Story Reader / 本編シナリオ / 30 星屑のデュプリカント / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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30-2 悪夢

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4月5日――グレイレイヴン指揮官失踪事件の発生から1年後、そしてゲシュタルトのデータウォールが破壊される8カ月前

海底の事件から脱出したラミアは、一袋のナッツを持ってルナのもとへ戻った

……ルナ様、遅くなりました。あの、何かお土産をって探してて……

ラミアが手にしたナッツの袋を見て、ルナは小さく溜め息をついた

ルナ

持って帰ってきたのはそれだけ?

あの……話せば長くなるんですけど

ルナ

要点だけ言って

ひ、ひと言で言うなんて無理ですぅ……

ルナ

…………

彼女は目の前の臆病な人魚をまじまじと観察した。数カ月ぶりに見る彼女には、僅かだが以前にはなかった変化がある――手土産を気にしたり、妙に言葉数が増えていたり

海での件……ルナ様はもうご存知ですよね?

ルナ

あなたより先に戻ってきたロランから聞いてるわ

ラミ……わ、私、フォン·ネガットの計画をおじゃんにしてしまったから……動けないルナ様の代わりに復讐されたりしませんか……

ルナ

考えすぎね。あの人の計画の緻密さを考えると、ラミアのせいで計画が完全に失敗すると気付いたなら、すぐにあなたを止めに来たはず

彼が現れなかったということは、まだ次の策を残している証拠よ

彼とは親密な関係とはいえないけど、同じ昇格者だもの、戦う必要もないわ

水晶に囚われた少女は、もう一度ラミアを手にしたナッツの袋ごと見つめた

ルナ

報告はそれだけ?

……え、えっと……

人魚は勇気を振り絞り、うつむいたままナッツを剥きながら30分間かけてようやく、海底で起こった出来事を大まかに話した

と……そういう訳で……へへ……

ラミアはルナにおずおずとナッツを差し出した

ルナ

…………

ルナは、サッと逸らしたラミアの目を見つめ続け、溜め息をつきながらもその贈り物を受け取った

本当は、あの卵を持ち帰りたかったんです。でも「クティーラ」が「彼女」を自分と融合させてしまって……

……あの戦いの後は卵も反応しなくなって、普通の異合生物と同じになってしまいました

それに卵の中のハイジが……クティーラ計画の全貌の記憶を空中庭園に残したいと言っていたから、ラミアは……

ルナ

最後までクティーラはあなたに生きた卵を奪われまいと警戒していたのね

……私……

ルナ

自分を責めることはないわ。あの死んだ卵より、あなたが持ち帰った情報の方がよっぽど価値がある

ましてやあれはフォン·ネガットの計画で生まれたもの。彼のやり方なら、卵がまだ生きていて価値があるのなら、あなたが空中庭園に渡せたりしていないわ

……そ、そうですね。あの時、リリスは私から遠くない場所にいて……止めるなら彼女がとっくに……

ふたりはしばし沈黙した

再選別はどうしますか?

ルナ

ラミア、異合生物についてどのくらい知ってる?

卵を手に入れる前の彼女は、異合生物と侵蝕体にほとんど違いなどないと思っていたが、今はそうは思わなかった

異合生物は……個体がパニシングによって分解され、再構築された形態……ですよね

……パニシングを制御できれば、ある程度は異合生物に干渉でき、どんな姿になるか決めることができる

ルナ

選別をパスする最初の条件は、自我を保つこと

でも人間の意識はパニシングに入ると引き裂かれてしまう。生き残れるのはたったひと握り。それが私たちが仲間を増やすのが難しい理由ね

「生き残る」には意識の安定性だけじゃなく、運やその時の状態も非常に重要なの

一方で、昇格ネットワークが誰にパニシングを制御させるかを決定するルールはとてもシンプル――情報の比重がより「重い」個体を選ぶだけ

私たちが最初、昇格者になるために強烈な感情が必要だと考えていたのもそのため。それが愛や憎しみ、あるいは無限の虚無感であってもね

あの卵は昇格ネットワークが求める基準を完璧に満たしていた。十分に集まったパニシングによって形成された異合生物、そして十分に安定した意識……

そんなものを傍らに置いておけるなら、代行者はもっと多くのことを成し遂げられる

ひょっとして、フォン·ネガットは多くの人たちがいうほど万能ではないかもしれない。ただ道具に頼っているだけなのかも

あの代行者は意識融合についてかなり研究していたけど、まさかそれが目的ですか?パッチワークみたいにツギハギしてその「比重」を高めようとしてるとか?

ルナ

……意識の継ぎ接ぎ……

あれだけ多くの子供を作り出したクティーラも、違うふたつの意識を持っているんです。ほとんどの時間、そのふたつの意識には惑砂本人が含まれてました

惑砂の意識はクティーラと密接に結びついてて、彼女が自らの人の体や生命の木をコントロールする手助けをしてた……

彼女がずっとそこから逃げ出せなかったのは、惑砂にコントロールされてたからだと思います。最後、あいつは早めに追放されてたけど……

ルナ

惑砂の意識が彼女に影響を与えていたのね。もうひとつの意識はどうしていたの?

あの意識は、彼女が海底の「巨大なクジラ」をコントロールするのを手伝うこと、死者の再生のための温床を与えることしかできないみたいです

「クジラ」の中の意識とクティーラの関係はとても弱いもの。ほぼ無関係なんじゃないかな

惑砂の影響は受けないし、お互いを感知することもできないけど、それでもずっと海底の鎖に繋がれたまま……

鎖という言葉を口にしたラミアは、ふと顔を上げてルナを見た

ルナ様……あなたがここに囚われているのも、パニシングを制御するのが難しいからですか……?

ルナはその質問には答えなかった

あの……

ラミアは安全な場所まで数歩じりじりと後退り、拘束されたルナが攻撃できないことを確認してようやく、勇気を奮い起こして立ち止まった

あの、ラミアにできることはまだ少ないし、こんなことを言ったらルナ様に失礼かもしれないけど……

もしルナ様の状況がわかれば、私も何か力になれればなって……

ルナ

どうして?

それは……私が残っていてほしいと思う人たちの中に、ルナ様もいて……

ああっ、その、ルナ様が悪いとか言ってるんじゃなくて、ラミアがルナ様の側にいたいんです

だから、ルナ様が無事に選別をパスできればって願っているんです。そうすれば、私は慣れ親しんだ場所に残ることができるし

どう、ですか……?

ルナはラミアをじっと見つめた。この人魚について、これまではほぼ自分の利益のことしか考えていないタイプだと思っていた

今もその本質は変わっていないようだが、どうやら少しだけ貪欲になったらしい。ルナをも自分の利益に含めるようになっている

……それも悪くないのかもしれない

ルナ

確かに、パニシングを制御するのが難しくなっているわ

ただ、私の状況はクティーラと正反対なの

彼女は他の意識を「継ぎ接ぎ」されて、生命の木を制御し、あれほど多くの異合生物を生み出した

私の意識は「引き裂かれ、剥がれ落ち」ている。昇格ネットワークとの繋がりが……私に似た別の存在へ傾いてるのがわかるの

今は昇格ネットワーク自体が、あの異重合塔のせいで進化している。パニシングに保存された情報はすでに主体性を求め始めているわ

似たような意識は、昇格ネットワークの中に似た対象を求めることができる……姉さんと「あの」姉さんも、当時そういう状況だった

最近……あのノイズがほとんど聞こえなくなった。代行者の権限はどうやら、ノイズとともに薄れるようね

どんなに嫌でも、私はそれを受け入れるしかないの

彼女は少しの間黙り込んだ

ルナ

……あなたが行きたい場所に行きなさい、ラミア

脱出の時が来たら、あなたを呼ぶわ

今は……残された力で昇格ネットワークに残った情報を調べたいの

ルナの視線はラミアをすり抜け、彼女の視覚モジュールが捉えられる最も遠く、高濃度のパニシングの場所にゆらめく淡い幻影を見つめていた

ルナ

…………

幻影はゆっくり振り向いて両手を伸ばすと、彼女に赤い悪夢と、再選別の正しい道筋を示した。

未来へ続く道はひとつだけ。あなたの憎しみを取り戻すのよ