Story Reader / 祝日シナリオ / 新年の寿ぎ / Story
何も見えない、聞こえない、匂いもない、味もしない、感覚もない。しかし、思いだけは無限の彼方へと広がっていく
まるで自分は広大な宇宙にぽつんと漂う1粒の塵のようだ。あるいは宇宙の全ての塵が自分なのかもしれない
目的もなく漂っていると、微かな光が現れた――
眩しい光に視線が覆われ、反射的に目を細めた。足下に、はっきりとした感触があった
高い場所から飛び降りた時のように、地面を踏んだ両足が着地の衝撃を受けて、少しよろめいた
その瞬間、誰かに腕を強くつかまれた
指揮官、大丈夫ですか……立てますか？
リーフが心配そうな声で話しかけてきた。腕が彼女によって支えられている。振り向くとルシアとリーが周囲を警戒しながら、こちらを見て状況を確認している
グレイレイヴンの他に、周りに行き交う人々がいた。カジュアルな格好をした人や全身ビシっとスーツに身を包んだ人、ゴムスーツのような奇妙な服を着ている人もいる
突然現れたグレイレイヴンを気にもしていないようだった。何人かは不思議そうに歩きながら視線を送ってきたが、反応はそれだけだ
建造物は、よく知る九龍の様式に似ているようだ
おそらく疑似空間ですね。でも都市の再現度が高いので、それに気づきにくい
もちろん、違和感があるところもありますが
リーに言われるまでもなく、それには気づいていた
何十億年も地球を見つめ続けてきた星に異変が起きていた
もともとの丸い形は楕円となり、底部から垂れた吊り紐のようなものがゆっくりと揺れている
正確にいえば、クラゲに似ていますね
空中にはコトラとまったく同じ機械がたくさん浮いていた
特売、特売です、お正月前の最後の特売ですよ！
発声装置から、さまざまな呼びかけが聞こえる
周りの人たちはこの異様な光景にまったく動じていない。彼らにとっては、これが日常なのかもしれない
すみません、ちょっとどいてもらえますか？
あ、はい……え？
どうしました？
ご……ごめんなさい、ちょっと驚いただけです
？
バイオニックは戸惑った顔をして去っていった
よく見ると、数は少ないが、人混みには構造体とその他の機械体が紛れ込んでいる
新年遺跡クエストの探索さ、進み具合はどう？
もう、訊かないで……毎回ボッコボコ。敵が固すぎなんだよね
今夜は一緒にくる？ふたりが組んだら無敵だよ
もう平和な生活を送りたいから、それはまた次の機会に
今晩、必要な食材はもう準備したの？
全部ここに準備してあります。里親のもとへ行った子供たちが、今夜戻ってくると聞きましたので……もっと準備しておいた方がいいでしょうか？
確かにそうね、アモのところで果物を買ってきてちょうだい
見ていってください、見逃したら損ですよ
見るだけでもかまいません。よかったらチップをお願いします
今日は、兄弟ふたりで胸で石を割る芸をやります
biubiubiubiu！
dadadada！
biu！
da！
ご主人は絶対に許しませんから、諦めなさい
biu……
da……
ハハハ、よいよい、新年はにぎやかにすごすもんだ
まさかこんな光景が見られるとは思いもしませんでした……
確かに、いかにもナナミ風ですね
グレイレイヴン……ジャナイ……カ？
えっ、他にも私たちと一緒にこの疑似空間に入った誰かがいるのですか？
いえ、この声は……
君タチ……ココデ……何ヲシテイルン……ダ？
ナンデ……ソンナニ……オドロクノ？
ヒ……ヒドイ！
私ハ……君ノ隣ニ……住ム……アーティスト……ダヨ
君タチノ……タメニ絵ヲ……描イタ……ヨ
ソウダ……コレハ……君タチノ……ダネ？
スプレーマシンから虎の頭の形をした機械を渡された
コトラちゃんですね。まさかここにまで入ってきたとは
ニャガオ～
モウ……ナク……サナイデアゲテヨ……
ジャ……年賀ノ絵ノ具ヲカイニイカナキャ……モウイクヨ……
スプレーマシンからコトラを受け取ると、相手はすぐに立ち去った
戦闘と脅威がないだけじゃなく、敵だった存在が隣人になっているんですね
これがナナミが私たちに見せたいものなんでしょうか？
あるいは、これは彼女の……
願い……？
リーフは目を閉じて、創造者の真意をじっくり感じ取ろうとしているようだった
しばらくして彼女は目を開いた。馴染みのない環境に入った時の緊張が和らいできたようで、その口調にはある種の期待が込められていた
ここの疑似空間は広そうですね。これからどこに行けばいいのでしょうか？
スプレーマシンが私たちの隣に住んでいると言っていましたから、私たちはここに家があるようです
まずナナミが用意した拠点に行きましょう
ルシアの意見に賛成です。ナナミはヒントがあると言っていました
スプレーマシンが話した内容が、ヒントのひとつのはずです
後ろを見てください
いえ、その必要はありません
リーがこちらの後ろを指さしてきた
後ろに、アニメ等の映像作品にはお馴染みの、鉄骨にまったく似つかわしくない木製の標識があった
その上にはアニメ調の矢印が描かれている
この標識はつい先ほど指揮官の後ろに現れました。たぶんナナミが残したヒントのひとつですね
ニャガオ～
