目を開くと……見覚えのない景色が広がっていた
おそらくはゴミ処理場の類だろう。ガソリン臭と腐敗臭が充満し、鼻が曲がってしまいそうだ
薄暗い照明に照らされたゴミの山も見える。近づいてみると、それは全て構造体の残骸だった
すると、処理場の反対側の方から微かな声が聞こえた。とりあえず声の方向へと向かう
声の正体ははたしてルナだった。侵蝕体の残骸の中に立つルナが、見知らぬ女性と向かい合っていた
お姉ちゃん……
ルナは震える声で女性に呼びかけた
ふん、もういいっつの!お前だって気色悪い侵蝕体だろうが!
ルナの目の前にいるのは、同じく構造体の女性だった。女性構造体は大声でがなっている
お姉ちゃんが侵蝕体を倒してって言ったから、全部やっつけたんだよ……?どうしてそんな目でルナを見るの……
ルナは震えながら、構造体の手を取ろうとした
意識海の中の時間はどんどん遡っている。昔の記憶であるほど、それは心の奥深くに隠された傷跡であるはずだ。ルナの意識海深層にかなり近づいているのは間違いない
うるさい!たまたまブサイクなぬいぐるみを拾っただけで、侵蝕体に懐かれてたまるかっつうの!お前みたいな妹がいてたまるかっ!
侵蝕体!侵蝕体が!死ねよ!あたしは空中庭園に行くんだ!お前みたいな薄汚いクソはとっとと死ね!!
女性構造体がルナに向かって発砲した
ルナは悲嘆に暮れて立ち尽くしている――
反射的にルナを突き飛ばす。ルナはふらついて持っていたナイフを取り落とすと、正気に戻った
私を止めるの?
女性構造体は恐ろしい形相でこちらを睨んでいた
おい、それはクソッタレの侵蝕体だぞ!今すぐぶっ殺すからそこをどけよ!!
そいつさえ殺せば、あたしは空中庭園に行けるんだ!
冗談じゃない!適当なこと言って、あたしを殺そうっての!?なら殺してみろよ!殺してみろよ!!!
女性構造体は「自分を殺せ」とルナを挑発している。…………これはおそらく、極めて重要で、二度と取り返しのつかない選択だ
ルナは無表情でナイフを拾い上げると、女性構造体に向かった
こ……殺す……お姉ちゃん……い、いや……
さぁ、早く!あたしを殺せば、あんたは昇格者だ!何もかもを意のままに操れる!
憤怒に駆られて女性構造体の胸ぐらを思いっきりつかむ
……クソ……クソッ!気色悪い侵蝕体がッ!
女性構造体は怒り狂ってのたうち回ったあと、肩をいからせて立ち去っていった
ふざけないで……なんで私を止めたのよ!
ルナの顔色は真っ青だった。それでも、先ほどよりは冷静さを取り戻している
出ていって
私の夢から出ていって!
ルナはうつむいて両手を見た。ルナの手は、黒い泥水で汚れていた
……わからないの。真実の記憶の中で、この時本当は何が起きたのか
あなたはなぜこんなことばかりするの?
傲慢ね……!
ルナは唇を強く噛み、全身を震わせながら両手を服にこすりつけ、汚れを落とした
(ポケットのハンカチを手渡す)
…………
絶対に安全な場所……
私……
ルナは糸が切れた人形のように突然倒れた
慌てて胸に抱きとめようとしたその時、世界は再び回転した