Story Reader / 祝日シナリオ / 純白の想い / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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瞬間の芳華

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……

人で溢れかえる市場を歩きながら、ルシアは周りを注意深く観察していた

フェスティバルでは物資交換の露店以外に、主催者側が用意したゲームがたくさんある。それらのゲームでいい順位を取れば、スターチケットがたくさん手に入る

ルシアはそれを狙っているようだった

彼女は先ほど、2本のハンマーを自在に操って、単身で「モグラ叩き」の最高記録を出したところだ

その後、ひとりで奔走して「キャッチボール」で1位を奪取した

今、ルシアは「ミックスダブルス」の受付で順番待ちをしているのだった

こっそり着いてきたのはやはり正解だったようだ。ルシアはスターチケットの獲得を最優先に考えて動いている

指揮官、パビリオンで休憩していたのでは?

心配、ですか?ここは安全な場所です。危険な要素は見当たりませんが

ルシアがスターチケット獲得に必死になるあまりフェスティバルを楽しめないのでは、そう心配する気持ちを説明するのはかなり難しい。だから別の方法をとった……

ルシアがスターチケット獲得に必死になるあまりフェスティバルを楽しめないのでは、そう心配する気持ちを説明するのはかなり難しい。だから違う言い方をした……

でも手分けして集める方が……あ、いえ、わかりました

指揮官、ここは人がいっぱい集まっていますから、はぐれないでくださいね

子供が多いパビリオンと違って、市場はカップルの割合が明らかに多い

露店で売られているものは、簡単なアクセサリーや、ビンに入れられた植物等だ。皆が相談したり、冗談を言い合ったりして楽しみながら、商品を真剣に選んでいる

いたるところで楽しそうな会話がなされていて、行き交う人もそれを微笑ましく見守っている

ここにくる途中、自分とルシアも多くの人からの注目を浴びた。理由のひとつはルシアの特徴的な塗装だが、おそらくもうひとつの理由は……

通行人A

見て、あの人、さっき「カップルでモグラ叩き」でたったひとりで1000コンボ出した人だ……

通行人B

それと「キャッチボール」でノーミスだった

通行人A

隣にいるあの人も、彼女と同じくらいスゴイのかな?

通行人B

さあ……そうなんじゃない?

指揮官、作戦用塗装に戻した方がいいでしょうか?

おふたりさん、ちょっとお時間をいただいてもよろしいでしょうか?

突然、カメラを持ったスタッフが近寄ってきた

私はこのフェスティバルの運営スタッフなんです。そちらの美しいレディ、写真を1枚撮らせていただいていいですか

指揮官?

ルシアはその問いかけに答えず、こちらの方を向いてきた。どうやら判断を委ねるつもりのようだ

決定権が託されたのなら、写真の用途と相手の身分を確認するのは、ルシアを守るためにも必要なことだ

写真は今回のフェスティバルのメモリアルウォールに飾るんです。もちろん、彼女に同意がいただければのことですが

相手は携帯端末を開き、メモリアルウォールの写真を見せてくれた。そこにはすでにたくさん写真が貼られている

誇らしげに自分の作品を自慢する露天商、変顔をしてはしゃぐ子供、不意に撮影されたと思われる幸せそうなカップル……さまざまな写真が飾られていた

ええと、これが身分証です……

彼はなぜか絶望的な表情を浮かべながら、端末に表示された証明書を見せてくれた

端末を覗くとすぐに、彼が浮かべた微妙な表情の理由がわかった。確かに、身分はこのフェスティバルのスタッフだ。端末の条件コードが検証をクリアしている

ただ、その名前が……

やっぱりそういうリアクションになりますよね……生まれる前に親が決めた名前なんだから、どうしようもないんですけどね?

彼は「やっぱりか」という表情をしている

わかりました

これでいいですか?

ルシアはカメラの前に立ち、いつものポーズをした

キューピッド

迫力満点ですが、ちょっと硬いかな。もう少し柔らかい感じにしませんか?

柔らかい……

ルシアは少し体勢を変えた

キューピッド

ちょっとよくなりましたよ。今度はもう少し楽しそうな表情をしましょうか。たとえば、ウインクとかどうです?

ウインク……?

ルシアに言いながらやって見せた

なるほど、やってみます

……これでどうですか?

キューピッド

……

ありがとうございます、でも、さっきの表情に戻しましょうか

……はい

キューピッド

ではそのまま……3、2、1、はい、OKです!

シャッター音が響き、撮影し終わったキューピッドがカメラを持って近づいてきた。彼は撮った写真をルシアに見せている

どうですか?この写真

問題ありません、指揮官は?

モデルになってくれた方にはお礼にプリント写真を差し上げているのですが、いりますか?時間の心配はいりませんよ。このカメラ、すぐにプリントできますから

彼はカメラの下にある排出口を指差した

いえ、私……

ルシアは断ろうとしたが、急に口をつぐみ、改めて質問をした

今の写真はいりませんが、もう1枚、指揮官と私で写真を撮ってもらうことは可能でしょうか

もちろんです

ルシアが自らそんなお願いをするなんて、ちょっと驚きだった

指揮官、先ほどのは記念として写真を撮ると仰いましたよね

ふたりで撮った方が記念になると思うのですが

リーフとリーがいないのが残念です……

わかりました

お決まりでしたら、そうですね……そこをバックにするのはどうでしょうか?

彼はイチョウの木を指差した。芽がようやく出たばかりで、とても初々しい感じが漂っている

指示に沿ってそれぞれの立ち位置に着いたあと……

では、もう少し寄ってください。カメラで撮れる範囲が狭いんで。それとも、手を繋ぐとかどうですか?

……指揮官?

手を伸ばすと、ルシアもこちらの動きに気づいて手を伸ばし、そっと握ってくれた

人間と機械の指が、強く絡み合う

ルシアは何も言わず、指示された通りにこちらへ身を寄せてきた

ふたりの肩がぶつかり、ルシアの髪の毛がそっと触れる

キューピッド

そのまま……3、2、1……はい、スマイル!

「カシャ」

シャッターを押すと、彼はオッケーサインを出してみせた

そのまま写真をプリントアウトしながら、こちらに近づいてくる

いい写真ですよ、これ、メモリアルウォールに飾ってもいいですか?

問題ありません、指揮官は?

ありがとうございます。これはプレゼントの写真です。どうぞ

ルシアの手に2枚の写真が渡された

そうですか、それは残念です

ルシアに2枚の写真を渡したあと、彼は目の前で写真データを削除してくれた

まだ仕事があるので、ここで失礼しますね。引き続きフェスティバルを楽しんでください

ルシアは1枚を大事そうにしまうと、もう1枚をこちらに手渡してきた

こちらは指揮官の分です

写真のルシアは優しい表情を浮かべているが、逆に自分は少しぎこちない表情だった

どこからともなく吹いてきた紙吹雪が、まだ実がないイチョウの木に彩りある花を咲かせていた

枝先にはもう、春が訪れている