Story Reader / 本編シナリオ / 37 厄夢の淵に眠る / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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37-23 慈愛の繭

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…………

大丈夫、あの子は……もうここを離れたはず

彼女は悲しげな笑みを浮かべ、必死に体を支えて立ち上がった

どうしてこんなことを……

どうして……って?

それが、実は私にもよくわからないの

アシュリンへの償い、あるいは自分を少しでも「人間」に近付けたいのかもしれません。もしくは、行き場のない愛を解き放つためなのかも……

理由は……私にもわかりません……

多分……全ては愛なんじゃないでしょうか?

…………

これも、ひとつの解放なのかもしれません

金属の関節がギシギシと軋む。以前モリノア自身も言っていた通り、戦闘に不向きな彼女は捨て身でぶつかるしかなかった

リーフさん、あなたは遥か遠い場所へ行き、多くのものを見てきたのでしょう。教えてくれませんか……

機械体にも、魂はあるのでしょうか?

モリノア……!?

制止する間もなく、モリノアは苦しげに笑いながら自爆スイッチを押した

さようなら……アシュリン……

ドォン――!

激しい爆発が鉱坑を震わせ、長い間振動したあとようやく収まった

空気中に煙塵が舞い上がり、モリノアの姿はすでに見えなくなっていた

……彼女ならここに

崩れ落ちた瓦礫の中からデータが収められた箱を拾い上げ、リーフはため息をついた

あの子供はモリノアを利用していた

自分の願望を満たすために、彼女の愛を利用したのだ

誕生の経緯すら不明の小さな怪物が、モリノアの子供の墓碑の側に現れた

モリノアはそれを連れ出し、与えられる限りの愛を注いでいた

彼女は愛を欲しがった。「育てられる」ことを望み、安全な巣を望み、そして……

モリノアは手に入れられるもの全てを、その子供に与えた

彼女は大きくきめ細やかな繭の中に、子供と……自分自身を、そっと包み込んだ

周囲をしばらく捜索したが、「アシュリン」の姿を見つけることはできなかった

リーフは散乱するモリノアの金属片を集めたあと、それを丁寧に拭き、本物のアシュリンの墓碑の傍らに埋葬した

これで少しは、アシュリンも安らかに眠れるでしょう

この夢の中では、物資欲しさに彼女を養子にした両親はもういない。ただひとり、心から彼女を愛する母親がいるだけだ

モリノアの消滅とともに、リーフの意識海や指揮官のマインドビーコンへの攻撃も消え去った

指揮官の推測通り、背後で糸を引いていたのは、あの子でした

モリノアが編み出した幻境も……恐らく、あの子の力を借りたものに違いありません

……多分、あの子が残していったものと関係があるのかも

マインドビーコンの向こうで、リーフの意識海がゆっくりと浮き沈みしていた

あまりに焦っていた彼女は、私の意識海を手に入れようとして、私の意識海外層に潜り込んだんです

でも彼女は何ひとつ持ち出せず、それどころか……逆に私が、彼女に何かを置いていかれたんです

……指揮官、私は大丈夫です

こちらの気がかりそうな様子を見て、彼女は微笑んだ

ほら、こうしてちゃんとここにいるじゃないですか

安心してください、指揮官

自分を見つめる彼女の瞳には、言葉にできない感情が宿っていた

希望のために命を賭けるつもりはありません

でも……指揮官もそうしないでいただきたいのです。できますか?

では、あちらのラボを見にいきましょうか

さっきは追跡に専念していましたが、あそこにはまだ使える資料があるはずです

彼女はサラリと話題を変えた。しかし……

あの悪夢の中で見た、絶望したリーフの、魂が抜けたような表情が脳裏に蘇る……

もし自分がどこかで「死ぬ」ことになれば……リーフもあんな風に苦しむのだろうか?

だが……

30年後の余韻が、人間の脳裏に反響した

もし定められた終局を打破するために、自分の死が必要ならば……

……指揮官?

先を歩くリーフが、なぜついてこないのかと問うように不思議そうに振り返った

はい

ふたりは漆黒の鉱坑内を進み続けた