Story Reader / 本編シナリオ / 31 メタモルフォーゼ / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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31-22 長き夜の誓焔

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何をするんですか!また私の邪魔を!?

フォン·ネガット

それはこちらのセリフだ!ここでコレドールを殺しても、何のメリットもないのですよ!

フォン·ネガットは、裂けた空間に心の底から恐怖を抱いているようだった

彼はふたりに背を向け、全神経を集中させて目の前の裂け目を警戒している。普段は冷静沈着な彼の声に、抑えきれない悲愴な憤りと震えが混じっていた

フォン·ネガット

……グレイレイヴン指揮官

異重合塔のコアはすでに融解しました。この先は制御がまったく効かなくなる……

赤潮はもうコレドールには操られません。よって、彼女が他の時代を攻撃する手段にはならない。ですが、ここで異合生物を生み出し続けるでしょう

知性を持たない怪物たちはただ異重合塔の中を彷徨い、あなたたちが入ってきたあの裂け目を通じて他の時代へ向かうはず

私はここのフィールド障壁を全力で維持します。コンステリア全体を包む障壁を支える余力はもう残っていません。地下の赤潮と異合生物は必ず黄金時代へ向かう

コレドールに刺された腹部を押さえ、無理やり起き上がって何かを言おうにも、痛みがそれを遮った

ルシアが即座に傷口を抑えて止血しようとしてくれたが、ほとんど効果がない

それは長期的な解決策にはなりません。多くの昇格者たちの性格からして、単調な作業を反復しつつ過去を改変できる異重合塔に接触すれば、逆に問題を増やすことになる

カイウスと融合するしかない。0号代行者になることだけが、全てを阻止できる方法です

そのフィールド障壁はコンステリア全体を包むほどのエネルギー消耗ではないはず。なぜ維持がそこまで難しいのですか?

それは――

彼が言い終える前に、封鎖された空間の奥深くから鋭い棘となった光が突き破ってきた

鋭く尖った閃光は爆発するような勢いで幾重もの障壁を突き破り、真っ直ぐに代行者の身体を貫いた

……?

彼は何も答えず、これほど酷い傷を負いながらも、うめき声ひとつ上げなかった

代行者は、こんな事態には慣れっこだというように手を伸ばすと、体を貫く棘を次々と握り潰していった

彼の無防備な背中に残る酷い傷口は、パニシングによってゆっくり修復されるのを待つしかないようだ

……もう、説明はいらないでしょう

これが……

彼女の問いかけは、新たな棘の襲撃によって遮られた

フォン·ネガットの体が再び貫かれ、彼は先ほどと同じように、深紅のエネルギーを次々と握り潰していった

まだ癒えていない傷口の側に新たな血の穴が開き、パニシングの回復速度が更に遅くなる

……これがコアを融解した代償です

あなたたちグレイレイヴンのリーが反転させたコアには、塔全体の制御のみならず防衛という役割もあった

ですがコアがなくなった今……もともとコアによって食い止められていた「汚染」が、別の世界からここへと溢れ出してこようとしている

もしこの世界がまったく異なるふたつの災厄を同時に見舞われれば、永遠に取り返しのつかない事態が起きます

私の目標だろうとあなたたちの目標だろうと……同じです

棘が傷口が癒えない彼の体をまた貫いた

この事実に通じているのは私だけだ。私が止めなければならない

この光景を予見していたとはいえ、実際に目の前で起こると、それが示す絶望に耐えがたい重圧を感じた

自分を責める必要はありません。コアが0号代行者に奪われたとしても、結果は同じでした。私でさえ防ぐ余地はありませんでした

これでも最悪の事態は避けられた方です。しかし、今は赤潮と異合生物が黄金時代に漏れ出さないようにする方法を探さなければなりません

たとえこの先にたった一本しか道が残されていないとしても……傷を負ったその人間は別の可能性を探すことを決して諦めなかった

待ってください、「鍵」が……

彼女が手の中の鍵に目をやると、異重合塔のコアを吸収した鍵が、奇妙な異重合キューブに代わっていた

フォン·ネガット

その「鍵」にはコアが吸収されています

鍵で時間遡行をしたとしても、異重合塔への影響はありません

異重合塔は長いトンネルのようなものです。あなたたちは異なる「出口」を通じてある区域内のさまざまな時間点に行けましたが、今は――

鋭い棘が次々とフォン·ネガットの体に突き刺さり、果てしない苦痛が代行者を苛んでいた

フォン·ネガット

……しかし今、トンネルそのものが損傷しています。ですから……ゴホッ……トンネルに干渉する以外の他の方法では、ここの修復は不可能なのです

ある程度距離が離れていても、この会話の間にも彼が限界に近付きつつあるのをふたりは感じ取っていた

フォン·ネガット

もう後戻りはできません、0号代行者になってこそ、赤潮を抑え、あなたが目にした厄災を防げる……

彼はいつもの冷静さを取り戻そうと、深く息を吸い込んだ

フォン·ネガット

……グレイレイヴン指揮官、まさかコンステリアを覆う赤潮が、全世界に広がっても構わないと考えているのですか?

0号代行者が戻ってくれば、海のような赤潮を前に……一瞬で終わらせるでしょう……まあ、こう言ったところであなたにはわかるまい

彼女をどこへやったのですか?

フォン·ネガット

この裂け目の向こう、霧域です。霧域に入る方法は色々ありますが……異重合塔全体が危険地帯であり、権限や「鍵」がなければ戻るのは難しい

フォン·ネガット

汚染が引き起こした時間の混乱区域は……いえ、今はその説明をする暇はない。0号代行者にはここに戻る権限があります。私がこうして彼女を食い止められるのは一時的なもの

……選択の時です、グレイレイヴン指揮官……あなたは憧れの未来を守りたいのでしょう!?

フォン·ネガットが叫ぶ中で周囲を見渡す。災厄はまだ影の中を拡大し、指揮を失った赤潮は0号代行者がいる異重合塔の裂け目に沿って、出口に向かい流れ続けている

やがて、フィールド障壁のないコンステリアに流れ込み……黄金時代の無防備な人々を襲うだろう

パニシングが爆発して30年以上……どれだけの人が戦いの中で犠牲になっただろう。もしここに赤潮が加われば、一体何人が生き残れる?

本当はもう、覚悟ができているのでしょう?

……そう、この場にいるふたりは、無事に帰ることはできないと最初から知っていた

あの<color=#ff4e4eff>未来</color>で分岐する惨状のどれもが、自分の<color=#ff4e4eff>今</color>と繋がっている

ここで逃げれば、大切なもの全てが跡形もなく消えてしまう

それどころか、異重合塔の外の自分がこの30年の間に死んでいるのかどうかすらもわからない。この塔を離れたあとはどんな結末が待っているのだろう?

血に濡れた傷口を押さえ、ルシアの腕の中からなんとか体を起こした

もし犠牲が避けられないのなら、せめて自分がそれを担いたい

言い終わる前にルシアに引っ張られ、その場に尻もちをつきそうになった

ルシアは溢れる悲憤を抑えきれない様子で、全身を震わせてこちらの上着を掴んで引っ張ってくる

彼女はこちらの目や腹部の傷を見つめながら口を開いたものの、それは言葉にならないようだ

ルシア

…………

彼女は何も言わず、自分も何も訊かなかった

まるで心の中で会話を終わらせたかのように

そして次が、ふたりの結論となった

ルシア

……指揮官を守りきれませんでした……

彼女はそれでも口を開いた

ルシア

……せめて……私が

夢の中では、ルシアがどのようにしてこの決断に至ったのかが完全には示されなかったが、こうなるであろうことは気付いていた

目覚めてからずっと、ルシアは皆をコンステリアから脱出させる方法や異重合塔に戻る方法について話してきた

しかし、最後の一番重要な問題――異重合塔が引き起こした問題をどう解決するのかという点には、一切触れてこなかった

綿密に作られた計画書にそぐわない、「言わなくてもわかるだろう」とそこだけ黒く塗り潰したように

ルシア

わかっています

私は死にに行くことを選ぶんじゃありません……指揮官

裂け目の出口にはもうひとつ予備のフィールド障壁装置があり、それは地下の隠しフロア全体を十分に覆えます

隠しフロアはそもそも簡単には見つからない場所ですし、今後の状況では、そこに行く人もいないでしょう。装置さえ守れれば、赤潮が早々に現れることもありません

――それは死よりも苦しい計画のはずだ

思いはまた、あの終わりのない5月3日に沈んでいった

異重合塔が再び現れれば、裂け目はその数を増やし、全てを覆う赤潮をもたらすだろう

ルシア

少なくとも、時間を稼げます。指揮官は回収したコアを持って、私たちの時代に戻ってください……

ルシア

それは重要じゃない!

彼女はいまだ血の滲む傷口を見つめながら、苛立った口調で即座にそう答えた

ルシア

指揮官がコアを持っていってくれるなら、私はその瞬間まで守り続ける覚悟です!

ルシア

Ωコアがあるからこの機体には無限の持久力があります……私ならできます!

ルシア

指揮官が去るのをただ見ているよりはずっとましです

ルシア

指揮官に選択肢はありません、指示をいただく必要はないんです

彼女はこちらの服を掴んでいた手を放し、そっと自分を床に横たわらせた

ルシアは両手を引き寄せ、そっとこちらの頬に当てた。この瞬間の温もりと断ち切れない愛を伝え、それを最後の告別にするために

ルシア

あなたが死ぬのを、もう見たくない……

指揮官の命令に背くことになったとしても、私はそうするつもりです――傷を負ったあなたに拒絶なんか、させない……!

ルシア

戻ってください、指揮官。私たちの時代へ、愛する人たちの傍らへ

あなたは皆に囲まれ、末永く、幸せにすごすべきだから……

それが、私がずっと願ってきた未来なんです。私が願う平和な世界の中に、あなたがいて欲しい

そこで待っていてください。長くは待たせません。すぐにあなたがいる時間に追いつきます

あなたが生きていてくれるなら、30年なんてたいしたことありません。どんな未来であろうと、何も怖くない

まるで子供騙しの嘘のようだった

ルシア

私がどうなろうと、あなたは無事にここを離れられる

ルシア

だったら、指揮官だって……

私たちはとてもよく似ているんです、そうでしょう?

考え方も、選択も、お互いのためにできることも――いつだってよく似ていましたよ

ルシア

これに関しては絶対に譲りません、あなたに懇願することもしません……!

手を握る彼女の指先に力がこもった。すでに心は決まっているのだ。もしまた拒否の言葉を聞けば、一時的に相手の意識を失わせてでも成し遂げる覚悟なのだろう

ルシア

……何でしょうか

ルシア

それはできません

ルシア

…………

ルシア

…………

ルシアは目を伏せ、目にした9つの結末と、彼女が選んだ最後の道を思い返していた

あの情報が示した光景のように、異重合塔のコアはすでに融解し、彼女は裂け目の側で長い年月を守り続ける運命にある

しかしその情報には、ルシアが「鍵」を持っていた場合、何が起こるかについては示されていないはず

ルシア

「鍵」で私が助かると考えているのですか?

ルシア

確かですか?

ルシア

…………

やはり似た者同士なのだろう。絶対に譲れない問題に対する口調も、どこか似ている

ルシアは相手の強い決意を前にしばらく考え込んでいたが、ようやく妥協したように頷いた

ルシア

……わかりました

彼女は腕の中にいる人をそっと離すと、苦渋を心の奥に押し隠して、再びいつもの冷静な表情を浮かべた

ルシアは立ち上がると、コアが吸収された「鍵」をしまった

カイウスは私たちを正しい時代に送り届けると約束してくれました。あなたにもできるのでしょう?

フォン·ネガット

…………

私に保証できるのは、「橋」を使ってあなたが異重合塔に戻る瞬間を手伝える、ただそれだけですよ

あなたの指揮官については、多少の運が必要でしょうね。あなたの計画が本当に実行可能だという確信があるのですか?

もちろんです。指揮官はあれほどの重傷ですから、塔に留まってもあなたが望む融合の準備はできないでしょう

仮に私が同意しても、この状況下では意識の融合は安定しません。もう一度失敗を繰り返すつもりですか?

フォン·ネガット

……

いいでしょう、できる限りあなたたちを支援します

最深層には出口の側に透明な階段があります。それを可視化しましょう

……指揮官

彼女は身を屈め、ユウコからもらったカエルちゃんのボイスレコーダーを取り出した

次に会う時まで、これを預かっていてください

もちろんです……

指揮官にとってはそう長い時間ではないはずです、すぐに会えますよ……指揮官が塔から出るのを見送らせてください

彼女は辛そうな笑顔を浮かべてその人間の目を手で覆うと、聞き慣れた言葉をひと言だけ呟いた

……では、また後で。指揮官