無重力状態は1回目ほど長くは続かず、すぐに視野が回復した
指揮官、お目覚めですか?
ルシアたちは自分より早く目覚めていたようだ。コトラを取り囲んでいる。リーは手に機械を持っていて、何か検査をしているようだ
私たちが目覚めたら、コトラちゃんが動かなくなっていたんです。今、リーさんが検査をしてくださっています
単なるエネルギー切れのようですね。現時点では他の故障は見当たりません
もちろん詳細は、もっと精密な検査をしてみないとわかりませんが
指揮官、指揮官!
カムイの大きな声が、休憩室のドア越しにもはっきりと聞こえた
指揮官、皆まだここにいたのかよ?
全員待ってるんだよ、俺はじっとしてられなくてこっそり探しにきたんだけど!
もう時間なのですか?
とっくにすぎてるって!
慌てて時刻を確認すると、もうすでに日付が変わっていた
大丈夫、まだ挽回できる
カムイは爽やかな笑顔を浮かべて、ぐっと親指を立ててみせた
正月ってのは東洋暦の祝日なんだから、時間だって東洋の時間帯で計算しないといけないだろ?
その方法で計算したらさ、日が変わるまでにまだ少し時間がある!
……って、隊長がそう言ってたんだ
走れば今からでも絶対間に合うって!
言い終えると、カムイはすでに走る体勢だ
指揮官、私たちも早く行きましょう
振り向き、停止しているコトラを抱えて、皆の後を追った
カムイの後について指定の場所までやってきた。元はスタイリッシュなスタイルのレストランだったが、すっかり様相が違っていた
床全体に赤い絨毯が敷かれ、赤い提灯が天井に吊るされている。そして、真っ赤な布が一面に張られ、中心には赤い飾り結びが施してあった
そして、ここに集まっているのは皆、懐かしい顔ぶれだった
おい、サンシチ、何で提灯を叩いてるんだよ?
21号、「飛んで火に入る夏の虫」という言葉を学んだ。21号、実践中
この提灯、火じゃなくて電気だろ
そう、あなたも雪原で生活したことが?
ええ、極地とは比べるべくもありませんが、あそこの雪景色もなかなかの絶景でした
ってか、まだ来ないのかよ?もう帰るッ!
そう言って一番に来たのは君じゃん……あぁ……眠い……
きっと何か用でもあるんでしょ、すぐに来るわよ
どうして俺までなんだ……
アシモフさんが実験室で過労死しないようにするためです
まったく、ようやくおでまし?これだけの面子を待たせるなんて、ずいぶん偉くなったものね
それは新型の補機だな?ちょっと見せろ
アシモフさん、当然のように仕事モードに入らないでください!
指揮官、ようこそいらっしゃいました
同時刻、地球で――
ナナミハ、ソコデ、ナニシテル?
空に向かって手を振る少女が何も返事をしなかったので、ロハちゃんはすぐ側の巨大なクマ型バイオニックを小突いた
マカ、セタ
わかった
ふぅ……
ナ!ナミ!ガ――ァ!
わ!!!
なんだ、マーチンか、クマかと思っちゃったよ
いや、クマで合ってるけど……
ナナミ、ボウットシテル、何カキニナルノ?
別に、ナナミはただ空の上のお友達にあいさつしただけ
空ノウエノ、トモダチ?
グレイレイヴン、ノコト?
それだけじゃなくて、たくさんのお友達だよ!
なぜ上に行かないんだ?行けば、直接プレゼントを渡せたのに
ロハちゃんとマーチンがいるんだもん、ナナミはどっちも見捨てないよ!
ナナミはねぇ、全部欲しいの!
そうだ、ナナミが欲しいもの、見つかった?
ああ、見つかったぞ、これはどうだ?
いいね!
ナナミは人の背丈ほどもある赤いロール紙を何本も受け取った。彼女はロール紙を抱えて、すぐ側で作業し始めた
ここはこうして、そしてこうやって、それからガタンゴトン……
ロハちゃんとマーチンは目を合わせ、同時に後ろに下がった
最後はヒラヒラして、完成!
ロハちゃん、マーチン、早くナナミのを見て……あれ、どうしてそんなに遠くにいるの?
キケン、ダカラ
今度は何が起きるんだ?
へっへーん、ナナミが作った超!爆竹でーす!……って、ちょっと、なんでそんな遠くに隠れるの!
ドウシテ、爆竹ヲ……
え、だって、今日は年越しカウントダウンだよ。爆竹は欠かせないじゃん
でも材料が足りないからさ、1個しか作れなかった
おいおい、そんなに大きく作らなきゃいいじゃないか!
マーチンはナナミの側にある「爆竹」を指して言った
それはナナミの身長の1.5倍ほどの高さの円柱型で、直径はマーチンふたり分よりも大きい。ナナミがどうやったのかはわからないが、巨大なのに泥の中にしっかり立っていた
そっか、マーチンにはまだわからないかぁ~
ナナミは尊大ぶって、やれやれと首を横に振りながら言った
大きく作らないと、アートじゃない
だいじょーぶ、ナナミ、ちゃんと計算したから、危険はないよ
じゃあ、マーチンが点火役ね!導火線が高すぎるから、ナナミじゃ届かない
う、嘘だろ……
文句を言いつつも、マーチンは隠れていた岩陰から出てきて、ナナミから点火器を受け取った
こうやって火をつければいいのか?
そう
さっ、走るよ!
?
マーチンが返事をする前に、ナナミは彼の爪を引っ掴むと、マーチンがついさっきまで隠れていた岩陰に向かって走り出した
危険なんじゃねぇか!
アハハハ!
岩の後ろにくると、ナナミは手で耳を覆い、じっと赤色の爆竹を見つめた
しかし、いくら待っても、耳をつんざくような爆音が鳴らない
コ、壊レタノカナ?
ふぅ……見つけた爆薬が、古かったのかもしれないな
うっ……
ナナミは俯いてしまった。夜なので、ロハちゃんとマーチンは彼女の顔が見えないが、きっと悲しんでいるのだろう
ナナミ……
「ヒュ~~~」
マーチンが次に言おうとした言葉は、遠くから聞こえる長く伸びたような音に遮られた
その音を聞いて、ナナミはパッと顔を上げた
「ドドォォン!」
優しい光が彼女の顔を照らした
アソコハ、保全エリア?
ロハちゃんが言い終えると同時に、別の遠い場所から、呼応するように別の花火が打ち上がった
「ボン!」
オレンジ色の花が夜空に咲いている
「ヒュ~~~」「ヒュ~~~」「ヒュ~~~」「ヒュ~~~」
「ボン!」「ボン!」「ボン!」「ボン!」
違う方向、違う距離、違う場所から、どんどんと花火が上がる
あるものはより明るく、あるものはより長く、あるものはより大きく、夜空に思い思いの新しい星座を作り上げていく
煌めく光がナナミに届き、彼女の目を明るく照らした
この瞬間の夜空は、宇宙よりも深く、銀河よりも輝き、白昼よりも明るかった
進む道を照らす光、冬の寒さを追い払う火、響く音は生命と希望への讃歌そのものだ
古代の人々が狼煙を使って伝達をしたように、この地に根を張る人々は、この特別な日を未来に平和を伝達する日として祝っている
すぎ去った夜に別れを告げ、新しい朝を迎える。それでも空が暗いのならば、それを照らすのは自分たちなのだと
誰にでもそんな信念があるからこそ、どんな挫折を味わっても前に進むことができるのだ
新年おめでとう……
ナナミ、なんか言ったか?うるさすぎて聞こえなかった。というか、何か燃えてる匂いがしないか?
後ロ、ダヨ
?!
3人が一斉に振り向くと、ナナミが作った爆竹の頂点に、オレンジ色の光が灯っているのが見えた
!!
「ドドォォォォン!」
その瞬間に、今夜、一番大きな衝撃とともに爆発が起こった。マーチンとロハちゃんに地面の振動が伝わってきた
マーチンは、周りの白い煙を爪でなんとか振り払ったあと、体中に真っ赤な紙切れがついていることに気づいた
もちろんロハちゃんとナナミも同じだ。ナナミはもっと酷かった。真っ赤な紙切れが髪の毛の間に入り込み、顔は煤だらけだった
その目だけが白く光り、キラキラと瞬いている
ゲホッゲホッ、ナナミ、大丈夫か?さっきは何て言ってた?
うん、大丈夫!ナナミは、さっきね、新……
違う違う、やーめたっと!ナナミ、マーチンとロハちゃんと年越しカウントダウンしよっと~
ナンデ、ソ、ソンナコトヲ?
年越しカウントダウンなんだよ!
一緒にやらなきゃ意味ないの!
だって、ここで一番適任なのは指揮官じゃない?
[player name]の言う通りですね、ぜひそうしましょう
3
2
1
新年おめでとう!
今年もよろしくお願いします