Story Reader / Affection / ラミア·深謡·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ラミア·深謡·その6

高所から水中に落下した時のダメージ量は、入水時の体勢が影響するという。力の限り、小さな命をきつく抱きしめて垂直になるように水に飛び込んだ

完璧な体勢で入水できたとしても、ダメージ的に耐えられる高さには限度がある

皮膚越しに脆弱な骨をハンマーで叩かれたような、激しい衝撃が足下から体を伝わってきた

内蔵が押し上げられ、血液と空気が押し寄せてくるようだ。咳込みたくても、窒息するような苦痛しか感じられない

しかしその苦痛は長くは続かなかった。海水が気管から流れ込み、衝撃が頭蓋骨に達すると、脳が激しく揺さぶられた

そして一瞬の内に、意識を失った

どのくらい経っただろうか。何か冷たいものが頬に触れたのを感じた

寝返りを打とうとしたが、数cm動く度に筋肉を引き裂くような痛みに襲われ、まともに動くことができない

その痛みのお陰で、自分の意識がかなりハッキリ戻ってきた

???

ねえ……動いちゃダメだよ

ゆっくり目を開けると視界に飛び込んできたのは、濃紺と水色が入り混じった、巨大な魚の尾びれだった

視線を上げると、冷たく光る三叉の鉾が目に入った。その形状は武器というよりロッドに似ている。先ほど頬に感じた冷たさの正体はこれのようだ

最後にやっと首を持ち上げると、見覚えのある顔が見えた。波が彼女の背後の岩に打ちつけ、波しぶきが白いベールのように彼女を彩っている

心の中に、確信のない推測があった。以前αの変化を見ていたので、彼女と同じ陣営の昇格者がいても不思議ではないと……

ラミア

私がわかるんだ?

もうわかってるんでしょ?

相手の答えを聞いて、一瞬で多くのことを理解した

不思議な振る舞いをする子供、暴走した杭打機、突然現れたパニシング

相手の声が冷たく真剣な響きを帯びたので、ラミアは武器を強く握りしめた

攻撃の前触れではない。何かを強く握ることでラミアは安心感を得ようとしたのだ

これまでに彼女の手から落ちていった物が多すぎた。強く掴めば掴むほど、小さな幸せは海の泡のように潰れて、指の隙間からこぼれ落ちていく

ラミア

あなたには言えない……

ラミアは目を伏せた。目の前の人物を直視する勇気はない

彼女の前にはただ骨の折れた猫がいるだけだ。いかようにもできるはず

しかし、なぜか目を合わせられない……前の出来事を思い出してしまうから?

相手の視線に見えている強さは、あの要塞にいた人とよく似ていて、少し違う……一体何が違うんだろう?

ラミア

え?

突然の感謝の言葉に、ラミアはその場で呆然とした。心からの感謝なのか遠回しなお願いなのか、ラミアには判断がつかない

彼女にはロランのような話術もなければ、αのように人を見抜く洞察力もない

彼女にあるのは……ほんの少しの……愛への渇望だけ

だからたとえ嘘であろうと、その場限りの言葉だろうと、彼女はそれを信じたかった

ラミア

ど……どういたしまして?

「アイリーン」という殻を失ったラミアは、不安に身を縮めた

火傷を恐れるように慎重に言葉を選ぶさまは、とても昇格者には見えない

だとしても、彼女はそれにもう慣れていた

ラミア

昇格者に関することなら……

ラミアは次に続けて拒否の言葉を口にはしなかった。相手が自分の意図を理解できる、そう信じていたのだ

ラミア

私のことなら……答えられる、かも

突然、彼女は誰かの教えを思い出したように、少し慌てて付け加えた

ラミア

わ……私もあなたに訊きたい。ひとり、ひとつ……あなたがもうひとつ多くてもいいけど……それ以上はダメ……

彼女の声はだんだん小さくなり、波の音に消えていった

ラミア

ううん……

ラミア

え……私を信じるの?

ラミア

う……じゃあ私の番ね……

ラミア

??

あなた……ズルい

ラミアは静かに抗議したが、抗議しながらも不安なのは彼女の方だった。動揺する魚の尾が海水を叩き、水しぶきを立てている

向かいにいる人間は軽く笑って、答えなかった。ラミアはそれで、相手がただ冗談を言っただけなのだと気がついた

ラミア

じゃ……じゃあ私の番だよ……どうして最初に私を助けたの?

隠し事のない、正直な答えだった

ラミア

じゃあ……もし最初から私が昇格者だって知ってたら、同じようにしてくれた?

ラミアは一問一答のルールを忘れ、恐る恐る震える声で訊ねた

答えはとっくにわかっていたが、相手の断固とした態度は、ラミアに逃げ出したい衝動を感じさせた

ラミア

でも?

逆説の言葉が小さな火を灯し、ラミアは横たわる人間を見下ろした

ラミア

彼女の存在は、嘘にまみれた仮面だったとしても?

ラミア

わからないよ。優しさって、同じように優しい人へ与えるものなんじゃないの?

嘘、誤魔化し、裏切りなんて、最初から罰せられるべきだ

ラミア

だって……

偽装の名人であるラミアは、どんな姿にだって化けることができる

しかし彼女にできるのはその見せかけだけの偽装で、他人が何を考えているかを探りたくもないし、それを知るのを恐れてもいる

ラミア

あなたにはそんな方法があるの?

相手は首を振った

ラミア

傷つくのを恐れないって……傷つくとわかってることを、どうしてするの?

ラミア

そんなこと……

ラミアはまだ何か言いたそうだったが、彼女の耳にある音が聞こえてきた。数名の構造体が、岩壁を登ってくる音だ

ラミア

も……もう行かなきゃ

ラミア

は……早くして!

ラミア

それは……

指揮官を発見!側にいるのは……昇格者だッ!!

いくつものレーザーポイントが瞬時にラミアの体を取り囲んだ。すぐ近くにいる指揮官への配慮さえなければ、弾丸が雨のように降り注いでいただろう

私、行かなきゃ……あとの質問は、また今度

ラミアはざぶんと海に飛び込み、小さな飛沫だけを残して消えた

彼女は水面に映る星々を追いかけ、岸が見えなくなりそうなところまで来てようやく水面に出た

岸の方でせわしなく動くいくつもの人影と、太陽のように煌々と光る照明が見える

遠くの光と影を見つめ、彼女はたった今言いそびれた答えをゆっくりと口にした

だって……あなたには生きていてほしかった

彼女にはようやくわかった。あの視線を避けながらも、渇望していた理由が

目を向けられない魂は世界との繋がりを渇望している。それは存在の証明であり、孤独の泥沼からの救済なのだ

ふと、以前見た詩を思い出す。あの時はその詩の意味がまったくわからなかった

岸辺で次第に消えゆく灯りを見つめながら、心の中で呟いた

己をひと筋の光にしよう。なぜならあなたは知らないからだ、誰が君の光で闇から抜け出したのかを

善良な心でいよう。なぜならあなたは知らないからだ、誰が君の優しさで絶望から抜け出したのかを

心に信仰を持とう。なぜならあなたは知らないからだ、誰が君の信仰で迷いから抜け出したのかを

己の力を信じよう。なぜならあなたは知らないからだ、あなたを信じることで、誰かが自分を信じ始めたのを……

灯りはついには消えて、偶然から生まれた出会いも終わりの時を迎えた

たぶん、もう次はないんだろうな

ラミアはもう見えなくなってしまった姿をもう一度振り返り、光のない海へと潜っていった