Story Reader / 本編シナリオ / 40 よりよい明日 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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40-3 グレイレイヴン指揮官

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真っ暗な闇の中で、意識は目覚める寸前で彷徨っていた。さまざまな雑音が入り乱れ、耳鳴りのような音が響く

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グレイレイヴン指揮官……昇格者……甚大……

時間が、秩序のない空間の中で引き伸ばされていく

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……侵蝕……逃げ……早く……!

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赤霧……拡大……!

見覚えのある幻影に五感が支配され、荒波のように自分の体を引き裂く。背骨を通して骨を刺すような激痛が襲ってきた

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……カラスさん

ほんの一瞬、何か温かいものが悪夢を追い払った

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……[player name]

それは優しくて艶やかな呼び声だった

彼女は自分の手を軽く引っ張りながら、暖かな光を切り開き、この果てしない闇の終わりへと向かった――

ぬかるみのような悪夢が根こそぎ引き抜かれ、ある美しい人影がぼんやりと目の前に現れた

ふふ、なかなか悪くない寝顔。かわいい

まったく知らないはずなのに……どこか懐かしく感じるこの女性は?

科学理事会安全総監のネイティアよ

繰り返してみて?

うん、頭の傷は酷くなさそうね。開頭手術の手間は省けたわ

彼女はそう言いながら顔を近付け、じっとこちらの目をのぞき込んだ

瞳孔の反応も正常。よかった

右脚の内側に破片による傷がある。さっき応急止血をしたけど、包帯を外して検査する必要があるわ

彼女は横のトレイからハサミを取り出すと、こちらのボロボロの服を指差した

構わないなら始めるわよ?

あら?痛いのが苦手なの。悪くない体質ね、覚えておくわ

彼女は精確な動きで包帯を切った。その手慣れた動きには安心感を覚えた

傷口に活動性出血はないけど、傷の周辺が汚染されているから、外科的治療が必要ね

局所麻酔して破傷風抗毒薬を打ったあと、縫合する。少しチクッと痛いかもしれないけど、我慢して

彼女は淡い紫色の長い髪を軽くまとめると、すぐに治療を始めた

麻酔を打つ前に、彼女はこちらの脚にあるいくつかの傷痕に気付き、興味深げに見上げてきた

どうしてひとりきりで放射区の中で倒れていたの?上のお偉いさんたちが皆、大慌てしてたわよ

これまでに一体何が起きた?

眉間が鈍く痛んだ。ぼんやりとした記憶が再び目の前に広がっていく

3時間前――

3時間前――

……現地部隊の包囲を受け、昇格者ジョン·ドゥはカヘティ放射区の縁まで追い込まれている

「アディレ大爆発」についてはファウンスで教わっただろう

大爆発の後、爆心地周辺の数千平方kmの土地に、霧状のパニシングが発生した。我々はそれを「赤霧」と呼んでいる

まるで放射能事故のような出来事だったため、現地の人々は赤霧に覆われた地域を「放射区」と呼ぶようになった

そしてジョン·ドゥは今、カヘティ放射区の縁に潜んでいる。そこはかつて、アディレ連盟の重要な地上都市のひとつだった

現在の通常任務を全て中止し、ただちにカヘティに向かえ。地上部隊の指揮を執り、昇格者を討伐しろ

これはハセン議長の案だ。理由は聞いていない。彼なりの考えがあるのだろう

隊員はすでに他の戦区から移動中だ。緊急状況だ、今すぐ出発しろ

それと[player name]、どんな理由があろうとも、放射区への接触と進入は絶対に禁止だ

赤霧は赤潮と同じく、独自の性質を持つ。人間や構造体への物理的ダメージは大きくないが、精神に悪質な副作用をもたらす。その具体的な症状は今もはっきりしていない

なぜならアディレ大爆発から29年経った今に至るまで……

放射区から生きて戻った者は誰もいない

1時間前――

1時間前――

こちらECHO-1、HQ応答せよ……!

ECHO小隊はB-77にて昇格者の待ち伏せを受けた!繰り返す、ECHO小隊はB-77にて昇格者の待ち伏せを受けた!被害は甚大だ!

赤霧が拡がっている!避難民が多すぎて、もう持ちこたえられない!

HQ、聞こえるか!?HQッ!

ダメです!あなたは高優先度目標で、我々こそ――

ハ……はいッ!

長年沈黙していた放射区の中に、これほど多くの侵蝕体が潜んでいたとは、誰も予想していなかった

戦場に到着してすぐ、敵側は正面の防衛線を回り込み、こちらの不意を突いてまるで鋭い刃のように司令部を攻撃してきた

慌てて応戦し、荒野のあちこちで無数の銃弾が飛び交った。倒せたと思っても、背後からすぐ別の凶暴な侵蝕体の鉄の腕が襲いかかってくる

そしてこの全ての黒幕は、少し離れた高所に立ち、この不平等な戦争を狂気の目で見下ろしていた

天秤が少し傾いただけで、自分が圧倒的な勝利を収める側だと思い込む……それこそ反撃時代がお前たちに植えつけた傲慢と幻想だ

私の配下の駒は無限だ。これらに対処しながら、背後の烏合の衆を守る余裕がお前にあるか?グレイレイヴン指揮官

残念だが、最初から私のチェス盤は、勇士と獣が闘うこの舞台の上にはないのだ

見るがいい。成長プロセスはすでに始まっている。そしてお前は幸運にも、「彼女」の最初の養分となる

昇格者が歪んだ笑みを浮かべた時にようやく気付いた。周囲のあらゆる場所に、異様な赤い濃霧がうねり始めている

錆びた血のような臭いが鼻腔を満たした途端、目の前の世界がぐるぐると回り出した。全てが遠くへ離れ、ぼやけていくようだ

しかし動力甲に守られている以上、この濃度のパニシングが自分にこれほどの負荷を与えるはずがない

意識が遠のく中、昇格者の最後の言葉が耳に残った

種はすでに蒔いた……

さて、次の獲物を招くとしようか

話は終わった?

薄ぼんやりとした光の中で、ネイティアは最後の包帯を切ると、その端を伸ばすようにしながら指の腹で皺を優しくならした

……まだ痛い?

そうみたいね。あなたの体はとても頑丈だわ

ふぅ……こうやって息を吹きかければ、痛くない――

彼女は自分の耳元に顔を近付けて、いたずらっぽくそっと息を吹きかけた

ここよ

彼女は室内のまだらに汚れた壁を指した――カヘティ実験中学校

これのお陰よ

ネイティアは腰につけていた装置を取り、手渡した

赤霧遮断器よ。原理はΩ装置と似ていて、一定範囲内に赤霧を中和する微粒子を生成できる

すごく運がよかったのよ。あなたの目の前にいる私は、この世で最も赤霧を理解してるひとり

彼女は軽く笑って頷いた

装置は2台持ってきたけど、私たちは一緒に行動するし、当面、残り1台は予備ね

彼女はそっと目を伏せ、しばらく考え込んでいた

……任務よ。私は科学理事会のため、免疫時代の実験データの回収でここに来たの

ネイティアの言葉であることを思い出し、すぐに端末を開くと座標情報を送信し、軍部へ通信を送った

ピッという音とともに専用回線が即座に繋がる

しかしほぼ同時に、足下の大地が突然揺らぎ始めた――

……地震?

室内は危険よ。立てる?カラスさん

ネイティアが手を差し出してきた

通信が瞬時に切断された。素早くドアを開けたネイティアに導かれ、カヘティの広々とした屋外へと出る

その瞬間、遠くの建物の間から、天地を揺るがすほどの爆音が響いた

大地が激しく震え、足下の瓦礫が跳ね上がる。この都市の骨格が、何らかの力で無理やり引き裂かれ折られているかのように、歯ぎしりのような唸りが空まで届いている

路面は裂け、呻き始めた建物の鋼鉄の外壁が爆音とともに砕け散り、破片と化した。命なき都市カヘティが、荒々しくも新しい生によって強引に持ち上げられている

天地を揺るがす震動の中から、ある力が泥岩を割り裂き、奥深くの深淵から地表へと突出し、そのまま一直線に天を貫いた

垂れ下がる無数の蔓から光の雫が滴り、崩れた建築の残骸や金属の破片は星の環のようにゆっくりと旋回し、外殻を形作っている

それは、金色に輝く光が流れる「巨木」だった

根と幹の太さや高さは摩天楼と並び立つほどだ。巨大な枝の間から放たれる光は、辺り一面を金色に染めていた

これは……

端末画面のパニシング濃度が急上昇した。赤霧遮断器が不穏な警告音を発している

通信が切断され、耳障りなビジートーンが耳に響く

通信切断、通信切断……

種はすでに蒔いた……

さて、次の獲物を招くとしようか

なぜか昇格者のあの言葉が脳裏に響いた。目の前の光景は彼と関係があるのだろうか?

先ほど目にした災厄を思い返しても、放射区が更に拡大し続けることでもたらされる被害と犠牲は計り知れない

そんなことは絶対に起こってはならない

あそこは……カヘティ研究所よ

遠くにそびえ立つ巨木を見つめながら、ネイティアは低くつぶやいた

そして、これら全ての災難の起点でもある

まばゆい光の中で、濃い霧はまるで金色の大雪のように、ふたりの視線に沿って大陸全体へと降り注いでいた

カヘティ放射区外周――

同時刻

同時刻 カヘティ放射区外周――

……

天をも震わせる轟音の中、森の低木をかき分けて丘の頂に立った女性兵士は、軍帽のつばを押さえながら、目の前のぞっとする光景を見下ろしていた

さっきの轟音は一体何だったんだ……くそっ!ボス、この車ももうダメです!

時間がない。別の車に乗せている重火器を全部下ろせ。まずはここから撤退する!

でもこれらの装備なしで侵蝕体と遭遇したら……ボス、後でここに戻るおつもりですか?

この先になんとかって名の都市があると聞いています。その中には何千人もの生き残りが閉じ込められているとか

上からの命令は即時撤退だ。あの忌々しい霧からできる限り離れるんだ

……もう仕方がないんだ。命令に従え

慌ただしい撤退も終盤に差しかかり、この尻すぼみの包囲殲滅戦は、最終的に人類側の敗北で終わった

チッ、お坊ちゃん集団が。あれだけ威勢よく戦っても、結局は寄せ集め。何か起きれば一瞬でバラバラね

勝てば軍民一体で困難を乗り越えた美談にして、負ければ民衆を置き去りのまま戦略的撤退。いかにも空中庭園らしいやり方だ

彼女はガムを口に放り込むと、高所から飛び降り、たったひとりで絶望に満ちた戦場へと踏み込んだ

4、5台のトラックが脇を走り抜けていく。彼女は遠ざかる走行音を背にしながら、前方の霧に包まれた道を真っ直ぐ歩いていった

……勢い込んでわざわざカヘティ内部の地図まで描いてたくせに

彼女は胸元のポケットから1通の手紙を取り出した。それは少し前に受け取った「招待状」だった

家への帰り道なら、私の方がずっと詳しいのよ

手紙がくしゃくしゃになるほど強く握りしめながらも、その目は何度も差出人の名前を読み返していた――

ネイティア

霞んで煙る霧の中へ踏み込んだ瞬間、女性兵士はまぶたに鋭い痛みを感じた

煙と霧が立ち込める中で何かを見たのか、彼女の瞳孔が一気に開く

子供たちの騒がしい声が響き、赤レンガで造られた建物が視界に現れた

無数の精巧な花のレリーフで装飾された建物の門の上から、陽光がカーテンのように降り注いでいる。陽光はそこに並ぶ金色の文字をまばゆく輝かせていた

カヘティ実験中学校

無数の子供たちの姿がフラッシュバックのように瞬いた。記憶の奥底に眠っているはずの光景が、霧の糸で縫い合わされ、再び目の前に出現する

……

フン、子供騙しの幻影ね

彼女は首を振って過去の幻影を振り払い、肩にかけた銃のストラップを強く握り直すと、再び故郷への道を歩き出した

その小さな人影は地平線の向こうでゆらゆらと揺らいでいたが、やがて見えなくなった

次の瞬間、再び立ち込めたそれらの幻影は合体し、淡く儚い網のようにひっそりとこの大地全体を覆い尽くしていた