夜の森は静まりかえっていた。警備隊の臨時駐屯地に、焚き火のパチパチという音が響いている
……以上が今回の作戦に関する報告だ。ほとんどのエリアの音声装置の回収は無事に終了した。皆のお陰だ。改めてここで、礼を言う
この言い方、隊長は「しかし」って言い出すぜ
隊員たちは小声でひそひそと話している。指揮官は焚き火の側に座って、警備隊長の報告を聞くともなく聞いていた
ルシアはキャンプで誓焔機体の今日のデータをアップロードしている。ずっと彼女と一緒に行動していたので、側にあるはずの温もりを失ったようで落ち着かない
しかし、我々は新たな状況に直面している——今日、スカベンジャーたちと話したところ、彼らが離れたくない理由は、廃棄されたリゾートを発見したからだと
野獣を遠ざけるために、彼らはそこにかなりの数の音声装置を設置した。さっき数人の隊員と偵察に行ってきたが、すでに侵蝕体が集まってきていた……
……彼らが自身で植えた食糧がある土地への執着から、まだリゾートに移動してなかったのはラッキーだったな……
ゴホン!とにかく、明日の作戦は廃棄された森のリゾートに行き、音声装置を回収することだ。侵蝕体に遭遇する危険が高い、皆、必ず準備を万全に……
また防護規則や戦闘規律について、うるさく言うんだろうな……
再度、防護規則や戦闘規律を再確認する!グレイレイヴンが突撃しているからと自分にもできると勘違いしないように!必ず防護をしっかりと行って……
隊長はいつもあんな感じなんですよ。へへ、俺たちはもう聞き飽きましたけどね
隣で、指揮官の感情を敏感に察知した彼は、端末を指差した
確かに隊長はすごく責任感が強いんです。だから、多分……あと15分くらいしゃべり続けるかな
予言通り、15分後にようやく報告を終えた警備隊の隊長は、会議の終了を宣言した
グレイレイヴン指揮官、ちょっとよろしいですか?
長い演説で少し声が枯れた警備隊の隊長から、意外にも引き留められた
おふたりのご支援、本当に感謝しています。我々だけでは音声装置の回収にもっと時間がかかり、侵蝕体が引き寄せられて、被害はスカベンジャーだけではすまなかった
更にお願いなのですが……明日、廃墟の森のリゾートにおいて、回収のリーダーを頼めますか。私は別の任務があり、もっと遠い場所まで巡回しなければならないので
もし何かお手伝いが必要なら、遠慮なく隊員たちに命じてください。彼らは皆、あなた方に信頼を寄せています
ありがとうございます。私が戻ったら、必ずこの保全エリアの特産品をご馳走しますから……
そう言うと、警備隊長は規律正しく敬礼し、足早に去っていった。急ぎの用があるようだ
……
ルシアはキャンプの焚き火の側に座り、手の中の何かをいじっていた
足音を聞いて、ルシアはすぐにこちらが戻ってきたことに気付いた
お帰りなさい、指揮官
大きく揺れる炎が、少女の顔を温かく照らしている。彼女がこんなにリラックスしているのは珍しい
えっと……
ルシアは答える代わりに、手を持ち上げた。細い指が上下に動き、紙を折ったり広げたりしていた
近くで見るために隣に座って覗き込むと、紙に文字が書かれていることに気付いた
……はい
指揮官、四つ葉のクローバーはお好きですか?
ルシアは顔を上げずに、手の中の紙を慎重に折り続けた
指揮官は、私が何気なく口にしたことをいつもたくさん覚えていてくれます
一瞬、どう返せばいいのかわからなかった。静かな雰囲気の中、紙を折る音だけが響いていた
ルシアは何かに気付いたようにこちらに顔を向けると、微笑みを浮かべた。そして、再び懸命に折り紙を折り始めた
四つ葉のクローバーは、幸せと幸運の象徴です。今日は見つけられなかったけれど、指揮官にプレゼントしたいと思って
四つ葉のクローバーだけじゃなくて、[player name]……指揮官
宝石のように輝く少女の瞳に炎が映っている。彼女は慎重にひと筋ずつ、折り目を整えていく
しかし、この状態は長くは続かなかった。紙が破れてしまい、その時の終わりを迎えたのだ
あ……やってしまいました
ルシアは悔しげに、すぐ側にあった端が少し巻き上がった手帳を手に取り、ページを1枚破った
薪が燃えるパチパチという音が小さな熱望のように響く。地面に伸びた長い影の中で、構造体と人間は、その切なる願いを叶えようとしていた
折り紙は思ったよりも複雑なようで、少女が幾度同じ動作を繰り返しても完成しなかった
はい、お願いします
ルシアは返事をせず、こちらを見つめながら、手に持った紙を差し出した
折り目のついた紙を持つ指先が触れ合う。頭の中で、四つ葉のクローバーの形が紙と重なり合い、徐々に答えが見えてきた。実はそれほど複雑ではないようだ
……
……
すぐに、ルシアの手の中に小さな四つ葉のクローバーが現れた。ほっとひと息ついた時、彼女の動きが止まっていることに気付いた
改めて彼女の顔を見ると、ルシアの視線はずっと自分に注がれていたようだ。赤い炎が彼女の頬を照らし、その瞳は星のように艶やかに輝いていた
はい……[player name]隊長
ふたりだけの暗号が通じたのか、彼女は表情を緩め、静かに体を伸ばした
なんだか……こんな時間はすごく久しぶりですね。厄介なトラブルもなく、時間に追われることもない
こんなゆったりした時間が……私はとても好きです
優しい月光が山々を照らし、森のキャンプを穏やかな風が通り抜ける。紙を折る方向を間違えても、それもまた一興だ
ルシアは手順を間違えたようで、形になりかけていた作品を解体し、レクチャー映像に熱心に見入っている
炎の揺らめきの中、彼女が手にしている白いページの中で、黒い文字が踊っている
あ、これですか?
彼女の表情に少し緊張が走ったように見えた
大丈夫です。私は指揮官に秘密なんてありませんから
それに、実はこれは……
紙を広げると、そこには抜粋された文章がいくつか書き留められていた。それらはとても馴染み深い文章のように見える……
これらは全て、指揮官が以前に読んだ作品の一文です
彼女は手帳を開いた。ページには、たくさんの書籍のタイトルや抜粋された文章が記されていた
私は、機体適合の合間に時々図書館に行って、指揮官から教えてもらった本を読んだんです
あなたが読んだ本の中に、あなたの痕跡を見つけたかったから
そう言いながらルシアは俯いて手帳を見つめ、無意識にその文字を指でなぞっていた
心に響く文章を読むとついメモを取りたくなって、この新しい手帳に書き留めました……
私はこの手帳の中から、祝福の意味があるページで四つ葉のクローバーを折って、指揮官にプレゼントしようと
再び手元の紙を慎重に折り、また別の方向に折る。幸運の神がほんの一瞬、微笑んでくれたらしい。ほぼ同時に、ふたりの手の中にふたつの四つ葉のクローバーが現れた
……できました!
彼女は自らの手で創り出した幸せを、慎重にこちらの掌に置いた
見た目はほとんど同じ作品をルシアに手渡すと、彼女はその小さな四つ葉のクローバーを大事そうに眺めた
きっと私たちに幸運をもたらしてくれますね
炎の優しい光に照らされながら、ふたつの四つ葉のクローバーを交換した。折り紙には、お互いの手の温もりがまだ残っている
ルシアは折り紙の四つ葉のクローバーを丁寧にしまい、祝福をきちんと保管できたかを確認し、隣に座る指揮官を見つめた
夜はまだ始まったばかりです……
ここで戦った時の話、お聞きになりたいですか?