グルグル……ニャア……
よしよし、もう怖がらないでいいですからね
ルシアとリーさんに悪気はなかったんですよ。手を出したのは警戒しただけなんです
でももう大丈夫ですから、早く出ておいで
機械に食事をあげる必要がありますか?
ごめんなさい、ちょっと興奮してしまって
時間を数分前に戻す――
虎型ロボットが淡い青い光を放って、こちらに襲いかかってきた時――それを阻止しようとルシアが反撃した
鴉羽機体の強く特殊な力で、ルシアは一瞬で虎型ロボットの後ろに立つと、刃物状の「耳」を避け、高く挙げた右手でロボットが噴射する光を抑え込んだ
ガオニャ!?
背後の脅威を感じた虎型ロボットはすぐに飛行高度を下げて、かろうじてルシアの攻撃を回避した
しかし、リーが準備しておいた罠に突っ込んでしまい、青色の戦闘用外套に完全に包み込まれてしまった
虎型ロボットを傷つけないように、リーは力に物をいわせず対処したのだ。くるまれた虎型ロボットは戦闘用外套の中でジタバタして、出口を探していた
突発口が見つからなかったためか、ついに2本の刃を再び突き出した
特殊素材で作られた構造体専用の戦闘用外套が瞬時に引き裂かれた。再び自由を得た虎型ロボットは、逃げるようにして椅子の下に潜っていった
ガガオニャ……!
震えているような威嚇の声が響いてくる
そんな虎型ロボットを見て、リーとルシアは動きを止めた
指揮官を襲うつもりはなかったのかもしれませんね
猫科の動物は親しい人を見ると飛びつく習性を持っています。もしかして、そのせいで指揮官に飛びかかったのかもしれません
敵意がなかろうと、あんな速度でぶつかられたら、指揮官がスターオブライフのベッドで一晩をすごすことになりかねませんよ
ニャガオガオ!
リーとルシアがまだ近くにいるのを警戒してか、虎型ロボットは震える声で威嚇し続けている
そして、椅子の奥へと進み、影に潜んでしまった
どうすればいいのでしょう?
時間を現在に戻す――
ニャ……ガオ……
リーフの説得で完全には警戒は緩まなかったらしい。先ほどのように、いつでも逃げられる態勢に構えてはいないものの、なおも椅子の影から出てこようとはしない
強い子ですね、こっちに出ておいで
ニャ……ニャガオッ!
説得がそこまで効かなかったのを見て、リーフはゆっくりと体を起こし、少し悲しそうな表情を見せた
ごめんなさい、私ではこの子を説得できませんでした
そうですね、指揮官、頑張ってください!
ゆっくりとしゃがんで、視線を同じ高さに合わせてみる
ニャ……ガオ?
虎型ロボットも少し身を前に出して、新たに現れた者が誰なのかを確認しようとしていた
指揮官、説得をお願いします。くれぐれも優しく……
虎型ロボットを驚かさないようにと、リーフは声を低くして提案してきた
すごい、お上手です!
えっ、こんな感じで虎が懐くのですか……?
虎型ロボットはしばらくためらっていたが、やがてゆっくりと椅子の下から出てきた
ニャニャニャガオッ!
すぐ後ろにいるルシアとリーに気づき、再び鋭い声を発した
だが、ふたりが動く様子がないのを見て、逃げようとしていた「足」を止めた
ニャガオ……?
虎型ロボットはこちらに近づきながら、振り向いてルシアとリーの動きをちらちらと確認した。いつでも逃げられるよう準備しているのだろう
ようやく安全な距離がとれたと感じたのか、一気に地を蹴ってこちらの懐に飛び込んできた
ニャニャア~~グルグル~~
虎型ロボットは鳴きながら親しげに頭をすり寄せてきた。背面の噴射エンジンが起動していなかったのは幸運だった
よかった……この子、すごく指揮官に馴染んでいますね
でも、ナナミはなぜこの子を送ってきたんでしょう?
荷物をチェックしましたが、メッセージ等はありません
虎型ロボットをひょいと抱き上げて隅々までチェックしてみた。おとなしく、されるがままになっている
ニャガオ~ニャガオ~
ご機嫌だね、気持ちいいの?
その赤い瞳と目が合ったと思った瞬間――
ピ――虹彩認証完了っと……それからなんだったっけ?まいっか、面倒臭いし!
グレイレイヴン指揮官[player name]確認
赤い光が瞳をスキャンすると、同時にナナミの声がロボットから聞こえてきた
指揮官、ひっさしっぶりぃ~~!
ナナミのホログラフィが空中に現れた
ビックリでしょー、このプレゼント!科学理事会からじゃなくて、実はナナミからだったんだよ~ん!
しかし目の前の映像はリアルタイムの通信ではなく、録画したもののようだ
ナナミはこちらの微妙な表情に反応することなく、立て板に水で話し続けた
ナナミの全身全霊を注いだ傑作を紹介します!ジャジャーン、コトラちゃんだよ!
ニャガオ!
いいね、元気いっぱい!
指揮官もとっくにお気づきですね?そうっ、コトラちゃんは補機的な同行ユニットなのですっ!
でも今のコトラちゃんはまだ変形することができないの。だから戦ったりは無理無理ぃ~
また機会があったら、ナナミがもっとすごい「超!コトラちゃん!」を送ってあげるね!
もちろん、ナナミ渾身の作品だから、コトラちゃんはただの猫じゃありません
コトラちゃんの頭の中に、なんとまだ!もうひとつ!ナナミからのプレゼントが入ってま~す。ナナミがみんなにシェアしようと思った、いいものがたっぷり入ってるの
でもね、個人的な楽……ウェッホン、指揮官のことを想って、大切に思ってるからこそ、祝日と関係した仕かけをいくつかセットしといたんだぁ~
もちろんヒントもご用意ッ!指揮官、早くみんなと一緒に見てね!
映像はここで突然終わり、ナナミの姿は宙に消えた
バタバタと始まりバタバタと終わる。その映像はいつものナナミそのものだ
ナナミはもうひとつ、プレゼントを用意してくれているのですね。きちんとお返しをしないといけませんね
直接お返しを渡せば、それで貸し借りなしにできますから
ナナミは居場所が定まっていないんです。彼女を見つけるのには相当時間がかかりますよ
ナナミはコトラちゃんの頭の中にもうひとつのプレゼントがあると言ってましたね。では、コトラちゃんを解体しないといけないんでしょうか?
ニャガオ?
確かに
強引なことはやめましょう。他の方法があるはずです
その時突然、端末から認証を求められた。ルシアたち3人が一瞬固まった
意識海への接続要請です
あれ?私もです
同じく
これが正しい開封方法かな
皆で一緒にプレゼントを開けるんですね
どうしますか、接続しますか?
23時までにまだ時間があることを改めて確認して――
はい!
この時、グレイレイヴンの休憩室は静まり返り、規則正しい呼吸音だけが聞こえていた
机の上に置かれたコトラが軽く揺れて、ナナミの投影が再び現れた
彼女はまず静かに椅子に寄りかかるルシアたち3人を見た
しーっ~~ぐっすり眠っています~~……
最後に、彼女はその場にいる唯一の人間を見た
ナナミは優しく人間の頭に手を置いた。デジタルで形成された手は人間の頭を通り抜けていく――
――そこには何もない
しかしナナミはなで続けた。ここにいるのは光で形成された幻像ではなく、彼女の本当の体であるかのように
指揮官、必ずナナミを見つけるまで頑張ってね
約束だよ……!
話し終えると、少女の映像は再び宙に消えた