Story Reader / Affection / ナナミ·芒星ノ跡·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

ナナミ·芒星ノ跡·その1

>

第1章

紙が日記帳を忘れ、海が大地を忘れる

??

指揮官、指揮官……

ゆっくりと目を開けると、網膜に眩しい日差しが刺さる――まだぼんやりとしているというのに、また眩暈が生じた

体を動かしてみると、固い鉄筋と大地の感触が肌に伝わってきた

灰色の髪の少女が眩しい光を遮り、こちらに微笑みかけている

自分が起き上がらないのを見て、灰色の髪の少女は眩しい光を遮り、自分を力強く引っ張り起こした

意識が完全に目を覚ました。目の前に広がっているのは、荒れ果てた街――

指揮官、目が覚めた?おはよ!ここは世界の終末だよ!

遠くから潮の香りが漂ってくる。立ち上がり、鳴り響く耳鳴りを振り払うと、再び脊髄に麻痺した感覚が広がっていく

眩暈がするほど強烈な日差しに照らされ、何かを忘れているような感覚に囚われた

長らく何かを探し求めていたような気がする。その日々の中で、大切なものを失ったような……

今、この世界の終末において、大切なものとそれに絡む記憶を失っていた

指揮官?

何も思い出せないが、目の前にいる少女の名前がナナミであることは知っている

彼女は自分の周りを歩いている。軽快な足取りに合わせて、ポニーテールが跳ねていた

少女の楽しげな様子が、心の影を払ってくれる……一体どちらが本当の太陽なのだろうか

えーっと、それはぁ……

あ、わかった!

ナナミはね、伝説の騎士なの!カード騎士!で、あなたはナナミの指揮官!

世界を救う、謎のスーパーヒーローのこと!

彼女は話しながらその場で足を踏み鳴らし、いつでも出発できることを示した

指揮官とナナミは、今から一緒に宝物探しの旅に出るんだよ!

カード騎士の宇宙ベルト!

ナナミは真剣な顔で声を低くして言った。そして堂々と胸を張り、ニコニコと楽しそうに自分の手を引っ張った

とにかく、しゅっぱーつ!

ナナミについて歩いていくと、潮の香りがますます濃くなってきた。塩気を帯びた風に誘われるように更に進むと、暗く狭いトンネルに入った

トンネルを抜けて、外の世界に一歩足を踏み入れると、眩しい陽光に襲われた。また目が慣れるまで少し時間がかかる

轟く天災、刀を振りかざす戦士、醜い怪物、至るところで燃え盛る戦火……「終末」の光景に思いを巡らせた

たっか~い!

しかし、自分を迎えたのは孤高かつ空虚なビル群だった。高い場所から見下ろすと、街道に水面が煌めいている……潮の香りはここから来ているようだ

本来、誰かが存在していたような気がする。肩を並べて、何かのためにともに戦った人が……

だーれーかーいーまーせーんーかー!

隣に立つナナミが、疑念をそのまま口にした

叫び声が街道を通って広がっていく。空虚な都市にナナミの大きな声が響き渡る

声は山びこのように反響し、幾重にも重なった。まるでナナミが何人もいて、同時に叫んだみたいだ。返事はないが、廃墟が少し賑やかになったように感じる

少しためらったが、ナナミを真似て大声で叫んだ

ふたりの叫び声が街道を通って広がっていく。返事はないが、廃墟が少し賑やかになったような気がする

もう1回!

彼女は大きく腰を曲げて前屈みになり、目一杯息を吸い込んで頬を膨らませ、両手をラッパのようにすると再び声を張り上げた

だーれーかーいーまーせーんーかー!

ふぅー……ふぅー……

相変わらず反響した声だけが響く。力を入れすぎたのか、少女の頬は赤らみ、膨らんでいる

元気いっぱいの頬を軽くつつくと、溜めていた息が一気に抜けていった

――ぷはぁ!

振り返ったナナミは、腰に手を当てながらこちらを見つめた。頬をまた丸く膨らましている……何か考えているようだ

んもう、指揮官~~~!これでもくらえー!

彼女が反撃してきた。しばらくじゃれ合い、この見晴らしのいい場所をあとにした

漏れたため息を聞きつけたナナミが即座に近寄ってきた。そして、こちらの顔を両手で挟んで持ち上げると、まじまじと見つめた

どうしてため息なんてついたの?

少女は共感を示すように頷いた

よぉし!ナナミ、絶対にあの宝物を見つけるから!宝物が見つかったら、指揮官もため息をつかなくていいもんね!

理由はナナミにもわかんない!とにかく、まず見つけなくちゃ!

彼女はそう言いながら小さな拳を上げ、スーパーヒーローが宇宙に飛び立つようなポーズを取った。そして、何も言わずに自分の手を引き、見晴らしのいい場所をあとにした

街に足を踏み入れると、果てしなく続く街道は底の見えない海に沈み、傾いた建物の屋根だけが見えていた

壁の残骸に打ち寄せる波の音の中、ナナミと空虚な街をあちこち歩き回ったが、人どころか生物1匹すら見つからなかった

海の怪獣とかいたら面白いのに

ナナミは不満そうに口を尖らせた。街の隅々まで見て回ったが、見つけたのは小高い場所に建てられた邸宅で、かつて人間が暮らしていた痕跡だけだった

過去の無数の静かな午後と同じように、涼しい風がカーテンを揺らし、床に散らばった紙を舞い上がらせ、誰もいない部屋の中で本のページをぱらぱらとめくっていた

黄ばんだ日記を拾い上げ、まだら色になった紙に書かれた文字を読んだ

大災害の後、もう人類は僅か数人しか残っていない。海面は上昇を続けている

海面上昇が始まった13年後、私は住んでいた街を離れた

津波等はない……激しい天災は起きなかった

ただただ静かに沈んでいく時代

陸地が海に沈み、生態系が徐々に消滅していく

私は気付いた。私たちはこの星に忘れられつつあるのだと

この星は人類も、飛ぶ鳥も、かつてそこに根を張っていた大地をも忘却の彼方へと押しやっている

私も色々なことを忘れ始めている。かつての恋人、子供時代……

宇宙騎士ベルトとともに、あの天航都市に忘れ去った

もし宇宙騎士が本当にこの世に存在するのなら、私の代わりに再び天航都市の星空を眺めてほしい

その時代の人類の最後の生き残りである日記帳の主は、最後は病に倒れたようだ。1枚1枚のページには、静かに暮らす人間の日常が書き連ねられていた

先ほどナナミと一緒に歩いた街を思い返した。日記帳の主が書いている通り、ここの建物は荒れ果て、多くの住宅は海に沈んでいる……

空を飛ぶ鳥もおらず、海を泳ぐ魚もいない。街は空っぽで、苔すら生えていない……

部屋を出ると、海水が膝まで上がっていた。この都市はまもなく完全に海に沈むのだろう

指揮官?

あちこちを調べまわっていたナナミが、こちらの困惑に気付き、足を止めた

陽光をたっぷり浴びたせいか、少女からは太陽の匂いが漂い、腕の中に穏やかな暖かさを感じた

わぁ!突然のぎゅー!どうしたの?ナナミ、逃げないよ

そう言うと、彼女は笑いながらこちらの背中をぽんぽんと叩いた

……!

なるほど、地球おばあちゃんが泣いてるんだね……この世界に残ってるのは、ナナミと指揮官のふたりだけ……

うん!ナナミたちなら、絶対に見つけられるよ!

彼女は興奮した様子で、見つけたばかりの写真を見せてきた。写真の中の子供は格好いいベルトをつけて、カード騎士の変身ポーズを決めている

カード騎士と天航都市のコラボのやつだ!ベルトの発射装置に宇宙船模型を入れると変身できるんだよ

そう広くない部屋には、黄ばんだ写真や細々と書き込まれた日記帳が至るところに置いてある。忘れないために努力したのに、この部屋の主人はこの星に忘れられてしまった

最後に、ぱらぱらと紙の音がする部屋をもう一度眺めた

どうしたの?忘れ物?

かつての主人はもういない。ここに残されたのは、長い沈黙だけだ

そっか……指揮官とナナミが離れたあと……

「ここも海に呑み込まれる」――ナナミは唇を噛み、そのまま黙り込んだ

写真も日記帳も全て海に抱かれ、地球に忘れられていく……

ナナミも、指揮官と一緒に覚えてる

第71章 我々が忘れないように

潮が引いている

窓から見ると、海面の上昇が止まっていた。それどころか、水位が下がり、潮が引いている

わぁ!

ナナミは興奮しながら窓辺に駆け寄った。彼女の体から淡い光が放たれ、少し透けて見えるような気がした

地球おばあちゃんが泣きやんだんだね

瞬きすると、彼女の体はいつも通りだった。気のせいだろうか……?

これで、バイクで宝物探しの旅に出られるね!

ぼんやりしている間に、隣のガレージから格好いいバイクを押してきていたナナミが、エンジンをかけようとしていた

出発だよ、指揮官!宝物探しへレッツゴー!

バイクで海沿いの道路を駆け抜けると、潮風が心の中の憂鬱を吹き飛ばしてくれた。ナナミは背を向けて運転に集中している

バイクに乗ってるナナミって、伝説の宇宙騎士みたいじゃない?

バイクに乗ってる人もいるかもよ?

ナナミはそう言いながらアクセルを力強く回した

き――こ――え――な――い!

いっくよー!このスピードでこそカード騎士!

エンジンが唸り、耳元に風の音が鳴り響く。次の瞬間、体が浮き上がりそうになった

――すると突然、バイクが激しく揺れた

指揮官、ちゃんとナナミに掴まってて!この辺りは山道だから――

海面上昇が起こってから、街の人は山の上に住んでるんだよ

道の際に設置されたガードレールは上へ上へと続き、下の方は水に浸かっている。海面の上昇に伴い、道をどんどん高くしていったのだろう

このスピードなら、夕方には天航都市にたどり着けそう!

生態系が徐々に消滅し、海鳥すらいなくなった

広い世界の中で、ふたつの孤独な魂が寄り添う。夕陽の残光が少女と自分の影を無限に引き伸ばしていた

下を見ると、きらきらと光る海水の中で家が揺らめいている。日記帳の主が言った通り、地球の文明は地球に忘れられつつある……

夕暮れ時、バイクはビーチに到着した

うーん……ベルトが埋まってる座標は、この辺りなんだけど……

ナナミは眉をひそめ、黄ばんだ地図をまじまじと見つめた。地図には陸地が……いや、かつて陸地だった場所が赤い円で囲まれていた

なるほど!ナナミ、潜水モードON!

ナナミはこちらの手を掴むと、海に向かって走り出した

防護服の簡易潜水機能を起動した。ナナミはこちらを引っ張りながら、青い海に飛び込んだ

天航都市の残骸は、そこに刻まれた人類の文明とともに海底に埋もれ、地球に忘れ去られることを静かに受け入れていた

ナナミは目立たない廃墟から、錆びた金属製のスーツケースを掘り出し、嬉しそうにこちらに空気の泡を吹きかけた

スーツケースを開けると、中から出てきたのは念願の宇宙騎士ベルトだった。幸いにもベルトは海水に侵蝕されていない。この星に忘れられなかったようだ

指揮官!ナナミ、指揮官と一緒にいる時間が大好き!

陸地に戻り、宝物を見つけた少女と並んでビーチを散歩した

海面は今も上昇している。波が岸辺に打ち寄せ、何ともいえない喪失感が心に湧き上がる

でも、まだ何かが足りないって感じるの……

彼女は空を見上げたが、雲が幾重にも重なり、星は出ていない。ベルトを無事に見つけることはできたが、その持ち主に代わって星空を眺めることはできなかった

遠くからゴロゴロと雷鳴が聞こえた。心の中に言いようのない予感が湧き上がる。これは春の雷……もしかしたら、もうすぐ万物が蘇るのかもしれない

ベルトも見つかったことだし……指揮官、何か願い事はある?

ナナミは微笑みながら振り返り、両手の人差し指と親指でフレームを作って、こちらを「録画」し始めた