再び目覚めた時には空中庭園の医療室にいた。任務中、救助を待つ間に眠ったことが信じられない。支援小隊によると、彼らが到着した時バンジは起きていたらしい
とにかく、大した問題はありません。傷は濡らさないようにしてくださいね
スターオブライフの制服を着た医療スタッフが空中に投影されたカルテを見ながら、真剣な表情で言ってくる
ああ……グレイレイヴン?聞いたことはありますが、どの隊員なのかはちょっと……
でもあなたが目を覚ます前、確かに何人かが来ましたよ。3人一緒に来た隊員のことでしょうか?
ええ、彼らはあなたが目覚める前に来ましたが、臨時の任務があったようで、帰っていきました
あと、ひとりで来た男性構造体が……
さあ、そこまでは……
彼はただしばらくここに座って……たぶん5、6分程度でしょうか
注意事項は送信しました。他に問題がなければ退院できますよ
医師はその言葉を残して、すぐに行ってしまった
廊下には多くの医療スタッフと構造体が行き来しており、皆がそれぞれ忙しそうだ
彼らはすでに犠牲になってしまった
突然すぐそばで声が聞こえた
そこにいたのは乱れた長い髪を頭の後ろで結んだ、暗い表情の構造体だった。質問してもこちらをちらっと見ただけで何も言わず、廊下の奥に向かって歩いて行く
その一瞬に、彼女の胸のタグに書かれている名前が見えた
パルマ……彼らが言っていたあの隊員のことかも
どこか近くの方から子どもたちの騒ぎ声が聞こえ、足下にサッカーボールが転がってきた
お~い
男の子は手を振って、ボールを投げ返してくれと合図をしている
男の子はボールを受け取って蹴ったが、ゴールポストに弾かれた。他の子が楽しそうに笑い、本人はペロッと舌を出すと、他の子と交替してこちらに走って来た
ありがとうございました
ここに何をしに来たの?見かけない人だね
どうしてもバンジに会いたくて。カムイに聞いたら学校区域のどこかで休憩してるって言うから
どんな人?
まったく期待せずに相手の質問に答えてみた
え?バンジ兄ちゃんのこと?
バンジ兄ちゃんは僕たちの学校の空き教室をいつも貸し切りにしているよ!
たまに金髪のお兄ちゃんが探しに来るんだ。ボールを拾ってくれたから教えてあげるね……2階廊下の2-31Aにいるよ
子どもはいたずらっぽくウインクしてみせた
バンジ兄ちゃんに僕が言ったとか絶対に言わないでよ――
ドアを開けると教室の片隅にひとりの人影があった
バンジは机を寄せ集めた「ベッド」の上に横たわっていた。手足を丸めながら寝る姿はなんだか哀れに見える
バンジが横になっている机には「バンジ休憩室」とメモが貼られていた。字から見ると子どもたちが書いたものらしい
外からは子どもたちの騒ぎ声が響く中、更にこんな固い机の上でも眠れるとは
2度目
僕の寝場所に入ってくるの、2度目だよ
声は聞こえるが顔が見えないのはやはり話づらくて、思わずズカズカと部屋の中に入って行ってしまった
窓からは外の景色が見え、子どもたちはまだサッカーをしたり、笑いながら話している。この活気に満ちた眺めから目が離せないでいた
遠く離れたあの場所での戦争は別の世界のことのようだ
でも……
……騒がしい?うーん、僕は気にならないけど……
ああ、いや……君がうるさいってわけじゃないんだ
ただ君に話しかけたかっただけ
ふわぁあ……これ、バンジ特製飴
試してみる?
「求められれば必ず応じる願望機」……カムイはどこまで話したんだろ、ふわぁあ……
突然声が近づいて、いつの間にか起き上がったバンジが壁に寄りかかり、窓の外をじっと見つめている
彼の側には自分がお礼にと送った枕が置いてあった。まさかここまで持ち歩いているとは
気にしないでよ
エデンの人工太陽光が窓から降り注ぎ、金属製の壁には淡く光が浮かんでいる
足を組んで机の上に座るバンジの短い銀色の髪には寝ぐせがついている。その目つきは物憂げで、夕暮れの雨に打たれている鷹のようだ
ここにいると研修生の頃を思い出すんだ。あの頃は本当に忙しくて……成績を取るために、毎日毎晩勉強漬けだった
極限まで疲れちゃって、倒れるように机に突っ伏して寝る時だけが幸せだったな
低くぼそぼそと話すバンジの言葉は寝言のようで、風にかき消されてしまいそうだった
……うん……確かに気分は良くないかも
……ふゎぁあ、僕の一番好きな寝場所がとられたから……
グレイレイヴンが、ある任務のために会議室で戦術会議をしてるらしくて……
ああ、あの快適な会議室のチェア……
グレイレイヴン指揮官……君は指揮官だから、多くの戦闘を経験しただろ?
君は……戦争の意義はなんだと思う?
そんな壮大な夢を目標にして、同時に周りの人も守る……
それほんと?なら僕もそれに含まれるよね、そうだろ?
バンジは自分を指さしながら、こちらに倒れかかってきた
見張りを頼むよ、グレイレイヴン指揮官
カムイが来たら……はあぁ……なんとしても止めておいて……
窓の外で歓声をあげている子どもたちからは、太陽よりも熱いエネルギーが伝わってくる
グラウンドを走り回っていたあの男の子がこちらに気づき、興奮した様子で手を振ってきた
……そうか、それが意義か
バンジは頭を両腕の間にうずめていたので、声がこもって聞こえる
……あの事件を経験して、君はクロム隊長のようなタイプになると思ってたよ
……いい意味で言ったんだけど
……でも君と接してみたら、なんだか……カムイに似ているような気もする
今?……う~ん……
……君は……君かな
バンジの夢の中のつぶやきのような声に、なぜか自分まで安心感で満たされていった