Story Reader / Affection / ナナミ·遥星·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ナナミ·遥星·その6

海はその最も恐ろしい一面を見せてきた。水圧により胸に入っていた空気が全て絞り出され、息を吸おうとしても、流れ込んでくるのは海水だけだ

暗くて冷たく、死のような静けさの中で、ぐいぐいと海の底へ引きずり込まれていく

目の前に、走馬灯のような光景が見えた

すでに死んだ人、知っている人、知らない人、記憶に存在するありとあらゆる人がこちらに向かって近づいてくる

その時、自分の名を呼ぶ声に気づいた

ナナミ

指……手を……ナナミに……

指先が金属に触れたと思った瞬間、体ごと力強く持ち上げられた――

冷たい海から救出され、大きく息を吸って、酸素を肺に取り込んだ。夜だったはずだが、辺りは赤く照らされていた

空を見上げると、見渡す限り全てが赤色巨星で埋め尽くされていた

そう、老年期に入った象徴だよ

隣には宇宙服を着たナナミが現れた

指揮官は気に入るかな?

ガンマ線バースト、宇宙放射線、スーパーフレア等、容易に人間の肉体を破壊できるはずの宇宙現象は見て見ないふりをするとして――

――呼吸できることだけでも、はるかに常軌を逸している

指揮官が宇宙で行動できるように、ナナミ、ちょっと設定を変えといたんだ

ずっと準備してたから、やっとこの時がきたって感じ

ナナミはこちらに向かって、ゆっくりと手を伸ばした

指揮官、ナナミと一緒に来て?

その言葉を聞いて少し驚いたようだったが、ナナミはゆっくりと手を握ってきた。あまりの力強さに、痛みを感じるほどだった

よかった!

宇宙は広い

普遍的な知識だが、長年空中庭園にいたお陰で、それについては十分に経験しているつもりだった

しかし、井の中の蛙だったのだ

ナナミの「お陰」で、宇宙の神秘を目の当たりにすることができている

宇宙塵で構成された色鮮やかな星雲、ダイヤのように透きとおり輝きながら死にゆく白色矮星、恒星をも捕食するブラックホール、ぶつかり合う銀河系……

しかしどれほど不思議な光景も、宇宙という大きな視点でみると、いたって普通の光景のようだ

数億年前の光が無限に広がる檻と化し、全てのものに「光速」という枷を課す

今見えている全ては、ただの過去の名残。光をたどったとしても、光源はすでに消滅しているかもしれない

網膜に映し出されているのは数十万年前の景色で、自分はあたかも琥珀に閉じ込められた虫のように、残酷な時間に見捨てられている

……なら、真実はどこにあるのだろう?

唯一、実感できるのは、掌から感じる温かさと、目の前にある銀色の姿だけだ

何かに気づいたように、ナナミは足を止めた

どうやら「お散歩」の時間はここまでかな。指揮官をお家に送ってあげないと

指揮官、ナナミ、加速するよ。捕まってて

もう……そんなに握りしめなくても……

視界が青くなり、後ろへ流れていく星々が通りすぎる瞬間に赤く光り、後方の赤い星雲に吸い込まれてゆく

これはある速度まで加速した時にだけ見られる赤方偏移だ。時間と空間が色で分けられ、遠くにある青は「未来」、後ろにある赤は「過去」になる

その夢のような光景の中にいると、次元の制限を突破したような錯覚に陥った

視野が再び正常に戻ると、目の前に見慣れた青い星が見えた

指揮官、そろそろ帰らないとね

少女は手を放し、軽く背中を押してきた。こちらの体は重力に引っ張られ、青い母星へ向かって落ちてゆく

なぜか心に不安を覚え、遠ざかるその小さな姿に向かって叫んだ

ナナミはここにいる。でも……

少女はゆっくりと瞬きをして、人をからかうようないつもの笑顔を作った

ずっと……

後の言葉はよく聞こえなかった。意識が白い光に包まれていく

ナナミ

指揮官を……

体が揺さぶられ、目の前にぼんやりとした人影が見えた。やっとはっきりと感覚を取り戻すと、ソファの上に寝かされていることに気づいた

指揮官、気がついた?どうだった?

宇宙の旅を経験したせいで、見慣れたオフィスにいても、ここが現実であるかどうか瞬時に判断できない

そうだよ。ほら~

ナナミはオフィスの机からいくつかファイルを持ってきた

これ、指揮官がまだ処理していないファイルだよ。覚えてる?

ナナミはマーボーに色んなシチュエーションを入れたけど、指揮官が処理しなくちゃいけないファイルは入れてないもん

ファイルを確認すると、途中までやった記憶と一致している。どうやらもうゲームオーバーらしい

じゃ指揮官、ナナミはもう行くね

ナナミはマーボーを外に押し出しながら、背中越しに声をかけてきた

何か、逃げようとしてない?

しかし言い終わる前に、ナナミの姿は見えなくなってしまった

訊きたいことはたくさんある。だが、ナナミが言いたくないのなら、言い出すのを待つのも礼儀だろう

オフィスに戻ると、デスクには湯気が立ったコーヒーが置かれていた

ゆっくりとコーヒーを口に運ぶ――

衝撃的な味に、全て吹き出してしまった

マーボーの絡まったケーブルの間で、少女は何かを探している

あれ……どこいったんだろ?

マーボー

マーボーの転送端子なら、右の肘かけの後ろです

あっ、本当だ!マーボーすごい!

マーボー

ありがとうございます。ですから、今すぐそのドライバーをマーボーの中央処理装置の保護カバーから移動させてください。そこに転送端子はありませんから

へへ、データ転送開始、っと……

ナナミ、たくさんの思い出をちゃんと保存しないとね

マーボー

質問があります。ナナミちゃんのメモリーにも同じ記憶データがあるのに、どうしてマーボーからデータをダウンロードするのです?

無意味なリソースの浪費だと思います

浪費なんかじゃないよ。相手をもっと理解するために、みんなやってることなの

こんな大事なことを浪費だなんて、誰も言わないよ

マーボー

大事なこと?

マーボーも大きくなったらわかるよ!

マーボー