剣が白い騎士の胸を貫いた
ふふ……
いい笑顔ですね、フェクダ……
……
思い出したくもなかったあの幻想が現実になってしまった
彼女が自分の顔を触ると、なんと口角が少し上がっていた
彼女は自分が笑っていることに気がついた
しかし、なぜ笑っているのかは理解できない
笑顔は喜びの瞬間を残すものだが、この時彼女が感じていたのは空虚だったから
何で埋めればいいのかもわからない、空洞のような何か
彼女がその場に立ち尽くし、笑顔が消えるのを待っていると――
行くわよ
ふいにαが彼女のマントを引っ張り、最後の扉の前へと引き寄せようとした
ま、待って……!
そんな急ぐ必要ないでしょ!まだそんな気分じゃ……
それより、どうして突然ここへ?
「ルーク」は自分のサイコロをひとつ消費して、味方の戦闘に、自分のポイントを加算できるの
つまり、必要な時に登場する便利なユニットってこと
5分前にとってつけたような設定だね……
じゃあどんなものが合理的だと思うの?
うーん……あなたが私を助けるために、強い意志の力で「キング」の決めたタブーを打ち破り、ルール外の奇跡を生む――みたいな?
いいわ……今のは忘れて、聞かなかったことに
もう気が済んだ?
αが再びフェクダを引っ張り始める
え……ちょっと!こういう時は、あなたか私が何か哲学的なことを言って、感情を昇華させるんじゃないの?これから大決戦なんだから、セレモニー感を出してよ!
……つまり、何が言いたいのよ?
……
わかんない
メラクは私に何か伝えようとしてたのかもしれないけど、どうすればよかったのかわからない……
たくさんの経験をしたんだから、成長しなきゃいけなかった……
自分の見つけたい答えを見つけて、全身全霊で全てを終わらせなきゃいけなかった
でも……いざ本当にそうなったら、何もかもが思っていたのと違っていて……
私の何が変わったのかわからない。変わったのかどうかすらも
もし、一切変わっていなかったとしたら……
……
「ポーン」はチェス盤の一番奥に到達すると昇格――プロモーションできる
でもポーン自身が変化するんじゃない、プレイヤーがポーンを別の駒と入れ替えるだけよ
ポーンはポーンのまま、本物の「クイーン」にはなれない
……それって慰め?
結局は、それもゲームのいちルールにすぎないわ
何も決められないし、何も定義できない
世界はゲームのように簡単に理解できるものではないし、人間関係も駒同士のように利害が単純じゃない
前進したって何も変わらないことは多々ある。でも唯一、逃避するだけでは何も変わらないのは事実ね
もし本当に何か答えを出したいのなら――
焦る必要はないわ
道のりはまだ、うんざりするほど長いのだから
いつもこれが「最期」だと覚悟するのですが、私たちは必ずその「最期」を乗り越えるんです
今回もきっと「最期」にはなりません。だって……
私たちの行く道のりは、まだまだ長いのですから
……
私にそう言ってくれるのって……
さっさと扉を開けさせるためよ
αがフェクダをぐいっと押すと、彼女は転びそうになってよろめいた
わ、わかったよ……
戸惑いつつも、フェクダは扉の前に立った
ここまで来れただけでよしとするかな
「ポーン」はゴールすると「昇格――プロモーション」する
彼女は扉に触れた
ねえ……ブラック★ロックシューター……
これでひとつ貸しってことになる?
次に会うとして……もしそんな機会があるなら、だけど――
今回の貸しで、ちょっとは手加減してよね!
彼女は思い切り扉を押し開けた
そして――
……わかった
彼女は剣を手に、開かれた扉をくぐった
眼の前に絡みつく鎖を断ち切って進んでいく
左目に燃えたぎる青い炎。彼女は長らくここで待っていた宿敵を見上げた
少女は玉座に座り、その笑みをたたえた緑色の瞳は彼女を見下ろしている
始めよう、デッドマスター
この戦いで――
今回の「闘争」に終止符を打つ!