Story Reader / 本編シナリオ / 34 フォーサイト·ドリーム / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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34-6 時を盗む人形

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空中庭園所属物流倉庫

保全エリア

15:30

スペクトル線幅:0

EMPのような反撃が一瞬アイラの動きを鈍らせ、敵の行動で生じた濃い霧が視界を覆った

信号の反応が弱くなってる……逃げるつもりよ!

戦術バッグから追跡装置と機械干渉装置を取り出し、濃霧の中、記憶を頼りに敵の方向へ突き進んだ

指揮官、気をつけ――

アイラが警告しようと発した甲高い声は、突如途切れた。いつの間にか声は消え、耳元には静寂だけが残った

手を伸ばしても、何にも触れられない。想定していた敵との接触、それに続く防御や反撃も何ひとつできず、力を込めて繰り出した拳は、手ごたえなく空を切った

とっさに後退し、装置をしまって銃口を向けた

しかし、その警戒行動も無意味だった。周囲にはゆっくりと濃霧が漂って流れるだけで、何の反応も返ってこない

数秒間、足を止め、もう一度外へ向かって歩き出したその時、周囲の濃霧と空気が一瞬凍りついたように感じた

空中庭園所属物流倉庫

保全エリア

15:30

スペクトル線幅:0

スペクトル線幅:2

試しに問いかけたが、何の返事もない

通信

ジジッ——

郊外別荘

ホルスト市

15:30

スペクトル線幅:2

ホルスト市 郊外別荘 15:30 スペクトル線幅:2

轟音が響き、巨人が地に倒れ、木々がなぎ倒された

イノ·ルアの先鋒として、彼女とそっくり同じ甲冑を纏ってやってきた使徒は倒れた。しかしアイリスの顔に勝利の喜びはない

私からの贈り物は気に入ってもらえたかしら?まさか、自分の行動は完璧で、私が何も気付かないとでも思った?

いつから……気付いていたのですか?

気付いていた、って何に?

私にあなたたちの歴史を修正させないために、コピーした時間の一部を断片化し、私とあなた自身を一緒に閉じ込めた……そのことを言っているの?

よくそんなやり方を思いついたわね。でも大変じゃない?断片の機能を正常に維持するためには、その時間内の全ての歴史を安定してループさせ続けなきゃならないんでしょう?

一度そのループが崩れたら、断片は新たな未来へと拡張し、やがて元の時間軸に接続されてしまう……そうでしょ?

発声装置から響く声を聞いて、アイリスは少し安堵した。相手もこの問題に気付いたからこそ、奇襲に出たのだ。彼女が2通目の警告の手紙を受け取ったことにも説明がつく

<size=35><color=#0066CC>——鏡海ツインタワーでの多国間貿易協定への調印が、</color><color=#ff4e4eff>正体不明の襲撃</color><color=#0066CC>により</color><color=#0066CC>延期</color></size>

<size=35><color=#0066CC>——</color><color=#ff4e4eff>現場で金属の巨人が目撃され、専門家は秘密裏に開発された軍事兵器だと推測している</color></size>

<size=35><color=#0066CC>——トゥーカ独立近衛軍がマントン海岸線で展開していた平和維持活動は大きな抵抗に直面</color></size>

<size=35><color=#0066CC>——</color><color=#ff4e4eff>正体不明の襲撃者が戦場に介入し、戦況は混乱を極めている</color></size>

<size=32><color=#0066CC>——連合政府第709機械旅団、『地球議定書』の「ルレ及び連合政府に関する協同安全防衛条例」に基づき、ルレ雨林に駐留</color></size>

<size=35><color=#ff4e4eff>しかし、駐留過程で正体不明の武装組織の襲撃に遭い、甚大な被害を被る。いまだ犯人組織からの声明はなし</color></size>

まだ大丈夫。本当の計画はまだ……

アイリスはそう考えたが、更に続く皮肉めいた声が、氷の洞窟に突き落とすように彼女を凍りつかせた

最初から知っていたわ。アベイスであなたにこの牢獄に引きずり込まれた時からね。まあ、あなたがどこで時間を切り取る技術を手に入れたのかは知らないけど

ただ、この断片の中での戦いは、どれも通常の時間線での戦いと何も変わらない。だから、私の結論も変わらないわ

やめましょう。私はあなたを傷つけたくないの。こんな一進一退の攻防を繰り返しても、お互いの時間を浪費するだけで、何の意味もないわ

上演されるべき演目は、どんな形であれ最後には幕を開けるものよ。あなたは、すでに起こった出来事を変えられないの

私は何度だって試せる。だけどあなたは一度でも失敗すれば、全てがこの研究所のように崩れ去るのよ

異重合塔はいずれこの世界に降臨する

……あなたの言う異重合塔が具体的に何を指しているのか、私には確信が持てない。ですが、あなたの好き勝手にはさせません

いずれ、あなたには私を止められなくなる日が来るわ。つまり、私は遅かれ早かれ、この牢獄から抜け出すということよ

イノ·ルアの口調は再び変わった

あなたを尊敬しているの、アイリス。それは、私たちの経験や嗜好が似ているからというだけじゃない。何よりも、あなたがこの選択をしたという覚悟を認めているの

正常な時間線を逸脱することは、世界から忘れ去られるのと同じこと。私を一時的にループに閉じ込めるためだけに、そんな代償を払ったの?

……そう評価してもらえるのは光栄です。でも私はそんな遠大な考えを持ちあわせない。私はただ、あなたを止めたいだけ。あなたが最後の希望を壊してしまわないように

アハハッ、信じられないわ、アイリス……いえ、セレーナ。ずっとあなたの側にいたあの人。あの人はあなたをそう呼んでたわよね?

哀れなものね。名前は過去から未来への祝福。なのに、あなたの大切なあの人はその祝福さえ忘れてしまった。心配しないで、私がその人を見つけて、あなたの全てを伝えるから

あなたが何を言っているのかわかりません……

アイリスは何も知らなかったようで、茫然としながら答えた。しかし、その両手は無意識に武器をぐっと強く握りしめていた

あなたが自分自身を欺く日が来るとはね……それなら、もっとわかりやすく言いましょうか

あなたはこの断片を、正常な時間の流れから遠ざけようとしている。あなたの計画は、私たちを乗せたこの船を沈め、深海で永遠に眠らせること

だけど私は出口を見つけた。あなたは痕跡を消したつもりでしょうけど。幸い、あなたの影は無数の時間の中で、あまりにも深く、長く沈んでいた。私はそれを捕らえたってわけ

次の瞬間、イノ·ルアの声は感情を失い、魂を抜き取られたように機械的な声に変わった

017号機体との接続を再構築中。座標を特定

位置:保全エリア――空中庭園所属物流倉庫

耳障りなホワイトノイズが響くと、大量の濃霧が溢れ出し、アイリスの視界を覆い始めた

アイリスはこの霧をよく知っていた。イノ·ルアが時間に強く関わる行動を起こす時、いつもこの光景が現れる

彼女を止めなければ。絶対に……何としてもあの世界を……何としてもコンダクターを……

アイリスは再び武器を構え、飛びかかろうとした。しかし、霧の中から聞こえた何者かの気配に動きを止めた

確立中……ジジ……ジ……

滑らかだった音声が突然途切れ、不協和音のようなノイズが流れを乱した。再び感情を取り戻した声には、焦りと困惑、そして何よりも衝撃が滲んでいた

どう……いうこと……?向こうに……誰か……いる?

キィン——————

一瞬、イノ·ルアの声は消え、ホワイトノイズも静まり、立ち込めていた霧も静止した

その後、時間は再び流れ出した。舞い上がり、渦巻く塵混じりの霧の中に、人影の輪郭が浮かんでいる

アイリスの動きが止まった。目に映るのはぼんやりとした輪郭だが、長く沈黙していた心という灰色の海に、波が立ったような感覚があった

荒唐無稽とも思える考えがはっと心を掠め、名状しがたい感覚が胸の奥からこみ上げてくる

機械の摩擦熱よりも熱く、孤独な夜に眠れずに抱いた思念よりも切実な感情。その人物の正体に気付いた瞬間、理性はあっという間に感情に呑み込まれた

体が先に反応し、長く想い焦がれていたその名前が、今にも唇からこぼれ落ちようとしていた

アイリス

コン……

彼女に応えたのは、冷淡な譴責だった

濃霧が晴れ、突然、目の前に人影が現れた。瞬時に警戒心が最大限に高まった

人影は次第に明瞭になったが、目の前にいたのは見知らぬ女性だった。しかし、その外見の細かな特徴が彼女の正体を物語っている。間違いなく彼女は構造体だ

手にしている武器では、目の前の相手に直接的な脅威を与えられそうにない。どうする……?

考えがまとまらない。だが目の前の人物は唇を噛みしめ、震える手をゆっくりと開いた。脅威の象徴である武器が相手の手から消えた

アイリスの眼差しに満ちた期待は、硬い氷のような現実と衝突し、粉々に砕け散った。その虚構の破片は四肢を刺し、あまりにもリアルな痛みが、彼女の息を詰まらせた――

彼女は声が出なかった

その様子を見て、相手に向けた銃口が僅かに下がったが、それでも完全に銃を降ろそうとはしていない

<M>彼</M><W>彼女</W>は……私のことを忘れてしまった

言いようのない感覚が、意識と肉体の中で荒れ狂う。<M>彼</M><W>彼女</W>は目の前にいるのに、空の彼方ほど遠くに感じられた

アイリスは手をぎゅっと強く握りしめた。痛覚が意識海へ伝わり、傷が疼いた。それでもアイリスは、必死に落ち着いた表情を浮かべようとした

アイリス

こ……

こんにちは、<M>お客人</M><W>お客人</W>

は……初めまして

彼女は全身の力を振り絞り、無理やりぎこちない笑みを浮かべた。柔和な口調の裏側では、嵐のような感情が渦巻いている

アイリス

私はアイリスです

アイリスは、目の前で起きている出来事を整理した

イノ·ルアは、またもや正常な時間線に干渉し、座標を残してこの牢獄からの脱出を試みた

だが、偶然にもコンダクターがそのプロセスを中断してしまった。そしてコンダクター自身が不幸にもその渦に巻き込まれてしまったのだ

しかしコンダクターの反応は計画の想定内だ。彼女にはまだ、挽回の余地がある