司令部中央棟·F6軍需品管理センター、15:20
……血清3、注射器、バイオタイプ浄化器……
担当員が眼鏡に手を添えながら、リストを読み上げている
ところで、グレイレイヴン指揮官?今日はなぜご自分で取りにいらしたんですか?
指揮官、お手数をおかけしてすみませんが……
毎週木曜日の午後、軍需品管理センターに支給品を取りに行かなければならないんですが、スターオブライフの方で少しトラブルがあって、手伝いに呼ばれてしまったんです……
センターの責任者はエルスといって、とても優しい先輩です!リストを渡しさえすればあとはエルスがやってくれると思いますので、心配なさらないでください
よろしくお願いします!
ああ、なるほど。おそらくは前線で消息を絶った派遣小隊のことでしょうね。今朝ウォーカーたちが話してるのを聞きましたから……
大変ですよ、いつまでも経っても戦争なんか終わりやしない……あれ、この棚の試薬もないな。ちょっとお待ちくださいね
ふと、隅の部屋にいる赤い人影に気がつく。誰かと話しをしているようだ
赤い女性は眉をひそめている。どうやら厄介なことが起きているらしい。話し相手の見知らぬ男は、身振りも口調も荒々しい。女性の方は軽蔑の笑みを隠そうともしない
それから、女性が何を言ったかはわからないが、男は意気消沈した様子で、周囲を見回した
指揮官、どうされたんですか?探したんですよ!
背後から声をかけられ、我に返った
はい、どうぞ。よく確認してくださいね
補給箱を受けとると、エルスはすぐに行ってしまった。ドキドキしながら先ほどのふたりに視線を戻すが、その姿はもう見当たらない
誰を探しているのかしら?
ずいぶんとキョロキョロして……まさか私を探してたんじゃないでしょうね?
あら、ずいぶん素直だこと
でも悪いけど、あなたに付き合っている暇はなくってよ――どうしても付き合って欲しいなら、次回から事前に予約して頂戴。数秒間くらいなら都合してあげてもいいわ
アハ、素直じゃないのね
素直じゃない人間は嫌いよ
……ヴィラの胸の前で組まれた両腕には、先ほどはなかった医療パックがかかっている。こちらの視線に気づいたヴィラの目が楽しげに光る。ヴィラは両手を腰に当て、言った
何を、見ているのかしら?
――というよりは、見えたものにご満足いただけたかしら?
そんな風に女性構造体の体をじろじろ見るなんて、どうやら頭からカチ割られたいようね?
早く謝罪なさいよ
よろしい、ゆるすわ
よろしい、ゆるすわ
けれど、先ほど私が何をしていたのか……興味があるんでしょう?
では、なぜずっと私を見つめていたのかしら?
……なるほど。では「私」そのものに興味があるということね?
アハ、おバカさんね。でも……
もし、知りたいというなら……
ヴィラはこちらへ一歩近づき、低い声で囁いた
こちらへおいでなさい、こっそりと教えてあげるわ
言われた通りに近づくと、思いっきり頭を叩かれる
ヴィラは指を握りしめ、もう一度叩いてきた。……失神するかと思った。さすがは戦場を跋扈する構造体である
本当にバカね!
ヴィラはあざ笑いながら、両腕を胸の前で組み直した
余計な詮索はしないこと。おわかり?
お褒めに与り光栄よ。わかったら、さっさと消えて