……殲滅
氷皇の配下の侵蝕体たちは冷たい傀儡のように、命令通り整然と前進し、連合軍の作戦領域をじわじわと圧迫していく
チッ!撃ち続けて!侵蝕体と不用意に近接戦をするな!
おう!
構造体部隊は僕と一緒に敵の前列を叩く、続いて!
了解です!
ふぅ……
大門突破後、戦闘開始前の取り決めに従い、シーモンは部隊を率いてロゼッタとは別のエリアへ向かった。その結果はシーモンの予想通り――
いや、それ以上に悪い状況だった
私は氷皇三公のひとり、大将軍ルメンツェフだ。お前たち連合軍は皆、揃いも揃って臆病者か?もっとお前たちの実力を見せてみろ
相手が来ないのなら、お前が行けばいいではないか
氷皇三公のうちふたりがこの戦場にいる。これはシーモンの読み通りだったが、彼らの戦闘能力は予想を遥かに上回っていた
それも手だが……お前は来ないのか、フェドール
私には別の用がある
返事を聞いたルメンツェフという名の構造体は、背中から伸びる尾で地面をバシッと叩くと、侵蝕体を一気に飛び越え、ノアンが率いる部隊の方へ一直線に襲いかかった
防御を!
防御展開!
シーモンの指示で、構造体部隊が盾を構えて壁を形成した。ルメンツェフの拳が盾に叩きつけられ、陣形が僅かに震えた
ほう、私の相手をする気か、黒髪の小僧!
攻撃を受け止めた直後、ノアンは盾の壁を蹴って集団から飛び出し、ルメンツェフ目がけて一直線に走った。誰もが一騎打ちになると思った、その時――
昇華エネルギーチャージ、ギアアップ――雷鳴!
ノアンはルメンツェフの脇をすり抜け、後方で密集している侵蝕体の群れへと走り、エナジーブレードのエネルギーをそこへ叩き込んだ
!
エネルギーが炸裂し、侵蝕体の後衛が一瞬で塵と化した
成功した!
後退!
短く鋭い指示とともに、構造体部隊は盾の壁を解き、撤退を始めた。ノアンもすぐさま身を翻し、後方へ向かいかけたその時――
やるな、黒髪の兵よ
ルメンツェフがすでに前方に立ち塞がり、自分を無視した代償を払わせようと重い拳を繰り出す。だが、ノアンは一向に足を止めない
隊列T!撃て!
むっ?
遠方からの射撃でルメンツェフの注意が逸れる。ノアンはその隙に侵蝕体の群れから脱した
これこそシーモンの考えた、未知の敵に対する「戦いながら退き、弱点を突く」戦術だった
っていうか、あんたさっき、技名かなんか叫んでなかった?
あれ、いいでしょ?僕が何をしようとしてるか皆にもわかるし。隊長の射撃指揮と同じだよ
次の攻撃に備えて
了解
パルマとノアンがルメンツェフを抑え込み、構造体たちが侵蝕体を掃討していった。廃墟での戦術により、侵蝕体の数の優位性が崩れている。だが長引けば――敗北は必至だ
このままじゃいずれ突破される。皆さん、あとどのくらいかかりそうですか……
街中での材料調達が思った以上に難航している。もう少し時間をくれ
粗い部分は後で埋めればいい!皆、とにかく急げ!
はい!
だが、質は最終的に量に押し潰される。シーモンは正面の戦術とは別に、長期戦用の陣地準備を進めていた。完成すれば、仲間たちが三公に直面する危険もなくなる
……待てよ、三公?
シーモンは何かに気付いたように、ハッと顔を上げた。思った通りだ――敵の隊列の中に、あの背の高い羊人型の姿が見当たらない
それと同時に、頭上から背筋が凍りつく冷ややかな声が響いた
悪くない戦術だ。だが大局が見えていないぞ、空中庭園の「指揮官」
シーモンは更に上を見上げた――近くの高層ビルの屋上にフェドールが立っていた。奪い取った銃を構え、その銃口はシーモンにぴたりと狙いを定めている
ご苦労だった、死ぬがいい
直後、何かの爆発音と同時に銃声が鳴り響いた
あっ、繋がった!繋がりました!
よくやった、さすが私の一番弟子だ!
大本営のテントの中には、スクリーンの青白い光に照らされたミネイルとクマ博士がいた
ロゼッタの出陣後、ここにいるのは守備兵と通信担当だけだった。ミネイルとクマ博士は高速でキーボードを叩き続けている――空中庭園に接続し、第2波の支援を得るために
接続は正常、これで安定しただろう。俺は空中庭園科学理事会の首席技術者、アシモフだ
ミネイル博士、あのー、このおっさんは……
ふん、空中庭園の技術者のトップね。まさか大物自ら接続してくるとは。私はミネイル、極地遺産基金会の代表よ。航路連合の首席技術者だと思ってくれればいい
覚えておこう。これ以上の挨拶は必要ないな……早速本題に入る。今回のこちらの目的は、「マルクト」というコードネームの機体の完全起動をサポートすることだ
そのために、まず教えてほしい。機体内部のブラックボックスとは何なのか、なぜそれが機体の意識海をこれほど混乱させるのか
……ふたつに分けて答える
ひとつ、ブラックボックスについては、統合技術と関連があることしか知らない。どう繋がり、どう動くのかは私にはわからない――私は製作者であって開発者ではないから
ふたつ、問題はブラックボックスとは限らない……極地には深刻な技術の分断期間がある。もしかして、私が手稿通りに機体を作る過程で何かミスがあったのかもしれない
分断……インブルリアの事件の後のことだな。あの事件以降、航路連合全体が技術研究に拒否反応を示すようになったと聞いている
フン、そのせいで極地の多くの学者が完全な正規の教育を受けられていないの。実際、私も途中からエンジニアに転向した身よ
皆、さほど頭が切れるわけじゃない。だから物を作り損ねることもありうる
作り損ねる……?しかし、機体の検査報告には、そういった異常はなかったが。それとひとつ目の話だが……
まさか、ロゼッタの機体も「インブルリア」と同じように、他の極地機械を操れるのか?
もしマルクトが、手稿通りの「最終マスターユニット」ならできるはず。でも、今はその特性が見られない。まさか、正しい起動の鍵は「統合」の方を活性化するってこと?
あるいはな。俺は、ブラックボックスは統合技術と何らかの関連があると考えている……空中庭園には、当時北極航路連合から傍受した統合関連の情報が一部残っている
データベースを調べてみよう。それから、手稿に関するデータをこの回線で全部送ってくれ。照合してみる
え?ああ、問題ない。クマ博士が後で……ん?
待って、今、空中庭園がこちらの情報を「傍受した」って?
ミネイルが「恥知らず」と批判の言葉を口にするより早く、アシモフはそそくさと背を向け、通信を切った
