Story Reader / Affection / リー·超刻·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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リー·超刻·その2

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それが、耳に擦り傷を作り、任務を中断して空中庭園に戻った理由か?

データ解析は終わった。それによると、原因は新機体の異常データが流入したことによるものだ

サンプルデータを保存したが、まだその異常データの出所や用途は確認できていない

唯一わかっているのは、異常データの影響で、リーの意識海に特殊な混乱が起きたということだけだ

この特殊な意識の混乱の表面的な現象としては――

アシモフはコーヒーカップを持って、リーが平静を装いつつきょろきょろと辺りを見回しているのを、顎で差した

リーは一時的に、子供の頃の意識の欠片で占有されている。今のリーの意識の年齢は……そうだな、最大で9歳といったところか?それ以上大きくはないだろう

この特殊な意識の混乱に興味を持ったらしいアシモフは、改めて側にいるリーをまじまじと見た

正確には9歳と半年ですね。ありがとうございます

リーは不満そうに口を尖らせて、アシモフが言った年齢を訂正した

話している内容はわかります。でもそれは根本的にありえないことです。実際、僕はこうして実在しているのに、どうしてただの意識の欠片だと決めつけるのですか……

そう言いながらリーは眉間にしわを寄せて、明らかに9歳半ではない体を見ると、口をつぐんだ

9歳半、これは事実なんだ

この事態はタイムスリップでも誘拐でもない。その証拠に、お前が生きている時代に、こんな機械はなかっただろう

アシモフはリーを誘導するように、解析結果を吐き出した精密機器に視線をやった。リーはその巨大な機械を興味津々といった様子で眺めている

今のところこれ以上できることはない

同じ特化機体とはいえ、リーの状況はリーフの時とは違うからな

力を得るには代償が伴う。この手のトラブルを予想してはいたが

特化機体に関する研究はまだ始まったばかりなんだ。技術が進歩すれば、我々もより上手く対処できるようになる

……疑うのか?

アシモフは、棚からおそろしく分厚いファイルを引っ張り出して、こちらに開くようにと促した

特化機体適応説明書第5版、126ページ目、第3モジュールの第8条

「意識の混乱時に出現する可能性がある18種の状況」

とにかく、黙って俺を信じろ

……ルシア、そしてリーフ、今度はリー

特化機体がもたらす意識海のリスクとトラウマが、常にグレイレイヴンにつきまとって離れない

アシモフも何か考えているようで、部屋全体がしばらくの間、静まり返った

機体は正常に機能しているから、外部から介入しない方がいい。リー自身が混乱した意識の欠片を整理できたら、いずれ元に戻るだろう

しかし、子供のリーにとってはおそらく「ひと眠りしていたらタイムスリップした」という感じなんだろうな

意識の欠片の混乱は不確定な性質のものだ。子供の頃の意識が1週間程度続くかもしれないし、他の年頃の意識の欠片が現れるかもしれない

理論上、いずれこれらの意識は少しずつ融合する。だが、もしお前とグレイレイヴンのことを知らない攻撃的な欠片が現れたら、ちと厄介だ

ちょうどお前らは調整中だったな?リーをここに残して研究させてもらいたいんだが

アシモフは何事もなかったかのように、コーヒーをひと口飲んだ。そして思い出したように口を開いた

機体を主導しているのはメインの意識ではないにしろ、いずれにせよ自分の経験だ。意識海の整理が終われば、他の意識が機体を占有しても記憶にアクセスできる

他に質問は?

ああ……他に検証できるデータがないから、確証はないが

ただ意識海の欠片のクリア進度から推測すると、約1週間はかかるだろう

しかし1週間後に必ず状態が解消されるとは保証できない。1週間後にもう一度、リーを連れてきてくれ。意識海の状態をチェックする

調整期はしばらく続く予定だ。1週間ほどなら、大きな問題はなさそうだった

心の中でそう思いながら、ちらりと側にいるリーを見た。彼は機器の周りを2周ほど回って、アシモフに訊ねた

あの……目の下のクマがひどいそこの人、この機器に触ってもいいですか?

彼は少しかしこまって、手を後ろに回して解析機器の側に立っている。機械好きの気質は、この時すでに片鱗を覗かせていたらしい……

駄目だ

アシモフは1歩後ろに下がって、コーヒーカップをテーブルの上に置いた

これほどストレートに拒絶されるとは思っていなかったのだろう。リーは一瞬固まって、負けじと口を開いた

データ解析機器を分解したことがあります。だからこれの内部構造はしっかり理解しています。決して壊したりしません

ただ、ここのインターフェースのモデルと、自分が作ったものとの違いを知りたくて……

駄目だな

コーヒーカップを持つ手を切り替え、アシモフはさりげなくテーブル上の機器と資料を彼から遠ざけた

2回も頑なに断られたリーは、振り向いて壁に向き直ると、沈黙で怒りを表した

感情もコントロールできないのか。どうやら意識の欠片の侵入はかなり深いな。しばらくの間、その記憶ポイント以降のことはまったく思い出せないだろう

……本当に理解しているんです……

リーは諦めずに振り向いて、アシモフに熱い視線を送った

今のリーの状態をレポートにして上に報告する。今後の任務にも関わるからな

まだ他に用があるのか?なければもう行け。俺はデータの出所を調べる

アシモフは身を隠すように素早く2、3歩進むと、ラボの内扉をバンと力強く閉めた

なるべく人に見られないように、リーを連れて休憩室に戻った。扉を開けると、リーフとルシアが扉の側に立っていた。ずっと帰りを待っていたようだ

指揮官……リーさん、一体どうしたんですか?

リーフとルシアに、リーの現状を簡単に説明した。リーフが心配そうに側に立っているリーを見つめる

ということは、今のリーさんの意識年齢は9歳ということですか?

9歳と半年です

あ、別に数字に意味はありません、ただ……

今のリーさんは子供なんですね

怖がらせてしまったでしょうか?

リーが無意識に自分の側に隠れたのを見て、ルシアはリーフを引っ張ると、1歩後ろに下がった

9歳半の子供が、突然見知らぬ体と環境の中に置かれたら、すごく怖いですよね

でも、指揮官のことは信頼しているみたいですね。目覚めた時に最初に会った人が、指揮官だったからでしょうか

では、リーさんのことは指揮官にお願いしましょう

セリカさんがさっきここに来て、今回の任務の状況を訊ねてきました……こちらは私とルシアにお任せください、指揮官

扉が静かに閉まって、休憩室はしんと静まり返った

……なんだかすみません

リーは扉の脇に立ち、扉の下の隙間を凝視している。そして指を丸めて、蚊の鳴くような細い声で言った

……さっきの部屋で、世界政府が作った構造体のプロファイルデータが見えました。あなたの言っていることに嘘はなかったようです

一体なぜ僕が構造体になったのかはわかりませんが、あなたの怪我は僕のせいなのは事実です。だから……

申し訳ありません

リーは丁寧に謝罪してきた。静まり返った部屋の中で、彼の言った「申し訳ありません」の声が隅々にまで響く

こんなに簡単に許されるとは思わなかったようで、リーは驚いた表情で顔を上げた

ミニキッチンに入ると、コーヒー用に買ったミルクがまだ少し残っていることを思い出した

「チン」という音とともに、温かい香りが小さな部屋に満ちる

構造体は食事の必要はないが、自らの価値を証明しようと後ろをついてくるチビリーに、どうしてもこうしてあげたかった

僕はいろんなことができます。分析機器を組み立てられますし、電気製品の修理もできます、あと……

頑固で負けず嫌いな小さなリーは、真剣な熱い眼差しでこちらを見てくる。それは成人のリーからは見られない類の表情だった

そういえば、リーの小さい頃の写真を見たことがなかった。幼少の頃の話を聞いたこともない……

端末を取り出して記念撮影をしたい衝動を抑えながら、温かいミルクが入ったカップを取り出してリーに渡した

子供がそこまで責任を感じる必要などない。ゆっくり休めば、リーの意識もやがて回復するだろう

……両親の遺伝子を解析した結果では、僕はこういった高い栄養価のある液体を飲まなくても、身長は十分に伸びるようです

でも……ありがとうございます

彼はコーヒーテーブルの側に座って、両手を静かに膝の上に置いた。その様はおとなしい大型動物のようだ

……はい

日が暮れると、外から賑やかな人の声が聞こえてきた。もう夕食の時間らしい

処理済みの文書をまとめていると、かなり長い時間が経ったように思われた

硬くなった首を回しながらオフィスから出て、ソファに寄りかかって寝ているリーを見た時、一瞬、彼が襲撃されたのかと――

危うく警報を鳴らしかけた

「小さい頃」のリーそのものなのだろう……そういえば、リーが休眠している姿をほとんど見たことがない

戦闘時でも調整時でも、リーはいつでも落ち着いていて頼れる存在だ。常に想定外の状況を警戒している。こんな風に無防備に熟睡しているリーを初めて見た……

構造体が風邪をひくことはないと知ってはいるが、思わずソファカバーを彼にかけた。横のテーブルに置かれたカップの中身は飲み干され、泡だけが残っている

リーは小さくても変わらない、言葉と心が逆だ……

静かに照らすライトが、この空間を優しく包んでいた