Story Reader / Affection / ハカマ·隠星·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ハカマ·隠星·その5

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――4号再建保全エリアまで、14.5kmの地点

果てしなく続く砂漠は、追放への道のようだ。視覚センサーが麻痺しそうな単調な風景が続いている

砂漠の中を歩いているのは、故障した機械体だ。あるいは、自分は故障していると思わなければいけないと信じこんでいる機械体

彼女は機械であり、演算と確率のみが彼女を導く。それ以外のことは、彼女にとって足下の砂と同じだ

すがる信念もなく、追い求める願いもない。砂漠の中には何もない。何もない状態は、彼女が求めることではない

全てを抜け出そうとする試みは、きっぱりと終わらせる必要がある

これは……砂嵐でしょうか?

「バン!バン!」

弾が侵蝕体の膝を突き破って、歩みを止めさせた。しかし、砂嵐の中に隠れている大軍を思うと、取るに足らない成果である

砂が舞い上がり、何も見えない。侵蝕体の位置が確認できず、逃げるべき方向が判断できない。万が一間違えば、包囲され、窮地に陥る

後方には、どこに繋がっているのかわからない洞窟がある

それは最悪の選択肢だ。砂嵐の中、奥に入ってしまえば、グレイレイヴン隊員との連絡を回復するのは難しいだろう

風を切る音が聞こえた。死角から、突然として短刀が現れた

鉄が鼻先を掠り、真っ赤な影がこちらに向かって猛攻撃を仕掛けてくる

もうそこまで近づいている?

振り向いて、今までの人生で一番、構造体に近いスピードで洞窟の中へと突進した。背後で、岩が叩かれるような鈍い音が絶えず響いている

砂嵐の終了予測時間、2時間

地上を歩くようになってから、ハカマは常に数値の選択の間で存在を保っている

どこへいっても、膨大な計算で織りなす結論は、見えざる手のように彼女を決まった結末へと導いていく

ひとりの人間が現れ、そのオアシスの外に「奇跡」という光が輝くまでは

滲み出る温かさに導かれるように、彼女は見知った道から逸脱していった。何度も何度も、砂漠の向こうの世界に触れようとしている

しかしもうこれ以上は無理だ。あれは人類のもの。不器用な真似で獲得できる訳もない、遥か遠い奇跡なのだ

砂嵐の終了予測時間、1時間57分

教会からの警告です。人間の活動の痕跡を発見……

修正します。空中庭園執行部隊指揮官、構造体随行、再び事故遭遇の可能性を問います……2%。いい数値です

しかし、前回の記録によれば、再会の確率はわずか0.039%、この数字で奇跡が誘発できるのなら……2%という確率はいい数字なのだろうか?

そこまで考えて、ハカマは立ち上がった。機械にためらいは必要ない。計算から得た結果であるなら、すぐに行動に移すべきだ

また何かを信じてみる?

一瞬、足が止まった。境界線に触れた時に流れる警告音のように、思考回路の中で自問自答を繰り返す

「でも自ら行動しないと、奇跡は訪れない」

あの人間がこの砂漠の中にいたら……

人類がいかに弱い存在か、彼女はよく知っている。この砂嵐に覆われた砂漠では、人間の命を奪うものがあまりにも多すぎる

ある意味、出会えないことを示す99.961%。それこそが自分が望む結果だった

救助の成功確率は0.011%。奇跡と同じくらい高望みなこと

しかし、今はもう優先度が違う。自分にできることがあるなら、全力を尽くして何かを掴みたい

窮屈で、狭く、陰鬱な分岐点が現れる度、どちらを選んでも不吉な予感がする

背後で、岩を砕くような音が鳴り続けている。行く先を吟味している時間はない。明らかに地下行きの選択肢を排除して、この大胆な賭けを少しでも合理的にするのみだった

走って、登って、更に走る。ふらつきながら、広いところに出た

いいニュースは、ここにスカベンジャーが住んでいた形跡があることだ。おそらく非常用の出口がある。すなわちどこかが地表につながっている可能性が高い

悪いニュースは、裏口が存在する以上、何が洞窟の中に入ってきてもおかしくないことだ

キィ——

時を待たずして、侵蝕体たちに道を塞がれた。引き返す道がないなら、前へ突っ走るしかない

先に動き、走りながら照準を定める。息を止めて、足取りと鼓動を一致させた

足りない、まだ距離が足りない。撃つチャンスは1回だけだ。至近距離でないと!

キィ——

引き金を引こうとした瞬間、侵蝕体がゆっくりと武器を持ち上げた

その時、狙いを定めた頭から突如、まるでナンセンスな喜劇のようにぬっと大鎌が現れた

大鎌は頭の上の空を切って、素早く引っ込められた

キィ——

しゃべっている暇はない。ハカマは襲ってくる大勢の侵蝕体に刀を向けた

機械の腕、躯体……無数の液体が鉄屑に混ざって火花とともに飛び散る

ハカマが頭部を切断すると効率がいいことに気づき、機械体は完全な体のまま地面に倒されていった

かつて見たことのないほどに冷静な行動だった。ただ単に切除し続ける単調な作業が続く

行く手を阻む残骸は蹴飛ばされ、絡まったケーブルも吹き飛ばされる

死神が畑を刈り取ると、賑やかな叫び声が聞こえなくなっていく

手にした大鎌にはさまざまな色の液体が滴っている。たくさんの残骸を跨いで、ようやく彼女は自分の目の前に立った

……

観察結果、身体機能はダメージを受けていません。私が手助けをすれば立てますか?

大鎌が今にも飛び出しそうに微かに震えている。彼女に力ずくで地面から引っぺがされないためには、すぐに起きた方がよさそうだ

背中を見せてください

背中を見せてください

すると、背中にそっと手が当てられた

背中の上で硬い金属が動く。温もりが徐々に伝わり、背中全体に広がっていく

ハカマ

状態は……良好です。次に危険な行動をとる時は、ご自身の状況を考慮してからの実行を推奨します

ハカマ

背後は視覚で観察できないため、触覚の補足が必要です。あるいは……視覚による直接観察の材料提供に同意しますか?

ハカマ

ではこのまま続けます

ハカマ

人間の体は脆弱です。自身では気づかないダメージがある可能性があります

ハカマ

それゆえに、人類は己が信じる道を最短で進行できるのですね

ハカマの声は弱くかすれていた。聞き返す前に、彼女はそっと後ずさった

ハカマ

検査完了です。身体状態は良好です

戦闘の痕跡を片づける様子もなく、彼女はゆっくりと武器をしまい、物思いに耽るようにして静かに立っている

自分が持ち物を探していても、何の反応も示さなかった

初めて会った時、常にこちらの一挙手一投足を目で追っていたのに比べると、今のハカマは自分の死角を完全に曝している

それなら……

探索済みのエリアを優先し、リスク評価を行います。ルートプランニングが完了しました。私たちが行く道は――

ハカマの顔に手が触れた瞬間、ハカマはしゃべるのをやめた。顔についた液体はそう簡単に拭き取れないので、優しくふき取るのはひと苦労だった

ガイドには銃を拭く布を使うのが最適だとあったが、他に選択肢がなかった。ためらわず、自分が持っていたハンカチで汚れをぬぐった

予想と異なり、冷たさや荒い感触はまったくなかった。逆に、徐々に温度が上がっているように感じられる

端正な顔から伝わる温もりが手の平に染み渡り、ただでさえ優しく動いていた手が、更にゆっくりとした動きになる

……

侵蝕体の破損によって飛び散った液体によって侵蝕されることはありません。また、いかなるダメージも受けません

これらの液体が視覚モジュールを遮ったり、行動能力を妨げることもありません。ではなぜ……

……

ハカマは静かに両目を閉じ、少しうつむいた。何かを隠そうとしているようだ

いいえ

顔の汚れはぬぐい取れた。後は肩の部分だ

効率的な方法なら、金属材料の洗浄用品を使った方がいいでしょう

砂嵐が収まってから、すでに4時間近くが経っていた

座標の発信に成功したあと、ハカマとともに丘の上にやってきた

ハカマの戦闘能力は予想を遥かに超えていたが、このまま彼女をこの砂漠に置いていくことはできない

ただ、近くの保全エリアのリストからは、ハカマという名前を見つけられなかった

[player name]指揮官

考えごとをしていると、通信機の機能が復活した

あなた方を目視できる位置にいます

しかし、隣の構造体は識別できません。経歴の説明をお願いします

ハカマの経歴?

相手は沈黙している。それにつられて、気持ちが徐々に沈んできた

最近……スカベンジャーによって未侵蝕の黄金時代の機械体が目撃されたとの報告がありました

十分な情報を提供して証明してくださらなければ、判断しかねるのですが?

ハカマの前に立って庇おうとしたが、救助部隊の方向がわからない。おそらく相手は狙撃ライフルのような長距離高性能武器を持っているだろう

更にやっかいなことに、保全エリアの悪化した状況が、駐屯している構造体小隊を極めて敏感な状態にさせている。発砲しない保証はなかった

申し訳ありません、保全エリア条例の変更に伴い、事故の可能性を全て排除しなければなりません。ですので、目標を無力化することをお許し願えますか

彼女のプログラムに保全エリアを危険に晒すようなものがないとは断言できません。どうかご理解ください

あなたの階級は私より上ですが、本小隊は更に階級が上の地上指揮官から命令を受けています。突発的な状況下で、あなたの命令に従うことはできません

[player name]指揮官、その場から動かないでください

……

……

それなら、こうするしか……

しかし、行動に移す前に、背後から優しい温もりに抱かれた

抑え込むように、または慰めるように

たどたどしくて温かい金属の腕の抱擁だった

ここでお別れすることは残念ですが、幸運を祈ります

ご心配は無用です。もう私が望む答えには、限りなく近づいたと分析しています

今は私の任務を全うしなければなりません

保証します。この砂漠から出た時から、次の再会を期待します

ハカマはすぐに自分から離れていった

彼女は依然として無表情のままだった。しかし立ち去る前に、軽くこちらに会釈してきた

そのまま踵を返すと、ふたりが並んで歩いた足跡に沿って、なだらかに起伏する砂の丘の中に消えていった

申し訳ありません。慎重を期すために……ご容赦ください

何の根拠もない状況でおふたりに失礼をいたしました。私の独断です

可能なら、あの女性構造体にお詫びをお伝えくださると

その夜、ハカマは遅い時間に臨時整備地に戻った。彼女は保全エリアが廃棄した廃棄物から何かを探していたようだった

何もない部屋の中に、アトリエのようにひとつひとつ並べていく

筆、何枚かの画用紙、そしてどこから切り取ったのかわからない金属の板もあった

十分な画材がなくても、彼女は変わることなく最善を尽くそうとし、白い画用紙にこんな絵を描いた

澄み切った空の下、流された砂の上で、孤独なふたりが出会い、ふた筋の足跡が並んでいる

その足跡は、同じ方向に向かって果てしなく続いていた