Story Reader / Affection / ロラン·戯炎·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ロラン·戯炎·その2

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電子音

ピッ、ピッ、ピピピ——

発した救援信号にこうも早く返信が来ると思わなかった。すぐに通信設備の側へと駆け寄る

緑色の指示灯が暗闇の中で点滅している。機械の中から規則正しくメリハリのある電子音が聞こえてきた――誰かが自分の救援信号に、即座に返信したのだ

なぜ相手が直接話をしようとしないのかわからないが、まずは電子音の周波数に集中し、メッセージを解読した

この刑務所のどこかに自分と同じ状況の者がいる。相手は誰なのか、身分さえもわからない。霧に覆われた海上で進路を見つけた小船のように、藁をも掴む思いだった

しかし電子音の順序や内容には規則性がまったくなかった。頭の中のいくつかの暗号解読法を当てはめたあと、しばらく混乱に陥った

モールス信号かポリュビオスの暗号かと思ったが、どの方法を当てはめても、はっきり解読できなかった。そして、不思議なことになんともいえない懐かしさが残る

電子音はなおも繰り返し流れて、静かな部屋の中に鳴り響いている。考えながら、指先が無意識にトントンと机を軽く叩いた

机を叩く音と電子音のビッビッという音が絡み合い、指先が、思わず電子音のリズムに呼応するように机を打った。まるで楽曲のビートのように

待てよ……ビート?

もし自分が叩いていたのがビートとリズムだとしたら、電子音の方は――

薄暗い中でぽっと灯りが点けられたかのように、記憶の片隅で突然、閃いた

――黄金時代の映画『Fort/da』のメインテーマのメロディだ

主人公が無実の罪で投獄される映画だ。主人公が刑務作業中に糸巻の並び順がおかしいことに気づき、見知らぬ囚人からのメッセージを読み解いて、協力して脱獄に成功する話だ

映画の中のふたりは、それぞれ別の監房に収監され、作業時間も異なっていたために、ありとあらゆる間接的な手段で連絡を取り合っていた

このメロディはふたりが初めて「対面」した場面で流れたものだ。彼らは1カ月かけて時間と場所を決め、誰にも知られずに5分間の交流時間を持った。それが脱獄計画の始まりだ

さて、相手はこの音楽を通して、どんなメッセージをこちらに伝えようとしているのだろう?

しばらく考えたあと、「場所」に手がかりを探すことにした。このメロディが流れたシーンは、物語の中でも重要な場所だったはずだ

相手がこちらに伝えたいのはこの情報なのだろうか?

疑念を抱きながら、再び端末に手を置き、古い記憶をたどりながら、メッセージを送ろうとした

――救援要請ではなく、そのメロディに続く次の小節を送ってみる

3回繰り返して送ったあと、機械から聞こえてくる電子音が突然止まった

沈黙は10秒も続かなかった。再び電子音が鳴り響いた

3回短く、3回長く、3回短く

今度はようやく相手が伝えようとした意味をはっきりと理解した

自分と同じく閉じ込められているのだ。何らかの理由で音声メッセージを送ることができず、移動もできないのかもしれない。だから自身の居場所を伝えているのだろう

だがこれはあくまでも推測だ。更にいえば罠かもしれない。しかし現時点で得られた数少ない情報で、行動を起こすには十分だ

だが、まだ腑に落ちない疑問がひとつ残っている。なぜ相手はこんなまわりくどい方法で自分の居場所を示すのだろうか?

しかしここに留まっていては何の答えも得られない。今できることは、目の前にあるこのチャンスを掴むことだけなのだ

地図でランドリーの位置を確認した。この古い刑務所にはランドリーがひとつしかない。ちょうど2つの建物が連結する場所にある

任務を開始する前に繰り返し確認した侵蝕体の分布図と、目の前の平面図とを重ね合わせて、最も安全な進行ルートを練った

今いる場所は侵蝕度が比較的低いA区、そしてランドリーは侵蝕度が高めのB区にある。地図上では、A区の看守室がちょうどランドリーの隣にある

信号はここから発信されたのだろう

事態の発展は、ロランの予想をはるかに超えたといわざるをえない

発信したメッセージから自分の意図が解読され、そして相手も同じ形で返信をしてきた。予想外の展開にロランは一瞬戸惑った

少なくとも、遊び心からあのメロディを打った時、彼はこんな事態になるとは思っていなかった。反応すら期待していなかったのだから

彼はただ冷静に、救援を求めている者が、訳のわからない暗号を聞いたら、どんな風に混乱し、どんな行動を取るのかに興味津々だっただけなのだ

まさか混乱しているのが自分の方になるとは

「目標地点に向かいます」

このメッセージを残して以降、相手は何も発信してこない。どうやらすでに発信地点を離れたようだ

……こちらに向かっているのか?それとも無視して、そのままここを離れていくのか?

いたるところに危険が潜む刑務所の廃墟で、正体不明な存在からの救援信号に応える者など、いるのだろうか?

ロラン

……

そんなこと、ある訳がない

疑問が生じた瞬間に、ロランはその回答を得ていた

そんな者は存在しない

しかし……その後に通信から聞こえた電子音は、一瞬ロランに更なる驚きの感情を与えるものだった

彼がこんな感情を感じたのは久しくなかったことだ

ロラン

……期待しているのか?

彼は今、自分が期待している事象が何かも、これから起きる事態がどうなるのかもわからないでいる

彼はかつて何度も期待した。だが、結果はいつも絶望的なものだった

もはや彼にとって「期待」は残酷な罰であり、周囲に潜む悪意であり、頭上にぶら下げられたダモクレスの剣のようなものだった

――臆病な祈りなんかで我が身を救うことはできない。実体を伴った苦難のみが、自身を救うことができる

それが、彼が置かれているこの世界の現状だ

ロラン

はは、楽しみだな

……

……待ってみたら、何が起こるかな?