わぁ、もうあんなに小さい……ナナミ、すっごく遠いところまでプカプカしちゃってるんだね
茫漠たる宇宙の中で、少女は自分が来た道を振り返ろうとしたが、もはやその痕跡も消えている。少女は思わず疲れたように笑った
うーん……今回は指揮官が隣にいないから、ちょっと変な感じ
ズババ?
パワーちゃん、どうしたの?ああ……これは、ナナミが旅の中で見つけた一番キレイなお花だよ
少女の細い腕の中には、色鮮やかな花が抱かれている
指揮官に会ったら、ナナミは胸を張って誇らしげに渡すんだ
「見て!ナナミが宇宙で見つけた一番可愛いお花!旅の記念品だよ」って
彼女は嬉しそうに言いながら、指揮官と再会する光景を想像して、思わず小さく笑った
それにしても、ここ暗すぎ……指揮官からめちゃくちゃ遠いし
こんな暗いところ、ナナミだけで十分
彼女が目を閉じる直前、視界の中にごく僅かな光が横切った
あれ?彗星?
……消えちゃった、残念。そういえばナナミ、ずっと彗星を見てないなぁ
ふんわりと膝を抱えて体を丸め、彼女は再び眠りに落ちた。それは長い宇宙旅行の中で、孤独から逃れられる数少ない方法だった
虚無の夜空をひとりで漂い、ただ盲目的に彼女の名前を呼び続けた
地球で見上げる星空は美しく輝いているが、実際の宇宙はとても孤独なものだった。華やかに見える星図も、天文学者たちの妄想にすぎないのか……
宇宙に身を置いてみて初めて気がついた。星と星の間は何光年も離れていて、ほとんどの場合はひと筋の光さえ捉えるのが難しい
どれだけ漂ったのかわからない。この終わりの見えない孤独の中で、体が徐々に麻痺してきた。それでも自分が歩んだのは、彼女がたどった道のほんの一部にすぎなかった
賑やかなのが大好きなナナミが、こんなにも長くこの寂しい空間を彷徨っているなんて想像しがたい
――光?
数えきれない失望を経験してもなお、光る惑星に向かって大声で呼びかけた
数えきれない失望を経験してもなお、疲れた体を引きずって光る惑星に近付いた
ナナミ?そのような惑星は知らないわ。私たちの星系には3つの惑星しかなくて、全員知り合いだけどナナミって名前じゃない
これくらいの身長で、灰色の髪のポニーテールで、よく笑う女の子……?
もし会えば仲良くなれると思うけど……ごめんなさい、ここは遠日点で寒すぎるからもう行くわね
ルートがズレているようだ。この星系にナナミはいない……
パワーちゃん、パワーちゃん!ナナミ、彗星を見ちゃった!
ズババ、ズババ……
そんなぁ!ナナミの見間違いじゃないもん!ナナミの目はね、数光年離れた星だって見えるんだから!
遠くの光が行ったり来たり、時には迷子のようにふらふらと移動していて、ナナミは思わずクスクスと笑い出した
小さな彗星でもいいから、ナナミとパワーちゃんと遊んでもらお!ここ、すっごくつまんないんだもん!
背後のふたつの磁気浮上エンジンが鮮やかな炎を吹き、ナナミは「彗星」に向かっていった
宇宙の中でどれだけ漂流したのか、もうわからない。この目で新星の爆発を見て、恒星の崩壊を見て、星雲が恒星に凝縮し、恒星がまた星雲へと戻るのも見た……
地球で例えると、海が陸に変わるようなものだろうか。それでも、ナナミが歩んだ道のりを歩ききれていない……
ナナミを探している途中、いきなりとある三重星系に囲まれた。3つの眩しい太陽が自分を取り囲んで回り、まるでオーブンの中にいるかのようだった
小さな彗星ね……
星の名前しかわからない。私は姉で、ふたりの妹とともにポラリスって呼ばれてるわ
私たちの別名を知ってるのね!素敵な名前でしょう?あなたと同じサイズの星からもらった名前よ。彼女のところの星々は、私たちをそう呼ぶんだって
あなたと同じサイズの小さな星よ。私たちには北極星という別名もあって、彼女のところの星々は私たちをそう呼んでるって教えてくれたわ
太陽たちは誇らしく胸を張り、放射する光が更に熱くなった
自分と同じサイズの小さな星……間違いなくナナミだ
恒星たちは星系の端を照らし、その先には金色に輝く長い彗星の尾が見えた。恐らくナナミはその先にいるのだろう
止まっていた時計が再び回り始め、心臓がまた力強く鼓動を打つ――
彼女には伝えそびれちゃったけど、あなたたちの彗尾は今まで見た星の中で一番綺麗よ!
バイバイ、彗星さん。ブラックホールには気をつけてね。いってらっしゃい!
再び宇宙の奥に向かって進んでいく。背後の北極星が一斉に光をこちらに集めた。地球から離れる時と同じく、疾走するスピードどんどん加速し、更に速くなる……
わわわ!この彗星すっごく速い!それに……明るい!
彗星を追おうとしたナナミは思わず立ち止まった。その金色の瞳に、次第に明るさを増す小さな閃光が映った
でも……また消えちゃった……
まるで花火のようだ。万物を照らすほどに光り輝いたと思えば、次の瞬間にはぱったりと静寂に包まれる
しかし、これは彼女が見たほとんどの彗星の運命だった。別の場所へ飛んでいったのか、もしくはどこかの遠くの惑星に墜落したのか……
なーんだ……またここも真っ暗になっちゃった
ナナミは静けさを取り戻した空間をぼんやりと見つめ、口を尖らせて舌を出した
振り返ろうとした時、少女はピタッと動きを止めた
……今の、指揮官の声?
幻聴かな……
またどれだけの光年を飛んだのかわからないが、先ほどいた環境とはまったく異なり、自分の周りには眩いばかりの降着円盤が広がっている
降着円盤の中心には底が見えないブラックホールがあり、全ての光がそこに呑み込まれる
巨大な力が体を引っ張り、もう少しで光さえ逃れられない暗闇に落ちる――
指揮官!!!
もしこれが幻聴でないなら、もしかしたらナナミは光より速い存在になったのかもしれない
幻覚であろうとなかろうと、即座にベルトの宇宙船トリガーは少女の叫び声に反応して起動し、高速で点滅し始めた
MAX Q
ベルトのトリガーを引くと、ヘルメット内に低い電子音が鳴り響いた。次の瞬間――
MAX Q
伝説の宇宙騎士のように格好よくトリガーを引いた。ヘルメット内に低い電子音が鳴り響いた次の瞬間――
背中に巨大な推進力を感じ、窓に表示された速度が狂ったように上がり、自分を彗星の軌道に押し戻した
少女の瞳に再び光が映った
その光はもがき、跳ね、彼女の目の前でどんどん大きく、そして明るくなっていく
彼女がこの虚空で見た、最も輝く彗星だった
……指揮官?
果てしなく長い時間の中で、彼女は数えきれないほどの彗星を見た。どれも無言で彼女の前を通りすぎ、静かに視界から消えて去った
この彗星だけが天の果てから虹のような軌跡を描きながら、確固たる意志で彼女がいる場所へ向かってきた
光は徐々にナナミがいる空間に広がり、長らく彼女を取り囲んでいた暗闇を追い払った
……ナナミ、夢を見てるのかな?
それは彼女のためだけに駆けつけた彗星だった
果てしない孤独の旅路をたどり、漆黒の深淵を越え、最も眩い光を彼女のもとに届けに――
!!!!!
指揮官!ナナミを見つけてくれたんだね!
指揮官、どうやって来たの?ナナミみたいに太陽系から飛び出したの?
ナナミは伝説の「究極の答え」と一緒に宇宙の一番奥に隠れたんだけど……指揮官、どうやってナナミを見つけたの?
少女は興奮して、何度も自分の周りをぐるぐると回った。そして、驚きながら真っ白な騎士の鎧に触れた。何光年もの宇宙飛行の中で、すでに傷だらけになっている……
しばらくして彼女は自分の前でゆっくりと止まり、指で宇宙服のヘルメットを軽くつついた
そっか……指揮官はベルトを使って、ナナミの中で一番格好いい宇宙騎士に変身して、長い道のりを進んできたんだね……
彼女は呟きながら自分が来た方向を見た。宇宙騎士が描いた色鮮やかな軌跡が、果てしない彼方まで伸びている
彼女はこんなにも遠く暗い場所で、ひとりきりで掴みどころのない「答え」を探し続けていたのだ
すっごく寒かったよ……
でも、指揮官はナナミのポラリスだから……ナナミは絶対に迷子にならないし、軌道からズレることもないよ!
少女は少しためらったあと、再び嬉しそうに笑い始めた
指揮官はナナミの奇跡だし、この世界の奇跡でもあるから!
指揮官と一緒にいた思い出があるから、ナナミは信じられたんだ。絶対に伝説の宇宙の究極の答えを見つけられるって
以前彼女と過ごした無数の日々のように、少女は誇らしげに胸を張り、小さな拳を振り上げた――まるで世界を救うスーパーヒーローのように
彼女と一緒にいれば、このポーズで晴れやかな笑顔を浮かべ、胸を張って拳を振り上げる彼女とずっと宝物探しの旅を続けられると思っていた
わぁ!突然のぎゅー!どうしたの?ナナミ、逃げないよ
とにかく、指揮官がどこにいてもナナミは駆けつけるよ!
そして、彼女は本当にスーパーヒーローとなって世界を救うために宇宙へ飛び立った
うん……バイバイ、指揮官
指揮官?
こちらが考え事をしていることに気付いたのか、ナナミはまたヘルメットをつついた
言葉が口をついて出た。ヘルメットの中で重々しく反響し、そこで初めて長い旅路の中で喉が掠れていることに気がついた
……
指揮官の願いは、ナナミがばっちり受け取ったよ!
指揮官……ナナミね、本当は指揮官と一緒にいる時間がすごく恋しかったの
でも、世界は孤独すぎる。世界はそうあるべきじゃないし、地球もそうあるべきじゃない……
少女はこちらの手を取り、一緒に遊泳した。物語のように周りの星がひとつひとつ明るくなっていく
星々はまるで丸い形をした記憶のように、人々と自分が一緒に過ごした時間を映し出している
孤独な宇宙がだんだん明るく、賑やかになっていった
ナナミはちょっとだけ地球を離れるけど、永遠に離れるわけじゃないから
運命は絶対じゃない。だからこそ、みんな希望を持てるの
これまで一緒に出会った悲しいこと、楽しいこと、驚いたこと、嬉しいことみたいに……
きっと未来も、希望に満ちた可能性に溢れてる
だから指揮官、ナナミを信じて期待してて!
少女は小さな星の光を手に取り、大切にしまっておいた花を差し出した。これまで彼女はこの寂しい暗闇の中で、数えきれない日々を過ごしてきた……
見て!ナナミが宇宙で見つけた一番可愛いお花!旅の記念品だよ!
これを渡すために、ナナミは長~~~い間指揮官を待ってたんだ!本当はもっと長いと思ってたけど……
だからナナミ、わかるよ。指揮官は今までナナミが通ってきたどの道よりも長く遠い道をたどって、ナナミに会いに来てくれたんだって!
だから……できたら、次はふたりで歩きたいな
だって、指揮官にプレゼントしたいものがまだたくさんあるし、一緒に楽しみたいこともたくさんあるし、一緒に探したい宝物もたくさんあるし……
あっ、そうだ!絶対に伝えなきゃいけない大切なことがあるんだった!
彼女は深く息を吸い込んだ。美しい金色の瞳には、白い姿の自分が映っている
この瞬間、彼女はセージでもスーパーヒーローでもなく、ただの普通の少女だった。そして自分も英雄でも勇者でもない、ただの彼女の「騎士」だった
彼女はゆっくりと漂い、両手を優しくこちらの首に回すと、ヘルメットに頭を寄せて微笑みながら目を閉じた
…………
指揮官……[player name]……
ナナミ、指揮官が大大大大大大だーい好き!
周囲の星がきらきらと美しく光り、まるで彼女と自分のために歌っているかのように輝いた
「あなたと」の遠い航海に「あなたと」ともに旅立つ
あなたがいれば
迷いも挫折も恐れもない
この夢をあなたと世界に歌おう
星明かりが微かでも、暗闇が待ち受けてても
「あなたと」握りしめた手が熱く輝きを放つ
あなたの愛があれば、夢は現実になる
美しさも悲しみも、全てに意味がある
ふたりだけに贈られた特別な色
これがナナミ……
「あなたと」紡ぎ、あなたに贈る……悠久の時を超えても色褪せない星の光
再び目を開けると、天国の橋に戻っていた
地球の重力に、長い間宇宙飛行をしてきた体が思わずぐっと沈み込んだ
足下には天航都市が広がっていて、人類の生活の証である無数の灯火が灯っている……
頭の上には夜空を飾る無数の星々が輝き、まるでナナミがウインクしながら微笑んでいるようだ
――――
彼女は彼女が愛するものを、最愛の人に残した
ふぅ……収まりきらないかと思った
少女は丁寧に分厚い本の最後のページにピリオドを打った
一番大切な宝物を見つけられたね、おめでとう。私からのプレゼントってことで
お礼として、ふたりの物語は私が大切にしまっておくね
……
何かを思いついたように、彼女は再びペンを取った
「この星で乗り越えられない冬はなかった……」
「だが雪と氷が溶け、暖かな春が訪れた日に、彼女があなたのそばにいてくれますように」
じゃあ……物語の続きは、ふたりに任せるね