Story Reader / Affection / アイラ·万華·その2 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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アイラ·万華·その5

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……指揮官、後ろ!

侵蝕体

キィ――!

瞬時に銃を抜き、身をかわして、ためらいなく背後に向かって発砲した――

ギギィ――!!

侵蝕体の目の赤い光が消え、地面に倒れた

指揮官、大丈夫?

傷口を簡単に確認した。幸い擦り傷だ。応急処置をしていると、アイラも手早く戦闘を終わらせてきた

ひとまずは安心ね。でもすぐにまた現れる

パニシング濃度がまだ高い……

機械工場の無人生産ラインが自動で稼働しているのだった。材料が尽きない限り、とめどなく機械を生産し続けるのだ

アイラのピンク色の髪が埃まみれになって、灰色がかっており元気がないように見える

作戦の前にこの機械工場のことをよく調べておくべきだったわ……

予想不可能だったから仕方ない

昨日のこと――

任務通知が届いた。世界政府芸術協会と協力して、地上に閉じ込められた考古遠征隊を救助するというものだった

考古遠征隊は突如現れた侵蝕体に襲われて、廃棄された保全エリアに閉じ込められたのだ。複雑な任務ではないため、構造体1名のみが配属されるとのことだった

時間通りに準備室に到着すると、見知った姿が現れた

指~揮~官!

だって、私が要請した任務だもの

世界政府芸術協会が困っている時は、私の出番よ。構造体が地上で任務を執行するには指揮官の協力が必要でしょ。それで一番に浮かんだのが、指揮官!

指揮官とふたりで地上で任務に就くなんて滅多にないもの。こんな貴重なチャンス、見逃せないわ

アイラは嬉しそうに万歳した

全部ここに!

彼女は端末のホログラムディスプレイを出して、全てを読み上げた

世界政府芸術協会の考古遠征隊のある小隊が、地上から救援信号を送信――

廃棄された保全エリアでの文化遺産回収任務の際、突然現れた侵蝕体に包囲され――

考古遠征隊には攻撃型構造体が編成されておらず、すぐさま空中庭園に救援を要請……

あ、小隊のメンバーリストも添付されてるわ、確認する?

もちろん、だって私は優秀な構造体戦士よ?

そこの近くに機械工場があるけど、パニシングの異常な濃度反応はないみたい

周囲の地形をチェックしたけど、機械工場の侵蝕体が保全エリアに現れることはなさそう

行きましょう、指揮官。今回の作戦、すごく楽しみだったんだから

廃棄された保全エリア。アイラは眉をひそめながら、自分が簡単に手当てした箇所をじっと見つめてきた

話題を変えてアイラの注意を逸らそうとした。案の定、アイラは簡単に引っかかって、腕の端末をいじり始めた

司令部は私たちの応援要請を受信したようね。今届いたメッセージでは、近くの執行部隊を機械工場に派遣して、原因を排除するって

指揮官が一緒にいてくれてよかった。私ひとりじゃ、考古遠征隊の全員を守ることはできなかったわ

……

アイラは何も言わず、こちらの傷口を凝視している。少し落ち込んでいるように見えた

再び、侵蝕体がこの保全エリアに襲ってきた。砕けた機械のパーツが宙を舞い、色とりどりの火花が飛び散る

キィ――!

しまった、援軍はまだ来てないのに……

まだ痛む体を動かして、端末から周辺の地形図を呼び出した

アイラひとりでは、考古遠征隊の全員を守ることはできない。廃棄された保全エリアの奥には通用口がある。そこに考古遠征隊が使っていた小型ヴィークルが停車されていた

負傷者をヴィークルで移動させれば、彼らは生き延びるチャンスがある。侵蝕体たちの注意を逸らして、突破する隙を作らなければ……

移動命令を発した。アイラは下唇を噛みながら、命令に従って飛び出した。まだ動ける何人かの隊員がアイラを援護している。負傷者は後方右側に向かって移動し始めた

地形図を頼りに、侵蝕体が通るであろうルートを封鎖して、遮蔽物の陰に潜みながら侵蝕体に向かって銃を抜いた

この襲撃を耐え抜けば、援軍が到着するだろう

戦闘態勢に入ったアイラは意外に冷静で、ビーム槍を絵筆のように軽やかに操っている。彼女は身をよじって正面の敵を避け、別の方から襲ってくる侵蝕体を倒した――

考古遠征隊を包囲していた敵を撃退したが、侵蝕体は銃声を聞きつけてこちらに向かってきた

侵蝕体の全注意がこちらに集中した時、アイラが武器を構えた。鮮烈な光が空中に眩しい弧を描く。まるで絵筆で美しいラインを描いているようだ

端末からピピッという通知音が鳴った。通用口に移動した負傷者からのメッセージだ――

保全エリアの外から交戦音が聞こえてくる。メッセージによると、応援の執行部隊はすでに工場を包囲したそうだ

保全エリアの最後の1体を片付け、アイラは急いで障害物を飛び越えると、自分のもとへと駆け寄ってきた

指揮官?大丈夫?

ただ、今の戦闘の激しい動きで傷口が裂けてしまったようだ。簡単に巻いただけの包帯には血が滲んでいた

もう一度、手当しましょう……

アイラは作戦バッグの中を探したが、使えそうな薬はなかった

彼女はしょんぼりと肩を落とした。力なく座り込んで少し茫然としている

指揮官、私……

何かを言おうとして結局言葉にはせず、彼女は膝を抱えて黙り込んでしまった

地面から焼け焦げた枝を拾い上げ、包帯の上にさっと絵を描いた。アニメ風の泣き顔のアイラが包帯の上に出現する

――イヤ、そんな汚らしいのはダメよ!

アイラは顔の汚れを拭い取ろうとして、手に埃と循環液がついていたために、顔が更にデコレーションされてしまった

アニメ風のアイラが、猫顔のアイラに変わった。眉間に皺を寄せている様子は、今のアイラの表情とまったく同じだった

――ぷっ

眉間に皺を寄せていたアイラの表情がようやく笑顔になった。まだ気持ちは落ち込んでいるようだが、少しは気が軽くなった様子だ

これまでの怪我に比べたらかすり傷だ

違うの、私はただ――

アイラは膝を抱えたまま、きょろきょろと視線が定まらない

私が指揮官に任務協力をお願いしたのに、指揮官を守れなかったなって

任務協力申請を出した時、私、絶対に指揮官を無傷で帰らせるって誓ったの……なのに……

今回の状況をうまくコントロールできなかった

事前に全ての状況を調査できていなかったし、指揮官用の医療キットも用意してなかった。私は……

……そうね

アイラの目が少し曇り、唇を噛んだ

宇宙ステーションの一件があって、会長はセレーナを探すために考古遠征部隊を結成したわ

最初は全員が意気揚々としていて、この活動を「クジラを探せ作戦」って呼んでた

でもこの活動は、考古学とはほど遠いもの。本来の任務は芸術品を発見する喜びが感じられるものよ。でも「クジラを探せ作戦」は……

感じるのは、ただ果てしない失望だけだった

誰も不満を口にしないけど、隊員の皆が無駄なことに時間を使っていると、落胆と憤りを覚えているのがわかるの

だから、私は自らこの作戦の中断を申し出たの。そして、ひとりで彼女の歌を探し続けようって決めた

私に同行を申し出てくれた人もいたけど、私……断ったの

だから、アイリスウォーブラー小隊の結成が決まるまで、私はずっとひとりだったわ

だって……他の活動や戦闘と違って、こんな行動は……

アイラはそれ以上話さなかった

その後のことは、自分もよく知っている

アイラはひとりで地上の任務に赴き、セレーナの行方を探した

ひとりで作戦を行い、ひとりで行動し、ひとりで移動して、クジラが泳ぐ方向を探し求めていた

……

アイラの透き通った瞳に少し戸惑いが浮かんだ

……そうなの?

指揮官に……頼る?

今回の状況ならアイラひとりでも、考古遠征隊の命を守ることができただろう。しかし、彼らが必死に見つけた芸術品までは、おそらく守れなかった

身分や立場に関係なく、アイラも結局、ひとりの存在なのだ

ぷっ……変な理屈!

憎まれ口を叩いてはいるが、アイラの表情は明らかに晴ればれとしていた

その気持ちはありがたいけど、やっぱり指揮官に申し訳ないと感じちゃう

ちょっと考えさせて。指揮官にどんな償いをすればいいかな?

……うーんと、彫刻を作ってあげるってのはどう?

この前描いてた指揮官の絵、覚えてる?あれよ、身長2m21cmのやつ!

あの絵を彫刻にしてあげる!3D投影の方が好き?それとも……

アイラから更に無茶苦茶な提案が出る前に、思考の突飛を中断させた

最初の観客?

え、それじゃ償いにならないよ

えっ……そうなの?

でも、私にとっては「償い」じゃないよ

だって、私は展示会にしても、他の何にしても……

私に関することは全部、指揮官に最初に見てほしいんだから!

アイラの瞳はキラキラと輝いて、夜空で瞬く星のようだった

そっか、じゃあ――決まりね!

時間があったら、指揮官を招待して新しい作品を見せるね!

専門分野の話になってアイラは自信を取り戻したのだろう、笑顔がこぼれた

殺風景な保全エリアで、少女は楽しそうに新しい作品のテーマについて語り始めた

今、突然思いついたんだけど、新しいシリーズのテーマは「世紀末のふたり旅」っていうのはどう?

最初の絵は……この廃棄された保全エリアを題材にしよう!