あとはウォールを設置するだけですね。リーフ、端末の調整をお願いします
はい、任せてください
戦闘後のリーは、各種装置の設定で忙しい。少しでもその負担を減らそうと、リーフも何かとフォローを買って出る
今のところ指揮官のお手を煩わせる必要はありません。それより、ルシアの様子を見に行った方がいいのでは?最近は任務が終わるとすぐ、どこかへ行ってしまうので……
……気まずいんでしょうか……
そんなことないとは思いますが、念のため様子を見に行った方がいいかと
恐らく、この先の広場にいると思います。……様子を見に行ってみては?
やぁッ……!
違う……ここは左から振り下ろすべき……
リーに教えてもらった方向へ向かうと、ほどなく刀を振るうルシアの姿を見つけた。どうやら、刀を振り下ろしては収める動作を幾度も繰り返しているようだ
ブツブツと独りごちながら、一心不乱に励んでいる
指揮官……次の任務でしょうか?申し訳ありません、つい夢中になってしまって
紅蓮と黎明の刀術を学んでいるんです
……せっかくですし、ご指導いただけませんか?
いえ、戦い方を教えていただきたいわけではなく、ちょっとしたやり方や習慣的なことについてです
ありがとうございます。指揮官なら絶対に受け入れてくださると思っていました……あ、いえ……データ資料に、指揮官は私の要求を拒否するはずがないとあったので……
ご承知の通り、今の私はルシアでありながら、ルシアではないのです。このままでは、皆とのコミュニケーションに偏差が生じかねません
ですから、できるだけ以前のルシアと同じであるよう、日々データを研究しているのですが……なかなかうまくいかないんです
いえ……無理をしているわけではありません。自分が持っているあらゆるものを、大切にしたいだけなんです
とにかく、刀を振るう私を見守っていてください
継承した記憶データに、ルシアが指揮官に見守られながら訓練を行った記録があります。指揮官なら、ルシアの攻撃頻度や構え等をよくご存知のはず
以前意識モデルの整合化を行った時と同じように、指揮官が隣でご指導してくだされば、もっと速くかつての記録を理解し、自分の力にすることができると思うんです
では、いきます……
すみません。指揮官、一旦戻ってきていただけませんか?
ルシアが刀を振り上げた瞬間、通信チャンネルからリーの声が響いた。リーフの申し訳なさそうな顔が映し出されている
さきほど設置した装置には、指揮官の生体認証がないと解除できないものがあったんです……。確認不足で、申し訳ありません……
そういうことでしたら、ただちに指揮官と戻ります
大丈夫です。どのみち休憩時間も残りわずかですし、後日改めて練習します
掃討済みとはいえ、指揮官おひとりにするわけにはいきません。護送します
ところで、指揮官。手を繋ぎながら戻ってもよろしいでしょうか?
別のデータを確認するだけです。これも整合化の一環なので
ありがとうございます。……訓練は中断しましたが、せめて移動中に別のデータを確認できたらと思ったんです……
ルシアは刀を収めると、指揮官の手をそっと握る。手が触れたその瞬間に、ルシアの震えが伝わってきた
こ……この感覚……
ルシアは、繋いだ手の上にもう一方の手を重ねた
これ、は……
震えがより一層強くなる。手をしっかり握り締められ、身動きも取れないままルシアに声をかけようとしたその時――
指揮官、申し訳ありません。きゅ、急用を思い出しましたので、私はこれで……!
ルシアは振り返りもせず、逃げるように走り去ってしまった