Story Reader / Affection / ノクティス·撃砕·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ノクティス·撃砕·その2

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聞いたか?昨晩の外出禁止時間に、何人か逮捕されたんだってな?

らしいな。清浄地に来てまで違法取引だなんて、どれだけ依存してるんだか

だから、守衛が「深夜にほっつき歩いてるのはロクなやつじゃない」って言うんだな

そうともいえないさ。グレイレイヴン指揮官はどう思う?

なぁ、指揮官よぉ

突然、ノクティスが小窓からニュッと顔を覗かせ、窓枠に両手をかけた

昨晩の外出禁止の報告だけどよぉ……うぐッ!

即座に窓を閉め、ノクティスの頭を厨房へと押し戻した

じゃあビール、大ジョッキで

俺も同じのを

はぁ……どこに行ったって落ち着かねぇな

今はまだマシな方さ。アルカディア·グレート·エスケープの時に比べたら……

「アルカディア·グレート·エスケープ」と聞くやいなや、マスターは突然立ち上がった。そのはずみで、客に渡そうとしたビールが床にこぼれてしまった

慌ててジョッキを置き、雑巾を探したが、マスターの方が一歩早かった

お前らもう棺桶にでも入るのか?過去の話なんてやめろよ、走馬灯が見えちまう

まだ死ぬわけでもねぇし、昔話する歳でもねえだろう

冗談めかした言葉には少しトゲがあり、ふたりの客は新しいルールに慣れようとするかのように頭を掻いた

幸いにも、カウンターでの出来事に関係なく、木製の小窓から厨房の料理が次々運び出されてくる

絶妙なタイミングで、食器の音や料理の香りが気まずい雰囲気を和らげてくれた

休暇も兼ねて、ノクティスと一緒に保全エリアのサポートを頼む

具体的な仕事の割当については、後でセリカから連絡がある。これも広報活動の一環だ

保全エリアの状況は複雑だ。もし何か事件が起きても、安易に首を突っ込むなよ

……

指揮官

なにボケっとしてんだよ……ほら、晩メシ

おや?それすごく美味そうだな。俺にも頼むよ

ダメダメ、これは裏メニューだ。店では出してねえんだよ

ええー、どうしても無理?

ダメなもんはダメなんだよ。おっと、指揮官を困らせんのもナシだぜ。あいつ一日中バタバタしてて、まだ何も食ってねえんだよ

おい、オッサン!あんたの晩メシはもうちょっと後だ

フン、お前なぁ……まあいい、休憩してこい[player name]。ここは俺に任せとけ

ちぇっ、マスターに交代かよ。俺の食欲のためにも、早く指揮官を呼び戻してくれよな

黙っとけ、またノクティスと喧嘩になっちまうだろ……

……

料理を持って、昨日マスターが座っていた窓際の席に移動した。水を注ぎ、ノクティスが作ってくれた食事を口へと運んだ

合成品ではない柔らかくジューシーな肉と、新鮮な野菜

これも反転異重合塔の出現と、それがもたらす清浄地のお陰だ。地上の食糧生産力はかなり回復している

しかし感慨にふける間もなく、店にまた初めての客がやってきた

ほら、あれがグレイレイヴン指揮官だとさ

休憩中みたいだな。邪魔しない方がいいかも

気にしてられるか、このためにわざわざここまで来たんだぞ?

グレイレイヴン指揮官はある種の象徴となっているようだ。今日も別のエリアから客を「ラタトゥイユ」へと引き寄せている

笑顔を見せようとした瞬間、目の前にずんぐりとした姿が座った

相手はわざと食器をガチャガチャと鳴らし、不快感を露わにしている

その時、厨房から大きな声が聞こえてきた……

マスター

ジョイさんからもらった新鮮な鹿肉はどこだ?ノクティス、お前見たか?

あー、指揮官の晩メシに使ったよ

マスター

!!

食材は自由に使っていいんだろ?それに、あれっぽっちの鹿肉、指揮官のメシ1食分にしかなんねえよ。次はもっとデカいのにしろよな

マスター

この【規制音】!!!

厨房からマスターの怒号が響くと、ホールは客たちの笑い声に包まれた

ノクティスは我関せずという様子で、自分と同じテーブルにつき、食事をし始めた

俺が何をしたってんだ、なんでこんな仕返しされるってんだよ?

マスターはムスッとしてカウンターでポテトを食べ始め、常連客に向かって「もう黙ってろ」というように、ひらひらと手を振った

しかし、何人かの常連客はしつこく笑い、やりこめられたマスターの姿を楽しんでいるようだ

ことの発端であるマスターの運命の「宿敵」――ノクティスは、悠々と皿を運び、どこ吹く風という顔で夕食と店の活気を楽しんでいる

これこそが「ラタトゥイユ」だ。他人行儀なマナーなどはなく、グラスを飲み干せば皆、自然体になれる

もちろん、楽しい雰囲気の中であっても、時には避けられない雑音もあるが……

シェフを呼んでくれ、ちょっとこれを見てほしい

この料理、本当にちゃんと調理してるのか?

何気ないひと言で、さほど広くない店が瞬く間に静まり返る

マスターに絡んでいた常連客たちも辺りを見回し、声の出処を探した

なんだ?意見を言っちゃダメなのか?

お前、酔ってんのか?これは機械で押し潰して調理してるんだ。機械に謝らせるのかよ

機械で?つまりこの店は、俺の支払いを受け取っておいて、手抜き料理を出したってことか?

そう言い返された常連客は何も言えなくなり、マスターに視線を移すしかなかった

指揮官、あれがアンタの言ってたトラブルメーカーってやつか?

いっちょ俺様が行ってやるか

止める間もなく、ノクティスはすぐに立ち上がった

たーいへんだお客様!いかがされましたか?

お前は?

俺はここの加熱調理を担当してる

ノクティスは皿を指差したが、客の視線はノクティスの体に注がれたままだ

構造体か?

だからなんだってんだよ?

お前らみたいな金属の塊でも、食事をするんだなと思ってな

こりゃ個人的な趣味でね。あと、口のきき方には気をつけるんだな。いくら任務があるからって……

あ、それで思い出した。ここに、グレイレイヴン指揮官がいるらしいな

前々から空中庭園と手を組んでたってわけか?エド!

何が言いたいんだ、シークス

突然強まった口調に、一気に店内に緊張が走った

数名の客は皿を持って他の席へ移動し、また数名の客はテーブルに支払いを置いて、静かに店から出ていった

おいおい、待てって。まだ精算が終わってねえ

マスターとシークスという男性の間に、張り詰めた空気が漂っている

どこで火花が散るかわからないが、先手を打っておけば、大爆発は避けられるかもしれない

お前がグレイレイヴン指揮官か?

詮索するようなシークスの視線は、初めてここへ来た時に感じたものと同じだった

今日はお前の相手をする気はない

だがこの「流浪焼き」というメニュー、絶対にレシピが間違っている

ほう?いいだろう、別に俺だってお前らに因縁をつけたい訳じゃない。メニュー通りの料理を出してくれればそれでいい

この店に本物の「流浪焼き」を作れる者がいるかどうか、見物だな

シークスはこちらを向いて話をしているが、その目線はマスターに注がれていた

マスターが口を開く前に、他の客が我慢できなくなったようだ

あんたさあ、ちょっと理不尽じゃないか?当時、流浪している集団はいくつもあったんだ。お前がいた集団の「流浪焼き」レシピがどんなものか、誰もわからねえよ

客が詰め寄ると、シークスの仲間が立ち上がって間に入った

至らない点?おいおい、勘違いするな。それが問題じゃない

触れるべきじゃない謳い文句で客を騙したことが問題なんだ

シークスはこちらのエプロンの「ラタトゥイユ」のロゴを指差し、語気を強めた

その時、たくましい腕が伸びてきて、シークスの手首をがっちりと掴んだ

言ったよな、口のきき方には気をつけろって。俺には任務があって……

なるほどな?さすがは構造体。その握力は、こういう時に使うもんだ

シークスが目配せをすると、彼の仲間が一斉に立ち上がり、ノクティスを取り囲んだ。思っていたより人数が多いようだ

チッ……今日はツイてたな……

シークスの腕を離したノクティスは、その場で腕を組むと、シークスの前に立ちはだかった

自分も30度のお辞儀をして、その場だけでも相手に誠意を見せることにした

だから……今日はお前の相手をする気はないんだ、グレイレイヴン指揮官……

シークスはマスターとノクティスを見た

シークスが手を振って合図すると、黙って見ていた十数名の客が彼の後に続いて店を出ていった

……

まったく……俺に任せてくれりゃよかったのに。何もあんたが面倒を引き受けなくても……

マスターが帳簿をパラパラとめくる。その表情から、今日の売上が芳しくないことが見て取れた

シークスのやつら、やり出したらトコトンしつこいんだ

マスターは少し申し訳なさそうに頭を掻きながら、鍵つきの戸棚から1冊のノートを手に取ると、こちらへ差し出した

古びた表紙の下で、黄ばんだページの端が擦り切れてボロボロになっている。そこには、無数の経験の痕跡があった。どうやらマスターの宝物のようだ

すまんな、巻き込んじまって。これは俺が以前、流浪集団で料理担当をしていた時に書き留めたノートだ。役に立つだろう

無理はするなよ。あいつの度がすぎるようなら、放っておいていい。その間に俺も助っ人を探してくる

ノクティス

指揮官、こりゃ無理だ。どうやってもあの変な形にならねぇ。型に問題でもあるのか?

厨房からは、度重なる失敗によるノクティスの嘆きと、回収容器に失敗作を投げ入れる「ベチャ」「ビチャ」という音が聞こえてくる

いい、やらせておけ。1週間しかないから、無駄も覚悟の上だ

マスターは神妙な面持ちで鍵を置くと、いっぱいになっていく回収容器を見て、何かを心に決めたようだった

強い意志で体を奮い立たせ、初めて月に降り立った人類のように、一歩ずつ踏みしめながら店の扉へと向かう

マスター、じゃがいもがなくなって……あれ?マスターは?

それがよぉ、いくらやってもあいつの希望の形にならねえんだ。型を作り直すしかなさそうだぜ

手ごね?

ノクティスの後に続いて厨房へと入った

作業台に散らばった器具をザッと隅へ寄せて場所を確保し、粘土のようになったタネを、ひと掴みちぎり取った

ノクティスが見せてくれたデザイン図に近付くように、ざっくりと成形していく

なんか、それっぽくなってきたぞ

ノクティスは肩を回すと、タネに手を伸ばし、ひと掴みちぎり取る

嫌味ったらしいなぁ、指揮官……ちょっと取りすぎちまっただけじゃねえかよ

ノクティスは手に取ったタネを半分にして、掌で成形し始めた

……よっ

…………

……チッ

ついにタネを使い果たしたが、ノクティスは満足のいく形を作ることはできなかったようだ

ノクティスが失敗作をひとまとめにして回収容器へ入れようとした時、先ほど自分が作った流浪焼きが目に入った……

閃いたぜ、この指揮官の流浪焼きを使って、工兵部隊に型を作ってもらえばいいんじゃねえの?

あんだよ、ただのおやきごときで……ってか、指揮官はなんでこんなことにこだわるんだよ?

別にあいつらが騒ぎを起こしたって、俺ひとりで叩き潰せる

この対立が続けば、彼らは色んな手段で嫌がらせをしてくるだろう。そんな状況に「ラタトゥイユ」が毎回対処できる保証なんてない

チッ、タリぃなぁ

これが地上再建計画の難しいところだ、ノクティス……皆がエドみたいな人だとは限らない。保全エリアには、シークスのように陰湿で悪質なタイプもごまんといる

わーったって、もう1回試してみるよ

ノクティスは再びタネを手に取った……

ん……指揮官?

自分でできるっての。指も戦闘ツールだぞ、お前じゃ動かせねーよ……

だーっ、降参だ、降参。なんでそんなにやる気満々なんだよ。ほらほら、指はこれでいいんだろ

大きさを均等に……

丸める……

……

もう1回やってみてくれ……

窓の外で、保全エリアの建物の灯りが消えていく。道路の両側の街灯だけが、ほのかに光を放っていた

空から雫がぽつりと落ち、夜に溶けていった。それに続いて、開け放した窓を叩くパラパラという雨音が響く

よしよし、ホールは俺様に任せろ……待て、まずいぞ。指揮官、2階の窓も早く閉めろ!

今夜は雨。「ラタトゥイユ」にも小さなトラブルがあった

でも大丈夫。ノクティスとふたりなら対処できる

気になる点とすれば……戻ってきたマスターが、使った食材リストを見て気絶しないことを祈るだけだ

とにもかくにも、今日も平和な一日が終わろうとしていた