Story Reader / 本編シナリオ / 37 厄夢の淵に眠る / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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37-3 もうひとつの出発点

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368保全エリアに入る前――

輸送機

空中庭園

空港

空中庭園、空港、輸送機

「進化」と「意識海」……手元の任務報告をめくりながら考え込んでいると、1杯のお湯が差し出された

無意識に礼を言ったことで思考が途切れた。顔を上げると、差し出した手を戻したリーフが、輸送機のハッチに新設された装置で虹彩認証を行っていた

システム

身分認証完了――

認証を終えると、スカートの裾を整えて席に座ったリーフが、身を乗り出してこちらの端末を覗き込んだ

この前の任務報告ですね……

端末の画面には、「完了」マーク付きの任務が表示されている

新型浄化塔の設置協力──完了 保全エリア周辺の異合生物の掃討──完了

それから……ヒポクラテス教授に依頼された研究素材──完了

機体の適応期間も終わっていないのに、また新たな任務が割り当てられた。ただ、今回の任務は以前とはまったく異なっている……

……指揮官?

ぼんやりしているこちらの手からカップを受け取り、リーフはまた湯を注いでテーブルに置いた。そして同じく心配そうに窓の外を見た

急だったので、ルシアとリーの端末にメッセージを残しただけで、彼らに詳細を知らせることができませんでした……本当に大丈夫でしょうか?

会えると思って、お土産を渡す約束もしたのに

突発的な事件がなければ、ふたりともルシアやリーと同様、各保全エリアに浄化塔を交換したり、合間に周辺エリアの安全を確保したりと地上を走り回っていたはず

話をしながらリーフは再びハッチに設置された身分認証装置に目をやった。ハッチが閉まると、装置の点滅は消えた

多分今回が初めてですよね……誰かが輸送機に紛れ込んで、空中庭園に密航しただなんて

端末のブリーフィングには、ある男性の顔写真が一番上に表示され、側に寄ってきたリーフはその下の情報を読んでいる

コム……レンブラント……この人、精神状態にやや不安があるようです

彼の提供した情報は信頼できるものでしょうか?

考え込んでいると、コムの写真が視界の中で少しずつ大きくなり、記憶の中の彼と交互に見ているうちに……次第に鮮明になっていった

1日前

取調室

空中庭園

監察院

空中庭園、監察院、取調室

命令を受けて取調室に急いで向かったところ、ハセンと監察院のメンバーが話しているところに出くわした

対象者は引き渡しから取調室に入るまで、全過程を監察院の者が担当しています。情報漏洩のリスクはありません

関与した輸送機の乗組員の後処理は終了しました。いくつか残した手がかりをたどって、誰かが不正を働こうとすれば、我々がすぐに追跡します

よろしい……ああ、[player name]。来たか

議長が振り返ると、隣にいたラスティはこちらに目礼し、その場を離れていった

ハセンが頷き、前に進むよう合図した。議長の視線を追って前方を見ると――

マジックミラーの向こうで、取り乱した様子の男性が監察院の尋問官たちと「交流」していた

昨日、私が話した「選択」のことを覚えているか?

もしある日、誠意ある滅亡か偽りの存続か、ふたつの選択肢を迫られたとして、君はどちらを選ぶ?

トリルドはすでに一度、我々に代わって選択を下した

私は自我の滅びを恐れはしない。ただ願わくば、我々の今日までの戦いの全てに意味があってほしい

そう話した時、ガラスの向こうでコムが突然立ち上がり、興奮した様子で両拳をテーブルに激しく叩きつけた。その音はヘッドセットを通さなくても微かに聞こえるほどだった

もう十分すぎるほど話しただろ!

他のことは、空中庭園の住民の身分を手に入れたあとに話す!!

ハセンが差し出したヘッドセットをつけると、取調室内の声が途端に鮮明になった

落ち着いて、落ち着いてください。そう何度もあなたの要求を強調する必要はありません

尋問官はわざと間を置いた

お持ちの情報が真実ならば、我々は手続きに沿った申請であれば全て承ります

見返りとして身分証を提供することは容易です。今すぐにでも有効な一時滞在プランを提供できますし、情報が確認でき次第、それを永住権に切り替えることも……

一時滞在……一時滞在なんてとんでもない。地上に戻りたくないんだ!

言っただろう!今すぐ空中庭園の住民の身分が欲しいんだ。口先だけで……うっ……

強い光が男性の瞳に刺さり、興奮していた彼は一瞬不快感を覚え、無意識にドスンと座った

尋問官が指を動かすと、背後の強い光が消えた。口調もなだめるようなものから冷静で感情を排したものへと変わった

最後にもう1度言います、コムさん、私の話を最後まで聞いてください。情報が確認され、あなたが提供した内容が真実ならば、身分の提供など取るに足らないことです

ですが、あなたがそのような態度を取り続けるなら、私はそれはブラフだと見なします。それ以降の手続きは……別の方法を取らざるを得ない

空中庭園の関連管理法案に基づき、個人や団体が指定のチェックポイントを迂回、また偽造、虚偽の証明書で検問をすり抜け、交通機関や特殊な乗物に隠れて不法侵入した場合――

全て密航と見なし、具体的な状況に応じて対処します

私は……違う、私は……

また、空中庭園の関連管理法案に基づき、不法な占有を目的として、策略的手段により多額の公私の金品を騙し取った行為は――詐欺と見なされます

空中庭園の永住権は、公的または私的財産にはあたりませんが、重要な管理資源であるためにこの法案が適用されます

コムさん、態度を改めて、もう一度私の質問に答えてください……

私……私は……ふぅ……私は……

男性は顔を紅潮させ、体を震わせた。彼は何かをしようとするも、相手の態度に怯み動きかけてはやめる、を繰り返していたが、徐々に落ち着いていった

わ、私は秘密を聞いたんだ……意識海に関する秘密を

困惑してハセンを見ると、彼は頷き、続きを聞くよう合図をした

あの日、私は鉱区から逃げ出した異合生物に噛まれた。医療室のモリノア医師が痛み止めをくれて、しばらく医療室で休ませてくれた

わ、私はいつのまにか眠りこんだが、その痛み止めは期限切れだったのか、すぐに効かなくなった。ぼんやりと目が覚めた時に、誰かの話し声が微かに聞こえたんだ……

ふたり……ふたりか3人の男だったと思う。こそこそと声を潜めて話していた。少し前に採掘取引のために鉱坑に潜って、鉱坑の一番奥の場所で何かを見つけたって……

彼らが言うには、あの鉱坑の中に……「意識海」の「進化」に関する情報がある。もしそれを持ち出せたら……

そう、偶然にしては出来すぎだ

マジックミラーのこちら側で、ハセンは視線を落とし、端末に送られてきたデータを見つめていた

偶然に情報を聞き、偶然に空中庭園に入り、そして偶然にもその情報をここに持ち込んだ……

空中庭園の検査プログラムは厳密で、地上から物資を運ぶ輸送機は空中庭園圏内に入る時点で、ゲシュタルトによってスキャンされる

密航を企ててコンテナに身を隠す保全エリアの住民であれ、潜伏している異合生物や侵蝕体であれ、ゲシュタルトが見逃したことは1度たりともない

セリカが科学理事会からゲシュタルトのここ数日の全てのスキャンデータを取り寄せたが、異常はひとつもなかった

科学理事会はゲシュタルトのスキャンプログラムを3回もクロスチェックしたが、エラーはなかった。工兵部隊に引き渡して調査もさせたが、問題は見つからなかった

監察院が彼の携帯品に、ゲシュタルトの信号を直接遮断できる物がないか確認中だ――

示し合わせたように端末が鳴り、ハセンに新しいメッセージが届いたことを知らせた

――監察院からのメッセージだ。彼の所持品には何の異常も見つからなかった

監察院の者もそう考えた。断片的な情報だけで利益を得ようとする山師は多いからな

地上に遺された研究所など数えきれないほどあるし、偶然いくつかのキーワードを知っていたとしても不思議ではない。だが……

少なくとも、彼があれらのキーワードが「進化」と関連していることを知っているはずがない

ハセンが傍らの椅子に腰を下ろすと、周囲に積まれていた尋問資料が少し傾き、数枚の紙が露わになった

「意識海」、「進化」……太字と下線が引かれたいくつかの言葉が見えた

どうあれ、コム·レンブラントにこの中身を知る方法はなかったはずなんだ

コム·レンブラントの情報源を洗い出す必要がある。この件は君にしか任せられない

ハセンが端末を取り出していくつか操作すると、こちらの端末が反応して鳴り出した

粛清任務、目標――368保全エリア

任務に専念してほしい

その他のことは……君自身で判断してくれ

軽く頷き、踵を返してその場を去った

やがて取調室の扉が再び閉まり、変化した室内の光は、ハセンの顔を陰と陽に分けた

ヘッドセットをかけ直すと、コム·レンブラントの声が再び聞こえてきたが、ハセンの思考はすでに遠くへと飛んでいた

免疫時代末期

免疫時代末期 夜

輸送機の轟音が炎に包まれた夜に響く。崩れかけた廃墟からセメントの破片がばらばらと落下し、剥き出しの鉄筋に当たって甲高い音を立てた

響き渡る金属の耳障りな轟音と銃火の咆哮は、交戦している双方が普通の人間ではないことを示していた

…………

ハセンさん、ここはすでに前線です。危険なので輸送機に戻られた方が

問題ない。彼らを見たいんだ

まだ若いハセンは下の通りを見下ろした。高性能な装備の構造体たちが鋭利な刃のように、侵蝕体に占拠された街へ切り込んでいく

???

D-3街区にて大型侵蝕体を発見!繰り返す、D-3街区にて大型侵蝕体を発見!

スナイパーの配置完了――

F-5街区にて死傷者発生、負傷者3名、死亡者1名――!

??

了解、支援に向かう!

ヘッドセットから下の戦況がリアルタイムで伝わってくる。ハセンは目の前の手すりを掴み、構造体が侵蝕されたガーデナーロボットの巨大な斧に立ち向かうのを見つめていた――

ハセンさん、ここは危険です。任務同行は許可されていません……

もう少し彼らを見ていたい

口の中に鉄錆のような生臭さが広がり、指の関節は青白くなっていた。彼はほとんど貪るように、街にある全てをその目に焼きつけようとしていた

……もう少し彼らを見ていたい

ひとりの構造体がその凄まじい力で侵蝕体の斧を弾き飛ばした。青いアークが侵蝕体の群れの中で炸裂し、数体の侵蝕体が一斉に硬直した

支援に駆けつけたピンク色の構造体が懸命に負傷者を支え、フロート銃で仲間の撤退を援護している……

ハセンさん、そろそろ任務の時間が……

わかっている、もう少し待ってほしい……

これは彼の最後のわがままだった

ハセンの視線はその俊敏なピンク色の構造体を追っていた。彼女はまるで機敏な白鳩のように砲火の間を飛び回り、フロート銃は侵蝕体の攻撃から負傷者を的確に守っていた

これは真の意味で初めて実際に使用可能な軍用構造体だ

意識海の安定性も、全体的な戦闘能力も、彼らは兵士の中で一線を画す存在――

もう少しここを見ておこう……

もう少しこの戦う構造体たちを見ておこう、もう少し……彼らが奮闘しているこの星を見ておこう

構造体たちの連携により侵蝕体の数は少しずつ減り、安全区域が次第に拡大していく。兵士ももうハセンに輸送機に戻るよう急かすことはしなかった

この都市は……まもなく人類が奪還する

……反撃時代の始まりだ

……ハセンさん、今何と?

……いや、何でもない

砲火が都市の別の方向へ移っていくのを見届け、ハセンは唇をきっと結び、身を翻して輸送機へ戻った

空中庭園へ戻ろう

承知しました、ハセンさん

輸送機がゆっくりと上昇し、上空からは地上の様子が一望できた

交差する砲火の中で廃墟は静かに崩れ、電磁バリアは侵蝕体の侵入を拒む防護エリアを一時的に構築していた

数十年にわたり、パニシングは人類が地球に築き上げた数千年の文明を貪り尽くし、人類を深宇宙へと追いやった

しかし今日から――

灯火は、再び点される

彼は依然として前進を続ける戦線を見つめている

この都市は、再び人類のものになる

これこそ……反撃時代の始まりだ

輸送機のガラスに地上の光景が映り込む。視界の中では後続の構造体たちがすでに戦場の事後処理を始めていた

いつか人類は、今と同じように少しずつ地球を、自分たちの故郷を取り戻す――

カチッ――

尋問が重要段階へと入った音が、ハセンの意識を回想から引き戻した。コム·レンブラントの声が、ヘッドセットの中で再び再生された

……彼らは言っていた。あの実験室の中には……「意識海」「進化」に関する情報があると。もしそれを持ち出せれば、環大西洋やアディレはきっとこの技術に興味を示すだろうと

意識海、進化ツリー、ノード。キーワードは、本当にそれだけだ

彼は姿勢を正し、手の中の折り畳まれた紙を開いた。照明の下で手描きの大樹の絵が展開する

構造体という先手を打ったことが、空中庭園ひいては人類に反撃時代をもたらした

そして今、もしこのゲシュタルトに隠されているはずの情報が真実ならば、それは人類にどんな驚きをもたらすのだろう?

カタッ――

ハセンはヘッドセットを机に置き、大股で部屋を出ていった

これ以上尋問の内容を聞く必要はなかった。まだ処理が必要な多くの予定が彼を待っている

次の挑戦がどんな形で現れようとも、ハセンは空中庭園を率いてその最前線に立たねばならない

それが……新たな時代というものだ

扉が再び開き、閉まった。薄暗い取調室に響くのはただ、繰り返される問答の声だけだった