Story Reader / 本編シナリオ / 31 メタモルフォーゼ / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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31-20 星々へ向かう運河

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よう

医務室へ戻った途端、傭兵隊長がこちらにやってきた

話し合いは終わった。皆、君らを信じて、この作戦に同意するそうだ。もし外の世界が変わっていなければ、俺たちが応援を呼ぶ

だかもし……そっちが言うように、外の仲間もそれどころじゃなくなっていたら……俺たちはまず彼らを助けにいくぞ

問題ありません、この作戦で行きましょう

ああ、それじゃあここの厄介ごとは任せる。どうしようもなくなったら、助けを呼んでくれ

はい、そうします

行こう、ほとんどの人間がすでに2階で待機している

わかりました

ルシアは振り返って、微笑んだ

指揮官

D7ツイン展望ビル2階

集まった人々は先ほどまでの鬱々とした様子とは打って変わって、これからの行動について熱心に議論していた

だが構造体と指揮官がやってきたのに気付いて、全員がしんと静まり返った

人々の輪の外に立っていたカイウスも真っ直ぐにこちらへ視線を向けてきた

ふたりの目が合いかけた瞬間、その間を歩くルシアがカイウスの視線を遮り、異合生物の姿をこちらの視界からすっかり隠してしまった

ルシアは一歩踏み出して隣に並ぶと、皆と向き合った

ルシア

皆さん

人々は息を詰めてルシアの言葉に耳を傾けた

ルシア

先ほど編成した隊形で、私の後ろについてきてください

今、異合生物たちは1階ロビーにいます。フィールド障壁を解除した途端、すぐさま襲いかかってくるでしょう

私が先陣を切ります。皆さんは後ろに飛んでくる液体を全力で避けてください。触れれば爛れが進行し、手足を切断することになりかねません

ここを出たら全ての機械を避け、まずは人間と合流を。それが生き延びる道です

話は以上です、何か質問は?

ない、出発しよう

ルシア

ローズ、フィールド障壁を解除してください

暗闇に潜んでいた少女は、階上から響く騒がしい足音を聞きながら、赤い蝶たちを手の周りで遊ばせていた

ふふ……わざと赤潮を出さずにいましたが、やはり私が赤潮を使えないと思い込みましたね

では、広場で皆さんの合同葬儀を開くことにいたしましょう

彼女は微笑みながら、展望ビルの内側の扉がルシアの一撃で吹き飛ぶのを見ていた。その余波が異合生物の群れをも吹き飛ばし、1階の階段から一直線に続く道となる

僅かに希望が見えたが、その道もすぐに異合生物に埋め尽くされた。だが異合生物が蠢く場所はひと回り小さくなった

コレドールが冷たい眼差しでハープの弦を掻き鳴らすと、赤い蝶が異合生物の頭を掠めるように飛来した。弦は震え、その余韻が響き続ける

敵の首が飛び、赤色が飛び交うその隙間から、最前線にいたルシアの視線が暗闇に潜む少女に鋭く突き刺さった

決着をつける時です、<phonetic=0号代行者>コレドール</phonetic>

眩い炎が噴き出し、その光はこの場を包む暗い影を一瞬で拭い去った

ふふ……

少女の手からハープが消えた。赤い蝶が集まって溶け、新たに血の色をした鋭い大鎌の形となった

大鎌が形作られるよりも早くルシアはコレドールの眼前に迫り、唸り声のような音とともに重い一撃を繰り出した

光る刃が頭上から振り下ろされる

コレドールが僅かに目線を上げて人差し指を軽く動かすと、飛行していた1体の異合生物がルシアに飛びかかり、操作者にとっては無価値な身をもってルシアの猛攻を防いだ

2体、3体、4体……全ての異合生物がコレドールの呼びかけに応じてルシアを獲物とみなし、眩い光に向かって全力で飛びかかっていく

群れを成して迫る異合生物を見ながら、ルシアはもう片方の手にも刀を持ち、ぐっと握りしめた

これ以上、一歩も行かせません!

刃の光が空間を切り裂き、怪物たちが作り上げた檻を切り開いた

燃え上がる火炎は龍のように猛り、獰猛な異合生物たちを焼き尽くしていく

ルシアは刀を構えてコレドールの一撃を受け止め、緋に染まった刀で瀕死の異合生物を叩き切った

旋風が機体の服の帯をはためかせた。巻き上がる炎の光の中で、ふた振りの刃が弧を描いて一閃し、ルシアを覆っていた絶望を切り払った

白金の光が天井を突き抜け、無数のプリズムの面が反射した光が交錯する。燦然と輝く光の中で、ルシアは真昼の太陽のように万物を照らしてした

ルシア

好きにはさせない!

それに何の意味があるのです?

ルシア

セン、皆の避難を援護してください!

了解です

ユウコも皆に続いてフロアの物陰から飛び出した

ルシアが大半の敵を引きつけているが、周辺をうろつく敵の一部が人々を狙っていた

傭兵たちがスタッフたちを囲むようにして守り、銃から放たれた弾丸がはぐれた異合生物を退ける様子を目にしたユウコは、ふとコレドールのことを思い出した

もし、もっと早く真実に気付いていたら、彼女はコレドールにあの横暴な傭兵たちを追い払わせたりしなかった。それなら、傭兵たちが死ぬこともなかったはずだ

それでもまだ、あなたが私を恨むなら、私を傷つける機会をあげましょう

――恨むかだって?センが殺されるのを見たら、きっと恨む

ユウコは、人の流れの中心で戦局をじっと見守るセンを見つめた。彼女は他の傭兵たちとともに、残った異合生物を火力で制圧している

――彼女は今もまだ守られる側だ

自分には皆にこっそり食べ物を与えたり、保護する力があると思っていた。彼女は今になってようやく、自らの他者への依存に気付いた。なんと愚かだったのだろう

その瞬間、地面が突然轟音とともに激しく揺れ始めた。長い間眠っていた巨獣が目覚めるような揺れに、避難していた隊列はバラバラに散った

クソッ!どうして地震が!?

気をつけて!地面に亀裂が!

赤潮が地面の裂け目から噴き出し、瞬く間に広がった

四方から次々と異合生物が現われ、体の潮水を振り払いながら猛烈な勢いで突進する

隊列から遅れていた人々は悲鳴を上げ、叫びながらも赤潮に呑まれるのを恐れ、必死に走った

足下に気をつけて進んで!私たちが援護します!

傭兵が放った弾丸が空を切って敵を仕留め、人々の混乱は一時的に鎮まった

それが合図になったかのように傭兵たちが次々と発砲し始め、異合生物たちの攻撃を食い止めた

逃げ遅れていた人々は次々と裂け目を飛び越えたが、赤潮も狂ったように湧いてくる。走る人々の顔は、恐怖に歪んでいた

その背後を1体の異合生物が執拗に追いかけ、地面は再び揺れ、潮水が大きく波打った

足下が揺れる中、人々の間に隠れていたそのスタッフはとうとう膝の力が抜け、地面に膝をついて絶望したように手を伸ばした

ああ……!

異合生物はもう目の前だ。センは片手で銃を構えた。怪物の咆哮が響く中、もう片方の手で地面に倒れた人を引っ張り起こすと、背中をドンと押して進むよう促した

走って!振り返らないで!

センが叫んだのと同時に、傭兵隊長が続けざまに発砲し、センの前にいた異合生物を仕留めた

周りにも気をつけろ!

一瞬、息をついたセンは呼吸を整え、再び隊列の避難を指揮し始めた

人々が混乱から徐々に平静を取り戻すのを見て、センはユウコの側に立ち、避難する隊列の側面を守っている

しばらく全局を見ていたセンは妹に目を向け、先ほどの出来事を思い出して小声で訊ねた

銃は?

持ってる。でも、あと1発しかないの。もっとくれる?

ダメよ、あなたは銃の撃ち方を知らないでしょ

センは射撃姿勢を取りつつ、腰に差した短刀を取り出した

これを使って。一緒にここを出るわよ

そう言うとセンは再び黙り込み、側面の守りに戻った。話す気がない姉を見ては、ユウコも言いかけた言葉を飲み込むしかない

……

でも、私も何か手伝いたい――ユウコはもう一度手の中の短刀と、使い方のわからない銃を見つめた

彼女は顔を上げ、目の前の戦場を見渡した――異合生物は数体倒されていたが、潮水の中からは次々と怪物の大群が現れ、絶え間なく攻撃を仕掛けてくる

ほんの僅かな間に突如として地震が起き、噴き出す赤潮の深紅の包囲網がじわじわと狭まった。まるで逃げる人々の生存空間を大きな手で握り潰していくようだ

いよいよ巨大な波が人々を呑み込もうとし、隊列からは絶望の悲鳴が上がった

この【規制音】!押し寄せてくるぞっ!

その時、ある影がさっと突然隊列の前に現れた

あのバケモノか!?

カイウスは手を伸ばし、瞬時にフィールド障壁を展開した。大半の異合生物が食い止められ、赤潮の包囲の中に一時的な避難場所を作り出される

もうすぐ出口なんだ!後ろでフィールド障壁なんか出してないで、早く皆を避難させろ!

このバケモノも今は手一杯だッ!振り返った瞬間に呑まれるぞ!

青年はバットを振り上げ、この数日間でたまりにたまった怒りをぶつけるように、異合生物の首に打ちつけた

そして、衰弱して隊列から遅れていたデイジーを脇に抱えるようにして前へと進んだ

ムギ、待って……ゆっくり……

ゆっくりしてる場合か、急がないと――

銃声が言葉を遮る。瀕死の異合生物を始末した傭兵隊長がふたりをキッと睨んだ

無駄口叩いてないで走れ!

だが災難は次々と開く落とし穴のようで、こちらの危険が去ったかと思えば、また別の場所で悲鳴が上がる

イヤアアッ!来ないで!

1体の異合生物がモナに向かっていた。異形の爪がギラリと光っている

モナの後ろにいたユウコは一瞬動きを止め、猛然と走った

モナさん!

デイジーの果物ナイフから指揮官を守った時と同じように、ユウコの体は本能的に動き、モナ主任を勢いよく突き飛ばした

振り下ろされた鋭い爪は、ユウコの脚に生々しい傷を残した

くっ……!

しかし、痛みはユウコの力を奪うどころか、かえって短刀を強く握らせた

勇気が一気に湧き上がり、ユウコは鋭い刃を異合生物の喉に突き立てた

飛び散る体液と倒れた怪物を見た瞬間、恐怖が遅れてユウコの全身を駆け巡った。彼女は短刀を抜くこともできず、その場に尻もちをついて座り込む

ユウコ!

大丈夫……大丈夫です

彼女は声を震わせながら、モナが差し出した手を取って立ち上がろうとしたが、脚の傷の痛みに再び尻もちをついてしまった

ユウコ!どうしてこんな無茶するの!これじゃ歩けないじゃない!

大丈夫です、そんなに重傷じゃ……なんとか歩けます

何言ってるの、歩く速さの問題じゃない!

わかってます。でも……モナさんが無事でよかった。モナさんが転職した時、私も一緒に連れてきてくれたでしょう?その恩返しがやっとできた……

…………

モナは何も言わずため息をついた。そして、再びユウコの腕をぐっと掴んで、引っ張り起こした

私が支える。一緒に行くわよ!

……ありがとうございます、でも……

それは言い淀み、囁くような声だった

でも、先に行ってください。足手まといになりたくない

そんな……ええ、わかった……

モナは離れていく隊列を見て、ユウコを支えていた手の力を抜き、足早に隊列を追いかけた

モナがちょうど皆に合流した瞬間、地面が再び激しく揺れ、押し寄せる赤潮がユウコと他の人々を隔ててしまった

ユウコ!!

大丈夫です!ルシアさんが後で連れていってくれますから、先に行って!

…………

彼女の選択を止める権利はモナにはなかった。彼女はユウコが足を引きずりながら階段を上がるのを見届けると、背を向けて人々の流れについていった

絶え間なく湧く赤潮が低地をゆっくりと呑み込む中、避難する人々は傭兵たちに援護されながら、カイウスが張ったフィールド障壁のシェルターに身を隠した

ローズは必死にフィールド障壁の解除を始めていた。カイウスのシェルターは何度も振動で震えたが、彼女が放つエネルギーによってなんとか安定していた

人々は皆、絶望と希望の入り混じった思いでローズに視線を注いでいる

ユウコが皆の方を見ると、周囲を見回しているセンが見えた。自分を探しているようだ

傭兵隊長がセンの肩を叩き、残りの弾薬をセンに手渡した――まるで責任までも一緒に手渡すように。センは無言でそれを受け取り、姉から守護者としての役割に戻っていく

……うん、それでいいわ

突然の破裂音が、思いに沈んでいたユウコの思考を粉々に打ち砕いた

展望ビルで足止めされていたコレドールが、ルシアの束縛を突破して現れたのだ

コレドール

どうやら、また追い詰められているようですね?

階段の上にいるユウコには目もくれない。彼女の目に映るのは、群れる人々と自分の前に立ちはだかる構造体だけだ

コレドール

1対1なら手こずりますが、今は人が大勢います。あの者たちを守ろうと、どうしても気を取られるでしょう?

追ってきたルシアは刀を振り下ろし、コレドールの進路と挑発を遮った

コレドールは薄く笑い、大鎌を振るってルシアの攻撃に立ち向かった――衝撃とともに火花が弾け飛ぶ

霧島ユウコ

…………

……あなたは一体何者なの?コレドール

ぼんやりとした意識の中で、かつて問いかけた質問がよみがえる

私の名前はコレドール。身分ですが……ええと、少し定義が難しいですね

そう……私は「作者」を失くした存在です。だから、他の「作者」の物語を探しているのです。使命ではありませんが……言うなれば、ひとつの未練や趣味みたいなものです

コレドールは彼女に親切だった。一体いつから変わり始めたのだろう?

ルシアさんの指揮官

創られた役割を媒介として使っているから……

憑依されてるってこと?

ルシアさんの指揮官

……人格データの衝突、だね

彼女の体には異なるふたつの人格が宿っている。ユウコが感じていたあの善意も、嘘ではない

元の彼女を目覚めさせる方法はあるの?

ルシアさんの指揮官

可能性はあるけど、具体的な方法までは

…………

ルシアさんの指揮官

彼女は君の意識を蝶に変えて飲み込んだ……もしかしたら、君は彼女にとって特別なのかも

……特別?私が?

ルシアさんの指揮官

君に「私を傷つける機会をあげる」とも言った

霧島ユウコ

あの蝶は……まだいるのかな……

彼女のつぶやきは背後の叫び声によって掻き消された。振り返ったユウコは、ようやくフィールド障壁が開かれ、防災壁も解除されたのを見た

しかし赤潮は彼らの希望を打ち砕こうとするかのように更に押し寄せる。人々は迫りくる死から逃れようと、悲鳴を上げて出口に殺到した

順番に避難しろ!戦えるものは後方を守れ!戦えない者から逃げろ!

ユウコ!!

センはユウコの名前を叫んでから、ふたりの間に越えられない赤潮が横たわっていることにようやく気付いた

……ユウコ!!

いつも何でも軽々とこなしてしまう姉がただ呆然と立ち尽くし、自分の名前を呼ぶことしかできないでいる

……彼女はまた、センのお荷物になってしまった

霧島ユウコ

セン姉さん、知ってる?コレドールが言ってたの。未来の私は、また姉さんや周りの人たちに迷惑をかけるんだって

……ユウコ?

センは、ユウコがなぜか笑っているのに気付いたが、彼女が何を言っているのかまでは聞き取れない

霧島ユウコ

ずっと考えてたの。私みたいな人間に一体何ができるのかって。でも、いくら考えても……答えは見つからなかった

隔てられた距離のせいで、その言葉はセンには届かない

もっと大きな声で言って!

早くルシアに頼んでこっちに!この扉はすぐに封鎖しなきゃならない、急いでッ!

霧島ユウコ

…………

人々は押し合いながら半分ほど外へと逃れ、モナもユウコに呼びかけたあとに狭いゲートをくぐって姿を消した

ユウコ!!返事をして!!

――どう返事をすればいい?どうすればこの足で、越えられない川を渡れるのだろうか?

ユウコはただセンを見つめることしかできなかった。コレドールとルシアが刃を交える音が迫り、緊張感が高まっていく

コレドール

いいでしょう、障壁が開いたのなら、私もこのチャンスを利用させてもらいます

ルシア

越えさせません!

コレドール

そうですか。では、私が長い間考えを温めていた「トロッコ問題」を再現させてもらいましょう

膨れ上がる赤潮と異合生物が、コレドールの笑い声とともに一斉に暴れだし、ルシアの後方で援護する指揮官に向かって襲いかかった

コレドール

さあ、あなたが止めるのは、私か異合生物たちのどちらです?もし前者なら……私の「兵士」たちが、好き放題に暴れますよ

ルシアはためらうことなく赤潮と異合生物に包囲された指揮官の方へ直進した。その隙に少女は赤潮をすり抜け、人々が集まる出口に突き進んだ

出口のゲートを守るカイウスはその声を聞いたが、長時間フィールド障壁を維持しているせいで、かなりの負荷がかかっている。とてもコレドールと正面から対峙はできない

しかし、まだ避難していないセンを見て、カイウスは逃げずにその場に踏みとどまった

危ない!!

大鎌の鋭い刃がカイウスのフィールド障壁に激しく打ちつけられ、繊細な人形の腕に裂け目のような傷が走った

もう一撃されれば、全てが崩壊しかねない

霧島ユウコ

コレドール!!!

彼女は自分に答えることのないその体に向かって叫んだ

霧島ユウコ

あなたに殺されたことも、あの蝶のことも、思い出したわ!!!

それはまったくの嘘だった

異重合塔と無関係の人間が、時間遡行の前の出来事を思い出せるはずがない

しかし<phonetic=コレドール>0号代行者</phonetic>は、この嘘の「情報」によって攻撃の手を緩め、<phonetic=0号代行者>コレドール</phonetic>とともに振り返った

霧島ユウコ

だから、あなたが言っていた「作者」が、なぜ最後にあんな選択をしたのかもわかったの

……?

彼女は微笑みながら、手の中の弾丸が1発しか入っていない銃をゆらりと持ち上げた――銃があまり使えなくても、必ず命中する場所へと

霧島ユウコ

朽ち木に火を……

血は炎のように迸る――ふわふわしたユウコの髪の間、片翼の赤い蝶が咲くように現れた

たくさんの意味のない祝福や別れの言葉をついに言えないまま、彼女は力なく地面に倒れ、赤潮の中へと転がり落ちた

ユウコッ!!!

かつて彼女が呑み込んだ蝶から聞きなれた耳鳴りが響き、<phonetic=0号代行者>コレドール</phonetic>の手を下げさせた

早くしろ!!霧島ァ!!

隊長の頑丈な手がセンの襟を掴み、更にローズを抱きかかえて、ふたりを狭いゲートの外へと引っ張り出した

最後のひとりが避難し終えると、フィールド障壁は再び閉じ、封鎖された

その安否を確認する間もなく、ルシアに体を抱えられて浮かび上がった

赤潮の中のコレドールは、ゆっくりとユウコに歩み寄り、何か考えているかのように彼女を抱きかかえた

吹きすさぶ風の中、ルシアの表情ははっきり見えなかったが、自分を抱える彼女の手に力がこもったことだけは感じ取れた

ルシア

指揮官……

どれほど気持ちが沈もうと、彼女はこの一方通行の道のりで振り返ることはできない

ユウコがどんな気持ちで引き金を引いたのかは、誰にもわからない

――赤潮を越えられないと悟ったから?

――数秒でもコレドールの注意を逸らしたかったから?

……それとも、未来に起こることを知ってしまったから?

あるいは……自分自身に絶望したから?

未来に起こることをユウコに教えたのは、本当に正しかったのだろうか?

もし改変された未来を見届けることができるなら――生き残った者たちはきっとこう断言するだろう。「そう、彼女の死は正しかった」と

多くの人があの事故を生き延び、彼女を助けたためにセンの意識海が傷つくこともなかっただろう

「ずっとずっと後」に、センがカッパーフィールド海洋博物館で犠牲になった時、人型異合生物となった体は彼女の意識海の完全性ゆえに、より複雑な情報を受け取るはずだ

世界はこの出来事を新たな節目とし、人類はより安定し繁栄した未来に導かれ、いつの日か……安全な方法で宇宙へ向かうだろう

しかし、あとどれだけの朽ち木を燃やし、どれだけの無念を抱く英雄を犠牲にし、どれだけ「正しい死」を積み重ねれば――

星々へ向かう運河を築くことができるのだろう?