Story Reader / Affection / ノクティス·撃砕·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ノクティス·撃砕·その4

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シークス?あの面倒くさいやつ?

最近施行されてる夜間外出禁止条例は、やつの手柄でもあるらしい

別に顔馴染みでもないし、流浪焼きとやらを食べたこともないね

住民に別れを告げ、マフラーを少し下げて、深く息を吸い込んだ

これで17人目だ。シークスの野郎、なかなか有名人じゃねえか

管理機構から、直接住民のプロファイルを調べられねえの?

おう、指揮官に言われなきゃ、休暇ってことを忘れてたぜ

ニコラのジジイの休暇もこんな感じになりゃいいんだよ。ウィリスも一緒に、カウンターに立ってよ

そんときゃ絶対にシークスを紹介して、皆で仲良くやってもらうぜ

ノクティスは鋭い歯で、サンザシ飴をガリッと半分ほどかじった

九龍の食いもんか?店のメニューによさそうだな

それに、世界中のシークスみてえのもな……

おう……フゴッ……

指ひはん、これはら、ほーする?まだ探すか?

その時、通りすがりの老人に目が留まった

以前聞いたように、シークスが本当にまだ空中庭園と張り合っているのなら、

彼の仲間……つまり流浪焼きを食べたことがある者も、同じ傾向にあるんじゃないだろうか?

今眼前にいる、構造体と管理員を避けていくあの老人のように……

……

グレイレイヴン隊の……指揮官?

火がパチパチと音を立てている。薪をくべていると、鍋の水が沸いてきた

食材をあれこれと鍋に放り込む老人を見て、ノクティスは頭を抱えていた

ジイさんよぉ、流浪焼きを作るなら俺がアドバイスを……

老人がシーッというジェスチャーをしたので、ノクティスはそれ以上言うのをやめた

アルカディア·グレート·エスケープ以降、地上では多くの職と組織が失われ、食料もすぐに底をついた

ワシらは流浪している間、手に入るものは何だって食べたよ

流浪焼きの材料は、あり合わせの食材に他ならない。一緒に混ぜて煮こむだけ

でも、俺もいろんな食材を使ってるから、そこは間違ってないはずだぜ

その食材、どこで手に入れた?

え?そりゃあ、マスターが清浄地の施設から手配したんだよ。新鮮だし、缶詰なんかもある

それでいい。シークスがワシらと流浪していた時、空中庭園の缶詰は貴重品、新鮮な食材は最高の贅沢品だった

今の清浄地から見れば、流浪焼きにする食材は粗悪品以外の何者でもない

老人は材料を準備し終えると、手でこね、丸め始めた

何とも言いがたいその色に、ノクティスは不安の色を隠せないようだ

心配せんでもいい。毒は入ってない

食べ物で病人が出ては、流浪集団の運営に影響が出る。看病するにも人手が取られるんだからな

時には……いや、お前さんらは知らなくてもいい話だ……

老人はパンパンと手をはたき、こねたタネを焼く準備を始めた

老人は非常に手慣れた手つきではあったが、流浪焼きの縁が焦げ始めた時、ノクティスは口を出さずにはいられなかった

おいおいジイさん、そんな焼き方じゃすぐ黒焦げになっちまうって、俺がやってやるよ

若いの、老いぼれで見えてないと思うか?そもそもこの道具が流浪焼きを焼くのに適しとらん。お前さんがやったところで同じだ

でも、このままじゃ本当に炭みてぇに……

いいんだ、いいんだ

グレイレイヴン指揮官が、本物の流浪焼きを作って欲しいというなら、避けては通れん工程だよ

老人は見るからに酷い仕上がりの流浪焼きを取り出し、皿に積み上げた

盛りつけも、調味料もない。老人はその皿をこちらへと持ってきた

老人は黙ったまま、食べてみろというジェスチャーをしてみせた

マシな見た目のひとつを選んで持ち上げようとした時、ノクティスが横からそれを取り上げ、口に入れてしまった

安心せい。言っただろう、食べても問題ないと

……

指揮官……

やっぱ食うのやめとけ

変な味が口いっぱいに広がった。まずいとまでは言わないが、想像していたよりもずっと酷い味だ。味に慣れるまで、飲み込むのも容易ではない

大きな手で背中をトントンと叩かれた。しばらくして、ノクティスは老人に訊いた

ジイさん、マジでこの作り方で間違ってないのか?

シークスの野郎、本当にこの流浪時代の味が恋しいのかよ?

味はどうだった?

俺の正統派レシピ失敗作以下だぜ

はっはっは、いいんだ。それが正しい評価だ

これを美味いと言うやつがいたら、ワシはそいつが寝言を言ってると思うさ

あんだそりゃ、どういう意味だよ?

流浪時代の味と言ったな?そんなもの、懐かしむやつはおらん

本来の流浪焼きは美味そうな見た目でも、味のいい食べ物でもない。美味さとは無縁のメチャクチャな食べ物だ

食材はなるべくおいしく調理すべきだ。でもそれは食材が簡単に保存できて、長持ちさせられる上での話……

生き延びることだけを考えて作った美味くもない物が、わざわざラタトゥイユのメニューに並び、「本物の流浪焼き」と謳っている。そりゃ、ひとこと言いたくもなるさ

シークスはそこが気に食わねえんだな

他にも不満が積もっていたんだろう

お前さんがグレイレイヴン指揮官だから……かな。空中庭園のやつらが言っていたように

ワシに残された時間は少ない。彼らとてそれは同じだ。地上であれ空中庭園であれ、シークスもワシも、後世に何かを残したいだけなんだ……

おっ、戻ったか。どうだった?

シークスの野郎が納得するものは大体わかったぜ

そうか、そりゃよかった

店は臨時休業だ。常連のやつらには話をつけてある。シークスのことはお前らに任せたぞ

さすがオッサン、手回しがいいな

ん、ちょっと待て……今朝「店は任せろ、俺ひとりでなんとか持ちこたえてみせる」って豪語してたじゃねえか、ホントは一日中休んでたってオチか?

ワハハまさか……あー、その……

俺は邪魔だから帰るぜ、灯りを消し忘れるなよ

マスターはそう言い残すと、そそくさと扉へと向かった

そして鍵を置くと、夜の闇へと消えていった

逃げ足はいっちょまえだな……

あん?おい、このグラス……ひとつも洗ってねえ!俺らにやらせるつもりだな?させるかよ、あのボケを連れ戻してくる。指揮官、待ってて……

指揮官?

ああ、そっか。んじゃ、ここは俺様に任せとけよ

さぁお前ら、俺様が洗ってやるぜ

ノクティスは腕を伸ばし、グラスをガチャガチャと寄せ集めた

割れたらオッサンが買うだけだ。今は効率優先。さ、洗うぜ

ノクティスは蛇口をひねると、力いっぱいに、ゴチャゴチャの食器を洗い始めた

うん?

試作つったって……材料をメチャクチャに突っ込んで、適当に焼いて、最後は黒焦げの塊にするだけだろ

あいつらの流浪生活か……

そこまで聞いて、ノクティスは手を止めた。明るく保たれていた雰囲気が少しずつ失われていく

指揮官、やっぱりまだあのことを気にしてるのか?アルカディア·グレート·エスケープと、清浄地の……

でも、指揮官には関係ねえ話だろうがよ?

アルカディア·グレート·エスケープの時は、指揮官はファウンスに行ってすらなかったはずだろ

地上の人々や資源に依存して成り立つ空中庭園で暮らしておきながら、自分には関係ないといえるほど、この世界は甘くない……

じゃ、どうする?やっぱ一番いいのは、ニコラ司令が休暇の時は、ここのカウンターに立たせることじゃねえか?

……

指揮官、アンタさ、ホントお人好しだよな……

他のやつなら、もうとっくに関わりたくねえから手を引いてるぜ。そんなこと考えたって、余計な悩みが増えてダリぃだけだし

それがお人好しだっていうんだよ。地上のやつらのために一生懸命になって、その問題から自分を解放しようとはしねえんだ

俺だったら無理だな。ダリぃわ

マジだよ。指揮官の一挙一動を皆が見てる。あのシークスでさえな……

……なんで俺が気にするって思う?

イチャモンつけられるだけだろ。あいつら、別に暴れたりした訳じゃねえ……

それに、指揮官の命令を聞くのは当たり前のことだろ?ニコラのジジイにも何度も言われて……

……

うぜぇ……このグラスまだ洗わねえの?

こんなハッピーな仕事、独り占めしちゃ悪いだろ。指揮官にもやらせてやるよ

おらよ

……それ以上寄られたら壁にめり込んじまう……チッ、狭い洗い場だな

山のように積み上がったグラスをひとつ手に取り、底の飲み残しを水ですすいだ

おう、あるぜ

あいつの思うように動くつもりはねえ。明日は期待していいぜ、指揮官

今夜のラタトゥイユは特に静かだった。臨時休業のせいか、はたまた、おとなしく食器洗いをしている従業員たちの声しかしないからか……

シークスの望みは、ある程度つかめた

だが、それは自分たちが彼の思い通りに動くという意味ではない

天気は快晴、トラブルはなし。今日も平和な一日が終わろうとしていた