……
…………
おい、なんか気まずくないか……?
お前が黙れば気まずくない
おいおい、頼むよ――
あなたたち、静かにしなさいよ
くだらないおしゃべりしている暇があったら、さっさと任務を終わらせる方法を考えてほしいわ
それから、そこのあなた
バカみたいに邪魔ばかりして!!
あなたをうちの任務に寄越してくるなんて、グレイレイヴンのベビーシッターたちはそんなにお忙しいのかしら!?
あなたは人間、そして敵を殺せない人間はゴミクズ同然よ
ゴミではないことを証明したい?なら、今すぐ侵蝕体を殺してきて
ヴィラはそれ以上こちらを構うことなく、戦闘に集中し始めた
前線小隊の捜索救難の緊急任務は、実際に急な話だった。グレイレイヴンの隊員は皆メンテナンス中で、急遽指揮官数名が派遣されることになったのだ
予想通り……先日リーフが言っていたあの派遣小隊のことだ。上層部は最後の可能性に賭け、消息不明の隊員を救助するつもりだろう。そして、おそらくこれが最後の救援だ
前方のヴィラは猟犬のように周囲を捜索中だ。ケルベロスと組むとは思わなかったが、黒野もこの機を逃したくなかったと見える。作戦中のヴィラは極めて真面目で高効率だった
21号、状況を報告して
……後ろ!敵よ!
ただのゴミクズではなかったみたいね、指揮官
——!——!!
侵蝕体はまるで鮮血を嗅ぎつけた野獣のように群がってきた。その猛烈な勢いを、銃だけで阻止するのは不可能だ。見る間に侵蝕体の強烈な打撃を食らい、銃が手から滑り落ちる
ぐっ……
ヴィラだ。こちらをかばうように侵蝕体との間に身を挟んでいる。近接戦闘の電流が飛び散った
銃を拾って!戦い続けなさい!
苦戦のすえ、担当エリアを徘徊する侵蝕体をあらかた片づけることができた
簡単な点検を行うヴィラの隣で、こちらは新しい血清を射つ。それからふたりは、歩き続けた。ぱらぱらと雨が降ってくる
クソッ……最低の天気だわ!本当にムカつく!
前髪を払いのけ、額をあらわにしたヴィラは、心なしか幼く見える
……何よ、その変態じみた視線は。いい加減にしないと、刀の露にするわよ
……静かに、何かあるわ
だから静かにしてって
こっちよ、着いてきて!
あそこ……!!
…………
それは、かろうじて息のある隊員だった。もはや原形は留めておらず、侵蝕体の残骸と一緒くたになって、風に揺れる旗のように死体の山に座している
ヴィラが飛び出した。同時に、辺りを蠢いていた侵蝕体も、新たな獲物を見定めて躍動し始める
[player name]、守って頂戴!
——!——!!
…………
チッ!通信に応答しないわ!気絶しているのかしら
とりあえずもっと接近しましょう。あなたに構っている余裕はないから、自力でついてきて!
——!——!!
……あっ……ああ……
構造体は、何者かの接近に気づいたようだ。破損した発声装置がヒューヒューと音を立てる
た……助け……
横になっては駄目!そのまま頑張って!
指……指揮……
クソッ!聞きなさいよ、起きるの!せっかくこんな姿に改造されたのに、あなたのようなゴミクズが生き続けられるチャンスを無駄にするっていうの!?
……疲れた……疲れ……た………………
構造体の逆元装置が微かに点滅し始めた
畜生、畜生!畜生!!!
ヴィラは必死に接近を試みる。荒い息を吐くその身体を、容赦なく雨が濡らしていく。とめどなく流れる循環液は彼女のものか、それともあの構造体のものか、もはやわからない
役立たず!あなたここまで頑張って……やっと救援が来たんじゃない!?
あなたごときに私の邪魔はさせない。鉄クズになっても連れて帰るから……!
……意識伝送がどういうものか、どんな代償を払うのか。士官学校の首席サマのくせに知らないとは言わせないわよ
ヴィラが低い声で言う
本当に知らないのなら、「上層部」にでも訊くことね
でも、あなたは口を閉じておくに越したことはない。戦争の道具として、諾々と命令に従えばそれでいいわ
ヴィラは構造体を担ぎ上げ、その手を自分の肩に置いた
今度はなによ!
あの日の薬を、ヴィラに差し出す
ほんの少しだけ虚をつかれた表情を浮かべたヴィラは、すぐに薬を受け取り、慣れた手つきで肩の上の構造体に使った
ほんの数秒が、数分のように感じた。構造体は意識がはっきりとしてきたようだが、激痛に耐えられず、地面でもがき始めた
……ぎゃあああああ!痛い!痛い!……頼む……痛覚を、落としてくれ……
……バカね。そんなんでよく戦場に出てこれたものだわ
ヴィラは地面にうずくまり、静かに呟いた
それでも麻痺して死ぬよりはマシ
ヴィラは深く息を吸うと、すぐに作戦を再開した。瀕死ではあるが、意識が明晰になってきた構造体を担ぎ上げ、歩き出す
……あなたのような人間には、どうせ理解できないわ。だから、私はこの世界との接し方について、他者にどう思われても一切気にしない
……
アハ、生意気な口を利くじゃない?
何度言っても無駄よ
それから、誰も口を開くことはなかった。雨の中で互いを支え合い、沈黙のままに前へと進んでいく
今回の件だがね、科学理事会はとっくに把握してる
禁止薬物だぞ、わかっているだろう?君のことでなければ、私の顔を利かせるような真似などしたくはなかった
とにかく、今後は二度とないように
黒野側はどうであれ、君は指揮官としての度をわきまえてくれよ
……?
君は私が一番信頼している指揮官だ。次はないように頼む
よろしい。ではこれで
それだけ?
……軍法会議とか、懲罰房とか、そういうのはないのかしら?
アハ、そんなことないわよ
グレイレイヴン指揮官、あなたは規則違反を犯したわ。自分の優等生ぶりを利用して、私のご機嫌を取るなんて
でもまあ、あなたはラッキーね。私の方もそれほど規則に厳格な法廷ではないの。判決を申し伝えるわ……あなたは、確かに私の機嫌を取った
ということで、これからはあなたに薬を買ってもらおうかしら?
私のことが好きなら、私のために何でも喜んでするべきでなくて?
あら?じゃあ嫌いなの?
あなた、ずいぶん強欲なのね。隊員3人を抱えて、まだ満足できないのかしら?
ヴィラはカラカラと笑った
まあ、涙ぐましい努力は認めてあげましょう。毎週ここで私に会うことを許してあげる
まあ好きでも嫌いでも、あなたは私が望むことをなんでもやるべきだわ
あら?理不尽の何がいけないの?
それにね……あなたの目を見ればわかるわ
それはあなたが上と約束したことであって、私とは一切関係ないでしょう。また戦場で諦めのいいゴミクズ兵に会ったら、容赦なく使うわ
どういう根拠をもって断言するのよ?
……アハ、面白いわね。その根拠のない自信
まあ……悪くないわ
その時になったら、きっと私もほんの少しだけ「あなたを助けた甲斐があった」って思うかもしれないわね
あなたの命にしても、あなたが応じた約束にしても、私に私の望む世界を見せてくれるための「手形」のようなもの。よくって、指揮官?せいぜい返済に励みなさいな
覚えておいて。私はね、一度捕まえた獲物をそうやすやすと手放したりはしないわ