Story Reader / Affection / ドールベア·驚影·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ドールベア·驚影·その7

混沌とした闇が渦巻き、意識空間に存在するあらゆる造形を押し流し、ただ静謐な虚無だけが残された

その虚無の静けさの中で、朝露のように澄んだ気泡がいくつも漂い浮かび、幻想的な光景を描き出す。その向こうに、構造体の少女がひとり佇んでいた

……

ドールベアの睫毛が微かに震え、目を開けた

眼前に広がっていたのは、万華鏡のように幾重にも重なり合う透明な泡の群れ。表面は虹色に輝き、自然界では決して形作ることのできない水晶のようだった

音なきリズムに揺れ、回転する無数の泡の中に、旅の記憶の断片が静かに映し出されていた

風とともに駆けるピンクの長い髪、サンルーフの上で触れ合った小指、月夜の旋律に癒された安らかな寝顔、昼間の虹、雨の濡れた夕陽、海上桟橋を飾った波のヴェール……

楽しかった思い出は幸せへの架け橋にはならず、互いに回転して衝突し、拒絶を象徴する高い壁を築いた

……指揮官?私……目覚めたの?

乱れた記憶が、徐々に形を取り戻していく

……

(愛に溺れるくらいなら、むしろ「自分はシミュレーション意識」と思いこんだ方が楽……そこまでなんて……)

ドールベアの描く運命において、「愛」は受け入れられない変数であり、この堅固な砦を崩壊させうる唯一の狂気だった

愛は彼女を不完全にする。だから「愛を求める自分」なんて偽物のシミュレーション意識でなければならない、決して「本当の自分」であってはならなかったのだ

……もう安定した。彼女たちは、二度と現れないわ

こんなことは、今後もう二度と起きない

ドールベアの約束は、どんな時も信頼に値する

しかし今の自分はもう理解している。原因は「プログラム」ではなく、長い葛藤の果てに押し殺してきた心。抑え込んだ感情は、いずれ必ず決壊する

押し殺した沈黙はいつか堰を切って溢れ出す。自分だけの海へと流れ込む大河を見つけた時、初めて本当の解放が訪れるのだ

劇的な変革は必ず訪れる。たとえそれが、既存の秩序が打ち砕かれることを意味していても

それは、馴染んだ世界をもう一度定義し直すこと。安定を失った未来を受け入れること……

そんなの、何だって構わない。私は檻を出る

砦が崩れたその先の、新しい世界へ

――クリスティーナ

ドールベア

あの時も、今も、同じだった

プランク時間は宇宙進化の起点。プランク時間のスケールでは、人類にとって馴染み深い時空の概念はもはや古典的な定義を失い、そこが物理学的認識の絶対的な境界となる

境界の内は理解可能な世界だ。境界線の外側は理解できず、定義できず、触れることもできないのだった

そんなの、何だって構わない。私は檻を出る。クリスティーナはそう言った

そうしてドールベアは、檻を破った最初の「熊」になったのだ

私は……

あの時も、今も、同じだった

疑念や抵抗が生まれた瞬間、すでに扉は開かれ、誰にもその力を止めることはできない

心の秩序が何かによって揺さぶられたら、それこそが答えだ

(愛そのものが答えなんだ)

ピンク髪の構造体は少し不思議そうにしながらも、言われた通りに1歩下がった

指揮官は手にした武器を確認し、安定した動作で引き金を引いた。いくつかの気泡が破裂し、虹色の残光を散らしながら消えていく

光の粒子が星々やオーロラのように飛び散り、空中に軌道を描いた。その欠片が穿った傷口から、泡の壁に道が生まれた

それは、すでに大きく開かれた扉。斜めに差し込む光の道の先に、ドールベアが立っていた

その中へ進み、ドールベアの前に立つ

ドールベアを1歩退かせたお陰で、煌めく光の破片は彼女には当たらなかった

……

ドールベアは短い吐息のような笑みを漏らした

だが半歩の差で、幻彩の欠片がひとつだけ、指揮官が願った通りに彼女の頬に落ちた

柔らかな頬に口づけをした幻彩の星の光は、自らの手によって自由の橋へと姿を変えた

愛が人を壊すのではない。愛はただ、人がもともと不完全な存在だということを気付かせるだけ。だからこそ……

抱きしめたくなるのだ

腕の中で、少女の額がそっと自分の肩に寄りかかり、安堵の吐息のような笑みがこぼれた

まるで豪雨の夜に巣を失った雛鳥のように、世界の痛ましい喧噪の中で、彼女の声なき悲痛の叫びは今まで誰にも届かなかった

しかし、今は抱き止めてくれる人がいる

理性は何度もこの世界を火の中、水の中から救ってきた

けれど、この世には無数の命懸けの瞬間がある。執念のように、狂おしいほどに貫かれる想いがある。感情の奔流から生まれ、理性を越えて求めてしまう。そんな決断だ

人は理性だけでは計算し尽くせない。非合理なその一瞬のために、私たちは生涯を差し出してしまう生き物なのだ

あの子……何を訊いたの?クリスという、もうひとりの私

ドールベアはこちらの胸に飛び込んできた

腕の中で、少女の額がそっと自分の肩に寄りかかり、安堵の吐息のような笑みがこぼれた

まるで豪雨の夜に巣を失った雛鳥のように、世界の痛ましい喧噪の中で、彼女の声なき悲痛の叫びは今まで誰にも届かなかった

しかし、今は抱き止めてくれる人がいる

理性は何度もこの世界を火の中、水の中から救ってきた

けれど、この世には無数の命懸けの瞬間がある。執念のように、狂おしいほどに貫かれる想いがある。感情の奔流から生まれ、理性を越えて求めてしまう。そんな決断だ

人は理性だけでは計算し尽くせない。非合理なその一瞬のために、私たちは生涯を差し出してしまう生き物なのだ

あの子……何を訊いたの?クリスという、もうひとりの私

ひとつだけ訊くわ。答えてくれない?[player name]

もしある日、私が今の誇りを全て失って、何のとりえもなく、脆く、盲目で……

それでも一緒にいてくれる?

自分が、彼女が全てを失うのを黙って見ているはずがない。それに、ドールベアには、いつだって自分を救う力と勇気がある

どんな姿であれ、彼女はともに歩んできた唯一無二のドールベア。それは永遠に変わらない

ふたりは互いに信じ合う仲間であり、背中を預け合える戦友であり、同じ理想に命を燃やす同志。並び立ったその時から、最後まで互いを支え合う運命だ

わかった

十分よ。あなたが言ったことなら、信じるわ

理由なんていらない、理屈もいらない。感情って、そういうものでしょ?

目尻のむず痒さに少女は涙が溢れたのだと思った。しかし手で触れてみて、それはその人が涙を拭ってくれた指先だとわかった

腕の中で、ドールベアはようやく顔を上げた

わかった……

後悔しないでね

錘を手放した魂は少しずつ安定を取り戻した。現実では、太陽がすでに西に傾いていた

うん?でも、コンステリアの音楽フェスはもう……あなたは行きたいところある?

その人は太陽の位置を確かめ、端末で日付、時間、天気を確認してから、ドールベアの手を引いて車へ向かった

輸送任務のルートに縛られることもない。ふたりは台風の影響を受けない道を選び、黒い雲や雨を全て過去に置き去りにして走った

数時間、逃避行のように風と塵を突き抜け、車は荒野の果ての断崖にある、廃れた展望台に停まった

錆びた標識が斜めに立つ荒れた山道を、ドールベアの手を引いて進んでいく

少女が視線を指揮官の肩越しに向けた先に広がっていたのは、遮るもののない一面の美しい空だった。遥か遠い現実の距離を越えて、空が柔らかく彼女を包み込んだ

それはどこまでも雄大で、どこまでも優しいピンクと紫色。まるで彼女の瞳の色のようだ

昼の空は遠くよそよそしかったが、夕暮れが訪れると、巣へ帰る疲れた鳥を抱くように優しく目の前の旅人を抱きしめた。全てが夢のように濃密で繊細で朧げだ

金糸を織り込んだような天幕に、淡いピンクと紫が風に溶ける水彩のように滲み、流れて視界いっぱいに広がり、墨色の山影に溶けていく

ドールベア

これは北側の環流の上昇気流の影響で、レイリー散乱による夕陽の残光。多分、ここの雲に含まれる粒子が特殊で、ミー散乱を通して……この特別な色になったんだと思う

ピンク色と紫色が交じり、感性が理性を追いかける。境目のない世界では、天才も凡人も同じ港で温かなひと時を過ごせるのだ

展望台の欄干で、その人は感嘆の声を漏らした

ドールベア

ただの基礎知識よ。そんなのまで褒め始めたら、これから忙しくなるわよ?

ドールベア

私、褒め言葉のチョイスにはうるさいの。今のじゃ合格点はあげられない

ドールベアは笑顔のこちらを見つめてきた

ドールベア

えっ?あっ……

「サイバードクキノコ」の影響を受けている間の自らの異常な行動が、意識海の中に鮮明に浮かび上がった

ドールベア

くっ……あんな失態を見せちゃったのか。仕方ない、こうなったら口封じしか!

ドールベア

命が惜しければ私の要求をひとつ……いや、3つ聞きなさい

いや、やっぱり1万個にする

ドールベア

そうね、長い時間がかかりそうね~

ドールベアはふいに身を翻して背を欄干に預け、あの雲霞のように移ろうピンクと紫の瞳で、まっすぐに自分の目を見つめてきた

ドールベア

指揮官、ありがとう。すごく綺麗

少女はひと呼吸置いて、もっとふさわしい言葉を探しているようだった

結局、彼女はただもっと軽やかに、もっと素直に、同じ言葉を繰り返した

ドールベア

すごく綺麗

それは、空をピンクと紫に焼き尽くすような雲ではなく、目の前の少女の優しい瞳への賛辞だった

ドッドッドッ――

現実にも仮想にも存在しないはずのドラムの音。ドールベアは再びあの小さなドラムを叩く妙なぬいぐるみの姿を見た気がした

自分をもっと大事にしてね、ドールベア

バイバイ

ディアベアを縛っていたルールもすでに消えたようだ

彼女はもう二度と現れない。しかし、彼女は消えてはいない

ドーパミン、ホルモン、オキシトシン

科学はこうした感情を解析しようと試みてきた。人間の身体精神など、つまらない化学反応にすぎない、と

けれど今、自分に許されている感覚はそれではなかった

愛はホルモンの高揚でも、ドーパミンの陶酔でもない。理性の分析や科学の解剖でもない。癒してほしい心を曝け出すことでも、欠けた自分を埋めてもらうことでもない

不完全な私。でも、不完全な私をそのまま受け入れてくれる人がいる。欠落している私。でもそのままの姿で、あなたの傍らに立つことができる

愛とは、規則正しい理論世界の中において解読不能で、観測もできず、越えられない全てをも受け入れること

――指揮官、これからは……あなたが私のプランク時間

――私は自分が溺れることを許す

……でも残念

――あなたは永遠に知る機会がない。私の取るに足らない小さな勇気を

何でもない。あっ……あそこの雲、鹿みたい

ほら、あそこの雲、似てるでしょ。私の……

――仔鹿みたいに飛び跳ねる友達と

私の心を感じさせてるの。私はセカンドペルソナだから、誤魔化せないもの。もちろん、あんたも同じ

(仔鹿……私の心……そういうこと。今まで気付かなかったなんて)

少女はそっと、自分の心臓があるはずの場所に手を置いた

不思議ね、こんなに美しい景色なのに泣きたくなる

涙は心の潮汐だから

ドッ

ドッドッ――

彼女は抑えきれず、長く長くその人を見つめた。きっと、いつまでもこうして見つめてしまうのだろう

心臓があった場所から溢れ出してきた、無鉄砲で熱く、身を投げ出すような輝き

指揮官、あの歌……歌えるかも

あの、まだ一度も書き上げられたことのない歌。でも、ずっと胸の中で響いていた旋律

今、この瞬間。あなたに捧げる