Story Reader / 本編シナリオ / 32 遥かなる星の導き / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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32-4 迫りくる運命

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グレイレイヴン指揮官はルシアとともに、ただ特別な通常任務を遂行しに行っただけ。最初は、誰もがそう思っていた

グレイレイヴンは絶望的な状況も奇跡に変えられるのか、極めて困難な戦闘でも完全勝利を収める。グレイレイヴンが塔に入り、清浄地では祝宴の準備を万端にしていたほどだ

しかし、反転異重合塔は再び危険な赤色へと変わり、グレイレイヴンの任務成功を祝う横断幕が掲げられることはなかった

……

こ、これで避難中の人たちが言っていた話は以上です……

つまり、ルシアとグレイレイヴン指揮官は塔から出られず、異重合塔がまた赤くなったということ?

多分、そういうことです……

それで、私たちはどうすればいいんでしょう、ルナ様……

姉さん、森の状況はどうなってる?

赤潮の危険な気配が高まってる

私とロランで異合の森に入ってコレドールを探したけれど、あいつは現れなかった。隠れているのかもしれない……

彼女がそんなことをするはずないわ

ルナは目を閉じた。彼女の指先を通りすぎる風が、ざわめくような不穏な気配を運んできた

赤潮はもう制御不能よ

赤潮を紡ぐ管理者はすでに消え、赤潮は制御できない海水のように、この土地へ激しく押し寄せている

異合生物が狂ったようになって……

い、以前は異合の森付近を遠巻きにウロついているだけで、保全エリアに近付くことはほとんどありませんでした。で、でも……

やつらが保全エリアに飛び込んできて、エリア内のほとんどの人間を溶かしてしまったんです!か、完全に狂ってますよ……

落ち着け!

つまり、全ての異合生物が暴走しているということか?

そうです、やつら、完全に暴走状態です!保全エリアの防御を強行突破し、仲間の死体を踏み越えながら侵入してくるんです!

……緊急報告を出せ。これで異合生物の暴走が確認された保全エリアは4つ目だ

一体、何が起きてるんだ……

異合生物は狂ったように地面を呑み込みながら進み、何かを待つように赤い異重合塔を目指して集まっていた

ゲホッ――

潮水が広がる異合の森の中、ルナは咳き込みながら、赤潮の中からもがいて起き上がった

ルナ!

ルナ様……やはり駄目ですか?

ゴホッ……赤潮は私の力をはねつけてる。支配されるのを拒み、私の命令を聞こうとしない

それならもうやめて。人類が……

人類がどうなろうと、私たちには関係ない

……今回は、恐らくそんなに単純なものではないわ

異合の森へ向かう途中、彼女は昇格ネットワークを使って再び「未来」を演算しようと試みた

彼女が見たのは、大雪が吹雪く<phonetic=死>未来</phonetic>

……それから、何度も試した。でも赤潮の権限を掌握することはできなかった。そのうち、赤潮の中に別の「意志」が現れたことに気付いたの

やはり、この全ての変数はあなたに関係しているのね

銀髪の少女は、全てを悟ったようにこちらを「見た」

彼女は完全には赤潮を制御しきれないようで、ほとんどの時間は眠っている

彼女と話そうとしたけど、意識がはっきりしていないみたい。いくつか断片的な言葉を繰り返すだけだった。その中で、あなたの名前を呟いていたわ

その白い少女が目覚めている時間はどんどん短くなっていった。赤潮は再び制御を失って反抗し、異合生物たちは未知の進化を始めたの

その後……

彼女は昇格ネットワークを使って演算を何度も試みた。力のほとんどを消耗したが、彼女は額縁の向こうに広がる星空を、昇格ネットワークの観測範囲外にある変数を切望した

彼女が見たのは、大雪が吹雪く<phonetic=死>未来</phonetic>

その後……

ロランが死んだ

彼女が何度もの演算の中で見た通り、彼は雪がはらはらと舞った最初の夜に命を落とした

彼は逃げることもできた。生き延びるチャンスがなかったわけじゃない

だけど……

僕はルナ様を守る。ルナ様が望む結末を迎えられたら、それで十分だ……

ロラン

この世界を望んだのはルナ様だけじゃない。私も……

もしかしたら、今こそ幕引きに最もふさわしい時なのかもしれません

そして、彼はその夜、命を落とした

その次はラミア

人類が旅立とうとする時、彼女は何としても情報を探ろうとしたわ

彼女は全てを淡々と語った。まるで、記憶の中で同じ光景を繰り返し再現してきたかのように

ラミアはもう一度水に潜り、別の区域の情報を探ろうとした。そして、最後は何の音沙汰もなくなった

ぜ、絶対にいい知らせを持ってきますから、ルナ様……

臆病な人魚は深淵に飛び込んだが、彼女が新たな情報を持ち帰ることはなかった

赤潮は逆流して海に流れ込み、海中では変異した巨大な異合生物が生まれていた

海の危険については警告したわ。それでも彼女は行くことを選んだ

結局、あの臆病な人魚は平和をもたらす白い鳩ではなかった

最後は姉さん

人間の声に耳を貸すこともなく、ルナは静かに語り続けた。その声に感情の波は少しもない

パニシングにとって、昇格者は最初の「選別」をクリアした存在にすぎない。代行者といえども無敵ではないの

少なくとも私はそうじゃない

彼女は一瞬言葉につまった

姉さんはずっと昇格ネットワークの束縛から逃れようとしていた。ある意味、姉さんは確かにそれに成功したわ

だけどその代償として、姉さんは二度と昇格ネットワークにリンクできなくなった。私が代行者でも、姉さんを助けることはできなかった

あの時、私はもうほとんど目が見えなくなっていたわ

この辺りは危険だわ、周囲の異合生物の拠点を片付けてくる

αはためらっていた。目を患ったルナのことが心配だったからだ

ひとりで……大丈夫?

私は大丈夫よ、姉さん

たとえ目が見えなくとも、ルナは正確にαの位置を捉えていた

あの異合生物たちは更に進化してる、とても危険だわ。ここもしばらくは安全だったけど、放っておけばそれも危うい

ここで待っていて、すぐに戻るわ

視力を失ったルナを山頂に残し、αはその場を離れた

ルナ

その言葉は嘘だった。姉さんは戻ってこない

変異した異合生物たちが群れをなして現れるようになり、姉さんでもそれを抑えきれなかった

でも、私はここでずっと姉さんを待っているの。どれだけ長くても

なぜその言葉を口にしたのか自分でもわからない。ただ、今の彼女に謝らなければならない気がした

ルナ

あなたには関係のないことよ。あなたを責めるために話しているわけじゃないの

彼女はまるで容易く壊れてしまいそうな白磁の人形のように、静かにそこに座っていた

ルナ

この全てを、私はかつて演算の中で見たことがあった

雪が舞い散る未来、赤潮に覆われた荒野、次々と死んでいく人々。そして最後には、この崖の上で孤独に座る彼女だけが残る……

ルナが顔を上げた時、その目尻にたまった水が一瞬、微かに煌いた

夕暮れの光が血痕の上に落ち、人間と少女は沈む夕陽を眺め、やがて青白い月の光が大地を照らすのを見ていた

あなたは?あなた、赤潮が作り出した幻影じゃないのでしょう。何を経験してきたの?

数え切れない戦闘と、千々に乱れる思いを言葉にしようとしてもあまりにも膨大で、一瞬どこから話せばいいのかわからなかった

私たちが最後に得た情報は、あなたとルシアが異重合塔に入ったということ

ルシアはもう<phonetic=死んだ>いない</phonetic>

その言葉は舌先を転がる刃のように、痛みを感じなくなった脳に突き刺さり、再び絶望の戦慄を呼び覚ました

……

吐き出された水蒸気が氷に変わり、地面に重たく落ちた

でも、本当にまだ時間はあるの?

最盛期の頃の空中庭園でさえ、この技術を深く研究できる人間はほんの数人だった。こんな環境下でコアの謎を解くのにどれだけの時間がかかるか、誰にもわからない

私の力はほぼ消えかけている。あの人間の拠点付近のパニシングを抑えるだけで精一杯なの

赤潮は今も変異を続けてる。まだそのピークにも達していないわ

私自身、後どれだけ持つかわからない

[player name]、私は人類の英雄じゃない。この地球を救うことなんてできないわ

少女は焦点の合わない瞳で、静かにこちらの方向を見つめた

えっ……

その冷たい頬に自分の指先が触れそうになった時、彼女は思わず身を引いた

……これは代償なの

昇格ネットワークが求めた代償よ。未来を直視すれば、必ず何かを差し出さなければならない

哀れむ必要なんてないわ。私は哀れんでほしいわけじゃないの。これが私の選んだ道、ただそれだけ

私は昇格ネットワークを頼りに未来を演算し、彼らの死に繋がる可能性を避けようとした。だけど結局、誰ひとり救うことができなかった

運命は変えられないの

あなた以外はね、[player name]

彼女の焦点の定まらない瞳は、人間のその先、虚空のどこかを見つめているようだった

数えきれないほど見たわ。赤潮が世界を呑み込み、侵蝕体が地球を覆い尽くす光景も、厳しい冬も、永遠の夜も

だけど、見なかったものがある。指揮官、あなたの姿よ

私が以前演算した全ての未来で、あなたが塔から出てきたことは一度もなかった

あなたはこの世界の特異点なの

迷っているなんて、あなたらしくないわね

運命に巻き込まれた人類は、巨大な歯車の中の小さな虫と同じだ。どれほど強力な武器を持っていても、がっちりと噛み合う歯車に押し潰されるしかない

塔の中での不思議な出来事の全てを経たからこそ、世界の意志を左右できるなどという妄言は言えなくなった

どうすればいいかなんて、誰にもわからないわ。だからといって足を止めるの?

ルナは静かにこちらの方向を見つめた

昇格ネットワークの演算は、私が知っている情報に基づいてしか行えない。例えば私とあなた、空中庭園、それから姉さん

演算の結果も具体的な内容ではなく、断片的な映像ばかりよ。だから、私があなたに伝えられるのは、それを基にした私の推測にすぎない――

あなたの他にも、演算に現れなかった人物がいるの。あの灰色の髪の女の子

私が演算したどの未来でも、一度も彼女の姿を見なかったわ。彼女に関連する機械体の影すらも

もしかしたら、彼女も「<phonetic=望み>変数</phonetic>」なのかもしれないわ、あるいはその機械体たち全員が

もっと探求しようとしたけれど、強引な演算の代償はあまりにも大きかった。それが積み重なって、最後には代行者の身でも耐え切れなくなったの

昇格ネットワークから返ってくる情報が私の視覚モジュールを侵蝕し……「未来」を見ることはもうできなくなった

[player name]、これが私からあなたに伝えられる最後の情報よ

……

今度は彼女は身を引こうとはしなかった

月の光が山頂にゆっくりと満ちた

数秒……あるいは数分がすぎた頃、青白い少女は少し後ろに下がり、人間の温かな掌から身を引いた

もう行って

時間がないわ。感じるの、パニシングがあなたの防護服を貫こうとしている

確かに、防護服上の表示が赤く染まりつつあった

あなたが最後のあの答えを見つけられるかは、私にもわからない。でも……私は精一杯耐えてみせる

あなたに少しでも多く時間を残せるように

あなたは唯一の変数よ、[player name]。あなたが異重合塔から脱出できたことがすでに、私が観測したデータに存在する僅かな誤差なの

私はもう少しだけ耐えるわ……あなたが戻ってくるまで

人間の指揮官はひとり崖を離れて立ち去った。その背後で少女は少しうつむき、その見えない目で山の麓を見下ろしていた

先ほどとは違い、彼女の傍らには微かな灯りを点したランプがひとつ置かれていた

人間の指揮官の「無意味」に思える行動に気付いたのか、彼女はゆっくりと手を伸ばし、ランプの灯に触れた。そして、火傷をしたかのようにサッと手を後ろに引っ込めた

彼女は無限の時間をここでひとり座って過ごし、あの演算で見た光景を意識海の中で何度も何度も繰り返してきた

彼女は意識海の中で彼らの死を何度も経験した。もう何があっても自分の心が動くことはない、そう思っていた

ルナ

……成功を祈ってるわ、[player name]

これが最後のチャンスよ

盲目の少女は、もう一度暖かな黄色の灯火が輝くランプに触れた

それが、君の得た情報か?

木々の影が揺れ、揺らめく光の中でバネッサは口を開いた

世界の特異点、機械体……

断片的な手がかりは運命に弄ばれ、散らばった毛糸のように複雑に絡まり合い、解く糸口が掴めない

それだけ自信があるならいい……

何を迷っている?

そんな未来を……自分は本当に背負えるのだろうか?

バネッサは足を止めることなく歩き続け、暖かな黄色い灯りもすでに遠く離れていた

何を立ち止まっている

私に慰めてもらおうとか、進むべき道を示してもらおうなどという愚かな期待はまさかあるまいな、偉大なファウンスの首席殿

彼女はいつものからかうような笑みを浮かべた

たとえ君があの異重合塔で死んだとしても、私たちは地球上で生き続ける

人類に英雄など必要ない。もし、君が計画を達成できるならそれは素晴らしいことだ。だが、できなかったとしても……

……しっ

口を開こうとしたところで、バネッサはこちらにしゃべらないよう手振りで合図をした

バネッサの後に続き、素早く身を隠して灯りを消した

あそこだ……足跡がある

彼女が言い終わる前に、自分もそう遠くはない場所で、雪の中に残され反射している足跡を発見した

雪はまだ足跡を覆い隠していない。相手はそれほど遠くへは行っていないようだ

ふたりは低木の茂みに身を潜め、バネッサは目で地面の足跡をたどりながら前方を探っていた

……あそこだ

少し離れた場所で、人影がゆっくりと森の中を歩いている

……構造体ではないな。侵蝕体でもない……

その「人物」は何かを探しているのか、早足になったり立ち止まったりしながら森の中を歩き回っている

雪に反射した光がその人物の顔を照らした

見慣れたもじゃもじゃした銀色の海藻頭の機械体は、どこか疲れた様子だった。彼は空を見上げてから、足早に立ち去った