Story Reader / Affection / ヴィラ·灼魍·その2 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ヴィラ·灼魍·その6

勇者は呪いの赤い薔薇を持って、魔王の大広間に向かい、偽りの想いを打ち明けて魔王の信頼と好感度を勝ち取った

その後、勇者はとっさの判断で魔王でも解けない呪いを誘き寄せ、跡形もなく引き裂いた

データフローは滑らかだったが、時折不明な文字が飛び出しては無作為に組み合わさり、またフローへと戻っていった

ハムレット

……データの改造を検知

シナリオプログラムはしばらく沈黙したあと、新たな文章を打ち出した

魔王が消え去る前に、勇者は城の大広間へ戻り、魔王に「一緒に踊ろう」と誘った

0時まで踊り、魔王が影に消え去ろうとするその瞬間――勇者もまた影に足を踏み入れた

天命を帯び、百毒に侵されぬ体質を持つ勇者は、影を掴むやいなや跡形もなく引き裂いた

ハムレット

データ訓練、完了

プロセス終了、テストID解除――

解除、解除、解除、テスト、テストテスト……%*&*(%)/~*@)@#!――#

影を引き裂いた人間は歯を食いしばり、ハムレットの混乱したデータフローをぎゅっと「掴んだ」

ハムレット

#*~&¥<*!)@*/*/!@{!#!#¥~#@*#)――

??

……指……起きて……

人間の意識は果てしない虚空を漂い、耳には舞曲の余韻と外から呼びかける声が響いている

しかし、人間はそれらの音を気にかける様子はなかった。今はこの狂った自己修正システムを壊したいだけだった

??

……指揮官……!

どうしよう、いくら呼んでも反応がない……

???

緊急救命装置を使おう!確か……

ドンッ

人間は胸を押さえて、テストカプセルから飛び上がった

目を開けると、アイラとレオニーが心配そうな顔で覗き込んでいた

よかった!指揮官が起きたわ!

さっきまで、すごく危険な状態だったのよ。スターオブライフの救急もまだ来てないし……だから、とりあえずAEDを使ったの!

今はどう?はい、瞬きして。手を上げて……これは何本?

アイラの仕草を見ながら、人間はまだ言葉をまとめられないまま必死に手を上げ、大丈夫だと示すことしかできなかった

ふぅ……びっくりした。ハムレットが一時的に外部から操作されたみたいで、あなたともうひとりの被験者の権限がロックされちゃったの

命に関わるところだったのよ。実験事故が起きなくて本当によかった

被験者に大きな問題がないことを確認したあと、アイラとレオニーは1歩近寄り、体につけたバーチャルリンク装置を取り外した

両足が再び「現実」の床を踏みしめた瞬間、逆に少し現実じゃないような感覚に襲われる

手を上げ、何度も力強く握りしめ、筋肉から伝わる微かな反応と抵抗の中に、自分のいる「現実」を再確認した

まだどこか痛んだりする?スターオブライフのVIP病室が空いてるわ。ベッドを確保してあるの

レオニーは手の中の携帯端末を見て、慣れた手つきでコントロールパネルを呼び出し、データを確認し始めた

うん、大丈夫そう。関連データは全部順調に収集できてる。でも、こんな危険な状況下でデータを収集したと思うと、ちょっと……

これはテスト史上の最悪のトラブルね。「ハムレット」の全テストを停止して、今回のデータをフィードバックして、徹底的な調査と改善をするわ

強烈なデータの波形がたくさん……被験者のシナリオに関する感情のショックがとても豊かで、すごく貴重なサンプルね

約束します!絶対に起こしません!

レオニーは敬礼をすると、すぐに駆け出した

問題の起きたモジュールを見つけたかも。指揮官の努力を無駄しないように、すぐに追跡するわ!アイラは残りの意見のフィードバックをお願いね~!

レオニーは風のように部屋を去り、アイラだけが取り残された

アイラは手の中の端末をいじりながら、少し緊張しているようだった

あの、指揮官……もう少しシナリオ面のフィードバックをもらえる?アンケートも用意してあるの!

どんな意見であっても、芸術協会は真摯に受け止めるから!

人間はアイラから渡された端末とタッチペンを受け取り、びっしりと用意されたアンケートに目を通した

どんな「フィードバック」を書くべきだろうか?タッチペンを握ったまま、何を書けばいいのか途方に暮れた

このシナリオを体験したあと……気持ちは、最初と大きく変わっていた

その時――ドアの開く音によって思考が中断させられると、ある人影が部屋に入ってきた

[player name]?まさか、あなたもここに隠れて仕事をサボってたの?

来訪者の赤い髪と新しい塗装を見て、一瞬恍惚とした気分になった

浮遊する思考を抑えることができず、まるで芸術協会の部屋にいるのではなく、あの古城に戻ったかのようだった

……目玉も動かせないの?修理してあげましょうか?

ヴィラはドア枠に寄りかかり、目の前の人間の顔を見て意味深な微笑みを浮かべた

もうすぐ任務よ。グレイレイヴン指揮官の自由時間はもう終わり。セリカから、あなたの行方がわからないから探してほしいと頼まれたの

絶対にここにいると思ったわ。やっぱり私の「捜査」からは逃げられないわね

保全エリアの定例調査と周辺整理よ。名高い「勇者」にとっては退屈かしら?

ちなみに、今回のあなたのパートナーはこの私よ

難易度の高い任務じゃないからつまらないけど……あなたを連れていれば、他の楽しみを見つけられるかもね

ヴィラ

屋根裏部屋に引き留めておけば……全てが終わる前に、もう少し楽しめたかもしれないのに

ぼんやりと、懐かしいセリフがまた心を揺さぶった。一瞬、現実に戻ったのか、それともまだあのバーチャルな城にいるのかわからなくなった

城の中での姿と、目の前のヴィラが徐々に重なり合う

いつまでぼーっとしてるつもり?さっさと任務の準備をしなさいよ。置いていくわよ

一瞬の空想をヴィラに引き戻された。それ以上話す間もなく、先に立ち去るしかなかった

人間は急いで芸術協会をあとにして、これから始まる新たな任務の準備を始めた

――その背後で、赤髪の構造体が去りゆく背中を見つめ、考え深げな表情を浮かべていることに気付かないまま

シナリオは明らかに私が用意した『勇者と魔王城』だったのに、どうしてあんなメチャクチャに……?

……責任追及はまた別の日にするわ。アイラ、私ももう行くから。前に約束した通り、もうひとりの被験者が私だということは指揮官に言わないで頂戴

ええ、もちろん

それから3カ月分のオペラチケットもね。約束でしょ?

ヴィラとの地上任務は無事に終わった。彼女が言っていたように単純な任務だった

ヴィラが同行していれば、何をするにしても安心だ。今回は掠り傷ひとつ負うことなく任務を完遂できた

ついに全てが終わったこの平凡な午後――久しぶりに自由な時間を楽しむことができる

セリカによると、今日は空中庭園で舞踏会が開かれるらしい。スタッフも構造体も自由に参加できるという

舞踏会は夕方に幕を開け、夜通し続くとか

昼に、廊下で多くのスタッフが舞踏会での衣装について話し合ったり、ダンスパートナーを誘う計画を立てているのを見かけた

しかしなぜか今日に限っては、その熱気に溶け込みたいとは思えなかった

ソファにもたれかかり、暖かいブランケットに包まれながら、少し黄ばんだ紙の本をパラパラと適当に捲る

革の表紙は少し古びていたが、箔押しされた筆記体の『勇者と魔王城』という文字はまだ輝いていた

図書館でこの本を借りた時の、司書の少し驚いた表情を覚えている

この本を借りられるのですか?

『勇者と魔王城』……実を言うと、この本は図書館に収蔵されて以来、ほとんど借りられたことがないんです

グレイレイヴン指揮官がお借りになるなんて、珍しいですね……

以前「ハムレット」のプラグインモジュールが暴走して以来、あの勇者をテーマにした本を探していた。本来はどんなストーリーなのかを知りたかったのだ

なるほど……それなら、この伝説の物語はいい選択ですね

司書は満面の笑みで本を差し出した

姉妹編もありますが、一緒に借りられますか?

作者が大きな変化を経験したあと「心機一転」して再構成した物語だそうです

『転生――勇者、世界を支配する』

では『勇者と魔王城』だけで――あら?珍しいこともあるものですね。今週この本を借りるのは、あなたでふたり目です

貸出記録を確認しますね。えっと、もうひとりは……

恐らくここ数日の神経疲労のせいだろう。人間は少し黄ばんだ紙を手に、温かな眠気に身を委ねていった

体はまるで記憶の中にある小道をたどるように進み、魔王城の門の前に戻っていった

空一面の吹雪が城を覆い、視界は一面の白に染まっている

大広間の扉を開けると床一面の薔薇の花びらが舞い上がり、自分に寄り添うように漂って、微かな香りを放っていた

それから薔薇の香りがますます濃くなり、花びら特有の柔らかな感触が頬を優しくなでた

よく眠ってるわね……

こんなに油断した表情、珍しいじゃない

もしかして……首に刃を当てても気付かないかしら?

顔に何かが触れている感覚があったが、冷たい刃物ではなく、むしろ柔らかな質感だった

触られた感覚が頬から滑り落ち、首筋へと優しく移動する。微かな心地よさを感じた

目を開けると――真っ赤な薔薇と、その薔薇よりも鮮やかな赤髪の持ち主が目に入った

もう目が覚めたの?

残念ね。何かしてあげようと思ったのに

アハ、「寝てないよ」ですって?自分の疲れた声を聞いてみなさいよ。明らかにぐっすり眠ってたじゃない

なぜこのタイミングで休憩室を訪れたのかを訊きたかったが、どう言葉にすればいいのか一瞬迷った

幸いにも、ヴィラはすでにこちらの表情から考えを読み取っていたようだ

どうしてグレイレイヴンの休憩室に来たのか訊きたそうね?私が来るのはイヤ?

しばらくずっと忙しかったから、グレイレイヴン指揮官の作戦パートナーとして、あなたを「お見舞い」しにきたのよ

でも今回は「差し入れ」がないから、温室に行ってこの花をもらってきたの

ヴィラは手に持っていた薔薇をテーブルの上のコップに挿した。花びらにはまだキラキラと宝石のような露が輝いている

あら?何の本を読んでるの?

興味を示したヴィラが、ぐっと近寄ってきた。柔らかな赤髪が頬をなで、毛先から爽やかな香りが漂う

『勇者と魔王城』をブランケットの中に隠す間もなく、ヴィラはこちらの手首をしっかりと掴み、開いたままの本を奪った

自分のことを過大評価しすぎじゃない?そんな子供騙しみたいな隠し事を私が見逃すとでも?

ああ……私に隠し事をするとどうなるのか教えてほしいの?[player name]?

彼女の顔が更に近付き、捉えどころのない笑みを浮かべた目で見つめてきた

すると彼女は片手を上げ、こちらの額に向けて銃を撃つような仕草をした

捕まえた

今、あなたは私の手の中にある戦·利·品よ

アハ……囚われの身として、私の遊び相手になるのよ。覚悟しておいて

彼女は片手でこちらの顎を掴み、強引に持ち上げ、彼女の瞳を直視させた

彼女のもう一方の手は『勇者と魔王城』を持っている。開かれたページは自分がまだ読んでいないシーンだった

彼女は顎を掴んでいた手の力を緩め、今度は指先でこちらの頬を優しくなでた

グレイレイヴン指揮官にも、こんな子供っぽい一面があるのね。意外だわ、こんな幼稚な物語を読むなんて

へぇ?どんな暇つぶしがあなたを眠らせるほど夢中にさせるのか、知りたいわね

ほら、私に読んで聞かせて

ヴィラは手を離すと、ソファの上に横に並んで寝転んだ――こちらをソファの隅に強引に押しやって

なぜヴィラが興味を持ったのかはわからないが、この彼女の要望が自分の琴線に触れた

時計の針が静かに進み、人工太陽が沈んでゆく――もう夕方だ

遠くから賑やかな笑い声と音楽が聞こえてくる。舞踏会が始まったようだ

しかし、この休憩室には静寂を楽しむふたりがいた

窓から差し込む夕日が、ふたりだけを温かく包み込む。世界中が静かな光の輪に包まれているかのようだった

ヴィラとの距離はかなり近い。衣服越しに構造体特有の温もりを感じる

視線を本のページに戻し、1文字ずつ丁寧に読み上げた

ページを捲って続きの文章を読もうとした時、ヴィラに止められた

ヴィラ

もういいわ。気が変わった。もしあなたなら、この物語をどんなストーリーにする?

あなたが著者なら、勇者が城に入ったあとどうなるの?

宝石のような赤い瞳がこちらの瞳の奥を探る。彼女の瞳を見た時、ふと心が動いた

今、この瞬間にいる自分と彼女だけの物語を紡ぎたいと思った

本を置き、少し思考を整理して語り始める

……

頭の中の物語はすでに結末まで綴られている。心の中で答えを出した

――人間はお決まりの悲劇を受け入れることを拒否し、全ての終焉と消滅を拒否した。物語を虚無の結末で終わらせたくない、と

自分の心に従って何度も抗い、しぶとく追い求めれば……

いずれ必ず「ハッピーエンド」が自分を迎えてくれる

珍しいこともあるものですね。今週この本を借りるのは、あなたでふたり目です

貸出記録を確認しますね。えっと、もうひとりは……

ケルベロスのヴィラさんです

人間が語り直した物語は結末にたどり着き、休憩室は元の静けさを取り戻した

コップの中の薔薇はまだ静かに咲き誇っており、そよ風は舞踏会の旋律を運んでいる

ヴィラは人間を見つめていた視線を静かに窓の外に移した。彼女もまた楽曲のメロディに浸っているようだった

どうしたの?薔薇は嫌いだった?

……それとも、私からのプレゼントを拒むつもり?

人間は手を伸ばして、そっとヴィラの髪をなでた。絹のように滑らかな髪は流れる水のように、指をすり抜けていく

ちょっと……あなた、私の髪がそんなに好きなの?フェチ?

……フン、子供じみた遊びね

……まだかしら?

人間はヴィラの赤い髪を結い、薔薇を挿した

満開の薔薇がこめかみに留まり、艶やかな色が夕日に照らされ、ひときわ輝いている

ヴィラは微笑みながら手を伸ばし、誘いに応じた

彼女は「あの城」でのあの時と同じように、人間の手に自分の手を重ねた

互いの手を握り、部屋を出て、一緒に盛大な舞踏会に足を踏み入れる

薄暗い城も、冷たい呪いも消えた。そよ風が薔薇の爽やかな香りを運び、温かい夕日の光がふたりに降り注いだ

いいわよ、私の「戦利品」

このまま一緒に……「夜明けまで踊りましょう」

図書館

1カ月前――

本当にこの本を借りたいのですね?

カウンターの向こうで、白い「オオカミの耳」がぴょこぴょこ動いている。耳の持ち主はクンクンと匂いを嗅ぎ、頷いた

え?電子版を端末に転送してほしい?もちろんできますよ、少々お待ちください

ほどなくして、司書は明るい笑顔で戻ってきた

お待たせしました。『転生――勇者、世界を支配する』をご利用中の端末に送信しました

ちなみに、芸術協会が電子書籍の新サービスを開始したのですが……本を専用モジュールで読み込めば、リアルなバーチャル体験ができるんです。試してみますか?

え?他の方に試してもらうことは可能か?もちろん、可能ですよ!