鮮やかな赤潮が色褪せ、コレドールは消えて幻影となった
何なの……あなた、不死身の原生生物なの?
……あなたは予想以上の実力をお持ちですね
同様に人類文明の……あの外周にいる更に強力な構造体も恐ろしい
なるほど、私の敵はあなたたちだけではなかったのですね……
これが文明の「継承」の力なのですか?
継承され開拓しているの。あなたのようなパニシングから成る単細胞生物には理解できないものよ
……
なるほど、あなたの言う通りなのでしょう
……文明の発展には、もっと「蓄積」が必要です
私は異災区へ戻ります
これは……人類であるあなたへの敬意でもあります
なぜです?
人類の秩序は冷酷で無慈悲、野生に生きるものへの自由や寛容さはありません。私は人類の文明を記録し、そして……よりよい世界を育てるでしょう
「彼」はまだ私を欺き続けていますが、この物語は……まだ終っていません
ある興味深い意識です。彼が期待しているのは、別の結末かもしれませんね
ですが……私はあなたたちとこうして接触することが嫌ではありません。ではまた……
その言葉を待たず、目の前の赤い少女の幻影は老朽化した建物の奥深くに消えていった
……逃がしてしまった
「赤潮の意志」は異災区の中でなら、いつでも姿を消し、いつでも現れることができる
パニシング濃度が下がった……
血清、もう1本要る?
予備の血清を取り出すと、ドールベアはしかめっ面で防護服の接続部分に強く押し込んだ
見てるだけで痛そう……
……本当に大丈夫?
まあいいわ、グレイレイヴン指揮官だもの、きっと大丈夫よね
そう言いながらも、彼女は防護服に表示された数値に間違いがないかを確認し、予備の血清をしまった
これからどうする?ここは……第1リアクターの中心部に近いはずよね
コレドールが退却し、パニシングも防護服を着ていれば何とか耐えられる濃度だ。ここまで来たからには、近くを探索してみるべきだろう
人類が消失した街には雑草が生い茂っていた。図書館の前では、かつて建物を守っていたロボットの残骸が、風雨による錆の痕だらけの姿で転がっていた
その内……人類が地球から完全に消えてしまったら、こんな風になるのかしら
私もそう思う
本当にそう思う……?
……うん、必ず戻るわ
ここは私たちの故郷よ。私たちの文明は、こんなふうに途絶えはしない
地球で爆発したパニシングは、人類が何千年もかけて築き上げた全てを呑み込んだ
地球上にはここのようにパニシングに完全に侵され、異なる文明が育まれているかもしれない地域もある。だがそれ以上に、人類が少しずつ築いた新たな拠点が多く存在する
宇宙を彷徨う同胞たちは安寧な住処に居続けることはなく、火に飛び込む蛾のように、自分たちが深く愛する土地へと再び飛び込んでいく
その中には初心を忘れた人々もいるかもしれないし、更に多くの人々はすでに地球を歴史の一部とみなしているかもしれない
だが、地球が人類文明を育んだ永遠の故郷であることを覚えている人々は常に存在し、願い続けているのだ
全員が無事に我が家へ帰れるように、と
異災区深部
異災区深部
端末が高濃度のパニシングに干渉されているせいで、浮かび上がる虚像もちらついたりぼやけたりしている
やはり失敗したか
どうやら……これもあなたの予想通りだったようですね
言っただろう、我々の間に善意などないと
ただ利用し合うだけの関係だ
時が来たのだと思っていましたが……まだほど遠いようです
私たちの基盤を広げるためにも、もしかしたら他の方法を探すべきなのかもしれません
フン
私はもっと……多くの物語を読まなければ
助けを求めるのかもしれませんし、違う道を歩むのかもしれません
私たちは……いずれ再会するでしょう
風の音は次第にやんだ。少女は緑色のマントを着ると赤潮の中に座り、ゆっくりと新しいページを開いた