ビアンカ隊長、ここまで来れば、もう隊長の故郷は近いんですよね?
ええ、ここはよく知っている場所です。このまま北へ進めば、私が育った教会があります
それなら……ついでにちょっと寄ってみませんか?
寄ってみる?
その教会に、ですよ。近くなんですよね?
…………
彼女は教会の方を眺めながら、何度も見るあの「夢」を思い出していた
夢の中でも、今と同じように故郷に戻っていた。信頼していた仲間が裏切り、皆を吹雪と侵蝕体の嵐の中に追い込んだのだ
戦いはとても長い間続いた。ともに死線をくぐろうと誓い合った仲間たちは、ひとり、またひとりと倒れていった
仲間が救援に来る度、予期せぬ事態が同じ仲間を襲った
ついには助けを求めていた仲間の声が、侵蝕体の呻きへと変わっていった
彼女は雪に覆われた原野に立ち、矢にそっと口づけると、これまでともに戦った構造体の胸元に狙いを定めた。それが彼らへの最後の安息としての手向けだった
かつて同胞だった侵蝕体を死の世界へと送ってから、ビアンカもとうとう力尽き、侵蝕体となってしまった
果てしない純白の世界で、雪だけが侵蝕体を追いかけ、残骸の上に降り積もり、白い深淵となっていく
侵蝕体となった彼女は、最期の瞬間まで、故郷の教会を彷徨い続けた。吹雪の中の悲痛な叫び声は懺悔のように、何度も何度も過去に向かって語りかけていた
あーあ。こんなに疲れたわりに、収穫なしですか……
ルイナンはパッと輸送車から降りると、冷たい空気の中で伸びをした
次が最後の調査地点です。最後まで何があるかわかりませんよ
ビアンカ隊長!ルイナン!やっと来られたんですね!
状況は?
難民の方は特に変化はありません。ただ、相当数の信者が収容拠点から逃走しました
信者は狂人ばかりですよ。迷信のような習慣に囚われてる。その奇妙なルールを守れないと、すぐに騒いで面倒を起こすんです
ただでさえ少ない食料を神に捧げるって言うんですよ。オブリビオンや拠点スタッフもですが、俺ももううんざりです……
隊長、前にも言いましたが、もう一度言わせてもらいます――もうあいつらに構うのはやめましょう。あいつら、救う価値なんてありませんよ
では、私ももう一度言わせてもらいます。彼らを救う、と
この災厄は多くの人の希望を打ち砕きました。ですが相応の助けさえあれば、彼らにも希望があるはずです
我々に「相応の助け」なんてできますか?自分たちのことで手一杯なのに……
今優先すべきは執行部隊の離反の調査です。執行部隊の問題はまだ解決していないんですよ!
その兵士はじれったそうに「執行部隊」と2度も強調した
そのことを今、まさに解決しようとしているのです
赤潮の天啓の事件に離反者が関わっています。前回回収した報告書では、すでに捕えた離反者以外に、粛清部隊の隊員の存在も浮上しています
ええっ?粛清部隊からまた離反者が出たんですか?
誰からの情報なんです?その情報、信頼できるんですか?
情報源の素性を明かせないことは、あなたもわかっているでしょう
フンッ……
……せめて今回の任務に関する情報くらい、教えてくださいよ
いくつか手がかりをつかんでいます。赤潮の天啓、離反者、昇格者に……ウィンター計画に関することも
ウィンター計画?
内部情報によると、空中庭園内の何者かが昇格者と繋がっているようです
それは……「極秘捜査員」からの情報ですか?
ええ。この件についてはもう十分調査しました。そろそろ集約していく頃合いです
前回の事故現場へ行きましょう。遡源装置で更に情報が得られるはずですから
皆が無言で近くの廃墟へと向かう中、ルイナンだけはぶつぶつと何かをつぶやいている
どうしてウィンター計画と関係が……
一部の離反者が要求に応じて信者をウィンター計画の研究員へ引き渡していました。ですが、その研究員たちは昇格者と繋がっていたようです
特化機体とやらの改良のために、昇格者についての研究を深めたかったのかも……
もしそれだけなら……
他にも理由が?
それは、やがてすぐにわかるでしょう
彼女が剣杖で遡源装置を叩くと、装置はゆらゆらと淡い光を放った