Story Reader / Affection / ロゼッタ·極鋒·その2 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ロゼッタ·極鋒·その6

撤退ポイントであるセーフハウスはすぐ目の前に見えている。だが指揮官はブリザードの中へと引き返すことを選んだ

足下の雪が踏まれては掘り返される。自分の足跡をたどってきた道を戻ろうとした。しかし足跡の大半は風雪に埋もれ、変数の欠けた難解な計算式のようで解までたどり着けない

やがて、指揮官や構造体のものより遥かに深く沈み込んだ足跡を発見した――それは、金属製の重量を持つ機体だけが残せるもの。執拗にふたりを追いかけてきた追っ手の足跡だ

とてつもない不安が指揮官の心を蝕んでいく

心配と焦燥が逆風の中を走ろうとする背中を乱暴に押した。しかし、もはや「走る」余力など残っていない。指揮官はそれでも必死に手足を動かし、少しでも速く進もうと試みる

一方、ロゼッタは自分を襲う雪と苦闘を続けていた

吹雪は死者たちよりも強引な拒絶を許さぬやり方で、ロゼッタを引き留めようとしていた。それはすでに背後に散らばる残骸や屍とともに、彼女をも白い墓場へと沈めようとしている

風雪が足を払い、冷たい雪飛沫を叩きつける。凍てつく温度で彼女のこわばった四肢を更に遅鈍にさせようとする

まるで忍耐強い墓掘りのようだった。ゆっくりと氷雪という名の強固な死装束をロゼッタの体に纏わせていく……あとはもう、時間の問題でしかなかった

撤退……ポイント……

もうまともに言葉を紡げない。確かな方角などとうに不明、視界は混沌としていたが、どうせ前を見て進むしかない。その前こそが[player name]と約束した撤退ポイントだ

意識の霞の向こうで声が聞こえたような気がした。いるはずのない人間の叫び声を。それは風雪に噛み砕かれた子守歌のようで、彼女を果てしない夜の深淵へと誘惑してくる

彼女は薄暗く深い森の中を、足を引きずりながら進んでいた。幾重にも重なる樹冠が巨大な網のように広がり、陽光を遮断している。まるで樹木に支配された暗黒の王国のようだ

ここは幼い頃、ヒョードルと何度も訪れた森。もはや迷うはずもないほどに馴染み深い場所。彼女はこの森の道を明確に把握している

幾度となく折れ曲がって進み、森の出口に近付くと、外から降り注ぐ光を感じた。彼女は自身の意識海を探り、森の向こう側の世界を思い出そうとした……

しかし、何があったのだろうか?森の出口の陽光はあまりに眩しく、一瞬、彼女を放心させた

違う、ここは……

ゆりかごのように優しい港、見慣れた小さな町、海辺を渡る風。ツンドラの隙間から恥じらうように顔を覗かせる数輪の野花が、極地の寒気を帯びた春風に揺れている

そこは、彼女が出発した場所。全ての死者に別れを告げたロゼッタが、再び森を抜けてたどり着いたのは、元の場所だった

私、道に迷ってる……?

彼女は覚えている。森を出る前、幼い頃におじいちゃんが目印をつけた木を確認した。その木は「森の反対側」であることを意味していた

町中では、葬列が再び墓地へと向かっていた。死者たちは変わらず、悲しげな挽歌を低い声で歌っている

あれは、誰のお葬式?

彼女はひとり呟いた

あなたに決まってる

「死にぞこない」としての身分を宣告したもうひとりの自分が再び現れた。ふたりのロゼッタは並んで、長い列が墓地へと入っていくのを見つめた。再び、哭声が響く

自分の葬式なのに、あそこにいないの?

あまりにも多くの疑問がロゼッタの心に渦巻く。目の前のもうひとりの自分の存在など、それらの前では些末なことに思えた

私の……葬式?

ロゼッタの目には困惑が浮かんでいた

死者の国があなたを受け入れようとしている。それが何を意味するか、わかる?

「死」はすでに、指先に触れている……

私が、死にかけているってこと?

もうひとりの自分は肯定も否定もせず、ただ黙っていた。その沈黙こそが、緻密で巧みな答えだった

じゃあ……あなたは?

私は、死につつあるあなた

不意に、ロゼッタは自分を囲んで泣いている人々に気付いた。ヒョードル、リーシャ、そして顔がぼやけた両親までも……

しかし、そこに[player name]の姿だけはなかった

言葉が棺の蓋を押し閉める。暗闇が再び四方八方から押し寄せてくる……

深い森の枝には溶け残った雪が積もっている。寒さを恐れぬ数羽の鳥が巣から飛び出し、軽やかに枝から枝へと飛び渡った

震える小枝から粉雪がさらさらと舞い落ちる

ロゼッタはまたしても、森の中にいた

???

おじいちゃん、今日は何を狩るの?

懐かしい子供の声がロゼッタの思考を呼び戻した。彼女は慣れた足取りで茂みを抜け、雪と木立の影の間に、幼い頃の自分を連れたヒョードルの姿を見た

幼い自分が狩りを教わっている

この季節なら、鹿がちょうどいいだろう

おじいちゃん、どっちに行けばいい?

鹿の気配を感じるんだ

子供の感覚は特に鋭敏であるのか、幼いロゼッタは何かを察知して、ある方向を指差した

おじいちゃん、あっちに何かいるかも?

一拍遅れて、ヒョードルは幼いロゼッタの指差す方を見た。素早く物陰に身を隠したロゼッタは、貫くような視線が自分の視線と真正面からぶつかるのを感じた

わからんな、多分……鹿か?

わぁ、鹿!

鹿という言葉を聞いた幼いロゼッタは弓を構え、身を隠す相手に向けて放とうとした。だが、老人の大きな掌がそれを制した

待ちなさい。まだその時ではない。お前が生死と向き合うには、まだ早すぎる……

ヒョードルに諭され、幼いロゼッタは不満げに弓を下ろした。そして、老人と少女の姿は再び深い森へと消えていく

森の奥へ消える直前、ヒョードルは隠れているロゼッタをちらりと見やった。ついてこいと合図するかのように

風雪の忍耐力は実に恐ろしい。だがしかし、この構造体の忍耐力もまた、恐るべきものだった

意識海の警報は脳内でループするホワイトノイズと化していた。混乱、睡魔、疲労、そして激痛がもたらすあらゆる不快感が体の隅々から押し寄せてくる

はぁ……はぁ……

彼女はもう言葉を発したりしない。いや、発する余裕などなかった。この窒息しそうな倦怠に抗うために、彼女は全身の力を振り絞って呼吸に専念した

あれほど荒れ狂っていたブリザードは力尽きたかのように、天地を攪乱させていた勢いを弱め始めた

風雪に曝されながら、指揮官は広大な雪原を苦労しながら進み、執念深くロゼッタを探し続けていた

解くべき式は以前より難易度が下がっている。ただ、導き出された解が余計に不安を煽った

機械体の追跡者たちの足跡が、1カ所へと集結しているようにしか見えない

指揮官がついに、苦労して探し集めた手がかりの報酬を得た――ある機械体の残骸だ

更なる追跡者の注意を引いてしまう可能性など気にしていられない。指揮官は吹雪の中で大声で叫んだ。しかし、その声は狂暴な寒風にさらわれ、激しく雪原に叩きつけられる

([player name]に……返事……しないと)

記憶の中であの人の呼び声を聞いたのは、どのくらい前のことだっただろうか?1日前だったのかもしれないし、ほんの1分前だったのかもしれない

この瞬間の冷静さを保つこと。それが彼女にできる精一杯だった

目の前の世界は狭く混沌として、ただ視覚神経を焼き尽くすような白が、容赦なく主導権を主張している

彼女の数十m先、視界の端に戦闘中、敵が放棄した銃器が転がっているのが映った

彼女は進路を変えた。言うことを聞かない重い体を引きずり、雪の上に歪な「7」の字を描きながら、そこへ向かった

深い森の中、樹木が織りなす薄暗い回廊をいくつも抜ける

ロゼッタは再び、幼き日の自分に追いついた

ヒョードルの姿はどこにもない。幼いロゼッタはひとり、雪山の陰に身を潜め、弓矢を構えて獲物と対峙していた

それは、極彩色のたくましい雄鹿だった。ロゼッタが死者の国で幾度となく遭遇し、決して触れることの叶わなかったあの鹿だ

今度こそ必ず……

鹿は明らかにロゼッタに気付いていた。その瞳は己に狙いを定めている幼い彼女を静かに見越し、彼女が隠れている方角を冷静に見つめ返していた

雄鹿の瞳の中で、現在のロゼッタと幼いロゼッタの視線が交差する

当たれっ!

子供の無邪気な声と、矢が放たれる音が同時に響いた

矢は空を切り、鹿の瞳はその軌跡を鮮明に映した。幼いロゼッタの力が足りなかったのか、矢は刺さることなくただ皮毛を掠め、ひと筋の傷を残しただけに終わった

致命傷に至らなかった一撃は、かえって鹿の敵意を煽った。加えて、幼さゆえの無鉄砲さが仇となり、身を乗り出して居場所を曝してしまっている。鹿は即座に警戒態勢に入った

過去の自分の無謀な行いに、暗がりに潜むロゼッタの心臓が早鐘を打つ。彼女は瞬時に弓を構え、今にも襲いかかろうとする雄鹿に狙いを定めた

しかしその瞬間、誰かが彼女の弓を制した

手元がぶれてるぞ!

お爺ちゃん?

老人は焦りと驚きで緩みかけた彼女の手をしっかりと握った

ロゼッタ、お前はまだ、こちらに来ては……

その言葉に続きはなかった。老人の表情は長い極地での生活のため、氷雪のように硬く彫り固めている。だがロゼッタは、その顔の奥底に深く埋もれた悲哀を垣間見た気がした

お爺ちゃん、あそこ……

ロゼッタは視線で、対峙する子供と野獣を示した。しかし老人は黙認するかのように、ロゼッタの弓を押さえ、その照準を強引に標的から逸らさせた

ロゼッタ……お前の過去はあまりに重く、今にもお前を押し潰そうとしている

老人の顔に悲痛な色が浮かぶ

ロゼッタ、わしらのような死んだ者になど縛られるな……

悔恨と未練の連鎖に囚われるな……

お前は死者ではない。すぎ去った日々から放たれる矢に追われてはいけない……

ロゼッタは思い出す。幼い頃、おじいちゃんが初めて弓の引き方を教えてくれた日のことを。当時の記憶が鮮明に蘇る

――!

弓弦が震え、矢の鋭い風切り音が、あの日のように再現された

息を吸う度灼熱の痛みが走る。冷たい空気を吸うと無数の微細な氷の針に肺がかき回されるような感覚が襲う

機体の傷口はとうに凍りつき感覚を失っていた。だがそれでも、体を動かす度に一時的に凍結されていた激痛が目を覚ます

どれほど進んだのかはわからない。もう苦痛さえも輪郭を失い始めていた

視界を埋め尽くしていた白が、次第に黒に染まっていく。意識海の損傷がロゼッタの視覚までもを奪おうとしていた

だが、その不確かな雪の感触の中で、彼女はついに目的の物に触れた……敵が遺棄した銃だ

指をトリガーにかける。銃声を頼りに誰かがやってくるだろう。それが指揮官なのか、追っ手なのかはわからない

バーンッ――!

重苦しい銃声が、雪の帳を突き破って鳴り響く

そう遠くない場所にいた指揮官は、弱まりつつある吹雪の中でその銃声を確かに捉えた

そして即座に銃声のした方角へと駆け出す

狙いを逸らされた矢は、唸りを上げて深い森の奥へと消えていった

子供と対峙していた鹿は、その的外れな矢を放ったロゼッタを一瞥すると、踵を返して森の奥へと駆けた

ヒョードル

走れ!ロゼッタ!

ロゼッタは傍らの老人を見つめた

ヒョードル

お前には、外にまだ大切な人がいるんだろう

お前はわしら死者のために、あまりに多くのものをすり減らしてきた。自分自身まで、ここに置いていくことはない

さあ、早く帰るんだ……

ヒョードル

ほら、あの人あの人が迎えに来たぞ

ロゼッタ

お爺ちゃん…………

彼女はこんなにも感情的な祖父の表情を見たことがなかった

更に驚くべきことに、森中の鹿があの不思議な雄鹿の後を追って走り出した。まるで彼女に道を示すかのように

ヒョードル

帰るんだ……お前が大切に想う人のために。お前が守るべき生者のために……

ロゼッタ!走れ!

彼女はかつて祖父と冗談で交わした言葉を実現させた。今の彼女は、鹿よりも速く駆けている

彼女は全力で走った。鹿の群れを追い越し、森を駆け抜け、極地さえも置き去りにして……

虚妄の罪悪感も、亡き者たちへの悔恨も、もはや彼女には追いつけない。地平線が彼女の足下でどこまでも広がっていく

そして光が集まるその場所で、死者の国で何度もロゼッタを導いてくれたあの極彩色の鹿が流れる光を踏みしめながら、彼女に向かって駆け寄ってくるのが見えた

ロゼッタは果てしない暗闇の中を力の限り走った。たとえそこに方向という考えなどなくとも、ただひたすらに前に向かって走り続けた

呼吸など必要のない場所で疲労困憊となり、無力な喘鳴を漏らす

そして、長く苦しい孤独な疾走の果てに、彼女は再び朧げな声を聞いた

瞬間、世界中の音が再び響き始めた。新生児が産声を上げる時のように、彼女は再び、巨大で無秩序な喧騒に包まれた

ロゼッタ

や……っと、会えた……

意識を振り絞り、目を開ける。目に映る指揮官は滑稽なほど不格好な姿で自分に向かって駆け寄ってきてくれた

最初に触れたのは、あの懐かしく力強い手

そして次の瞬間には、少し体温の下がった指揮官の腕の中に抱かれていた

ロゼッタ

しん……じて……

ロゼッタ

[player name]のこと……信じてた……

苦難の旅路は無駄ではなかった。彼女はようやく待ち望んだ瞬間にたどり着いたのだ。指揮官の腕の中、彼女は全ての強がりと意地を捨てて疲労が自身を呑み込むのに任せた