Story Reader / Affection / バンビナータ·瑠璃·その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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バンビナータ·瑠璃·その5

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ふぅ……岩がようやく頂上に届いた!

さっきの講演ですよ、印象深かったから、引用しました

シーモンは大きく腰を伸ばした。山から降りてきて、もう二度と登る必要がなくなった人のように

「岩が頂上に鎮座して初めて、我々は英雄と呼ばれることの意義を実感できるでしょう」

納得の笑みがお互いの顔に浮かび、シーモンは真面目にこちらの講演の言葉を繰り返した――

「シーシュポスは、無益な目的のために全身全霊を捧げることを強いられた。その岩は大地のために払われなければならない代償だった」

「彼はありとあらゆる手段を尽くして、神と運命の罰に対抗した」

「我々の任務もシーシュポスと同じです。運命によって、不幸に満ちた過去と不確かな未来によって覆され、またスタート地点に戻されるかもしれない」

「我々が主導権を失った地球は、明日、再び赤潮に飲み込まれてしまうかもしれない。明日への期待は、今日、パニシングに打ち砕かれてしまうかもしれない」

「しかし、我々はこの避けられない運命の輪の中で抗い、我々の存在を守っていかなければならない」

「岩が頂上に鎮座して初めて、我々は英雄と呼ばれることの意義を実感できるでしょう」

英雄なんかになりたくありません……死んで教科書に載っても意味がありません

指揮官どのが語る真実を聞くのは、英雄になるよりも心躍ることのはずです

過去と未来がどうであれ、どうせ逃れられないんです。いっそ、真実を教えた方がいいです。真実を知るからこそ、人は真摯に生きられるんですから

その上で彼らに希望を与えることこそが、とても重要なんです

そんな風に話しながら、シーモンはバロメッツの準備室に戻っていき、自分は再びホワイトスワンの準備室の前で立ち止まった

数日前、初めてこの扉をノックしたのは、シーモンと一緒に士官学校から戻ってきた時だった

今思い返せば、この数日の経験はまるで奇妙な夢のようだ。繰り返す日々の軌道の外にいる感じがする

この小さくて儚い夢の出発点は、常に質問から始まる――

扉を開けたバンビナータに、以前のような戸惑いや恐れの感情は見られなかった

彼女は、ずっと待ち侘びていた子猫のように、おとなしく扉の前に立っている

ご……機嫌よ?

……グレイレイヴン指揮官?

バンビナータは懸命に力強く頷いた。澄んだ青い瞳に微かな光が宿っている。その光はどこからきているのだろう

バンビナータは指揮官の名前と顔、そして声を覚えています

バンビナータは昨日のことを覚えていません。でも指揮官のことが印象に残っています

それはこれまでのこの夢の中で見たことのない光だった。その光の中に、時間を超えた何かが映し出されている

バンビナータは指揮官の名前から、昨日のことを思い出そうとしました、でも……思い出せませんでした

でも、バンビナータは日記を思い出しました。そして指揮官のメモを見つけました

ここに、明日……今日のことです。バンビナータに会いに来ると記録しています。だからバンビナータはずっとここで待っていました

バンビナータは自分が昨日書いたメモを見せてきた。彼女はそのメモを、昨日の日記に綴じていたのだ

メモの言葉は時間を超え、記憶の深いところで、誰にも消すことのできない約束として刻まれていた

了解しました、[player name]

バンビナータは毎日、この数日間の再会を記録した日記を最初の日から読み返している

だからある意味、彼女は毎日、再び自分と出会った日からの全てを追体験しているのだ

彼女はそれらの経験を選別することなく、まるごと全部記憶し直して、そして次に忘れるのを待つ

だから彼女はバネッサが自分をからかうことも巡回スタッフの質問も、改めて経験し直す

彼女が出来事の詳細を全て記録することのメリットは、自分が忘れがちな些細なことまで彼女が覚えてくれていること

ドミニク記念公園です……以前、ご主人様もバンビナータを連れてきてくれました

ここ以外、空中庭園の中で静かにリラックスできる場所はないからだろう。自分はバンビナータを連れて、昨日シーモンと一緒に休憩したドミニク記念公園にやってきた

子供たちは昨日の約束を果たし、今日も一緒に遊んでいる。遠くでは1組の夫婦が子供を連れてベンチでピクニックをしている

[player name]はなぜバンビナータをここに連れてきたのですか?バンビナータはよくわかりません

確かに、特別な理由はなかった。ただここなら安心できると思って、バンビナータを連れてきた

そうですか

それなら、バンビナータは指揮官の側にいます

バンビナータは静かに並んで座って、遠くの人々や公園の様子を眺めている

ドミニク記念公園は黄金時代以前の公園を再現したものだ。モニュメントの他、休憩できる場所がたくさんある。そのため、多くの人がここに安らぎを求めてやってくる

記念公園といっても、実際は普通の公園と変わらない。議会もわかっているのだろう。公園が生気を感じられず、暗い霊園のような場所なら、ドミニク自身も喜ばないことを

記念というのは重苦しい過去に縛られるのではなく、生きる者を前進させるためのものだ

後世に警告するための刻印であると同時に、後世を祝福する凝縮された願いでもある

傍らのバンビナータを仲間と思ったのか、子供たちがひとりの女の子をこちらに遣わしてきた

ニヤ

こんにちは、ニヤだよ、名前はなんていうの?

こんにちは?あれ……聞こえないの……

返事が返ってこないので、女の子は何かを間違えたと思ったのか、続けて話すかどうかをためらっている

こんにちは……何かご用ですか?

バンビナータは遠くを眺めて視線を戻し、彼女と同じような、可愛らしい洋服の女の子を見た

ニヤ

そこで遊んでるんだ、一緒に遊ばない?

遊ぶ?はい……

バンビナータはこちらに訊ねるような目線を向けた。ふいに間違いを犯すのではないかと恐れているようだ

答えとはいえない返答を聞いて、バンビナータはためらったあとに、ニアの遊びの誘いを断った

お誘いありがとうございます、でもバンビナータは一緒に遊べません……

ニヤ

そう……じゃあ、いいよ

でも、あなたは本当にカワイイね!みんなもそう言ってるよ!

かわいい、ですか?

ニヤは満面の笑みを見せた。彼女は横にいる自分のせいで、バンビナータが一緒に遊べないと思ったようで、立ち去り際にこっそりこちらに向かって変な顔をした

[player name]、かわいいですって、バンビナータはそう言われました……

あれはバンビナータのことを責めているのでしょうか?

褒める?でもバンビナータは何もしていません……彼女の誘いを断りました。なぜ褒められたのですか?

バンビナータは真剣な顔で訊いてくる。子供たちはもう遠くにいってしまった。空中低くに浮かぶ風船が、彼女らがその下で走り回っていることを物語っている

それは……指揮官が、バンビナータが遊んでいいと明確に同意しませんでしたから

そして、バンビナータは構造体で、彼女たちは……人間です

バンビナータが構造体に改造されていなかったら、彼女もあの子供たちのように楽しく暮らし、大人へと成長していったのだろうか?

しかし、そんな推測すらも難しい。彼女の青い瞳の奥にどのような過去があるのか、一切わからないのだ

時間と歴史に、仮定は存在しない。しかし、人は誰でも想像の誘惑にかられる

了解しました。バンビナータはここで待機します

バンビナータは頷いて、ベンチに座ったまま、静かに遠くの景色を見つめ続けた

子供たちが遊んでいる場所の近くで、通りかかる人に風船を無料配布するロボットがいる。子供たちが持っている風船もおそらく、そのロボットからもらったものだろう

こんにちは、無料で風船を差し上げます、いかがですか?

もちろんです、取り扱いにご注意ください

「いくつか」という意味を取り違えたようで、ロボットは大量の風船を差し出してきた

遊ぶ時は安全に注意してください。お友達にも分けてくださいね

大量の風船を持った首席。バネッサがこの場面を見たら、向こう1年はこのことをからかってくるだろう

子供たちでさえ、大人が大量の風船を持って公園を歩いているのを見て、不思議そうに後をついてきている

バンビナータの側に戻ると、子供たちはまた遠くで自分たちの遊びを始めた

あれ……[player name]?これはなんですか……

なぜこんなに大量の風船を持ってきたのですか……

なぜバンビナータにくれるのですか?

バンビナータはそのようなことを要求していません。そして……指揮官もそのような命令をされていません……

奇妙な理論ですね……

指揮官は……バンビナータに、この風船を受け取って欲しいのですか?

構造体でも、たとえ忘却の連鎖に陥り、過去の苦しみを失い、未来への希望がなかったとしても

彼女を縛るもの全てを取り除いて、復元したかりそめの時間の中では、彼女もあの子供たちと同じはずなのだ

バンビナータ

意味がわかりませんが……とても素敵ですね

手に持つとどんな感じでしょうか……バンビナータ……欲しいです

ひとりの子供とひとつの風船

綺麗な水色の風船が彼女の瞳に映っている。まるで触れると割れてしまう儚い泡のようだ

バンビナータ

ありがとうございます……ご主人様……

少女はとびっきりの優しい声で、側にいる人にお礼をした。しかし、その声は誰にも届いていない