Story Reader / 本編シナリオ / 33 光追う錆夜 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

33-5 風雪の中で

>

波が押し寄せる

不意に不気味な海底の楽園が目の前に浮かび上がった

これが大当たりなのか?まさかグレイレイヴン指揮官までここに落っこちてきたとはな

そうだ。せっかくこうやって出会ったんだ、ひとつ頼みがある

俺とリンクしてくれないか。ここに長くいすぎて、意識海が糊みたいに粘ってるんだ

俺たちがここまで来たのは、もしかしたら惑砂の予想を超えてるかもしれないぞ。次に何が起きるかは誰にもわからない

いつの間にここに来たのだろう……?

もし俺がここで死んだら、ヴァレリアに伝えてくれるか

深い悲しみが胸に湧き上がった

俺の黒歴史の映像を消してくれってな――いや、それはもういいか。彼女やバンジにこう伝えてくれないか

こちらの呼びかけが聞こえていないかのように、男性はひとりでぶつぶつと呟き続けている

しかし、男性は止まることなく、自分のペースで歩き続ける

「もうお前らの顔は見飽きた、あわてて俺に会いに来るなよ」って

目の前の光景が奇妙に変化し、暗闇の中の危険が瞬時に迫りくる――

指揮官!!!俺の後ろだッ!!!

血肉と魂が一瞬にして引き裂かれる

「今回は、彼を救えたのか?」 奇妙な思いが頭をよぎる……「前回」は、一体いつのことなのだろう?

背後の状況を確認する暇もなく、窒息感が瞬時に喉を締めつけた

彼は叫び声を上げることも、最期の言葉を口にすることもできず、そのたくましい姿は粉々に砕け散った

波の、湿った生臭さが鼻を突く――

…………

……

冷たい空気が肺に流れ込んだ

??

無意味だわ

???

試してみなければわからない

??

その代価は?サンプル採取のためだけに、命の危険を冒して赤潮に近付くの?

人類は永遠に、その産着にくるまれたままでいろというのか?

生き延びるために、いずれ赤潮に対抗する日がくる

その日が来る前に、人類が自らの敵について無知のままではいけない――

??

…………

雪混じりの風が少女のか細い声を掻き消した

??

とにかく、ここへはもう近付かないで

この小さな声を聞いて、話をしていたふたりは揃ってこちらを見た

……

生きていたのね、幸いだったわ

白い髪の代行者は無言のままふわりと浮き上がり、虚ろな瞳でこちらを見下ろしている

彼女の怒りが伝わってくる

もし私がいなかったら?そんなに余裕でいられたかしら

そう……

でも、そんなに私を信じない方が身のためよ

もうここへは近付かないで

あなたたちも薄々気付いているでしょうけど、変異赤潮は完全に手に負えなくなった

カイウス――赤潮を支配していたあいつは力を失い、赤潮に呑まれようとしてる

離れて……

離れて……

さっき彼女と会ったでしょう

ルナは確信している口調で言い、こちらの反応にも驚く様子はなかった

だったら、早くここを離れることね

新しい0号代行者が形成されつつあるけれど、私はそれを止めることができない

それは難しいでしょうね

ルナは静かに首を横に振り、人間の甘い考えを否定した

変異赤潮が爆発してから、私は次第に昇格ネットワークとの接続を失ったの

でも、かつて代行者だった身として、その変化を多少は感じ取れる

昇格ネットワークは情報の更新に伴って進化を続けている。つまり……「情報」は絶えず増大し、拡張している

パニシングは進化し続けているけれど、この世界で物質の総量が変化することはないわ

「新たな生命」が誕生しているのかもしれない

「新たな生命」の誕生――しかし、人類の拠点では赤ん坊の泣き声を久しく聞いていない

あのナナミって子は見つかった?

ナナミ

ナナミが前提条件を設定するね!今の指揮官の状態を、新しい「演算」の起点として……

条件設定完了、ロジック演算成立――

行こう、指揮官!

もうひとつのご褒美は……「希望」だよ

転機は必ず訪れる。今あなたたちが直面している難題には、必ず最適な解決策があるはず

これはあなた……ううん、あなたたちの文明全体が努力して手に入れた「結果」なの

……

彼女がそう言ったの?

……わかったわ

話している内に、いつもの眩暈が再び襲ってきた

――パニシング濃度が急上昇している

再度血清を注射したバネッサが顔を曇らせた。彼女の視線は、雪山の下へ向けられている

彼女の視線を追って下を見ると、波打つ赤潮の中に立つ青白い人影が見えたが、カイウスの姿はほとんど消えかけていた

…………

……

……

逆巻く潮水の中で、0号代行者が形作られつつある

すぐに天航都市へ戻るぞ

行きましょう

ルナが手を伸ばすと、赤潮の波は少し穏やかになったが、それもごく僅かなものだった

彼女の権限ではすでに赤潮を制御できなくなっている

[player name]

か細い声が寒風に包まれ、一瞬で掻き消された。暗い世界の中で、ルナは何かを追い求めているようだった……

……何か聞こえたの?

行きましょう

あなたを助けるのは……これが最後だと思っておいて

代行者は残された力で柔らかな封鎖線を作り上げ、バネッサと人間の指揮官を容赦なく自分の「領地」から追い出した

ハッと気がついた時には、すでに自分とバネッサは彼女の領地から完全に閉め出されていた

凍りつくような風に、それ以上一歩も進めない

彼女は昇格ネットワークが残した空間遮断能力を巧みに活用していた

冷たい風が最後の言葉を運んできた

ルナ

もうここへは来ないで

……パニシング濃度はまだ上昇し続けている。まだ留まるつもりなら、無駄になる血清は1本、2本じゃ済まないぞ

バネッサは何も言わず、さっさと帰路を歩き始めた

バネッサの側面の後方にいた異合生物に向けて発砲した

ルナが森を守っていた「力」を回収したせいで、異合生物につけいる隙を与えてしまったようだ……

銃声が響き、異合生物の悲鳴が耳元で聞こえた

異合生物が追いついてきた

振り返ると、ルナの華奢な姿はほとんど見えなくなっていた

もしかしたら……これが彼女の最後の決断だったのかもしれない

追ってくる異合生物を排除しながら、ふたりは必死に雪原を進んだ

ルナ

……

彼女を無限の灰色の世界へ呑み込まんばかりに、吹き荒れる猛吹雪は容赦なく少女の体を叩いている

かつては彼女も無限の権限を持つ代行者だった

頼りになる姉、彼女に忠誠を誓った騎士、臆病だが芯は強い人魚が、彼女の傍らにいた

傷だらけの過去を振り払い、世界はもはや彼女にとって容易く手に入るとまで思えていた

恐らく運命の長い川の別の支流では、彼女はもっと穏やかな未来を享受できたのかもしれない

少なくとも、今日のようになってはいまい。傍らにいた人々がひとり、またひとりと去っていくのを見送ることもなかっただろう……

潮騒が耳元で荒れ狂うように響き、思考は唐突に途切れた。変異赤潮がこの静かな聖域へと迫っている

ルナ

そろそろ来る……

新たな……0号代行者が

彼女はぼんやりと山の麓を見つめた