジがもたらした惨劇……何者かが計画を進めるために、彼を陥れたのです

極秘捜査員1

計画……?ウィンター計画の前身の、あの悪名高い「クティーラ計画」のことですか?

ええ。誘惑に負けたのは彼だけではないはず

またあのようなことが起きるのであれば、議会がいくら容認しようとも、私は見すごしません

粛清部隊の仕事は、軍や他の部門とともに離反者を捕らえたり、侵蝕体を掃討するだけではない

ほとんどの時間、監察院と協力して水面下における違反行為の取り締まりを行っている

終末の混乱においても秩序が崩壊しないよう、影で動く彼らによって法は守られているのだ

しかし今、混乱に乗じて何人かの粛清部隊の隊員に腐敗が浸透してしまった

ビアンカ

……それでも、諦める訳にはいきません!

実験で虐殺されたのと同じ、無数の命を自らあの世へ送り、耐えがたい無数の惨劇にも直面した。対岸の火事と眺めていた者が、結局は同じ末路をたどるのを何度も見てきた

調査するにつれ、ウィンター計画の首謀者の残忍さをますます痛感した。血の跡をたどり、過去を振り返れば、今でも骸の悲鳴が聞こえるようだ

調査で得た僅かな手がかりすら、報告書に書かれた内容よりも恐ろしい地獄を思わせるものだった。それでも――

極秘捜査員2

何ができるというんです?

死者が恨み言を言うんじゃなし、地上の戦況も緊迫している。クティーラ計画もウィンター計画もこれ以上、どうしようもないでしょう。ケリをつける必要もありません

……少なくとも同じ轍を踏まないで済みます

極秘捜査員1

隊長、離反者を捕らえたいのはわかりますが、ひとりで行動するのは危険です

私が無防備に見えている方が、彼らも早く尻尾を出すでしょう

極秘捜査員1

わかりました……緊急事態の時は私たちを呼んでください

いえ、そうすればあなたたちの身分が露見してしまいます

極秘捜査員2

なら、ひとりきりで無茶はしないでくださいよ

ビアンカ

……うぅっ!

ビアンカは深い傷を負った機体を必死に引きずり、凍りかけた水辺へとやってきた

循環液を洗い流して修理しなければ……

まだ動く手で冷たい水をすくい、機体を洗い流した。循環液のしずくがポタポタと水溜りに落ち、赤い波紋を広げた

痛覚は絶えず警告を鳴らしているが、緊急修理も再起動の手段も尽きた。このままでは彼女を待ち受けるのは死のみ

ビアンカは顔を上げ、降りしきる雪を眺めた

ビアンカ

……ひとりきりで無茶はしないで……

刺すような痛みと寒さの中で、極秘捜査員の言葉を思い出した

では助けが必要な時、誰に助けを求めればいいだろう?

端末は戦闘で完全に壊れている。幸いルイナンの端末が手元にあるが、これも酷く破損しており、1回の通信が限界だろう

粛清部隊への連絡は盗聴される可能性が高い。救援隊に離反者が紛れていれば、想定外の戦闘を引き起こす可能性もある

ビアンカ

……グレイレイヴンと指揮官殿……

彼女は一瞬浮かんだその考えをすぐさま打ち消した。今その選択はできない

あの「予言」は、彼女が窮地に陥った時にグレイレイヴンを巻き添えにする未来を示していた

その結末では、彼らの優れた戦闘力のお陰で最悪の事態は免れたものの、ひどいダメージを受け、ビアンカとも離れ離れになってしまっていた

そして彼らが再びビアンカを見つけた時……彼女はすでに侵蝕体となっている

引き金を引いた瞬間の指揮官の表情を見て、涙が溢れそうになったことをビアンカははっきりと覚えていた

指揮官がためらったその一瞬の隙をついて彼女は、他の侵蝕体とともに指揮官に雪崩れのように襲いかかった

雪原が指揮官の鮮血に染まったその光景は、彼女の記憶に傷痕のように焼きついた

彼女は「夢」を頼りに離反者の情報を察知した。だからこそ、この「夢」の啓示も無視できない

もうチャンスはないのだろうか?

……そう考えていた時、ルイナンの端末が突然震えだした

ビアンカ

……指揮官……殿?

水辺に座り込む彼女を見て、その声はとまどったようだった

ビアンカ

申し訳ありません、こんな見苦しい姿を

ビアンカ

生命維持に問題はありませんが、関節を損傷しました。しばらくは戦えそうにありません……

ビアンカ

お待ちください、まだ解明しなければいけないことがあるんです。それまでは私の居場所は明かせません

ビアンカは小さく返事をした

ビアンカ

ありがとうございます、指揮官殿

ビアンカ

では……グレイレイヴンはこの座標へ向かい、遺体の確認と回収をお願いできますか。粛清部隊が遺体から手がかりを調べますので

ビアンカが壊れかけの端末で位置をマークすると、スクリーンが彼女の操作に合わせて点滅した

ビアンカ

この任務は、まだグレイレイヴンしか知りません。解決するまでは、近付いてくる人物に十分警戒してください。誰が潜んでいるのか、私にもまだわかりませんから

ルシア

任せてください、ビアンカ。慎重に任務にあたります

ルシアの凛とした声が、端末の向こうから聞こえる

ビアンカ

なんとか機体を修理して、離反者の行方を追います

ビアンカ

申し訳ありません、任務が終わるまでお話できません

ビアンカ

いいえ。この任務はまだ不可解な点も多いですし、拠点に助けを求めるのは賢明ではありません。離反者はまだ生きています。彼女は昇格者や他の「仲間」を呼ぶでしょう

ビアンカ

グレイレイヴンが彼らの遺体を回収してくれれば、粛清部隊にとってそれだけで大きな助けになります

ビアンカ

……私を?

ビアンカ

私を心配してくださるのですか?

ビアンカ

裏切りや別れに慣れようとしなくていい……?

それが自分にも当てはまる、そんな事実に初めて気がついたというように、ビアンカは低い声で繰り返した

ビアンカ

……ご存知ですか?粛清部隊の隊員にそんなことを仰ったのは、あなたが初めてということを

修道女ながら武器を取った瞬間から、「ビアンカ」の身の回りにはいつも「裏切り」と「別れ」があった

ビアンカ

指揮官殿の仰るように、別に慣れた訳ではありません。ただ……

――あなたが傷ついたり、悲しむ姿を見たくない

ビアンカ

…………

彼女の現実は、あの孤独な死に向かう未来と重なりつつあった

その結末を回避できないなら、せめて誰も巻き込みたくはなかった

ビアンカ

……指揮官殿には、守りたい人や守りたいことはありますか?

ビアンカ

守りたい人の側にいることで危害を加えてしまう……そうなってしまっても、あなたは側にいらっしゃると?

ビアンカ

私は……そんなに完璧ではありません。怖くなったり、諦めたくなる時もあります

できることなら……

いつか安全な任務があれば、喜んで指揮官殿に同行を願うでしょう。でもそれは今ではありません

危害を加える者たちを許せませんし、あなたを危険に巻き込むなど、なおさらできません。もしあなたを傷つけるのが私だったら……私は自分を許せない

彼女は思わず小さなため息を漏らした

ビアンカ

私がどれほど拒んでも、通信位置を特定して追いかけてきそうな仰りようですね

ビアンカ

…………

ビアンカ

では……

彼女は微笑みながら最後の決意を心にしまい込んだ――あの未来が現実になるくらいなら、侵蝕体になる前に自滅の道を選ぶことを……

その決意を胸に秘め、彼女は援助とリスクをも受け入れた

ビアンカ

これが私の現在位置と交換が必要な部品の型番です

ビアンカは壊れかけの端末を再び操作した

ビアンカ

この場所でお待ちしています、指揮官殿