Story Reader / Affection / ドールベア·驚影·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

ドールベア·驚影·その1

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レースのカーテンを通して降り注ぐ金色の朝日。その柔らかな光の中で舞う塵は、宙に浮かぶ怠惰な星々のように、静かに踊っていた

さくらんぼの甘酸っぱさが溶け込んだコーヒーの香りが、優しく鼻孔をくすぐる。音楽はその隙間をすり抜けて、指先のように滑らかに、目覚めかけた意識を休日の朝へと導く

……待てよ

惰性のままに眠っていた意識が突然覚醒し、こめかみを押さえながらキッチンへと足を運んだ。さくらんぼの香り漂う液体が、カップの中で出番を待っている

堅物一辺倒だったはずのコーヒーマシンが、今日はやけに張り切っていた。さくらんぼ味のコーヒーを淹れ、音楽まで再生して朝の目覚めを演出している

ディスプレイに映るエラーコードが、これがいたずら好きの誰かさんの仕業であることを如実に物語っていた

数行のコードを見ていると、利かん気のキラキラした瞳が浮かんでくる。整然と並んだ文字列すら、どこか無邪気に思えるほどだ

招待を受ける決意表明のように、苦みと酸味が入り混じった味の液体をぐっと飲み干した。カップをカウンターに置くと、底が木の天板に軽く当たり、コツンと愉快な音が響いた

ピコン――

空港に到着した瞬間、通信チャンネルに弾けるような通知音が響き、ドールベアの声が流れ込んできた

ちょっと……休みの日まで制服なんか着てるの?

朝の冷えた風が空港を彷徨い、季節の境界をぼやかしていく。けれど、彼女の茶化す声が耳に届いた途端、世界がようやく温度を取り戻し、目覚めたように感じられた

制服か。じゃ、遠慮はいらないわね~

指揮官……

ドールベアの声は唐突に途切れた

ドン――意識海の奥深くを殴打するような重い衝撃が、構造体の少女の思考を一瞬止めた。ドールベアは前方に立つ人間をただただ見つめていた

雑音が交じり、通信が急に切断された

こっちだってば……

声に振り向くと彼女の姿はそこになく、あるのは赤く点滅する監視カメラのみだった。ドールベアの声がここから流れているのだ

はいはい、今よ。笑って~

しょうがなく苦笑いを浮かべ、首を軽く振った

監視カメラはその姿をしっかりと記録に収めた

その直後、肩先を掠めたペイント弾が監視カメラに命中して炸裂し、鮮やかな色彩がレンズを覆った

すぐ近くにいた自分は、否応なく巻き添えをくらった

これは想定外~、制服をちょっと汚しちゃった~

左肩を軽く叩かれ振り返ると、にやりと笑うピンク髪の構造体が立っていた。その声に悪びれた様子はまったくない

ドールベアはすぐさまバッグから新しい「制服」を取り出し、手にしていたペイントガンを証拠隠滅するように、ぐっとバッグに押し込んだ

服が汚れたら仕方ないわね。ほら、あなたの「休日コーデ」を用意しておいたから

この前、コンステリアで注文したやつ。行けなかったじゃない?だから、私が代わりに受け取ってきたの

わけあって、ドールベアと約束していた海辺のバケーションに行けなかった。確かあの時、コンステリアのブティックでドールベアがデザインした服を選ぶ話をしていた

私がデザインしたやつは着たくないって?ふーん、じゃあ、その「迷彩」柄の制服で出かける?

ドールベアがデザインした「休日コーデ」に着替えて少女の前に立ち、デザイナーの「最終チェック」を受ける

襟元、ちょっときつくない?

彼女はピンクの髪を揺らしながら、つま先立ちでこちらの襟に手をかけた

彼女の狙いはわからないものの、その動きに怪しさを覚えた。思わず半歩退いて顔を僅かに傾け、監視カメラの正面から外れる

案の定、頬を掠めたペイント弾がちょうどその空間を通り抜け、監視カメラを色彩豊かに彩った

バレた?ほんと、あなたって無駄に勘が冴えてるのよね……

再び肩を叩かれ、いたずらがバレてもなお楽しげな笑みを含んだ声が聞こえてきた

落ち着いて振り向き、ドールベアに向かって両手を広げて、汚れなかった服を披露した。タイミングよく退いたお陰で、服は難を逃れていた

ふん、まぁそのくらいは読まれても当然かな……でも

少女は、目の前のこちらの顔をまじまじと見た

とても……鉄壁の防御だったとはいえないわね

さ~て、逃げ損ねたとこ、綺麗にしよっかな

ピンク髪の構造体の少女は再びつま先立ちし、視線を合わせてきた

そして、微かに冷たい指先が人間の頬に触れた。構造体の少女は微かに残った塗料をなぞって、肌に小さなハートを描いた

……

……ちょっと失敗したかも……まぁ、いいか……

ドールベアの瞳は、淡い藤色から桜色の不思議なグラデーションをしている。ふたりの距離が近すぎるせいか、儚い色彩が今は霧のように深く、心を吸い込む渦のようだった

彼女の長い髪はこれまでの機体のように両側で結ばれておらず、初めて出会った時と同じように肩に垂れ、その瞳を映やす美しいキャンバスになっていた

視線が交わった瞬間、ピンク髪の構造体はひとつ瞬きをしてゆっくりと手を引き、くるりと踵を返して空港の奥へと歩き出した

うんうん、これで音楽フェス用のスペシャルメイク完成ね

そ、覚えてる?コンステリアの機械体たちのこと。ミニ音楽フェスを開催するんだって。で、私も招待されたってわけ

「サンダースパーク」、自分とドールベアの助けで優勝した機械体のバンドだ。まさか、フェスを主催できるまでに成長していたとは

ちなみに、あなたのスケジュールはチェック済みよ。今日は完全オフよね。だから、つきあってもらうわよ?

そう言われて、塗料まみれの監視カメラをさりげなく見やった

……そう?ちょっと指揮官、私のこと見抜きすぎじゃない?

その探るような視線をしっかりと受け止めながら、ドールベアは身じろぎひとつしなかった

言ってもいいかな……実は新曲が完成してフェスで初披露する予定なの。ふふん、今回は自信作だから、楽しみにしといてよ

構造体の少女は、ほんの小さくため息をついた

もう、あんまり鋭いのも面倒くさいわよ。安心しなさいって、あれはただの水性塗料。後でちゃんと掃除させとくから

あなたの聡明さは好きだけど、私相手に使われると……

そそられるわね

ドールベアは人気が少ない連絡シャトルの乗り場で立ち止まり、くるりと振り返ってウィンクをした。その瞳には、いつものように小悪魔的な笑みが宿っている

申し訳ないけど指揮官、これは「拉致」だから。しばらくの間、あなたは私に「誘拐」されてる体でよろしく

そんなわかりやすい冗談に驚くはずもなく、自然と口元がほころんだ

いいわね、じゃあ「共犯者」さん、一緒に「逃避行」ってことで~

さて、「共犯者」さん。今回は人目を避けるために、ルートもいつもと違うの。コンステリアへの直行便は使わない

ね?ちょっとワクワクしてきたでしょ?

自分もあきらめたように肩をすくめ、ドールベアの隣に並んで歩き出した

その勘の鋭さがイヤなんだってば……

少女は、珍しく不満げに頬を膨らませた。そのあまりに子供っぽい表情に、思わず笑みがこぼれる

ふたりは予備の輸送機に乗り込んだ

その言葉に驚いたように彼女はくるりとこちらを振り返った。しかし、眼差しに耐えられなくなったのか、すぐに視線をそらして胸に手を当てた

ちょっと、急に変なこと言わないでくれる

私がこうしてるのにはちゃんと理由があるの……それは――

ドッドッドッ――

意識の奥底で見えざる弦がそっと弾かれ、その波紋は繊細な音となって広がり、構造体の耳に鼓動のような音を届けた。その瞬間、口にしようとした言葉が音もなく消えた

(もしかして……)

ドールベアは眉をひそめた。意識海に響いたのは、これまで経験したことのない異質な揺らぎ。引きずられるように思考が崩れ、足場のない深淵へと堕ちていく

それは音もなく訪れた墜落だった。気付いた時、彼女はすでに自分の意識海の中に立っていた

それは――見つけてもらうため、そして、止めてもらうため

はい、チーズ!

彼女は自分の意識海に誰よりも精通している。目の前でドラムを叩く異形のぬいぐるみは、初めて見る存在だった

数時間前に施した一時的な処置が、こんなに早く影響を及ぼすとは考えにくい

……

意識海の安定度に異常が発生してる大事な時なのに、こんなとこをウロウロするなんて、らしくないね?

ペイント弾のアイデア、すごくいいよね。私たちの自己防衛意識がまだちゃんと機能してるって証拠。目立つ手がかりを残すことで、的確に追手を導く

きっとすぐに誰かが止めに来てくれる

たとえば……カレニーナとか、全力で

つい先ほど「すごく元気」と評された構造体の少女は、冷静な表情でこのおしゃべりな熊のぬいぐるみを見つめていた。どこか達観すら感じさせる落ち着きともいえる

フン、何が「私たち」よ

あまりにストレートで刺々しい物言いに、熊の服を着た仔鹿のぬいぐるは目を大きく見開いた。まさかこうも無礼な返しをされるとは、夢にも思わなかったようだ

ぬいぐるみの丸くてふわふわの顔に、人間のように動揺した表情が広がった。自分の存在が認められない場面など想像もしていなかったのだろう

……う……私たちは私たちでしょ……私の名前は、ディアベア……私は……

その弱々しい声に、ドールベアはぎゅっと眉根を寄せた。その表情は、まるでミルクを入れすぎたさくらんぼ味の電解液を飲んだかのようだ

ちょっと、ストップ!やめて。私の声でそんな気持ち悪いこと言わないで

えっ……?自分の声って気付いてるなら、もう説明いらないでしょ?……つまりさ、あんた、全部わかってるんじゃん!

まさか「サイバードクキノコ」が、こんな速攻で反応するなんて……

ドールベアは小声で呟きながら、記憶データを今朝に遡った

工兵部隊のラボ

3時間前

3時間前。工兵部隊のラボ――

カレニーナはもう帰ったの?

リペアカプセルでの処置が終わり、ドールベアはゆっくりと目を開けた

はい、隊長は先に戻りました。副隊長の具合はどうですか?

先ほど、実験で助手が操作ミスをして、ドールベアが怪我をしてしまったのだ

誰に向かって言ってるのよ?

そうそう、さっきのアクシデント、ちゃんと記録しといてね。数日中に報告書を出して。まあ、うまくカバーしたから処分は軽いはずよ

わかってます。でも……

ドールベアは眉をひそめた

でも……何?

あの時、私を助けるべきじゃなかったと思います。少なくとも、私の盾になんかなるべきでは……副隊長、次はもうあんなことをしないでください……

……ちょっと、何が言いたいの?

違うんです。ここでは、あなたは私より大事な存在です。私みたいな助手がひとりいなくなっても、工兵部隊は別に困りません。でも万が一、あなたの身に何かあったら……

そいういうことか……

安心して。私はちゃんと自分の「価値」を理解してるから。それに、確信がなければ動いてないわ

さっき、防衛プログラムが私の意識海を攻撃する前に、私が先にデコイとして別の「ミニ虚構プログラム」仕込んでおいたの。まぁ、簡易ファイアウォールってとこね

だから私は前に出ても大丈夫だって確信してたってわけ。今後は観察とか記録の単純作業の繰り返しだし、ケガされたら私が面倒なことをやらなくちゃいけなくなるし

そこまでバカじゃないわよ……

グスッ……それってやっぱり、優しさじゃないですか……

ストップストップ、やめて!そういうのじゃなくて。これからの仕事にあなたが「有用」だって判断しただけのこと。勘違いしないで

わかりました……で、その「ミニ虚構プログラム」って何ですか?意識海に入れても大丈夫なんですか?

遊びで作っただけよ……「サイバードクキノコ」と名付けたの。本当は、この休暇で調整する予定だったんだけど

あっ……休暇!そのことですが……さっきカレニーナ隊長が、今回のアクシデントで、副隊長の休暇は取消しって……

……それを先に言いなさいよ!

マズい、正式に「休暇取消」が出る前に逃げるわ

じゃあ予定通り、私とファウンスに――

その瞬間、構造体の意識海の奥で特別な弦が弾かれ、「サイバードクキノコ」が静かに作動した。それは創造主の意図を離れ、自らの波紋を広げていく

予定……?それ、もうナシ

……副隊長?

ピンクの髪の構造体は、ゆっくりと振り向いた。深い霧に包まれたような困惑がその顔を覆い、しばし言葉を失っていた

静かな意識海に、薄い霧が幾重にもたなびく。揺らめく影の中に、見知らぬ人影がいくつもすれ違った

どうしました?大丈夫ですか?

その瞳の色が、静かに深く沈んでいく

ん?大丈夫

彼女はとてもゆっくりと瞬きをした。いつもの明るいピンクと紫の瞳が、今は霧の渦のように深く揺らいでいる

思考はどこか遠く、混沌の奥へと吸い込まれていくようだ

私……ひとつだけ、絶対にやらなきゃいけないことがある

彼女はふっと笑みを浮かべ、朧げな瞳を再びキラキラと輝かせた。指を素早く動かし、ある宿舎のコーヒーメーカーをハッキングし、コーヒーの味と音楽を設定した

これ、超重要なの

相手が目を覚まし次第この「突然」ながら「ドールベアらしい」誘いを受け取れるようにして、構造体の少女は自分の長い髪を解き、適当に梳かして束縛から解放した

異変を察した助手は、すぐにあの得体の知れないプログラムのことを思い出した

本当に大丈夫ですか??その「サイバードクキノコ」って何なんです?意識海の検査をした方がいいんじゃないでしょうか?

助手は不安そうに彼女の肩を揺らしたが、ドールベアが自分の世界に入り込んでいることに気付き、慌ててその目の前で手を振ってみせた

副隊長?どうしたんですか?何か言ってくださいよ、すごく怖いです……うう……

目の前で揺れる手が、ようやくドールベアの意識を現実に呼び戻した

彼女が我に返ったのを見て、そっと手を引っ込めた

意識を記憶から現実に引き戻され、ドールベアはこちらに向かって笑顔を見せた

ん?私、そんなに長い時間ぼーっとしてた?

問題ないわ。ただ、さっきの質問を考えてただけ。これだけ派手な痕跡を残したら、カレニーナは一瞬で沸騰するでしょうね

彼女は楽しげに笑いながら、うつむいて輸送機のルートと目的地を設定し始めた。しかし意識海の奥で、あの奇妙なディアベアが囁いている

「サイバードクキノコ」に逆ハッキングされたのを覚えてるでしょ?私はその影響で生まれた、あんたのシミュレーション意識

わかりやすく言うと、あんたの「セカンドペルソナ」ね

……その顔、何?

最悪なもの見ちゃった時の顔

原因を突き止めたドールベアはすぐさまそのプログラムの所在を特定し、「抹殺」しようとした

その瞬間、少女の指は空中で止まった

朝のアクシデントで、防衛プログラムの攻撃「デコイ」として使った結果、「サイバードクキノコ」はすでに機体そのものと深く結びついていた

強引に削除や初期化をすると、意識海へのダメージは免れない。この旅も終わってしまうだろう

空中庭園に戻って解析すれば休暇が消える。つまり、同じく旅の終わりだ

(……まだ、こいつを飼っておくしかないか)

彼女は危険な光を帯びた瞳で、目の前の「セカンドペルソナ」のぬいぐるみを睨んだ

セカンドペルソナねぇ……頭は熊、体は鹿。まずはもう少し人間らしい見た目に整えてから、「人格」を語ってほしいわね

えっ?

ドラムを叩く動物のぬいぐるみなんて、どの時代の私のセンスを掘り返してきたのよ

そのぬいぐるみ、ハナジカ?シミュレーション意識って言ったわね。まさか私の6歳のセンスを再現したってわけ?

ディアベアは一連の嵐のような言葉に、しばし呆然と立ち尽くした

今度はだんまり?よーく聞きなさい、今はあんたの茶番に構ってる暇ないの

これは、私が心を込めてずっと準備してきたふ·た·り·旅。だから、あんたはここでじっ·と·し·て·て

ディアベアは返事をせず、ドールベアに向かって精一杯、ぬいぐるみの口をとがらせた

……何その顔?

私の心を感じさせてるの。私はセカンドペルソナだから、誤魔化せないもの。もちろん、あんたも同じ

……

……お互い騙せないってわかってるなら、さっきの私の言葉が本心ってこともわかるわよね?

これは私がずっと楽しみにしてた休暇。もし台無しにしたら……「セ·カ·ペ·ル」さん、その意味、わかるわよね?

ドールベアの声が徐々に冷たくなるにつれて、ディアベアの姿も薄墨のように滲んで、消えていった

徐々に視界がクリアになっていく。ドールベアは自分の手元に視線を落とし、仮想スクリーンに浮かぶ航路を確認した。輸送機のルートと目的地はすでに入力されていた

ふっと小さく息を吐いて、ピンク髪の構造体は顔を横に向け、人間に笑顔を見せた

準備できた?指揮官。さあ、私たちの旅の始まりよ

その笑みのせいで、彼女の瞳がすっと細くなった。普段とは違うその眼差しは雲を宿したように深く、今にも絹の羽のような巻層雲へと溶け込んでしまいそうだった

32H小隊輸送車、修理完了。いつでも出発できます

新たに78号輸送任務が発生。必要に応じて医療品を配備、対応願います

物資が巡り人が流れる保全エリアに、輸送機の到着はさざ波すら起こさなかった。全ては喧噪の中、寸分の狂いもない秩序に従って進んでいく

空中庭園から来たふたりの姿も、さながら魚群に紛れる川魚のように自然と人波に溶けていった

えっと……10-43号倉庫は……多分こっち

そうよ、まさか歩いてコンステリアまで行くと思った?次の目的地へは、ちゃんとした足が必要なの

レオナルドに頼んで、ちょっとクラシックなやつを用意してもらったの。黄金時代の美学ってやつね。倉庫に保管されてるから……ついてきて、指揮官

倉庫エリアで何回も角を曲がったのち、ドールベアはついに巨大な人物の落書きがされた倉庫の扉の前で足を止めた

虹彩認証が通過するや否や、奥から低く重い機構音が響き始める

格納庫の扉がゆっくりと天井に呑み込まれ、光の川のような搬送ラインが姿を現した。その上を、1台のマシンが音楽の調べに導かれるようにして優雅に運び出された

……登場シーンがバカみたいに派手すぎ

黄金時代のオープンカーを模したその車体は、優美で洗練された曲線と軽やかな色合いで、確かにピンク髪の彼女の好みにぴたりと合っていた

言ったでしょ。レオナルドはこういうのが得意なんだって

ドールベアは満足そうにボンネットに描かれた白い鳩のペイントを軽く叩き、軽やかに跳ねるように助手席へ飛び乗った

華麗に車に飛び乗ったドールベアは、車内から運転席のドアを開けようと手を伸ばした。しかし、その腕の長さがレバーにあと一歩届かないという、まさかの事態が起きた

……

笑いたければ笑えば?私、別にそんなに心が狭くないから

後でまとめて倍返しするけどね

そう言いながら、彼女もこらえきれずに笑い出した

クラシックな外見とは裏腹に、車内にはノルマングループが誇る最新システムが搭載されていた。ドアが開かなかったのを察知し、自動で運転席の扉が優雅に開く

ドールベアにじとっと見つめられながら、彼女の可愛いプライドを守るために自然体を装って、座席に滑り込むとぽんぽんとハンドルを叩いた

出発~!

タイヤが地を噛み車体が躍動する。景色が一気に色彩の絵具のように流れ、視界の先にはどこまでも道が伸びていく

ドールベアは窓枠に手をつき、助手席で立ち上がった

風が強すぎて、聞ーこーえーなーいー

彼女の笑い声は風よりも軽く早く、自由な風がその頬をなでては、ピンク色の髪を誇らしげに空へと舞わせた。それはまるで、少女の目に宿る高鳴る感情そのものだ