居住区
空中庭園
空中庭園、居住区
ニコラは今朝目覚めて以来、ずっと不安感に苛まされていた
[player name]はすでに368号保全エリアから帰航する輸送機に乗機し、任務レポートもすでに自分の端末に送ってきている
モリノア……
つまり、コム·レンブラントは彼らが意図的に空中庭園に送った
だが……なぜ?
不安の兆しは眉間に垂れる長い針のようだった。ニコラは急いでコム·レンブラントのところへ向かった
ハセンのオフィスに向かう途中、ゴンシンはさまざまなことに思いを巡らせていた
昔、第3暗室にいた数百名の志願者のこと、モワノの無菌室の隣に座って仕事していたこと、たくさんのことを
だが最終的に浮かんだのは、ハセンが再び第3暗室を訪れ、世界政府が資金を引き揚げることを宣言したあの日のことだった
茫然、驚愕、懇願、絶望……
彼はあの日どんな心境の変化を経験したのか、よく覚えていなかった
ただひとつ覚えているのは、ハセンが申し訳なさそうに謝罪し、背を向けて去っていく姿だった
ハセンは確かに使者だった。彼に希望を届け、そして絶望も届けた
数年後、ゴンシンは空中庭園に入り、自分の学識と才能で世界政府の議員となった
ハセンと業務上のやり取りはあったが、ハセンから第3暗室について訊かれることは1度もなかった
思考が現実へと戻された時、目の前にあったのはハセンのオフィスだった
オフィスの扉が自動で開き、ゴンシンは車椅子を動かして中へと入った。彼の右手は操作パネルを触りはしなかったが、電動車椅子は彼の思い通りに前進した
やあ、ゴンシン博士
あの時、初めて会ったように、ハセンは彼を博士と呼んだ。しかしすでに40年近くが経ち、何もかも変わってしまっていた
議員でいいですよ、議長
ハセンは笑った
博士と呼ぶ方があなたらしいと思ってね
私らしい……ハハ
そう遠くない場所にある全自動のコーヒーメーカーが作動し、ゴンシンは手に取ってひと口飲んだ
うーん……これは昔と同じ品種の豆だろうか?
前より酸味がだいぶ増した
何せ、今は決していい時代とはいえないからな
ゴンシンは肯定も否定もしなかった
空中庭園の一部の人にとっては、暮らしはたいして変わっていないのかもしれない
……君もそう思うか?
ここ数年、色々考えた……あの時のことを全部トリルド、あるいはあなたのせいにしてはいけないと
議会の人間関係は複雑で、物事を進める時は常に困難にぶち当たる
黒野の派閥、あなたとニコラたち地球派閥、遠航派、新興の宇宙世代、ファウンスの新進勢力、それに自分の利益しか見えない視野の狭い人々……
大変だ……本当に大変だ……
きっとあの時、あなたたちも大変だっただろう……
どんな困難もきっと乗り越えられるさ
ハハ、相変わらず楽観的だ
ハセンは何かを言いかけた
じゃその対価は何だ?ハセン
…………
ゴンシンの視線はハセンを越えて、遥か彼方へ向かっているようだった
彼の口調にはどこかほっとしたような思いと、微かな恨みが滲んでいた
なぜよりによってあなたが、リンクプロジェクトの中止をわざわざ第3暗室まで来て、私に伝えた?
あなたが……私に希望をくれたのに……
……ハセン。かつてあなたたちは私が理想として追い求めた未来を否定した。その結果が今のこんな世界なのか?
教えてくれ……
ゴンシンは右手で懐から拳銃を取り出し、彼の瞳と同じ、空っぽの銃口をハセンに向けた
…………
本当にそうするつもりか?
もうひとつ訊きたいことがある
あの時のリンク計画のシンボルは樹か?
なぜそう思う?
ハ……
ゴンシンは寂しそうに笑った
ひとつ予言させてほしい
……うん?
あなたは罪人となり、私は喝采する道化師となる
あなたは誰でも世界政府の議長になるチャンスがあると言った。では試させてもらおう
扉の外から何かが聞こえてきたが、もうどうでもよかった
運命という名の風車はすでに回り始めた
同時刻、エリシオン
本当にこうしなきゃいけないの……?
パリンッ――
舞い散る欠片の中、千輪の薔薇が輝いていた
ずっと考えてた。なぜあなたが私の記憶を消そうとするのか、どうしてそこまでするのかって……
モワノ、あなた……あなたたち、空中庭園に対して何を企んでいるの?
同時刻、空中庭園、居住区――
……何?コム·レンブラントが死んだ?
彼から目を離すなと何度も言っただろう!
同時刻、地上――
ファウンス……それってどんな場所?
ああ、空中庭園だ。あそこは不思議な場所だ
…………
……じゃあ、ファウンスを落とそう
彼女はそう言った
2155年の夏、ハセンとゴンシンは世界政府のシンボルの下で握手をした
その時、彼らは「全ての人が享受できる世界を、我々が築かねばならない」と話した
数十年後の今、ゴンシンの拳銃から射出された弾丸は……
九龍中央大学のグラウンドの夜風を貫き、
クレアとの結婚式を貫き、
モワノの無菌室を貫き、
そしてハセンの体を貫いた
扉の外から4名の構造体が駆け込んできた
この前は他人の手で殺そうとして失敗、彼らに見つかってハセンの暗殺も失敗に終わった……
……でもどうでもいい
この空の高みではためく偽りの旗を降ろす時が来た。残念だが、後悔は一切ない
さようなら、ハセン
彼は銃口の向きを変え再び発砲した。弾丸が彼の心臓を貫く
■■外から何かが聞こえてきたが、もうどうでもよかった
運命という名の風車はすでに回り始めた
