Story Reader / Affection / バンジ·明察·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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バンジ·明察·その6

システム音声

救援が来るまでその場で待機してください

爆発音、侵蝕体の叫び声、あらゆる種類の声が頭の中に充満する。しびれる腕で銃を握りしめ、地獄から這い寄る悪魔のように襲ってくる侵蝕体に抵抗し続けていた

再び、自分で戦場に立っている。ただ独りで

システム音声

管制センターは任務H24-65に対して増援を提供します。救援対象は[player name]。安全区域内に侵蝕体信号が急速に近づいています、回避してください

ただ今回は、救援対象が自分になっていた

戦場でこんなのはよくあることだ。そんな状況にも少し疲れてきた

システム音声

救援は最短で6分後に到着します

???

ストライクホークのバンジ、救援場所に到着

後ろから先日以来、聞きなれた声が響いてきた。驚いて振り向くと、バンジが通信機に向かって話をしていた

まだグレイレイヴンと連絡は取れる?

上に向かおう

今回は寄り道じゃないよ

バンジは再び手元の銃に弾を装填した。彼の口調から眠気は微塵も感じられず、こちらに話しかけながら壁伝いに建物の高い所へと向かっていく

最後に残業させられたのはいつだろう……もう昔のことだ……ずいぶん昔

バンジの目前に遠い海の冷たさをはらむ一陣の風が吹き渡った。その風に彼は目を細め、普段なら気づかないような微細なものまでが視野の中で拡大された

空中には金色の塵が輝き、バンジの瞳に映る塵はまるで金の鱗だ――睫毛までもがピタリと静止しているようで体全体は動いている。彼は完璧でかつ精密な創造物だった

バンジにとって銃はまるで鍵のようなもの。彼が銃を持つと、完全に様子が一変した。彼が手術用のメスを持つ時の姿からは想像もできない

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「バン」という銃声のあと、耳元で鳥の鳴き声と翼の羽ばたく音が響いた

その弾は白と緑が交差する標的を打ち破り、エデンの訓練基地、更に狙撃者と侵蝕体の間の境界線をも飛び越えて、最終標的の機械電子脳に命中して空気を揺らす

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……37。片づけた

屋上で最後のひとりとなった侵蝕体も叫び声や戦術ピストル特有の銃声の中に倒れ、辺りは静けさを取り戻した

端末に目をやると、安全範囲内で最後に点滅していた侵蝕体の信号源も消滅していた

その瞬間、どっと脱力した。自分にとって通常と変わらない任務が、バンジがそこにいるせいで一気に通常ではなくなったように感じる

午後の風が戦火の匂いを乗せながらも優しく吹いてきて、周りの硝煙や混沌とした騒音も全て流されてゆく

動かないで。まず君の腕の手当だ

戦闘中、折れた鉄片が腕に刺さっていた。腕は何度も怪我をしているため、実際かなり辛い痛みだった

バンジが優しく腕をつかんだのにまかせて、手当されるがままにした。まるで魔法のように、一緒にいるだけで安心して弱さも包み隠さず見せてしまう

治療中のバンジは普段とはまるで違う様相だ。銃を持ち、集中している時にも似ているが、微妙に違う

彼の冷静な表情、スムーズな動きは、その中に横たわる深海のような過去があることをうかがわせた

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倒した数じゃないよ。これは……今まで僕が人を助けた回数

昔はいつも手術をしていて、その後は偵察任務。そしてついさっきは君だ

感情はいつも理性での判断に影響する

僕は何度訓練をしても……やはり感情の干渉から逃げられない

確かにそうだ……

バンジは医療装備をしまい、すぐ側でゴロンと横になり目を閉じた。口から出る言葉もやがて寝言のように変化していく

……でも今回は、少し……違うかな……

安全区域内の侵蝕体は、全て排除した……

……救援の本隊はあと12分で到着するよ……

……人間の運命のために戦うことに興味はないんだ

僕はただ……大切な人を癒したいだけ

――――

自分が言った最後の言葉は聞こえなかったようだった。バンジはすでに機体休眠状態になっていた

…………

完全に眠ってしまっている。腕のしびれをこらえて彼の頬を強く叩いてみたが、反応がなかった

彼の瞼がゆっくり閉じるのを見ていると、こんな時によく眠れるなと不思議に思いつつ、優しい気持ちにもなる。思わず壁に寄りかかると、張り詰めた気持ちがほぐれていった

麻酔のせいなのか、バンジの言葉に説得力があるのか、安心感と眠気に誘われていく……

周りの風は吹きやまないが、この瞬間は非常に穏やかだ

視界はどんよりとぼやけていたが、だんだんと物の形がはっきりしてきた

自室にいることはなんとなくわかった。少し頭を動かすと横のベッドに色とりどりの見舞い品やフルーツバスケット等が積まれているのが見える

た、隊長!指揮官が目を覚ました!

それからすぐに耳に響く叫び声がして、視界を全て塞ぐほどに顔が近づいてきた

あー、良かった!

それが……残念なんだけど、英雄バンジはこないだの任務で無念の戦死を……

すぐ側の見舞い品の山から突然一本の手が伸び、カムイに向かってリンゴを投げつけた

この嘘つきめ

うっわ!死体が起き上がった!ゾンビじゃん!

カムイは飛び上がり、投げつけられたリンゴを器用な姿勢でキャッチすると、さっそくムシャムシャとかじり始めた

……シャリシャリ……ルシアたちがふたりが一緒にぐっすり寝ているところを見つけたからだよ!シャクシャク……

バンジがいたんで、俺と隊長が指揮官のお見舞いに来れたんだ

でもバンジが他の人と仲良くしてるなんて、本当に良かったよ!

バンジ、指揮官のベッドがめっちゃ快適だって。俺にも試させてよ

……うぇぇ、カムイ、僕の体の上に乗るなよ。下りろ……

ふたりともいい加減にしろ。グレイレイヴンの皆がそろそろ帰投する。指揮官がお休みになれないじゃないか

カムイが来る前まで、ゆっくり休めてましたよ。お前が出ていけば万事解決だよ、カムイ

……すみません、指揮官。本来バンジはこんなに馴れ馴れしくないんですが

……ここは指揮官のお部屋だぞ……

押さえつけてやる!

……いい加減にしろよ

了解っ!

……こんなの何でもないよ、どいて……よ……ふうぅ……

やったぁ!

……指揮官!!

バンジは抵抗すらせずまた寝ようとしている。いつも穏やかな顔が、カムイの重い装甲型機体に押さえつけられ苦しそうに歪むのを見て、思わず吹き出してしまった

「…………人間の運命のために戦うことに興味はないんだ」

「うん」

「僕はただ……大切な人を癒したいだけなんだ」

「……知ってるよ」

「人類の運命のために戦うにしても、本当に大切な人を癒すためだとしても……」

「すごく頑張ってるよ」