Story Reader / 本編シナリオ / 38 トゥルーインファレンス / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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38-8 夜語り

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エリシオン

満月が静かに夜空に掛かる中、ドールベアは屋上に立ち、遠くの星の瞬きを見つめていた

背後から聞き慣れた足音が聞こえたが、ドールベアは振り返らなかった

はい、飲み物を持ってきた

彼女は右手のビニール袋を軽く持ち上げた。中には数缶の電解液疑似酒と紅茶が入っている

あなたの分は紅茶。この時間だからちゃんとしたのを淹れられなくて。これで我慢して

モワノは紅茶の缶をドールベアに差し出すとそのまま隣に腰を下ろし、電解ミストを取り出した

ドールベア

そんなに吸い続けたら、肺機能がやられるわよ

モワノは気にしないという笑みを浮かべ、煙を吐いた

モワノ

その時は肺を取り替える

どうせ、こんなバイオパーツならいくらでもあるし

ドールベア

……

ドールベアは紅茶の缶を開け、そっとひと口含んだ

モワノ

ノルマンの件はもう全部片付いたの?

ドールベア

今夜はもう、そのことを聞く気もないのかと思ってた

モワノ

……

ドールベア

遺体はすでに捜査局のモルグに運ばれ、法医学者がこれから鑑定する。ムーアは捜査局で報告書を書いていた

ドールベア

でも、何も出ないと思う

ドールベア

あの遺体はまるでクリスティーナのコピーだもの

モワノ

ごめんなさい

ドールベア

なんで謝るの?

モワノ

私が遅すぎたせいで、暴走した機械たちを止められなかった

ドールベア

その点については、ムーアと私だって同じ

その言葉の後、沈黙がふたりを包んだ

彼女は一体何の秘密を隠していたの?なぜ逃げたの?暴走機械はなぜ彼女を追いかけた?

モワノ

……

ドールベア

この事件には謎が多すぎる。本当はもっと深層に情報があるのに、私たちはそれに触れられていない気がする

「アイデンティティ·クライシス」の原因、暴走機械の支配者、クリスティーナとノルマンの名前や顔……何もわからない

ドールベアは力なくため息をつき、手の中の空き缶を潰した

ドールベア

それに、ジャッキーも

モワノ

彼がどうしたの?

ドールベア

彼はクリスティーナやノルマンとは違う

傷の状態が違う。彼は……

ドールベアは再び、路地に踏み込む前の幻影を思い出した

モワノの腕に装着されたドローンが、光の刃を放って「自分」目がけて突き刺さる――

ドールベア

……彼の傷には高温で焼かれた痕跡がまったくない

なぜかドールベアは口の渇きを覚えた

また紅茶の缶を開け、飲み干してから口を開く

ドールベア

それに、ジャッキーにはエリシオンで普通に生活していた痕跡がある。彼は「突然現れた」わけじゃないわ

モワノ

つまり、ジャッキーは巻き込まれただけの一般人ってこと?

ドールベア

もしかしたら……クリスティーナとノルマンは暴走機械の支配者に殺されたんじゃないのかも、って私は思うわけ

ドールベアは冗談めかした仮説を口にし、モワノをちらりと見た

モワノは電解ミストを咥えると、やや苛立ちながら頭を掻いた

モワノ

それだともっとややこしくなるじゃない

証拠は?

ドールベア

……ない

モワノ

もっと簡単に説明できるわ

彼女は手に顎をのせ、ゆっくりと話し始めた

モワノ

ジャッキーは構造体じゃない。だから特別な手段を使う必要はない

暴走機械だけで十分こと足りた

ドールベア

……確かにその可能性はあるわね

モワノは手にした電解ミストをもう1度吸おうとしたが、ドールベアに奪われた

ドールベアは手を振り上げ、電解ミストをビニール袋に投げ込もうとして、ふと思いとどまった

彼女は電解ミストを目の高さに持ち上げると、しげしげとそれを観察した

ドールベア

これを吸うのって、どんな感じ?

モワノはいたずらっぽく笑った

モワノ

試してみたい?

でもダメ、未成年は吸っちゃいけないの

ドールベアは呆れたように目をぐるりと回し、手に持っていた電解ミストを袋の中に叩き込んだ

ドールベア

「未成年」……前にも言ったけど、あなたはジョークのセンスがないのよね

遠くの雲がそっと身をずらし、気付かれないほどの速さでここから逃れていった

モワノはぼんやりと煙の輪をひとつ吐き出す仕草をすると、それがそよ風に吹き散らされるのをじっと待っていた

ドールベア

モワノは……なんで捜査官になったの?

紫色の髪の女性はすぐには口を開かず、どう答えようか考えているようだった

モワノ

……多分、ここにしか居場所がないから

スズメ」という鳥はね、季節に合わせて移動することもなく、飛べる高さも限られているから、長距離飛行もできない

モワノ

ふっ

彼女は自嘲気味に笑った

モワノ

私はエリシオンを、この街を守りたいだけ

あの頃まだ幼かったモワノは、その人に問いかけた

父さん、どうしてこの街はエリシオンって呼ばれているの?

ギリシャ神話の中にひとつの楽園があり、その名前は「エリシオン」と呼ばれていたんだ

ここも他者を守る楽園となることを願っているよ

その時が来れば、お前もここで自由に駆け回り、日の出や日の入りを楽しめる

お前は自由に羽ばたく鳥になるんだ

モワノ

結局、折翼の鳥になったけど

この呟きはとても低く、隣にいるドールベアにははっきり聞こえなかった

ドールベア

え、何?

モワノ

実は、ずっとあなたのことを羨ましいと思ってたの

自分の意思で構造体になり、家族からも、あの檻からも離れられた

ドールベア

…………

ドールベア

そんなに違わない。ただ、ひとつの檻からもう少し大きな檻に飛び込んだだけよ

今や空中庭園という「もっと大きな檻」さえも、すでに落ちてしまった

再び意識海から軽い痛みが走った

ドールベア

人類は大停滞を乗り越えて黄金時代を築いた。世界政府の設立から、まだそれほど年数が経っていないうちにね

やがて誰かが地球規模の核戦争を引き起こし、地上は混乱の渦に巻き込まれ、残された都市は封鎖政策を実施した

ドールベア

その結果、空に浮かぶエデンⅡ型は空中庭園となり、権力者たちはこぞってそのノアの方舟に押し寄せた

でもそのノアの方舟も沈んだ、ブラックコメディがすぎるわね

ドールベアの顔に笑みはない

ドールベア

だから、「檻」なんてものは嘲笑すればいい

どうせ、人は常に何かに囚われているんだから

飛びたい時に飛べばいいのよ、だってあなたはスズメなんでしょ?

ドールベアの言葉を聞いて、モワノは楽し気な笑い声を上げた

モワノ

本当に、「ドールベア」らしい考え方よね

ドールベア

誰もがあなたみたいに厭世的で根暗じゃないの

モワノ

あーあ、私はあなたみたいに薄情で高慢にはなれないな

ドールベア

言うわね

モワノは更に大声で笑い続け、しばらくしてようやくその声が止まった

まるで全ての力を使い果たしたように、彼女の顔は悲しみも喜びもない無表情に戻った

モワノ

私たちが初めて会った時のこと、覚えてる?

あの時あなたはとても小さくて、ホログラムネットワーク空間の中で、ひとりきりでプログラミングを学んでいた

ドールベア

そんな先輩みたいな言い方しないでよ、キモすぎ

モワノは曖昧にかわした

モワノ

誰もが檻から飛び出せるわけじゃない

更に1本の電解ミストを取り出したモワノのその声は、不明瞭だった

ドールベアが反応する前に、モワノは突然スタスタと屋上の縁に向かって歩き、振り返った

モワノ

今日はここまでよ。夜の時間を全部仕事なんかに費やしたくないもの

モワノはそのまま後ろに倒れ、体は空中へと落下した。後半の言葉は、モワノが吐き出した煙と一緒に、ドールベアの耳元でふわりと消えた

しばらくすると、落下していた鳥は再び夜空へと舞い上がった。体の両側に現れたドローンがモワノを乗せ、遠くへと滑空していく

ドールベアは微動だにせず、ただ静かに空中に残るドローンの光を見つめていた。その目には一抹の悲しみが浮かんでいる

ドールベア

あなたを信じていいの……モワノ……