Story Reader / Affection / 八咫·徊閃·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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八咫·徊閃·その2

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輸送機が人工島に着陸すると、海風と花の香りが出迎えてくれた。祝賀会のスタッフに案内され、八咫とこの海沿いの通りの出発点まで歩いた

ここです。それでは、まず状況を説明させていただきます

彼は咳払いをして、プレゼンテーション用のタブレットを取り出した。まるで今から長ったらしい報告を始めるかのようだ

おふたりが事前に送ってくださった建材オーダーは受け取りました。ただ、私たちが収集した情報によると——

要点だけ頼むわ、手伝うのは何?

え、あの、人手が足りないので、では、おふたりはこの物資を……必要としている店に届けていただけませんか?

新しく舗装された道を2台の運搬用カートが進む。カートは停止と走行を繰り返し、時間の経過とともに積み上げられた荷物が減っていき、車輪の音が軽くなっていく

商人たちは荷物を受け取ると皆口々に感謝を述べ、喜びに溢れた笑顔を見せた。まぶしい陽の光がこの場所を明るく照らし、全てのものが生き生きと輝いている

活気に溢れる街道を、八咫は軽やかに進んでいく。こちらが追いつくのに苦労するほど、彼女は軽快な足取りだった

徐々にふたりの距離が開いていき、彼女の背中が小さく見えるようになってしまった

——ん、どうかした?

八咫ははるか前方でカートを押しながら、こちらの呼びかけを聞いてゆっくりと振り返った

柔らかな日差しに包み込まれて、彼女は喜びに輝いていた

こちらが懸命に追いかける姿を見て、八咫は即座に足を止めた。そして少し恥ずかしそうにポリポリと頭を掻きながら、再び隣に並んできた

……ごめん、ちょっと夢中になっちゃって

はい、これ

八咫はカートから桜ソーダを1本取り出し、こちらに差し出した

というより……驚いてる

この間ここに戻った時はガランとして何もなくて、荒野みたいだった

再び並んで坂道を歩きながら、八咫は視線で自分を促し、遠くを指し示した——

見渡す限り至るところで貨物を運ぶトラックや輸送車が行き交い、人々がテントや建物の間を行き来している。そこは溢れんばかりの活気に満ちていた

荒地に立つ都市の廃墟が今、陽光を浴びながら、長らく離れ離れになっていた住人たちとの再会を果たしているのだ

最後にこんなに賑やかだったのは……

海風が銀色の髪を揺らす。彼女は遠くを見つめたまま、言葉を詰まらせた

あちこち瓦礫の山なのに……なんだか言いようのない活気を感じるんだ。ほんと、不思議

……うん

八咫はこちらを見つめ、何かを思い出した様子で、少し微笑んだ

今の言葉って、まさに伝説のグレイレイヴン指揮官のセリフって感じ

でも私が聞いた話だとその後にもうワンフレーズ……ちょっと真似すると——

ゴホン——しかし、まだ多くの人々の故郷が解放を待っている。それこそが、我々が戦い続ける理由なのだ

あ、これは仲間から聞いたただの噂だって。そんなコワイ目で見なくても——

おふたりさん——このカートに積んでいるのは新しく届いた物資かい?

もちろんしてますよ、申請しました。リストに載ってる森田ってのが私です

店主が電子サインをすると、構造体の機械のアームがカートの最後の重い荷物を持ち上げ、安定した動作で屋台の脇に置いた

アームが元に戻ると同時に、興味津々にこちらを見つめる店主と八咫の目が合った

……?

あの、こちらの構造体のお嬢さん、もしかしてどこかで会ったことが……

もしかして、御園学院の風紀委員!確か八……八重って子じゃないか?

違う、名前は八咫だよ。アンタは?

八咫は目の前の老人を不思議そうに見つめた

そうだ!購買部の森田のおっちゃんだよ。毎週水曜日、君に冷凍鯛焼きの取り置きを頼まれてた、覚えてるかい?

——あっ!思い出した!森田のおっちゃん!

今や森田のお爺さんになっちまったけどな、ははは!

好き好き、空中庭園にすっごく美味しい隠れ名店があってさ。今度連れてくよ!

はは、和気あいあいだな。八咫、この指揮官さんはお友達かい?

そう、大切なね

そりゃいい。指揮官さん知ってるかい?八咫はね、本当に友達思いな子なんだ

昔、購買部の商品が盗まれたことがあってね。八咫が見張りを手伝ってくれた。私がうとうとしてると、八咫が突然竹刀を構えてバッと飛び出して——

そのまま八咫はコソ泥をグラウンドまで追いかけてった。陸上部のエースだったから、走りじゃ誰にも負けない。あっという間に犯人を捕まえて戻ってきたよ

ちょっとおっちゃん!それは、風紀委員の通常タスクだって。わざわざ話すようなことじゃない——

まだ話は終わってないぞ。そのコソ泥、よっぽど悔しかったのか校外のチンピラを呼んでお礼参りを企んだ——

そいつら、学院の外で待ち伏せして逆に全員叩きのめされて、二度と学院に近寄らないとキッチリ約束させられた。コソ泥にも処分が下って、全校生徒の前で八咫に謝罪したのさ!

コホン……昔の話じゃん、今更さあ

ははは、何も変わらないな。自信満々であの頃のままだ

ゴホ、ゴホンゴホン……すまんすまん、持病が出たようだ。昔話はこれくらいにしておこう。君たち、まだやることがあるんだろ?

さぁ、行って行って、こんな老いぼれの暇潰しにつき合ってる時間はないだろうから

じゃ、遠慮なく。私たちがいるから、祝賀会はバッチリだよ

八咫、指揮官さんと仲良く楽しんでおいでー!

物資の配達が終わり、ふたりは祝賀会通りの終点までやってきた。スタッフはカートを回収し、次の任務を改めて確認している

今のところ特に急ぎの用はありませんので、おふたりは自由に行動していただいて結構です。必要があれば、端末で連絡しますね

そう言うと、スタッフは同僚に呼ばれて立ち去った。八咫は静けさを取り戻した場所で顔を上げ、空を見上げている

澄んだ青空に細い雲がかかり、その隙間からひと筋の日差しが下りてくる。八咫の少し上を向いた頬に明るい光が当たり、鼻筋を滑って、美しいシルエットを描き出していた

これからの予定は、グレイレイヴン指揮官?

じゃあ、一緒に学院まで行かない?ここからそんなに遠くないし、歩いて行けるから

学院には……まだ色々残ってる。それが祝賀会に使えるはず

離れずについてきて、今回はちゃんとゆっくり歩く

学院に向かう道中、八咫は自分よりもよそ者のような空気を醸し出していた。時折あちこちを見回し、街並みを眺めながら懐かしい痕跡を探している

彼女は歩きながら手を伸ばし、塗り直された壁に触れ、細い跡を残した

指が粗い壁を擦るザラザラという音が、今のふたりの間に流れるBGMとなっていた

ここは昔、商店街ですごく賑やかだった

服、食べ物、雑貨……ここをぐるっと一周すれば、欲しいものは大体揃った

ほら、この店は昔、スポーツ用品店だったの。部活の仲間たち、ショーウィンドウの前を通る度に足を止めてたっけ

そう、当時はこの通りがランニングコースで、ここがスタート地点だった

こう呼んでた——夢のスタートライン。この道を真っ直ぐ走れば、学院に着くから

八咫は足を止め、指についた埃を払うと、地面に残る白線を指差した

陸上部のスローガンがイケててさ。「友よ走れ!全ての悩みを置き去りに!」っての

ここがスタートライン。毎日、毎年、私たちはここから出発してた

八咫の言葉を聞いていると、運動服を着た学生たちが楽しそうに学校生活のあれこれを話しながら、通りすぎていく様子が目に浮かぶ

商店街を抜けて、御園橋を渡って、最後に校門へ——

その幻影の中に八咫もいる。友人と他愛のない雑談をしながら、皆、これからも続く煌めく青春に心を躍らせていた

でも、ある日……パニシングが

時が流れ、広い通りは色褪せた。八咫だけがぽつんと今、自分の前に立っている。彼女の影は夕陽に伸びて、廃墟の影に溶け込んでいた

どれだけ速く走っても、あれには負けちゃったな……

彼女の声は次第に弱くなり、最後には囁きのようになった

うん、でも……もうすぎたことだし

八咫の声が廃墟と化した通りに響き渡る。彼女は話しながら、足下のスタートラインを行ったり来たりした

彼女は複雑な表情をしていた。生き別れの悲しみに沈んでいるのか、それとも学生時代の楽しさを思い出しているのか、どちらなのかはわからない

突然終わりを迎えた青春を振り返れば、誰だって心に憂いが生じる

……え?

その言葉を聞いて、八咫は考え込むように、視線をこの道の先に向けた

……戦場で命がけの戦いをするなら、体力トレーニングは必須だもんね

……?

八咫が不思議そうに見つめる中、スタートラインに立った

え?何それ——

あ、ズルい!

陸上部じゃリードランナーやってたんだから――

こちらが勝手にスタートを切ったのを見た八咫の声から、先ほどまでの憂いが消え、いつもの活力が戻っている

[player name]ちゃん、ファイトー!遅れないようにねっ

広々とした通りにふたりの足音が重なって響く。気分が上がってきて、足取りにも弾みがついた

八咫の短い髪が動きに合わせて風になびき、スピードに引っ張られて次第に舞い上がる

強い風が頬をなで、心の重荷が風に吹き飛ばされていく。八咫が近付いてきて、手を上げてこちらの肩をぽんと叩いた

振り返ると、八咫が笑顔であごを軽く上げ、脇にある目立たない小道を指した

ショートカット、もっと速く行ける

普通の人は知らないんだ。スピード上げるよっ、ファイトー!

彼女が前を行き、角に差しかかると、自然とこちらを内側にして守ってくれた。1本の機械のアームが伸びてきて、称賛の意を示すように肩を軽く叩いてくる

いいスピードじゃん、[player name]ちゃん

この後、こっち

足下気をつけて!

視界の遠くでぼやけていた街並みが徐々に鮮明になってきた。八咫は余裕たっぷりに前を走りながら、時折振り返って自分の位置を確認している

——この自販機、まだあるんだ!昔はよくここで桜ソーダを買ってたんだよ

休憩する?私はいつでも止まれるけど

あとちょい。もうひとつ、別の近道を案内するよ

ほら、あれが学院の正門

でも、あっちには行かない

学生って、塀を乗り越えるのがデフォでしょ?